8 / 18
第三章 阿漕の浦奇談
人形の家のノラ?
しおりを挟む
さてではここに於いて幼少以来四十年弱の璋子の内実はいったいどうであったのか、阿漕の浦逢瀬に至る心の経路をさぐってみたい。傍目には乱脈と云うほかはない白河と鳥羽の性欲と業を彼女は終生身と心で受け切ったわけだが、これをして主体性のない女身のかなしさと、人形の家のノラであると、余人は論評にかまびすしかろうが、しかし飽くまでもそれは全員ではない。たとえば子を身ごもり、産むことのできない我々男であれば女性、就中母としての何某かのことはこれはわからないのである。少なくも私はそうだ。権力者であろうが何であろうがすべては自分女がつくりだした子だとどこかで思うなら、主体性の如何ははたしてどちらにあるのかさえわからなくなってしまう。男にみずからを愛させ子を結実させる、自覚せずともそこに喜びと主体性を見ていたのなら人形の家のノラとは云いがたい。まして実家の閑院流一族からは「懐妊?でかした!」ともろ手をあげて喜ばれるなら況やのことである。しかも同腹で七人の皇子皇女の生母ともなると、これはおそらく記録ではあるまいか。畢竟そのぶんだけ璋子の自信と傲りは強まったにちがいない。歴代王朝の后としては‘比類のないほど?’と勘ぐりたくもなる。世界は自分を中心にまわる、とまでは云わないがとにかく傲り、輝いていただろう。ところがこれが得子出来とともに一気に、かつ劇的に崩れ去るのだ。いやでも璋子は自分の生き方を客観的にかえりみることになり、なおかつ皇子皇女たちの未来に不安をいだくことともなる。はなはだ語弊があるが、生んだ皇子たちの数の分だけ‘散らかしてしまった’という心根にさえなるかも知れない。自分ひとりだけの失脚ならともかく、得子に皇子誕生で崇徳はじめ自分の皇子皇女らすべてに、不安の星をいだかせてしまったという、背負いきれないほどの負担を感じはしなかったろうか。そんな折り「そよ、あの者、義清…」と思い至ったのかも知れない。徳大寺実家に帰った折りの歌サロンなどでなら非公式に義清と面つきあわせて「人の世」を語ることもあったのに違いない。おそらく未だ青年らしい哲学的にすぎるきらいはあったろうがその博識と感性、そして出家への気概にはいたく感化されただろう。とっぴだが約八百年後のかの麗歌人、柳原白蓮(伯爵令嬢にして大富豪夫人)と青年宮崎竜介の邂逅とひょっとしてそれは同じだったかも知れない。彼竜介同様に義清の地位ある女性(にょしょう)への思い入れは隠すべくもなかったし、それならひとつと今はなけなしの自尊心を璋子はくすぐられもし、なにより「吾を救いなむや(助けて欲しい)」の思い入れとともに我身との逢瀬を与えたのであろう。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
抱きたい・・・急に意欲的になる旦那をベッドの上で指導していたのは親友だった!?裏切りには裏切りを
白崎アイド
大衆娯楽
旦那の抱き方がいまいち下手で困っていると、親友に打ち明けた。
「そのうちうまくなるよ」と、親友が親身に悩みを聞いてくれたことで、私の気持ちは軽くなった。
しかし、その後の裏切り行為に怒りがこみ上げてきた私は、裏切りで仕返しをすることに。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる