一葉恋慕・大森編

多谷昇太

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第二章 まとの蛍

一葉と文学を語れる喜び

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ただし、実際に世に書を為した一葉と違って私にはそれがなかったし、この先も終生ありそうもない。ではなぜ、件の親分や手下どもが斯くも目くじらを立て、また抑々私が小説を書いていることを、それも何を書いているのかまでわかるのだろうか?もちろんそれは霊視である。取り巻きの霊視女たちが知らせているのだろうが、しかしそれにつけてもこれは、つまり霊視とは、いったい何なのか?と思はざるを得ない。いっさい知識を持たないが、しかし斯くもその禍を受ける身であれば常にこれを思わぬことはない。おそらく…憑依と似たものではあるまいか?彼ら霊視者たちがこちらを霊視するとはつまりこちらの、憑かれる者自身の目を通して見ているような気がしてならない。しかしもしそうであるならば、これは別の意味で思うところ少なからず、とせざるを得なかった。なぜなら彼らに容易に心の波長を合わせられる程度の私の心根でしかない、ということになってしまうからだ。単に身の不徳ということで済ませられる話ではなかった。またプロでもなんでもない私になぜ?…の方はこれは皆目わからなかった。発表できなければ日記と同じようなものだから目くじら立てる必要はないと思うのだが…。
 そんな私の患いまで知ってか知らずか眼前の一葉が私に顔をほころばせて見せてくれる。私の喜びを共有してくれるようなその笑みに、道路側にいるヤクザどもの存在を忘れて、私の顔はだらしなく崩れてしまう。この一葉と、文学を語れることほど私にとって嬉しいことはまたとないのだ。それこそ夜が更けるまで語り合っていたい。目は口ほどにと云うが、そう口にせずとも私の目がそれを彼女に語っていることだろう。さらになお嬉しいことにはその一葉自身の目も、表情も「ではどうぞ、語り合いましょう」と云ってくれているがごとしなのである。それはちょうどこの出会いの当初から私が欲していた、図っていた、共有を、彼女もしたがっているとも取れるのだった。もしそうなら、これほどの果報があろうか…。
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