バー・アンバー 第一巻

多谷昇太

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第三章 君は何者?

ボッタへの恐怖を越えて

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「ウフフ、ごーめんなさい、田村さん。私、何か取り乱しちゃって。あなたが悪いのよ。女を泣かせるようなことを云うんだから。変に思って帰らないでね。帰っちゃ嫌だから、今度は私があなたに一杯おごるわ」そう云いながらメジャーカップのダブル側にウイスキーを入れて殆ど空になった俺のグラスに注ぐ。しかしこの顛末に俺の心の中でジャーナリストとしての閃きが否応なしに交差した。ジャーナリスト言葉で云う〝これは臭い、怪しい、裏に何かある”というシグナルがビンビンと俺の脳裡に生起して止まないのだ。しかしそれとは別に単にバーに飲みに来た、ただの客としての危惧もやはり同時に生起せざるを得なかった。普通なら絶対あり得ないミキの肉体的なサービスと云い、先程の男の一種こわ持て的な雰囲気と云い、いつまでか知らないが俺への貸し切りと云い、そのすべては裏にヤクザの潜んだボッタ、つまりぼったくりバーの観を呈しているからである。しかしそうではなく、未だまったく正体不明ながら聞屋の脳裡に閃いた何某かの特異な事情、もしくは経緯が裏にあると、俺にはハッキリそう思えるのだ。そしてそれへの関心がボッタへの恐怖を凌駕せしめたがゆえに…いや違うな。今しがたのミキの豹変、妖艶なバーのママがいきなり純な娘にうち変わったというその姿が、俺の心を捉えて離さなかったからだろう。俺はボッタへの不安を打ち捨てて、またジャーナリストとしての本能をも敢えてふり払って、眼前のミキの内に潜んだ何者かと交わるべく、その為の言葉を頭の内でさぐった。
「えー?本当?奢ってくれるの?嬉しいねえ。俺ってそんなに魅力あったかな」「ウフフ」とミキが妖艶に笑ってみせるがどこか余裕がない。「それにさ、帰るだなんて、とんでもないよ。夜通し朝までいたいくらいさ。さっき君が憤慨して云った、男への不信と怒りを払拭させてやりたいね、俺は」と敢てハードボイルドティックに云ってみる。

  【ここはやはりボッタか?裏からこんなのが…?↓by OpenClipart-Vectors】
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