3 / 6
うっ、寒い…
しおりを挟む
しかし『これだけいい女ならヨーロッパの男達がさぞや喧しかろうに』とも正直に思ってしまうと、もういけなかった。おさえきれない喜びをしかし照れ笑いで偽装しながら「い、いや、ははは、そんなことはない。しかし大したもんですね。なにか特別な目的でもあったのですか?留学とか…ですか?」と訊いてみる。すると彼女は頭と手をおおげさにふって「いいえ、とんでもない。わたしOLをしてたんですけど、どうしてもヨーロッパを見てみたくって、殆どなにも考えずに来てしまったんです。お城とか、エッフェル塔とか、例のヘプバーンの、カフェでティファニーとかを、うふふ、実地で見たり、してみたかったの…バカですよね?わたしって」とばかり、田吾作の俺であってはなんとも答えようのない話しぶりをしてみせる。ここで気の利いたセリフを云えるくらいなら24才のいまに至るまで無彼(むかの)ということはなかっただろう。信じられないだろうが前述したように、この年で文字通り初デートとも云える今の状況なのである。それゆえ内心上気しきっているのだがその浮ついた熱を列車出入り口から吹きつける寒風が些かでも冷やしてくれた。映画「パリの休日」におけるグレゴリー・ペックの、男らしく且つ大人びた、ヘプバーンへの対応ぶりを思い浮かべながら何とか言葉を紡ぎ出す(足など組んだりして)。
「結構じゃないですか。人生一度っきり。その心意気やよし、ですよ」「そうですか?わたし…なんか今になって馬鹿なことをしたのかな、なんて…うふふ。あなたも一人旅ですか?」「はい、そうです」という俺の返事を確かめた直後、列車の屋根の上の雪を飛ばしながらひときわ強い風が吹いて来た。彼女はヤッケの胸元を両手で覆いながら身震いし「うっ、寒い。風除けにしちゃう」と冗談っぽく云うと、腰をずらして俺の身そばに移動して来、触れんばかりに身体を傾げる。亜麻色の髪が俺の頬にかかる。そのまま手を肩にまわしてほしい(助けてほしい?)と云わんばかりだ。しかし「そうですね」と一言だけの俺に決まり悪げに身を離した。
【女の子の夢。お城を、エッフェルを、外国の街を…】
「結構じゃないですか。人生一度っきり。その心意気やよし、ですよ」「そうですか?わたし…なんか今になって馬鹿なことをしたのかな、なんて…うふふ。あなたも一人旅ですか?」「はい、そうです」という俺の返事を確かめた直後、列車の屋根の上の雪を飛ばしながらひときわ強い風が吹いて来た。彼女はヤッケの胸元を両手で覆いながら身震いし「うっ、寒い。風除けにしちゃう」と冗談っぽく云うと、腰をずらして俺の身そばに移動して来、触れんばかりに身体を傾げる。亜麻色の髪が俺の頬にかかる。そのまま手を肩にまわしてほしい(助けてほしい?)と云わんばかりだ。しかし「そうですね」と一言だけの俺に決まり悪げに身を離した。
【女の子の夢。お城を、エッフェルを、外国の街を…】
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
足を踏み出して
示彩 豊
青春
高校生活の終わりが見え始めた頃、円佳は進路を決められずにいた。友人の朱理は「卒業したい」と口にしながらも、自分を「人を傷つけるナイフ」と例え、操られることを望むような危うさを見せる。
一方で、カオルは地元での就職を決め、るんと舞は東京の大学を目指している。それぞれが未来に向かって進む中、円佳だけが立ち止まり、自分の進む道を見出せずにいた。
そんな中、文化祭の準備が始まる。るんは演劇に挑戦しようとしており、カオルも何かしらの役割を考えている。しかし、円佳はまだ決められずにいた。秋の陽射しが差し込む教室で、彼女は焦りと迷いを抱えながら、友人たちの言葉を受け止める。
それぞれの選択が、少しずつ未来を形作っていく。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる