エッセイのプロムナード

多谷昇太

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引っ越し顛末記(一)

「あぶないアパート」の続き

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思い余って一度真下の夫婦者の騒音立てをアパートのオーナーに訴えに行ったとき、このアベックの窮状をも伝えてみた(また同時に凄まじいドアの蹴飛ばしあいも)。しかしオーナーは「そんなことは放っておけばよい」と一笑し且つ下の夫婦者とは自分でケリをつけるようにと云っていっかな取り合わない。しかしこちらは気が弱いうえに下の亭主始めここのアパート全員××興業の同じ作業員たちだろうと思うので、そんなことは端っからご免だった。相変わらず夜は車中泊などしながらかわしていたが、しかし今度はどういうわけか車中泊しているその場所に(月極めしていた駐車場、もしくは公園際、あるいは遠く第三京浜都筑パーキング等)暴走族風の車が隣接して来るようになり、ドアをやたら開け閉めするなどして睡眠妨害をし始めた。不思議なことには駐車する場所を変えても、必ずその類の車が現れて叩き起こすのだった。その連中は主に隣室の男と女をめぐって蹴り合いをしていた二人組(当時年令は25、6才くらいだった)とやがて知れる。うち一人は私の二軒隣りの部屋に単身で、いま一人は階下の夫婦者の隣りに、こちらは女を連れこんで住んでいたように思う。ふだんから「俺たちは義兄弟」とか「俺たちがヤクザだと知ったらあいつ(つまり私)驚くぞ」などと聞こえよがしにうそぶいては、なぜかアパートオーナーの意向を私に強いるようだった。いったい昼間の、××興業の自分たちの仕事はどうしているのだろう?なにしろ夜を徹して私を車で追いかけまわすのだった。時に女をともなって、である。その女というのが義兄弟のうちの一人の方の女で、これが曲者とやがて知れる。前記した霊視女の程度のきついやつで、おそらく人間ナビゲーターとでも称すべき正確さで私の居場所を義兄弟に告げていたのだと思う(自身が族だったのだろう)。畢竟とても追跡をかわし切れるものではなく、やがていくばくもなく私は失業するに至る。その後はバブル後の失われた10年に当たっていたことと、私の年令(50才をこえていた)もあってなかなか正業に就けず、業務請負の会社を間に結構な遊び期間をおいて転々としてしまう(懐具合はドンドンと寂しくなって行った)。さらにはなにしろここから出たかったので、寮付きの仕事を求めて何回か地方に移り住んだ。
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