バー・アンバー 第一巻

多谷昇太

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第三章 君は何者?

最後の賭け

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ミキは明らかに怖気づいた風を見せながらも「えー?暴力団?まさかあ…フフ。でもね、田村さんの姿勢には私も意気に感ずるところがあるわ。その暴力団だけど、あれはホントどこにでもむしゃぶりつくのよ。例えば私のいた電力業界でも…」
「電力業界?」
「あ、いいえ、その…」
「ミキ、いいよ。云っちゃえよ。さっきの爺がどうしたって云うの。あいつに遠慮してものが云えないんでしょ?ウラになんかあるんだったら俺、ホントに力になるからさあ。一肌でも二肌でも。君にだけ肌を許させておいて何も助けにならないだなんて、男じゃないよ。ハハハ」演技なのか本気なのか自分でもわからぬままに俺は男気を演出してみせる。その俺の様子をじっと見ながらミキは俺の真意をはかりかね逡巡をしているようだ。俺は逆にそのミキの様子を見やりながら心に自問する。何もいまさらこの年で映画の主人公を演じる気などさらさらないし、そんな初でもまったくない。自分勝手に女に入れ込んでとんでもないしっぺ返し受ける、見っともない顛末も充分に経験済みだ。しかしミキの狼狽ぶりに如何(いっか)な解釈せずに、単にジャーナリストとしての本能を発揮する気もまたなかった。ここまでミキの真相に入れ込む分けは前にも云ったが垣間見たミキの豹変(言葉遣いではなく)「お父さんは、お父さんはどこですか?」と、自然なアンバーの内に何某かの共有を持ち得たという、未だ得体も知れぬその共有感覚に魅せられてのことである。俺はそこから最終的な突っ込みを入れた。これで無理なら、ミキが演技でない真の反応を示さなかったら、これ以上の要らぬおせっかいは止めて単なるバーの客に戻ろうと思う…。
「ミキ、さっき君が云った〝俺の目が寂しそう〟というのは実は言い当て妙なんだ。正直云って俺には人間がわからない。人間の本当のところが。どうやったら他人と心底わかり合えるのかが…。だから表面の格好つけはともかく内心はとても寂しくてね。フフ。ただ、それを云って通じなかったら傷つくからね、とても。いつもは警戒しているんだよ、他人に対して。ところがそれをいきなり取っ払うような君の肌の提供に、その、驚いて…そして今君が見せている寂しさというか、悲しさというか、それに痛く共有感覚を抱いてさ…どうなんだい?ミキ。正直俺と同じものを君も心に抱いてるんじゃないの?違うかい?」
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