ゼフィルス、結婚は嫌よ

多谷昇太

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不思議な邂逅、義男と惑香

ご注意!これはオムニバス形式小説

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「うーん、おいしい。さすが高級ベーカリー喫茶ですね」と惑香が云うのに「ええ、本当に…(サンドイッチをパクつきながら)それで、ここは?前々から贔屓にしていらっしゃるんですか?」「え?ええ…」義男の質問になにがしかを回想するような惑香の風情となっていく。ただ黙々とサンドイッチを口にしながら答えようとしない惑香の様子を慮って義男も口をつぐんだ。実はこのとき惑香はこの時より4年前の、12月のことを思い出していたのだった。それを以下に綴って行くがただここでちょっとお断りしたい。いま現在のシチュエーションは2003年の6月であり、主人公の惑香は34才でサブ主人公の義男は46才。場所は小説冒頭に記した通りの「青山、246沿いにあるサンドイッチやベーカリーの味の良さで有名な某老舗喫茶店」なのであり、いま現在、目の前にこの義男は存在していないのだ。飽くまでも惑香ひとりがこの店にやって来ていまから10年前の、自分が24才時における義男との邂逅を思い出しているのである。追体験をしているのだ。ですからちょっと複雑になるが、以下に綴るエピソードはその回想中におけるさらなる回想、ということになる。読者におかれてはこの小説がオムニバス形式と云うかアンソロジー形式と云うか、いわば時空を跨ぐものであることに常にご留意願いたい。さて、では義男と食事中の惑香の〝回想中の回想〟に話を振ろう。その〝回想中の回想〟のTPOはですから1989年の12月ということになります。惑香20才の時です。

『私が時々ここに来る分けは…』と、いま目の前にいるこの義男には絶対に語りたくないことを惑香は心中で追体験するのだった。『いまはさわやかな6月で、その季節のように素敵なあなた(ところであなたのお名前をまだうかがってなかったわね。あとで必ずおうかがいするわよ…)が目の前にいるけど、あの時は木枯らしが吹いていた12月で、そして私は…』という惑香の心中における以下のモノローグは言葉にすれば長いが実際にはイメージ的な瞬間的なもので、決して義男を長く待たせるものではなかったのである。
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