自らを越えて 第一巻

多谷昇太

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影の子の履歴

陽気な子に変身

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 ところが、である。ここからが奇跡だった。へー、あの子(もしくはあいつ)そんな子なんだ。それなら…とばかり、元同学校のやつらはともかく新たに同級となった連中からは一目も二目も置かれて接せられることになったのである。あたかも未来の学級委員かクラスの人気者に接するかのように、口もとに笑みを浮かべては、俺の対応如何を探るように接して来る。小学校時代にはまったくと云っていいほどクラスメートから話しかけられることなどなかったのだ。それなのにこの変わりようである。どう接していいかわからず、とりあえずこちらも不器用に笑みを浮かべては不慣れな会話を始めるしかなかった。しかしそれが一日二日、三日四日と続くうちにだんだんと馴れて来て、そして板についてくる。なんと云えばいいだろうか、あたかも劇の上である役をおおせつかってそれを始めはぎこちなくても忠実に演じるうちにそれがさまになってくる、といった塩梅だった。そうすると不思議なものでいままで悉皆自分にはないと思っていた社交性と云うか、ゲーテの云う親和力なるものが俺の内にも感じられるようになって来て、畢竟万事がうまくまわり出したのである!どうせ俺なんてとすべてにおいてC調していた俺は勉学もはかどらず、姉と比べれば成績は見るも無残だった。5段階通知(※昔の通知表は5段階で評価されていたのです)のそれはほとんどが3と2ばかりで、5ばかりだった姉のはるか後塵を踏んでいた。それが万事における身のまわりの好転を得ると、なんと成績までもが上がり出したのである。つまり家に帰ってからの予習・復習に自然に励むようになって行った。俗に云う「やる気が出て来た」というわけだ。このあたりの塩梅を、俺は俺なりにぜひつまびらかにしてみたい。そこには二点の要素が考えられて、まずその一点から記す。
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