一葉恋慕・明治編

多谷昇太

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関東一文字清女

生きては苦界、死しては浄閑寺

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しかるに物事は待たない、人は待てないのであり、換言すれば一葉の人生そのものが容赦なく、いまこの時を自らに迫つているのだった。どうしようか、行って加勢しようかなどとも思うが身がすくむ。しかしええい、この意気地なしめとばかり意を決して歩を進めようとした刹那、こんなことには慣れっこといった風情でやり手婆のお蔦が間に入った。「よしなよ、この子はそっちの方はやらないんだよ。ほらほら近所の人(すなわち一葉)がきつい目で見てるじゃないか」と男をいなし、続けて店内の酌婦らに目配せをしたようだ。「ほら~さん、毛唐なんかにかまってないで戻りなよ。あたしがたっぷり相手をしてやるからさ」「お、俺はこの娘(こ)を…」かまわずに女が男の手を引き店内に引っ張り込んだ。まだ気がたかぶったままのお島にお蔦が「おまえもさ、いつまで生娘してるつもりなんだえ。客に手を出したりしてさ。どこを触ったなんて声を立てるんじゃないよ。そのうち旦那から暇出されるよ。出て行けるもんならどこへでも行っちまっていいんだよ。ったく、いくらでも上客引けるだろうにさ…」と詰ってはしかし抜かりなく笑顔をつくり一葉に一礼して中へと入って行った。お島は一葉に目をやったあと両手で顔をおおってその場に泣きくずれてしまった。全身で「なさけない、みっともない、はずかしい」と一葉に訴えているようだ。こんな目に会っても、いいように云われても所詮また店の中に、逃げ場のない、みずからの生死場へと戻って行かねばならない。まさにこの世は地獄であった。

          【生きては苦界、死しては浄閑寺】
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