自らを越えて 第一巻

多谷昇太

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悪夢

最後の夕日

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毎日顔を合わせていたクラスメートだからということもあるが、超みっともなく、またあられもなく、俺の心にとどめを刺してくれた新河だったからこそその印象が強かった。「この死は誰の死…?」と田辺さんが云った言葉が強迫のように迫り来る。そうだ、確かにその通りだ。改めて思えば俺はいったいなぜ、いまここにいるのだろうか?なぜここに来た…いや、呼ばれて来たのだろうか?死とは何か、生とは何か、人生とは何のためにあるのだろうか、等々日頃頭の中で抽象的に問うことしかせず、実態は〝死んだように〟生きていた俺に、この夢のシチュエーションは余すところなく、その俺の疑問への解答を提示していた。「わかっただろう?」誰かの声が教室の片隅から聞こえて来た。廊下側の未だ夕日の残照がさす反対の暗がりからそれは聞こえたようだ。誰かいるのか…?その暗闇の一画に人型の影が凝縮したように見える。これは…新河だ!死んだ新河が亡霊となって、いま俺の目の前に現出しようとしている!恐怖の金縛りにあったような俺に「今ならお前の交誼の申し出に応じよう」と彼は云い、さらにフフフと不気味な笑い声を立ててみせる。必死になって俺は金縛りを脱し、次いで脱兎のごとくに教室から飛び出した。恐怖に憑かれて長い廊下を俺は走る、走る!その途中窓に目をやると今しも夕日の最後の一指しが地平に没しようとしていた。そしてこれが奇妙なのだが身は全力疾走をしているのに一方で立ち止まって窓の外の夕日を見ている俺がいるのだった。校門を出て行こうとしている二人連れがいる。田辺さんと矢内さんだった。田辺さんが「村田くーん、いっしょに帰りましょうよ」と俺に明るい声で呼び掛けてくれる。夕日の最後の一指しともども彼女らが俺にとっては希望の最後の光のように見える、思われる。俺は見栄も外聞もなく大声で「待ってくれー!俺を、置いて行かないでくれー!」と彼女らに叫ぶのだった…。

        【消えなんとする、最後の夕日…希望の光】
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