人生和歌集 －風ー（１）

風吹かず…止みて終わるか？

キューブリー・ロスのような看護婦さん

あともなきガンの臥所にむすぼほれ明日死ぬるとて何をかすべき
※１．むすぼほる；〔自動詞〕気がふさぐ。くさくさする。「むすぼほれ」は已然形・詠嘆となります。

死ぬるとて誰と相見ん語るべき人‘間’失格隠すべくなし
※１．人‘間’表記のわけは「人の間」すなわち「人とつながってこそ人間」と見るならば、誰一人ともつながれなかった私は「人間失格」となるわけですね。もう、もろです、もろ。(>_<)

夜九時に寝ぬるものかは消灯時ラッパ鳴らねど兵舎おもはる
※１．入院先の茅ヶ崎市立病院の消灯時間は午後９時でした。情け容赦なく消します。♬兵隊さんは可哀そうだね～、また寝て泣くんだよ～♬（←これ知ってますかね？若い人たち）的な私でした。死（絶望）間近なら斯くも速やかに寝れましょうや…？

　　　　　　【兵舎…色々探したがイメージ通りのものがなかった】

うばたまの夜こえるらし今宵またおぞしき夢とて行かな眠らな
※１．うばたまの；〔枕詞「夜」にかかる。
※２．むすぼれて寝るとロクな夢見ません。この歌の詠草時には確かとても恐ろしい夢を見たのでした。しかし怖いながらも♬通りゃんせ、通りゃんせ♬…ですね。

怒るをさへ愛に受くべき看護師（ひと）のゐて我は驚きすなはち恥じつ
※この茅ヶ崎市立病院で看護を受けたある看護婦さん…とってもいい人だったのに些細なことで言葉を荒げてしまいました。もう、ガンやら何やらで、どうかすると死ぬかも知れない身で、八方塞がりだった私は無自覚の内に感情的になっていたようです。実につまらない看護上のことで声を荒げてしまった…しかし私は次の瞬間にもう後悔していました、『いったい俺は馬鹿か？…』と。ところが彼女はなんと私の前で両手を合わせて目をつぶり「すいません！」と謝ってくれたのです。唯に私の怒りを受けとめてくれたのでした。その時の私の恥ずかしさ、面目なさと云ったらなかったのですが、しかし同時に彼女のその受けとめにとても癒されたのが、実に新鮮な驚きでもありました。因みに彼女は普段から私が小説やら詩を書くことを聞いてくれていて、その面でも非常に癒されていたのでした。あの有名なキューブラー・ロス博士のようだった看護婦さん、本当にすみませんでした。そしてありがとうございました。