1974年フランクフルトの別れ

多谷昇太

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「えっ?スイス行き…?」と絶句する。「な、なぜ…パリに行くんじゃないんですか?」俺との同行を得て一瞬安堵したのも束の間、彼女は俺がパリに行くものとばかり思っていたらしい。スイスばかりを思い込んでいた俺と二重の錯綜とあいなったわけだ。しかしフランス語を話せなければ同国でのバイトは難しいことを俺はこの3ケ月のうちに摑んでいた。(仕事を得るならスイスという)ボヘミアンの情報共々それが確かであることを短時間の内に、懸命に彼女にわからせようとするが正直云って難しい。発車の時刻は迫ってくるしあせりまくる。
「うーむ、しかしですね。これは本当に間違いのない情報なんです。賃金だってスイスの方がいいし…とにかくフランスはないですよ、おっしゃるようなあなたの状況であるならば」などと云うのに「で、でも、あなただって本当に(スイスに)行ったわけじゃないんでしょ?」と俺を信じ切れずに、躊躇する彼女の姿が痛々しい。無理もない話でおそらくは彼女だって俺同様にパリ行きこそと念じていた土壇場のことだろうし、初対面の人間にすべてを(?)託せるはずもないのだ。そのパリに賭ける理由を「あ、あの、パリにはわたしの友だちもいるし…ですから、パリの方がいいですよ…ね?パリに変えませんか?」などとも云うがそう勧める彼女の表情がいたって心元ない。もはや買ってしまった切符の行く先を変えてもらう時間もないと思ったのだろうし、何よりも前述したような、つい2週間ほど前までの俺のみじめさをどこかで感じてもいたのだろう。言葉を尽くしても踏ん切りがつかないのは明白だった。正夢のように思えた彼女との道行きが、その幸せな光景が遠退いて行く。

         【連れて行け、強引に…が出来る俺じゃない】
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