自らを越えて 第一巻

多谷昇太

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影の子の履歴

自分のことばかり

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またそれ加えるにちょうどこの時期家が転居して、それまで親しくしていた中学時代の友人たちと皆別れ別れになってしまったことも大きかった。それまで母が何回も申し込んでいた市営団地入居が川崎市内の北部に決まり、同市南部に幼児から居住していた俺は友人たちと同じ学校に進学できなくなってしまったのだ。北部と南部では学区が異なるのだそうである。しかしそうすると畢竟中学入学時の再現となってしまい、中学時の友人たちが一人もいない、全員がストレンジャーばかりの中で俺は再び自らをアピールせねばならなくなった。ところがここで前記したボタンの掛け違いや、自分のことばかりに目が行くという悪癖が出て、結局否応なしに、小学時代の孤独という蟻地獄の中に、再び三度俺は沈み行くこととなってしまうのだ。「自分のことばかり」というのは「自分が他人からどう見られているか」「嫌われていないか」「他人の目にみっともなく映っていないか」などという幼児・小学生時分から育成して来た、自らの心の基盤であることは云うまでもないが、俺の場合はとにかくそれが過ぎるようなのだ。これが他人の目には好意の強要と映り、幾許もなく「疲れるやつ」となり、仕舞いには「他人の眼ばかりを気にしている臆病者め」とでもされて、弾かれるに至るわけである。しかしそうなったらそうなったで俺は畢竟萎縮し、いじけて、挙句自棄にもなってしまう。すなわち自らを(これを敢て換言すれば「他人との関わり」を)放棄してしまいがちになる。もがけばもがくほど深みにはまってしまうという蟻地獄、つまりは自らの内における悪循環の中に落ちてしまったのだった…。
 さて、ここらあたりでようやく冒頭の、異名が180度変わってしまった由来に、このころ起きた二つの出来事の述懐へと戻れるようだ。すなわちボタンの掛け違いを必死になって仕出かしていた時分のエピソードへと。これを以下に章を変えて執筆し行こう。
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