サマネイ

多谷昇太

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第四章 得度式と鏡僧侶

鏡師と山本師の違いは?

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すでに30半ばで(おそらく)僧位も上がり同寺から派遣されたくらいの人だから、ここにいるのが俺でなく、件の、やがては彼の後輩ともなるだろう、あの大学生であったなら、伝えたかった仏教の、就中曹洞宗、宗祖道元の教えなどがさぞやあったのに違いない。それにもかかわらず何の因果か代りに来てしまった破戒男、すなわち俺への教化どころか、もしあればだが嫌悪戒に、彼はこの先もっぱら試されることにならなければいいがと思う…。
克己心と自己啓発心と云うべきか、自律と主体的行動と云うべきか、うまく云えないが、両師の違いを述べようとするとこうもなるだろうか。「青白(あおっちろ)い陰にこもるな、家にこもるな。荒野をめざせ」とするホイットマンの詩に触発され、デュ・モーリアの「わが青春は再び来たらず」に啓発され、なによりもランボーの「酔いどれ船」に魂ごと魅了されては村田は日本を飛び出したのだった。しかし畢竟その頭のてっぺんから足のつま先まで、自分のことオンリイのような生き様を咎められるように、鏡師からも山本師からもそれぞれの姿勢を以って俺は訓戒を受けたようだ。今にして思えば両師の違いは単に後先(あとさき)の違いに過ぎなかったこと、すなわちインサイドアウトとアウトサイドイン(これよく分からないでしょ?小説の最後に引用文献とでもして紹介しますよ)の違いであることがよくわかるが、当時は悉皆わからなかった。鏡師と山本師それぞれの言葉と姿勢におおいに迷ったものだ。つまるところ山本師がおっしゃられた通りの「いまだ社会との触れ合いのない、いかなる人間的な切磋琢磨もない」至って未熟で弱い俺でしかなかったわけだ。
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