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第四章 得度式と鏡僧侶
和泉元彌に似た鏡僧侶
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縁(えにし)というものに気付くのに俺はいまだ至って愚鈍であり、食、住を与えられ、生き直しの聖なる場所すら与えられているのに、それらのことに悉皆(しっかい)無知蒙昧のままだった。この大罪を後に代理ではなく、御住職その方から指摘されるのだが、それはこの小説の最終章でのことではある。
「どうでした?得度式は。緊張した?」ようやく針のむしろだった得度式を終えて、与えられた僧房の一室でくつろぐ俺の前に、得度式後の雑務を終えてやって来たのだろう、かつてのNHK大河ドラマ「北条時宗」の主役俳優だった和泉元彌そっくりな、端正ながらいかにも克己的な風貌の鑑僧侶が訊く。こんな人がなぜ僧侶をと勘ぐりたくなるようないい男だ。さぞや異性への戒律に励まなければならないだろう(女性から云い寄られるだろう)と思われるほどだが、実際には禅僧の厳しさが面に出ているのだった。前任の山本僧侶とはえらい違いで冗談のひとつでさえ通じそうにはなかった。
「はい、かなり…教えていただいた経文がいざとなると出て来なくて…暗記していたんですけど。それに何かあの…住職に叱られているみたいで、ハハハ、調子狂っちゃいました」と苦笑するのに「君ね、あの人は住職なんかじゃない。サマネイの得度などに住職は出られないんだ。代理だよ」とピシリと云う。住職だろうが代理だろうが俺には知ったことではないがなぜか言葉尻がきつい。思わず言葉を失うのにそれと察したか「いや、君ね、ここの住職はえらい方なんだ」と云って面をなごませて見せる。「住職は日本とタイの間の子でね、実に徳のあるお方だ。実は私もね、その方を慕ってわざわざ永平寺からやって来たんですよ。
「どうでした?得度式は。緊張した?」ようやく針のむしろだった得度式を終えて、与えられた僧房の一室でくつろぐ俺の前に、得度式後の雑務を終えてやって来たのだろう、かつてのNHK大河ドラマ「北条時宗」の主役俳優だった和泉元彌そっくりな、端正ながらいかにも克己的な風貌の鑑僧侶が訊く。こんな人がなぜ僧侶をと勘ぐりたくなるようないい男だ。さぞや異性への戒律に励まなければならないだろう(女性から云い寄られるだろう)と思われるほどだが、実際には禅僧の厳しさが面に出ているのだった。前任の山本僧侶とはえらい違いで冗談のひとつでさえ通じそうにはなかった。
「はい、かなり…教えていただいた経文がいざとなると出て来なくて…暗記していたんですけど。それに何かあの…住職に叱られているみたいで、ハハハ、調子狂っちゃいました」と苦笑するのに「君ね、あの人は住職なんかじゃない。サマネイの得度などに住職は出られないんだ。代理だよ」とピシリと云う。住職だろうが代理だろうが俺には知ったことではないがなぜか言葉尻がきつい。思わず言葉を失うのにそれと察したか「いや、君ね、ここの住職はえらい方なんだ」と云って面をなごませて見せる。「住職は日本とタイの間の子でね、実に徳のあるお方だ。実は私もね、その方を慕ってわざわざ永平寺からやって来たんですよ。
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