自らを越えて 第一巻

多谷昇太

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悪夢

とどめの一言(ひとこと)

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俺は一瞬開いた口がふさがらないという風情で彼を見返し、そしてうろたえた。内向的でそれゆえ互いに皆から疎外される者同士と勝手に思い込んで話しかけ、それへきっと好意をもって返してくれるに違いないと確信していたのに、それがこの始末だ。まわりの数名の生徒たちにも目撃されただろうし、結局俺は花田の折り同様にそそくさと口をつぐんでその場から立ち去らざるを得なかった。有り体に云うが実はこの新河の態度と言葉の方が花田の揶揄いよりもグッと俺には身にこたえた。敢て云えばとどめと云うか、完全無欠のロックンローラーならぬ完全無欠の孤独男へとそれが変身せしめたのである。人間不信へのそれが完璧な誘いとなった次第…。
 さて話を戻すがその新河の机の上に飾られたこの花瓶の白い花はいったい何なのか。俺の無言の視線に答えるように田辺さんが説明をしてくれる。「新河君、亡くなったのよ。自殺して…」。えっ?とばかり驚く俺に彼女は持ち前の明るくコケティッシュな口調で「前からお腹の具合が悪かったそうなの。そこへ来て急激な腹痛を催して、医者にかかったんだけど…もう手遅れだったんですって」と場違いな微笑みを浮かべながら聞かせてくれ、さらに「それでそれを悲観してあの子…お家で首を吊ったんですって」とさらりと云い、そのあと矢内さんと口を揃えて「ね」とうなずき合った。その上あろうことか二人して失笑さえもしてみせる。俺にはその二人の態度が信じられなかったがしかしのみならず、彼女らはそのまま摩訶不思議なる視線をじっと俺に注ぎ始めた。そう、ちょうどそれは『でもこれって村田君、新河君だけのことかしら?ひょっとしてこれ(自殺)は…本当は新河君じゃなくって…』とでも言外に伝えているが、いや脅しているがごとし。その視線に腹が立つと云うか恐怖すると云うかたじろぐ俺を残して、彼女らはそのままスッと煙のように消えてしまった。
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