32 / 118
悪夢
男と女を間違えた!
しおりを挟む
高校二年の終り頃になるとさすがの俺も黒い霧云々などとは云っておれなくなった。ナッシング・トゥ・ドゥの〝怠りのベール〟に惰眠を貪ることも最早ならず、またかの算命占星学で云う風閣星のノンビリ性を腹に持つ(※〝胸に抱く〟ではなく〝腹に持つ〟。なぜなら俺の人体星図の胸の主星は「龍高星・放浪とさすらいの星」だったのであり、腹部の従星が「風閣星」だったのだから。しかもこの星は俺の人体星図の他の箇所にもう一つ出ていて、意味するところは相当のノンビリ屋で、大まかな神経の持ち主ということになる。女優の左幸子がこの星を主星の胸に抱く)俺であっても、将来の進路を明確にせねばならなくなって来た。進学か就職か、前者なら国公立か私立か…尤も我が家は裕福ではなく私立は元よりダメ、すれば就職か国公立となるのだが、大手トラックメーカーの運転手として俺や姉を育ててくれた親父が、どうしても俺を大学に行かせたがっていたのだ。自らは此れと云う学歴がなく、その面で辛酸を舐めた経験からも、また島の親戚連中に自慢したいということもあったのである。しかしそれだったら俺なんぞよりは遙かに優秀だった姉をこそ進学させるべきだったのだが、如何せん此方では至って古い考えの持ち主で、女に教育は必要ないの一点張りで譲らないのだった。然るべき時期に姉が一度親父とやり合ったことがある。すなわち中学時に担任の先生から「是非に」と勧められた県立川崎高校への進学を姉が希望するのに、父は商業高校への進学とその後の就職を命令して譲らなかった。俺の目の前で二人は激しく遣り合い、父から叩かれても姉は泣きながら食い下がったのだがついに望みは果たせなかった。聞き入れられていれば姉の能力・資質から見て彼女の人生は大きく違ったものとなっていただろう。その当時奇しくも姉は俺にこう云ったものである。「建三郎、お前が女に生まれればよかったんだ。おとなしくってケンカひとつ出来やしないんだから…。ああ、あたしが男として生まれていたら!あたしとお前で、神様がきっと男と女を間違えたのよ!」と。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
星降る夜の、空の下
高嶺 蒼
ライト文芸
高校卒業から10年目の同窓会。
見知らぬ美女が現れてざわめく会場。
ただ1人、主人公だけはその美女が誰か気が付いて、驚きに目を見開く。
果たしてその美女の正体とは……?
monogataryというサイトにて、「それ、それずーっと言って欲しかったの
」というお題で書いた短編です。
蘭と蕾
伊東悠香
ライト文芸
マーくんはどっちが好きなの!?
二卵性の似てない双子。蘭と蕾。
蕾は快活で明るい高校生。
蘭は大人しくて勉強のできる優等生。
それぞれに良さを持ちながらも、互いを意識するライバル。
同居する血の繋がらない兄「マーくん」に女として、意識してもらいたい。
血が繋がっているからこそ。双子だからこその苦悩に揺れる蘭と蕾。
恋愛と青春の葛藤を描くドラマ。
*2章で完結します(ほぼ蕾目線で進みますが、途中蘭目線が少し入ります)
レタリング部の林くん
熊猫珈琲店
ライト文芸
林くんは、文字を書くのではなく描く。
レタリングというらしいのだが、彼の描く飾り文字はかなり独特だ。
躍動感あふれる文字に魅せられて、城崎ケントは林くんの所属するレタリング部に入部した。
ピアスの穴だらけで目つきの悪い林くんと、失言が多くて周囲とギクシャクしがちな城崎ケント。
そんな二人が織りなす、ゆるい日常の物語。
社畜が会社辞めて農業始めました
紅 蓮也
ライト文芸
【連載休止中】
社畜生活に疲れ、嫌になり、会社を辞めた。
ゆっくりしたいからと生まれ育った都会を離れ、田舎に家を買う。
知識がないけど、田舎といえばという安易な考えで、農業始める。
始めは失敗ばかりだったが、知り合った農家を営む家族をはじめとする隣人たちに助けてもらいながら切磋琢磨
会社を辞め知識もないのに無謀にも農業を始めた三十路男のスローライフストーリー。
ろくでなしと笑わない天使
吉高 樽
ライト文芸
《30日以内に『価値のある人間』にならなければ、君の命は神様に奪われる》
無気力で淡泊な三十路手前の人生を送っていたその男は、あるとき美しい天使が「見えるように」なった。
生まれてからずっと傍で見守っていたという天使は、しかしながら男に非情な宣告を告げる。
惰性で生きるろくでなしの男は30日以内に『価値のある人間』になれるのか、『価値のある人間』とは何なのか、天使との半信半疑な余命生活が始まる。
※注:これはラブコメではありません。
※この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。
月曜日の方違さんは、たどりつけない
猫村まぬる
ライト文芸
「わたし、月曜日にはぜったいにまっすぐにたどりつけないの」
寝坊、迷子、自然災害、ありえない街、多元世界、時空移動、シロクマ……。
クラスメイトの方違くるりさんはちょっと内気で小柄な、ごく普通の女子高校生。だけどなぜか、月曜日には目的地にたどりつけない。そしてそんな方違さんと出会ってしまった、クラスメイトの「僕」、苗村まもる。二人は月曜日のトラブルをいっしょに乗り越えるうちに、だんだん互いに特別な存在になってゆく。日本のどこかの山間の田舎町を舞台にした、一年十二か月の物語。
第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます、
ちょっと待ってよ、シンデレラ
daisysacky
ライト文芸
かの有名なシンデレラストーリー。実際は…どうだったのか?
時を越えて、現れた謎の女性…
果たして何者か?
ドタバタのロマンチックコメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる