自らを越えて 第一巻

多谷昇太

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悪夢

新河君

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 宵闇迫る学校の廊下を歩いて行く。そこは四階で右手に窓が続き左に教室が連なっている。その一室に入るとそこは俺の教室で中には二人の女子生徒がいた。ヒソヒソ声で何事かを話している。一人は田辺という子でコケティッシュで可愛い顔をした、普段から陽気で明るい生徒、いま一人は矢内という理知的でどこかすました感のある生徒だった。因みに俺はこの性格からして田辺さんに引かれていたが元よりそれをおくびにも顔に出しはしなかった。矢内さんの方はいつも俺の孤独ぶりを馬鹿にしたような『この、見っともない子』と云わんばかりの(彼女に限らず誰でも皆そうだったが)故意的で、冷笑を込めた一瞥を俺に送っていた。方やには引かれ、方やには反発していたがどちらにしても俺にとってはインパクトがあって、畢竟それが彼女らがこの夢の中に現れた理由だったろう。俺は素知らぬ顔で自分の席に向かおうとしたがふと二人が立つ脇の机に置かれた花瓶の花に目が引かれた。その席は教室のほぼ中央、前から四列目に当たる新河という名の男子生徒の席で、この生徒に対しては俺には特別な因縁があった。どういうことかと云うと、例の花田との一件の後ほぼ今のこの〝完全孤独〟状態に陥っていた俺ではあったが、それでもまだ誰でもいいから、誰か話し相手が欲しい、矢内ではないがこの見っともない状態を軽減してくれるような、適当な男子生徒を探し求めていたのである。それをするに当たっては花田一派のような〝異人種〟はもう懲り懲り、俺と似たような感じの、大人しくて目立たたない生徒に、即ち新河に白羽の矢を立てたのだった。あたかもお互いの傷を舐め合うようにおずおずと何さわりないことを話しかけた。しかし豈図らんや新河の反応は至って素っ気なく、けんもほろろという感じ。意外感を隠しようもない顔付きを丸出しにして、俺はなおも話しかけたがその俺の言葉などまったく耳を貸さずに(その時何を語りかけたのかまったく覚えていないし、第一思い出したくもない)、「見っともないぞ」という一言をいきなり俺にぶつけて来たのだった。
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