自らを越えて 第一巻

多谷昇太

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黒い霧

市立中原図書館

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「こいつがいるから俺が(私が)浮くことはない」という安全パイにされてしまっているとも思える。しかしそうなったらそうなったで今度は『そんなことは俺はまったく気にしない』とばかりに却って依怙地になって、ますますその役どころにはまってしまうのである。気にしないどころか、この孤独地獄に俺はほとんど発狂しそうなのだが…。
 さてその頃から俺は学校終了後にまっすぐ家へ帰らずに某所に立ち寄るようになった。某所とは市立図書館のことで武蔵小杉駅のすぐ近くにあった(位置は変わったが現在でもある)。きっかけはちっともはかどらない受験勉強を自らに無理強いするため…だったのは間違いないのだが、しかし幾許もなく現実は違ってしまった。いくら場所を変えようとも教科書や参考書に数ページ目を通す内にすぐに気力が萎え、どうかすると眠気まで差して来る始末。いったいこのザマは…と訝しむことしきりでまったく合点が行かない。その代わり場所柄当然ながら万種の蔵書が廻りにはあって、その一画に頻繁に立ち寄っては目を通す書群があった…。
 その前に…ここでちょっと失礼。度々お呼びかけして恐縮だが諸君らには次のような経験はないか?すなわち書店などに寄った際にいつの間にかある特定の本を手にしていたというような経験が。「特定の」とは「あなたにとって」という意味で、その本がいずれ強い影響と示唆をあなたの生き方に及ぼすことになる、ということだ。また逆にある種の本を手にした途端今度はなぜか眠気が差してくるという経験はないか?俺に云わせれば決して一概には云えないだろうが、前々章に記した守護・指導霊、もしくは悪霊の類の為せる業ではないかと思う次第なのである。
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