1 / 33
チェリッシュ
惑香の追想
しおりを挟む
『あそこ、あそこの階段から上って来たのよ、あいつ』アイスコーヒーをストローでかきまぜながら惑香が心中でモノローグする。『10年後のきょう、わたしの前にあらわれて、その場で結婚を申し込むんだって…きざなこと云っちゃってさ…ふふふ、なによ、きょうがその10年目じゃない…あなたはいったいどこにいるのよ』と云って階段の上り口や店内を見まわすが目当ての人はいないようだ。『まったく!あなたが10年後のプロポーズを約束した場所がここだったから、またここに来てあげたのにさ。時間まで合わせて…』惑香が云うその場所とは青山、246沿いにあるサンドイッチやベーカリーの味の良さで有名な老舗の喫茶店である。その二階のフロアーに惑香はいる。時間はティータイムには絶好の午後3時。またジューンブライド、結婚話に最適な6月の下旬だった。赤い枠のはまった腰ほどの高さのプラスチック板で各座席が適度に仕切られた店内は、とてもシックでくつろげる雰囲気があり、いかにも高級ベーカリー喫茶の雰囲気をかもし出している。ナオユニバースのノースリーブブラウスの裾を、スタイルデリーにはめずらしい黄色のスカートの中に入れて、ウェストあたりに適度なたるみを持たせている。自然な茶色い髪を手巻きで下に団子状にまとめ、白いうなじをあらわにして、そこに後れ毛をひとすじたらしていた。耳もとにはピンクのふさの付いたパールのイヤリングだ。惑香のファッションは実に印象的で、洗練されて居、垢抜けていた。レースのパンプスのハイヒールをさりげなく合わせた姿はそのままファッションショーの一流モデルとして通用しそうだ。色白の肌に黄色と白というこのいでたちは、健康的ではあるがなまめかしくもある。また34才のレディであれば些か若過ぎもする。いやがうえにも男の好色の視線を誘うことを惑香は理解しているのだろうか。ひょっとして、その待つ人を魅了するため?…なのか、さだかではない。店内にはマドンナのチェリッシュがBGMとして流れている。それを軽く口ずさみながら惑香の心中でのモノローグは続く。
【惑香の髪型、こんな感じ…?】
【惑香の髪型、こんな感じ…?】
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
〜彼女を可愛く育成計画〜
古波蔵くう
恋愛
烈(いさお)はオンラインゲームで日常の息抜きを楽しんでいた。ある日、ゲーム内でカリスマ的存在の魔法少女『イチゴ』と出会い、二人は仲良くなり現実で会う約束をする。初対面の日、烈は一心(いちご)の家を訪れ、緊張と期待が入り混じる。現実の一心は自信がなく、コンプレックスを抱えていたが、烈は一心を可愛くする計画を提案し、一心も同意する。
一心の過去の回想では、いじめや自信喪失の経験が描かれ、ゲームが彼の救いとなった背景が明かされる。烈との出会いは一心にとって大きな意味を持つものだった。烈は一心の健康管理をサポートし、ダイエットや運動を通じて一心は少しずつ変わっていく。初めて努力の成果を感じた一心は自信を持ち始める。
加子(かこ)の助けを借りて美容ケアを始めた一心は、さらに自信を深め、烈との絆も強まる。礼男(れお)のファッションアドバイスでおしゃれな服を試し、新しい自分に驚きと喜びを感じる一心。周囲の反応も変わり、自信を深めていく。
初めての二人きりの外出で、一心はデートを通じてさらに自信をつけ、二人の関係は一層深まる。しかし、雪崩子(なでこ)が嫉妬し妨害を試みる場面も描かれる。最終的に、烈は一心に自分の気持ちを伝え、一心もそれに応え、二人は正式に付き合い始める。未来への希望と幸せが描かれるエンディングとなる。
ダンス・バトル
オガワ ミツル
現代文学
或る街の中にある社交ダンスの教室には、様々な人が集まってくる。初心者や見学者。そして熟練者の男と女達は、更なる技を高める為に、汗を流している人たちの溜まり場でもある。この中では自分が最高と自負し驕る人、またレベルが高いのに誠実に振る舞う人、噂が好きな人たち。そんな彼等でそこはいつも活気があった。その教室には様々なドラマが始まっていた。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
月は夜をかき抱く ―Alkaid―
深山瀬怜
ライト文芸
地球に七つの隕石が降り注いでから半世紀。隕石の影響で生まれた特殊能力の持ち主たち《ブルーム》と、特殊能力を持たない無能力者《ノーマ》たちは衝突を繰り返しながらも日常生活を送っていた。喫茶〈アルカイド〉は表向きは喫茶店だが、能力者絡みの事件を解決する調停者《トラブルシューター》の仕事もしていた。
アルカイドに新人バイトとしてやってきた瀧口星音は、そこでさまざまな事情を抱えた人たちに出会う。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる