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第三章 阿漕の浦奇談
璋子追い落とし
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しかしその折りはからずもそのあまつおとめから、我が身義清への同様の思いを聞かされるとは、これは意外中の意外だった。文部両道の、若き北面の武士へのつまみ食いの思いもあったのだろうが、厭世と求道に非凡なものを常々義清に見て居、これとの肉体による合一を、いわば師弟の契りを得たかったと璋子はその折り云ったのだった。蓋しこれはまさに義清の思いともども‘はたやはた’である。はたやはた、肉体による法との提携はなされ性愛と求道、引いては地上と天上の疎通はなされるものだろうか。肉体五官(五欲)と精神の高貴さという永遠に対立すると思われるものが安易に融合するとは思われない。煩悩からの解脱をときながら夫婦に限り性欲の発露はよしとする、わっかたようでわからない、宗教の教えにも我々凡夫は頭を悩ませ続けている。しかしそれらへの答えをここで性急に求めることはよそう。謎かけにはなろうが、魂→心→現実、あるいは真逆の現実→心→魂という、ここではいまだ謎の系譜に、つながりに、その追及と答えを求めたいとも思うからである。
とにかく、いっときはわが袂に宿した愛しい璋子へ、得子立后というかたちで宮中からの疎外がせまっていた。単に疎外のみならず得子に皇子が誕生したことから世継ぎ争いの政変にまで発展しそうな雲行きとなって来た。すなわち璋子と鳥羽の第一子である崇徳と、得子一派の争いにである。本来なら正統な世継ぎとすべき崇徳を鳥羽は‘叔父子’として嫌い、認めなかった。璋子が自分のもとに入内したときにすでに懐妊していたと思われる崇徳を、祖父白河の種として決してわが子とは認めなかったのである。祖父の子であるなら自分よりあとに生まれても叔父になる。だから叔父子である。すべては白河の性の乱脈と(一説では御所内のすべての女に彼は手をつけたと云う。平清盛も彼の隠し子と云われているし、鳥羽・璋子の第六子雅仁親王{後の後白河帝}も彼の種と云われている。つまり孫の鳥羽に入内させたあとも彼は璋子と関係を持ち続けたわけだ)上々皇とでも云うべき仕儀のなせるわざであり、わずか五才だった崇徳への強引な譲位を鳥羽(この時二十才)に迫り、実権のない形ばかりの上皇として彼を七年(天皇在位を含めれば二十二年)ほど置いていたのである。俗に云う藤原摂関政治に代わる白河の‘幼主三代の政’という次第だったが、そのにっくき白河の崩御ののち鳥羽はすぐに崇徳帝(この時十二才)から政所を引いた。これで晴れて実権のともなった院政を彼は敷けたわけである。しかしそれにとどまらず十一年後寵愛する得子に皇子が生まれるや、その体仁親王をわずか三才で近衛帝として即位させ、二十三才になっていた崇徳帝を譲位させた。つまり白河の‘幼少の政’を彼も引き継ぎ上々皇となった次第。因果はめぐるというか、なんだかもう訳のわからぬ複雑怪奇な御所の仕儀ではあるが、要はこの時璋子の栄華は去ったのである。璋子は髪を切り法金剛院に落飾させられた。得子呪詛の嫌疑をかけられたとも云うがいずれにせよ得子一派の璋子追い落としへの画策がここに成就したわけである。上皇の妃でありながら皇后ともなっていた得子とその一派(元の摂関家)はこれで名実ともに待賢門派・閑院流勢力を凌ぐことになったのだった。
とにかく、いっときはわが袂に宿した愛しい璋子へ、得子立后というかたちで宮中からの疎外がせまっていた。単に疎外のみならず得子に皇子が誕生したことから世継ぎ争いの政変にまで発展しそうな雲行きとなって来た。すなわち璋子と鳥羽の第一子である崇徳と、得子一派の争いにである。本来なら正統な世継ぎとすべき崇徳を鳥羽は‘叔父子’として嫌い、認めなかった。璋子が自分のもとに入内したときにすでに懐妊していたと思われる崇徳を、祖父白河の種として決してわが子とは認めなかったのである。祖父の子であるなら自分よりあとに生まれても叔父になる。だから叔父子である。すべては白河の性の乱脈と(一説では御所内のすべての女に彼は手をつけたと云う。平清盛も彼の隠し子と云われているし、鳥羽・璋子の第六子雅仁親王{後の後白河帝}も彼の種と云われている。つまり孫の鳥羽に入内させたあとも彼は璋子と関係を持ち続けたわけだ)上々皇とでも云うべき仕儀のなせるわざであり、わずか五才だった崇徳への強引な譲位を鳥羽(この時二十才)に迫り、実権のない形ばかりの上皇として彼を七年(天皇在位を含めれば二十二年)ほど置いていたのである。俗に云う藤原摂関政治に代わる白河の‘幼主三代の政’という次第だったが、そのにっくき白河の崩御ののち鳥羽はすぐに崇徳帝(この時十二才)から政所を引いた。これで晴れて実権のともなった院政を彼は敷けたわけである。しかしそれにとどまらず十一年後寵愛する得子に皇子が生まれるや、その体仁親王をわずか三才で近衛帝として即位させ、二十三才になっていた崇徳帝を譲位させた。つまり白河の‘幼少の政’を彼も引き継ぎ上々皇となった次第。因果はめぐるというか、なんだかもう訳のわからぬ複雑怪奇な御所の仕儀ではあるが、要はこの時璋子の栄華は去ったのである。璋子は髪を切り法金剛院に落飾させられた。得子呪詛の嫌疑をかけられたとも云うがいずれにせよ得子一派の璋子追い落としへの画策がここに成就したわけである。上皇の妃でありながら皇后ともなっていた得子とその一派(元の摂関家)はこれで名実ともに待賢門派・閑院流勢力を凌ぐことになったのだった。
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