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裏ノ鏡編
単攻易落
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入り口付近を警護にあたらせていた組員の連絡を受け、会場付近の警護指揮を執っていた流川弥平は、従兄妹である白鳥是空を呼び出し、``皙仙``のいる場所へ先行していた。
``探査``による索敵によると、``皙仙``もとい裏鏡水月と名乗る人物は、堂々と会場のあるフロアへ近づいている。
所々に配置した白鳥家組員を迎撃に向かわせたが、効果なし。
侵攻の速度が遅延する気配はなく、むしろ階層を何らかの方法で転移しているため、想像絶する侵攻速度で近づいている。
分家派が貸し切った高層ビルは百三十階にも及び、澄男や御玲がいる会場は、その最上階の大ホールにある。
入り口から堂々と侵入したと通達されたのは、ほんの二分前後。
裏鏡なる人物は、経った二分足らずで百二十五階まで一気に侵攻するという、恐るべき速度で迫っているのだ。
弥平は珍しく眉間に皺を寄せた。
ありえない。高層ビルの全フロアには``転移阻止``という阻止系魔法と、``逆探``という探知系魔法。
そして``魔法探知``に反応して霊子通信を経由し、味方に敵の魔法の行使を知らせる``警報``を発動させている。
``転移阻害``により``顕現``による転移強襲は、まず不可能。
他の魔法を使って防御処置を密かに振り解こうとしても、味方以外の者が魔法を使えば、``逆探``により、敵の位置は全ての者に露呈する。
魔法使いへの対策は万全だ。おそらく隙をつける者など、そうはいない。
「これは転移強襲ですよね……? どうして``警報``が反応しないのでしょう」
「分かりません。単純に考えれば``魔法探知``が何の反応も示していないから、なのでしょうが……」
是空の疑問に、弥平は訝しげに答えた。
魔法は``魔法陣``と呼ばれる、必要十分な情報を入力し、適切に出力するための演算機で記述される。
必要十分な情報というのは、例えば、魔法の発動条件、魔法発動に使用する霊力量、気温、湿度、空間の自由度、術者の状態などが当てはまる。
従って戦況に応じ、術者が全ての条件や情報を記載する事で、初めて発動する概念である。
今回発動している``警報``は
【流川、白鳥、水守に属する者以外が使用する魔法を``魔法探知``で探知した場合、``逆探``を発動して術者の空間座標を逆探知し、霊子通信で得られた情報を味方全てに知らせる】
であった。
しかし今、``警報``は、なんの反応も示していない。
つまり、``魔法探知``が第三者の魔法の使用を一つも探知していないため、``警報``の発動条件を満たさないのだ。
理屈に沿うならば、相手は一切魔法を使っていない事になるが、その結論では事実と合致しない。
相手の侵攻手段は、明らかに転移強襲。
``顕現``による空間転移を無効化する``転移阻止``を解除しなければ、まず不可能であるはずの身業を、どうして可能なのか。
``警報``が解除された。
いやありえない。解除しようと、解除する為の魔法を行使すれば、結局``魔法探知``から逃れる事はできない。
弥平は散文化された思索を一挙に纏める。
事実を把握、整頓して精査した結果、裏鏡水月は魔法を使わずに空間を跳躍している事になる。
どうやって。事実の経緯が掴めない。``顕現``以外で空間を跳躍する手段は存在しない。魔法を使わなければ不可能だ。
物体は通常の方法では壁を透過できない事と同じ。透過するには、するためアプローチが不可欠。
事実を素朴に受け止めてみる。
``顕現``以外のアプローチで空間を飛んでいる。
``顕現``以外のアプローチとは。魔法以外のアプローチとは。
そんなアプローチが存在するのか。いや、まさか―――。
―――魔法とは世の事象に``干渉``する身業である。世界に遍在するあらゆる事象は、物理的にも霊的にも、必ず世界の法則に則った上で我々に知覚されている。
世界に霊力という概念が周知となった現代。
俗に魔法使いや魔術師と呼ばれる者達は、世界法則という一種の真理に近づこうと画策し、霊象を科学に、科学を霊象で記述する文明を築きあげてきた。
結果、世界を支配する固有の法則に術者の観念を``干渉``させ、術者が望む自然現象を自在に起こす行為を、彼等は長き時を経て成し遂げた。
それこそが魔法並びに、下位互換に相当する魔術という概念。正式的には``事象干渉``と呼ばれ、多くの人々に親しまれるようになった―――。
未だ分家邸で修行をしていた頃、座学の時間につきっきりで教えてくれた父の言葉が脳裏を掠めた。
当時はまだ魔法も剣の技も格闘もろくにできない幼少であり、難解な言葉を使われ、理解するのにかなりの時間を要した。
今でも父と行った講義の内容を、片時も忘れた時はない。父の言には続きがある。
―――しかし世界とは広いもので、事象に``干渉``する身業があるのならば、事象を``操作``する概念もまた存在する。
事象干渉は、既存の概念に術者が自分の``想い``を、霊力を経由して干渉する事で、思い通りの概念を具象化するものだ。
対して``事象を操作する``とは、自分の想い―――即ち``理想``―――のみで、現実世界を書き換える身業である。
当然、あまりに強大であるがために、保有している者は極めて少ない。
保有していれば世界の法則に捉われず、自由自在に森羅万象の在り様を改変することが可能なのだから。
これを正式に``事象操作``と呼び―――。
「……俗に人々は、``超能力``と呼んだ」
「え……?」
「もしかして……``皙仙``は超能力者では、とね」
「そんな……」
超能力者。
世界に一握りしかいないと言われている異能の者。戦えば、まず勝算が無いとさえ言われている存在。
実際に相間見えた事はない。存在しているという情報を有しているだけだ。戦った前歴など皆無である。
「``魔法探知``を素通りして空間転移を行うとすれば、超能力しかないんですよ。手法としては」
「し、しかし」
「分かっています。これは……まずい事になりました」
弥平の作り笑いのような表情に、一筋の水滴が滴る。
まずどう戦えばいい。戦い方が思い浮かばない。魔法使いや魔術師相手ならどうにかなった。しかし、超能力者となると格が違う。
相手は自分の思い通りに現実を捻じ曲げてくる存在。あんまりにあんまりな理不尽を容赦無く叩きつけてくる怪物。
常識、セオリーが通じない。打開策があるとすれば、相手の超能力から欠陥を見つけその隙を突く、ぐらいしかないだろう。
こちらは超能力などという便利なものは不幸にも持ち合わせていない。超能力の隙をいち早く見つけ、いち早く貫く。絶望的な戦況が予想される。
「弥平様。先遣隊からの通達。``皙仙``と思わしき人物が、最上階フロアに侵入。迎撃されたし」
「遂に来てしまいましたか……」
弥平達は、交互に動かす脚を止め、魔道携帯鞄から様々な色のした薬瓶を取り出す。
二人が取り出した瓶は四本。
淡く光る純白の薬液は全能度上昇薬・特型。黄色の薬液は敏捷能度上昇薬・特型。
淡く光る紫色の薬液は利発化剤・特型。銀色に神々しく光る薬液は緊急生命活性霊薬・特型である。
全能度上昇薬・特型は物理攻撃、物理防御、魔法攻撃、魔法防御、敏捷性能、回避性能、霊力量。戦いに必要な全ての肉体性能を引き上げる薬。
原則、格上と目される存在との差を可能な限り埋めるために使う。今回は超能力者が相手だ。この薬を使って損は無いだろう。
加え、素早く相手の間合いに切り込むための敏捷能度上昇薬・特型と、思考速度を上昇させ、判断力、注意力、集中力を強化する利発化剤・特型を服用する。
思考判断によって生まれる戦闘のムラを極力無くし、リズミカルかつコンスタンスに攻撃、防御、回避を行えるようにすれば、物理的な戦闘力では確実に引けを取る事はない。
最後に緊急生命活性霊薬・特型は、致命傷になり得る損傷を受けても、一時的かつ急激な生命活性によって、一度だけ死亡を免れる薬である。
急激な生命活性に必要な霊力と、それを促進させる効果を記述した魔法陣を配合している流川分家派製最高ランクの薬液なので、あまり使いたくはなかった。
しかし、一撃死すらありえる此度の戦いにおいて、一瞬の油断をしなかったとしても敗戦濃厚な戦況が容易に予想される。
装備をケチっている余裕など無い。使える物は、惜しみなく使うべきだ。
全ての薬液を服用した後、二人は各々の装備を手に取る。
弥平は二本のナイフ。是空はオートマチックの拳銃。
速やかな臨戦態勢。五感全てを研ぎ澄まし、戦闘経験に基づく第六感で、全方位から予測できる不意打ちの角度を逆算する。
だがそのとき、彼らの視界に映った異様な光景が二人の肌を逆立てた。
目の前の時空が一瞬、波紋のよう波打ったのだ。当然、空間が波打つ現象など、普通は起こるはずもない。
``顕現``が使えない建物の中で、空間転移による空間の歪みはおこるのはおかしい。
二人は身構えた。空間の波紋が大きくなり、波紋の中心から浮かび上がる人影。まるで締め切ったカーテンに体を埋めている人間を見ているかのような。
徐々に身体全体、そして顔の輪郭があらわとなり、空間のカーテンを貫通して、``皙仙``と思わしき人物が、遂に姿を現わした。
鏡の向こう側から滲み出るようにして登場した者は男なのか女なのか、判別つけ難い姿をしている。
服装は無地のTシャツに短パンという簡素なもので、どれも男物。
おそらく男だと思われるが、肩まで滴る髪と、女性とも男性とも言える中性的な顔立ちが、思考判断に緩みを生じさせる。
だがなにより特筆するべき点があった。
まるで鏡面加工されたかのような銀髪。中心部分が黒、虹彩が銀色という異質なまでの瞳。
あまりの鏡面にフロアの蛍光灯から放たれる可視光をことごとく跳ね返し、眩く輝く頭髪は網膜を異常に刺激、本能的に瞼を閉じさせる。
「雑魚に用は無い。消えろ」
少年らしき銀髪の者は静かに口を開いた。年齢は同じくらいだが、異常に大人びた声音。凛々しく濃厚でコクが強い。
彼はただ一言発しただけ。ただそれだけで、凄まじい存在感を刻んでくる。
今にも吸い込まれてしまいそうな、暗澹と濁る水晶体。
まるでブラックホールを見ているようで、あまり目線を合わせたくない不快感が心中に横たわる。
彼が裏鏡家当主``皙仙``、本名は裏鏡水月。たった数年余りで``四強``の一角に数えられるまでの存在になった強者―――。
「言ってくれますね。あのときの私、そこそこ粘っていたじゃないですか」
挨拶代わりの罵倒に、眉間に少し皺をよせ、強めの声音で詰め寄る。しかし、裏鏡は真顔のままだ。
怒っているという風を装っても、淡々と返答するのみである。
「耐久性能の問題ではない。敗走したか、勝利したか、だ。お前は敗走を選んだ。もはや、俺の敵になりえん」
「戦略的撤退と言って欲しいものです」
「撤退とは、即ち敗走。納得がいかぬのなら、大人しく戦っておけば良かったものを」
「私達は、貴方と戦う理由がありません。情報が欲しいのです。誘き出すような真似をしたのは謝ります。ですから私達とともにご同行を」
「俺は``禍焔``と戦いに来たのだ。よって同行する義理は無い。させたければ相応の威を、俺に示せ」
弥平は歯噛みする。
やはり無理か。戦闘狂はこれだから困るのだ。仕方ない。残る選択肢を選ぶほかないようだ。
肩を竦めつつ、溜息を吐いた。そして、裏鏡を改めて強く見つめる。
「ならば今一度……機会を下さいませ。私は分家派当主として、退く訳にはいかないのです」
銀髪の少年は、弥平を見つめながら、暫時石像の如く静止する。
拳銃を片手に開戦のタイミングを待つ是空を流すように目線を泳がせると、二人の男の視線が交差した刹那、白銀は横柄に匙が投げ入れた。
「……良かろう。もし俺を撃沈できたならば、お前の黒星を白と認める」
「二対一になりますが……反則、なんて言いませんよね」
「反則など、所詮弱者の小言にすぎん」
一切了解しました、と返す。
弥平は是空に数歩下がるよう命じ、彼女は弥平みつひらから右斜め後ろの場所で銃を構える。
深く息を吸い、肺に溜まった二酸化炭素を大気中に吐き出す。
気を落ち着かせろ。一瞬の油断が命取り。以前は負けた。全力で迎え撃ったが手も足も出なかった。だからこそ可能なら二度と戦いたくない。
戦場に身をやつす者であっても、死に急ぐ者ではないからだ。
あのときも執拗に追い回されて死にかけた。なんとか撤退して生き延びたが、今回は分からない。
しかし分かっている事なら一つ。相手には、一片の容赦が無い。あのときもそうなら、今回も躊躇しないだろう。
本来ならこうなる前に撤退しているが、今は流川るせん澄男すみおの側近、分家派当主``攬災``として、退くに退けない矜持がある。
「ふッ」
腹から力を込み上げる踏み込みで、弥平は前に出た。
薬液の効果か、体が異常に軽い。通常の二倍以上の速度で踏み込んでいる気がする。
猛々しい踏み込みを見せる彼を前にしても尚、銀髪の少年に狼狽の様子はない。回避も防御も取らず、ただ彼の踏み込みを見定めるように佇むのみ。
大地が壮大に轟いた。上々な踏み込み。
技の重みは踏み込みの重さによって決まる。踏み込みが重い程、踏み込みの勢いを技の重みに加える事ができるからだ。
全能度上昇薬・特型と敏捷能度上昇薬・特型によるバフの影響だろう。思わず驚愕してしまうスピードだ。
廊下を豪速で疾走する中、右手にあるナイフを強く握る。
原則、分家派は多方面に長けた幅広い戦闘技能が求められている。
肉体性能で単純に相手を押し潰し磨り潰すのも一種の戦法ではあるが、``柔能く剛を制す``ということわざの存在を、知らない者はいないだろう。
たとえ幾ら肉体性能で勝っていても、往なされてしまえば、極端ではあるがただの空振りと大差ない。
分家派の者が度重ねる日々の訓練は、本家派の倍以上。幼少の頃から座学、技術、経験、知識。
その全ては、たった一瞬で生存の可否が決定する``戦い``に勝ち抜く。
力で勝てないなら技で勝て。技を以って力を弄せ。本家派の影として、分家派は本家に仇成す者全てを確実に排除するため、幾星霜のときを経て技の研鑽を積み重ねてきたのだ。
ナイフが青白く発光し、僅かに雷撃がほとばしる。
付与したのは雷属性系魔術。相手が人間であれば、身体機能を一時的に麻痺させるのに効果的な属性。
初手で左斜め上へ切り裂き、雷属性系魔術で麻痺させる。
幾ら訓練していても、電撃を食らえば筋肉に痙攣や仰け反りは少なからず起こるもの。その隙を突いて、二撃目でトドメを刺す。
今回は捕獲、拘留が目的だ。本来は戦わずして応じて欲しいものだが、相手の好戦的な態度からして、到底無理な話。
一撃目で麻痺、そして二撃目で眠らせる。
催眠効果のある無系魔術を付与すれば、十二分に足りるだろう。
柄への握力が増す。行ける。以前は対応できなかったけれど、今ならできる。
薬液で強化された肉体性能。魔術による補助。踏み込みの重さ。間合いに入るまでの速度。どれを取っても完璧。
後はナイフを振り上げて、刺す。あとはそれだけだ―――。
「う!?」
それだけだ、と思われた。
弥平は体を少し海老反らせ、折角の踏み込みの勢いを殺してしまうが、そのままバックステップで距離を取る。
裏鏡は腰の左側に携えていた刀を完全に抜き切らない形で静止していた。
弥平を両断しようとした訳でもなく、切り刻もうとした訳でもない。ただ刀を半身抜き出しただけで動きを止めている。
彼の姿を見ただけでは変に思うかもしれない。だが彼の柄の位置は自分の顎の位置と同じ。
あのまま突貫していれば、おそらく顎に一撃を受け、脳震盪で気絶させられていた。
かつて敗走した時も、極めて重い一撃を頭部に受けて昏倒していたところを殺されそうになり、全力で撤退している。
今回は一度目の経験が生かされたのか、戦闘経験自体が上がっているのか。奇跡的に避けられた。一コンマ遅れていたら危なかっただろうが。
安堵する弥平であったが、心が休まる時は無い。空かさず是空が後方から射撃。
二発の鉛玉が銃声とともに放たれる。前衛の攻撃が不発だった際に、相手が攻撃を終えた直後の隙を狙う事を目的とする。
攻撃終了直後は、相手に``一撃を加えた``という余韻に思わず浸ってしまうもの。
余韻が刹那の時であったとしても、我が愛弟子、白鳥是空ならば十二分な隙となりうる。
裏鏡に肉薄する二発の銃弾。是空の銃弾は``超速化``によって毎秒単位で加速する魔法効果が付与された魔法弾。
距離が長ければ長いほど、是空によって銃弾の速度は上昇する。この魔法弾で射撃された場合、回避するのはほぼ不可能。
撃つ前に対処しなければ受け止める以外に対処法は存在しない。既に弾丸は大気中に放たれた。後はもう、命中するしか―――。
「``鏡術・時操真眼``」
刹那、裏鏡は態勢を維持したまま、身を捩った。
鉄琴を全力で叩いたような甲高い金属音が鼓膜を塗り潰すと同時、足の筋に皮膚が焼けるような痛覚が走る。
「弥平様ッ」
「大丈夫、私は……」
駆け寄ろうとする是空を声で諌める。
是空の銃から放たれた二発の弾丸は、確実に相手を捉えていた。
弾丸の速度も魔法的な効果によって既にライフル弾を凌駕している。
彼はただ単にほんの少し身体を左に捻り、半身抜き出した刀身で、銃弾を跳ね返したのだ。
見事に跳弾した弾丸は弥平の太ももを掠り、床へ埋もれる。
人間の動体視力では絶対に追う事ができない速度の筈。だが、その速度をもろともせず、二発の弾丸を的確に弾き返した。
動体視力が鍛えられているという理由で許される身技ではない。
弾丸の速度は優にライフル弾の初速を超越している。是空が引き金を引いた瞬間を見た訳でもない。
どうやって避けた。魔法陣も現れていない以上、魔法を使っている様子も無い。物理的にありえない動きをしている。
接敵されているのだ。肉薄した相手に注意が自ずと集中するはず。
「先に言っておく。俺に遠距離攻撃は無意味だ」
腰に携える鞘へ、静かに刀をしまう。
「敵ながらあっぱれですね。どうやって弾いたのです?」
「全ての物体の運動は、時の流れに依存する。刹那の時も引き延ばしてしまえば、大して短い時間ではない」
「なるほど。しかし良いのですか。ネタバラシなんてして」
「理解できたところで、お前達では対処できない」
裏鏡は、ばっさりと吐き捨てる。
確かに彼の身技自体はどうしようもない。
感覚的に捉えられない極めて短い時間を引き延ばす。
あまりにも理不尽な反則技だ。真似できるのならば手立てはあった。しかし不幸にも、便利な持ち合わせが無いのが現実。
初手の不意打ちは回避できたというのに、また八方塞がり。どうすればいい。考えろ。考えろ。
頭を紙粘土のように捏ねて捏ねて捏ねくり回す。
遠距離が無意味なら近接しかないが、こちらはナイフ。相手は刀。
リーチも向こうの方が有利だ。仮に斬り合ったとして、相手に傷つけられる方が速い。距離を詰めてやり合うとしても、頭部に一撃もらえば此方が倒れる。
是空は武器の関係上、近距離戦は難しい。だからと言って距離を取れば、決定打を与える攻撃手段が無くなる。
弥平は歯を食い縛る。
相手の間合いを詰めに行くと気絶させられる可能性があり、危険。距離を取ると決定打が打てない。ならば、此方の間合いに誘い込む。
相手はどの攻撃も弾き返したという余韻に少なからず浸っているはずであるし、同時に先程の交わりで、粗方の実力差を測り終えている。
相手の方が、実力が上なのは明白。此方の間合いに入ってくるのに、躊躇はしないはずだ。
狙うは、間合いに入って攻撃するまでの瞬間。その僅かな隙に勝機がある。
『是空。誘い込みます』
『危険では』
『確かに。でも彼を見て下さい』
弥平の霊子通信を受け、裏鏡に視線を移す。
『なるほど。援護します、ご武運を』
ええ、と返して通信を絶し、改めて意識を向ける。
好機は一瞬。こちらのリーチが短い以上、ギリギリまで肉薄させる必要があるが、``今の彼の構え``ならば確実に突ける。
その刹那とも言える、一瞬の隙を。
裏鏡は軽やかに、しかし明確に地を蹴った。
速い。薬液で肉体を強化している自分達よりも劣るが、それでも気を抜けば、その一瞬を見逃しそうになる。
全能度上昇薬・特型と利発化剤・特型の効果によって、踏み込みの残像を、しっかりと視覚が捉えている。ならば必ず見えるはずだ。あの``瞬間``が。
遂に弥平の間合いへ、少年が入り込んだ。両手のナイフを強く握り締める。
ナイフを両手に迎え撃つ弥平。背を低くし、下から彼の顔を見上げるように、疾風の如く間合いへ入り込んだ裏鏡りきょう。
両者、一瞬とも言える時の中で睨み合い、甲高い衝突音を、フロア内に震撼させた。
「……ほう」
きりきりと金属同士が迫合う。か細い火花が舞い散り、両者の刃が拮抗している。
裏鏡は右手で柄を持ち、左手で刀身を支え、弥平は両手に持つ二本のナイフの刀身を盾代わりに、少年の斬撃を受け止めている。
「ご存知ありませんか。抜刀とは、帯刀よりも僅かに隙がある事を」
裏鏡の圧に耐え忍びながら、唇を吊り上げる。
弥平と是空がなによりも注目したのは、彼が構えている姿。即ち攻撃していないとき、刀身を鞘にしまっているところであった。
抜刀は間合いに入り込まれた際の迎撃ならば、確かに隙はほとんど無い。
剣を振るう動作、即ち``今から相手を迎撃する``という動作を間合いに入り込んでくる相手に悟らせず、最低限度の行動を瞬時に行うだけでいいのだから。
対して裏鏡が相手の間合いで攻撃する際、必ず``刀身をわざわざ鞘から抜いて、なおかつ斬撃を与える``動作を踏まえなければならない。
つまり、鞘から抜いて、相手を斬るまでに僅かだが隙が必ずできる。それを狙えば、剣士の動きをしばらく止める事が可能になる訳である。
そして攻撃のリズムさえ少しでも崩せば、リズムを取り戻すまでの隙も生じるので、こちらの手数の幅も広がる。
「面白い攻めだ。それで、次はどうする」
「さあ? 予想してみて下さい」
かち、という軽い音が鼓膜を揺らす。裏鏡りきょうの耳が僅かに揺れるが、もう遅い。
弥平はバックステップで素早く後ろへ下がると同時、フロア全体に一発の銃声が轟く。
裏鏡はバランスを崩すが、追撃と言わんばかりに、彼の全身を雷撃が奔走する。
「これで……終わりです!」
眼に見えるほど強力な雷撃が身を包んだとほぼ同時、更に銃声が鳴り響き、裏鏡の身体は糸のような何かに縛られ、四肢の自由を奪われた。
座る体勢すら取れず地面に伏し、彼は冷淡に是空を見上げた。
彼女が撃った弾丸は、雷属性系魔術が付与された魔術雷撃弾と、相手を糸で縛り上げ動きを止める捕獲用の拘束弾。
今回の目標は``皙仙``の拿捕。真正面からの殺し合いが目的ではない。
自分の間合いに誘い込んだのは、是空の射撃でケリをつけるための陽動。本命は、彼女の射撃にあったのだ。
高敏捷の相手には、まず雷属性系の魔術が付与された弾丸を体内に撃ち込み、体の内部から雷撃を流し込むのが定石。
全身の筋肉を硬直、運動神経を撹乱させ、動けなくする。
どれだけ訓練していようとも、身体を動かすのに必要な筋肉と神経に過負荷をかけられれば、態勢を立て直すまでの時間が幾ら短くても零になる事はない。
その僅かな時間に捕獲用の拘束弾で羽交い絞めにしてしまえば、体の痺れが取れる頃には任務完了という寸法である。
「王手、ですかね」
是空は銃を構える。弥平はナイフを構える。
捕獲用拘束弾から射出される糸は、流川分家派の特注。人間の筋力では、仮に脳味噌のリミッターを外したとしても振り解けるものではない。
「``皙仙``。投降願いますか」
ナイフを突きつけながら、裏鏡に迫る。未だ臨戦態勢を解かない二人を前に、平坦な視線が弥平の瞼を貫いた。
「……本当に俺を追い詰めたと思っているのか」
「逆転できるとでも仰るのですか」
弥平は顔をしかめる。
四肢の自由は奪っている。座る事はおろか、立つ事すらままならない。
愛用の刀でさえ持てない状況で、どう逆転するつもりだ。
裏鏡の視線が泳いだ。目線を追う。
ブラックホールのような目玉が指し示す方向は、是空。拳銃を構え、少年が余計な動きをしないか神経を尖らせている彼女であった。
「``凍結``」
声をかけようとした。名を呼ぼうとした。そのときだった。
苦痛の声をあげる暇も無いまま、是空は霜が降りた剥製と化したのだ。
弥平は目を丸くする。
魔法、だと。いつ詠唱した。
あの戦いの中で詠唱する隙は無かったはず。彼は剣を用いて銃使いとナイフ使い、同時に相手取っていたのだ。
注意を逸らすための手段をなに一つ講じていないのに、詠唱できる隙があったと思えない。
いや、待て。戦う直前、どんな判断を下したか。
超能力者という判断を下した。そして持っている武器から類い稀な剣士、抜刀術を駆使する事から、居合の達人だと判断した。
だが考えてみよう。居合の達人で、超能力者が魔法を使えないなどと誰が決めた。
ただ超能力らしき何かを使い、居合を駆使している。ただそれだけで魔法が使えないと何故言える。
唇を強く噛み締める。
反則。危うく、反則だ、と言ってしまいそうになった。
だってそうではないか。居合の達人が、超能力者が、不意打ちで魔法を使う。許されるのなら、もはや何でもありではないか。
「何をしている」
寒気がした。今まで感じた事がないくらい冷たい寒気が。
服が汗を目一杯吸い込み、雑巾のように成り果てようとも、肉体は水分を排出し続けている。
何が。どうして。誰が。どこで。いつ。
彼は目の前に拘束されている。音源は必ず前方にあって然るべきだ。だが何故だ。何故聴覚は―――。
―――背後を捉えたのだ。
「ぐぁ!?」
冷覚でありながら、熱いと感じた何かが、心底から急騰する思索と焦燥を上回った。
背中から命が溢れていく。溢れ、地に落ち、腐り果てていく。汗を吸い込んだ服を覆うように、命が服へと浸透していく。
どうした。何が起こった。理解できない。分析できない。
何かが起こり、何かが終わり、傷ついた。現実が、己の認識を全て上回っている。反応しろ。無茶だ。無理だ。
見かけ上、無詠唱で魔法を使い、背後から斬撃を加えられる相手に反応する存在を察知するなど。
幾ら訓練を積もうとも、幾ら理解が追いつこうとも、隙の無い存在の隙を捉えるなど、不可能。
背中を斬り裂かれながらも、裏鏡りきょうから距離を取るべく、転倒すると見せかけ、右手を軸にして飛び退く。
「えぇ……!?」
飛び退いた先、彼が目にした光景は想像を絶するものであった。
外見、服装、肉付き、顔立ち。全てが同一の存在が二人いる。
一人は拘束弾で羽交い締めにされている裏鏡。もう一人はどこから現れたのか、羽交い締めにされる前の裏鏡だったのだ。
拘束されている側の裏鏡は、つい数秒前まで戦っていた裏鏡であろう。
だがもう一人は誰だ。拘束されている裏鏡と顔から足の先に至るまで、全てが同一。まるで複写機でコピーしたかのように、寸分に違わない姿。
「だ、誰ですか貴方は!?」
「俺は俺だ」
答えになっていない返答に狼狽する。
彼は何を言っているのか。目の前に自分と瓜二つの存在がいるのに、全く動じていない。
兄弟。双子。ならまだ分かる。分からないでもない。いやきっとそうだ。
「弟、さんで」
「同じ事を言わせるな。俺は俺だ」
「ありえない!! 貴方は、貴方は一体何をしてしまったというのですか!!」
弥平の中の、何かが弾け飛んだ。
怖いからなのか。いや違う。理解できなかったからだ。
目の前の現実が、あまりにも摩訶不思議で。摩訶不思議ならば一週間前に味わったばかり、だったのもあるかもしれない。
このとき、人知れず、自分が精神的に追い詰められていた事を知った。精神的ダメージとは、時に表に出ない事もあるのかと感心さえ覚える。
「鏡とは、映るもの全てを、ありのままに映す」
「は……?」
「鏡は俺を映した」
「つまり、お前達が縛った俺もまた俺であり」
「お前の背を切り裂いた俺もまた、俺に他ならない」
羽交い締めにされた裏鏡と、血が滴る刀身を帯刀する裏鏡が交互に喋る。
声音も口調も同一。会話のキャッチボールも寸分違わないタイミングで敢行される様は、まさに双子。
これが双子であったなら、納得できた。双子であったならば。
「分……身……」
「浅はかな答だが、お前の理解能力では、その見解が限界か」
弥平から掠れるような声音で吐き出された呟きに、一切の同情は無かった。奏でられた言霊は、ばっさりと両断される。
「次だ。まだ他に手数があるのなら、その威を俺に示せ」
銀髪を靡かせ、刀身に紅い花弁を滴らせる裏鏡は弥平に近づく。一歩。また一歩、と。
こんな絶望的状況でも、退くという選択肢は無い。
前は守るべき主人がいなかった。だからこそ戦略的撤退を合理的に選んだ。
しかし今回は違う。守るべき主君がいる。闘う理由がある。流川分家派当主``攬災``として、抵抗しなければならない理由がある。
「……``皙仙``。貴方に一つ、聞きたい事がございます」
「何だ」
「貴方は……何が為に戦うのですか」
率直な疑問だった。
世の強者を淘汰し、人間社会に帰属せず、人知れず生きる事のできる強さを持っている。
何者も屈さないだけの強者であるなら、彼を彼たらしめる何かが根底にある筈だ。
そうでなければ、ここまでの境地には至れない。年齢は澄男と同じくらいでしかないが、彼の立ち振る舞い、技、そして思想。
全てがまさに、``白皙の仙人``と胸を張って呼べる代物であるのだから。
「己の為だ」
裏鏡は顔色一つ変えず、ぼそりと呟いた。
眼や鼻、頬すら微動だにしない中で、ただ唇だけが言葉を紡ぎ続ける。
「俺が求めるは、森羅万象の真理。万物の深淵。俺はそれらを、この手に治める」
言葉は依然難解だ。内容も哲学的で、よく噛み締めなければ食べられたものではない。どこまでも苦く、どこまでも辛い言葉が、横柄に舌を撫でる。
「深淵を突き進み、糧とする。それこそが俺の全てであり、本懐だ」
難解な語りは力強い常体調で否応無く締めくくられた。
極めて深遠で壮大。とても齢十代の者が抱く理想ではない。高尚、崇高、というべきか。
彼がただの弱者か凡人であったなら、ただひたすらにイタいだけの言霊に他ならない。
しかし彼の実力を二度に渡って味わった今、彼の言は抗いようのない深みと重みが感じられる。
背中の切り傷と自軍の劣勢具合が、彼の所作と言動、その全ての重みを証明しているのだ。言い逃れ、反論する隙は無い。
否定は幾らでもできよう。泣き言は幾らでも叫べよう。
だが、否定し泣き言を述べようと彼の前には``見苦しい言い訳``にしか、なりえない。
敗残するのは相手が反則的に強いからか。否、その反則に対応できない者が弱い、ただそれだけの事なのだ。
相手が反則を使うなら、その反則ごと打ち砕く。それが``できなければならない``のである。
「であっ!!」
背中から命が溢れていくのを感じながらも、地を蹴った。
勝算、打算、合理。その全てを捨てる。たとえ目の前に壮大な不合理があろうとも、今は為すべき事がある。為さねばならない事がある。
流川家の未来。澄男達の生活。乗り越えなければならない``今``がある。
流川澄男という男には、踏破しなければならない現在がある。
今は暗黒だ。遠大とも言える常闇が、残酷にも横たわっている。
振り払える保証はない。確証がなに一つ無い中で、超えなければならない現在がある。もしも、その先に円満な未来があるのなら―――。
「``爆轟``」
刹那、弥平を切り裂いた方の裏鏡りきょうに灰色の魔法陣が描かれた。
もう何をされても驚かない。勢いをつけて奔走している現況では、仮に身を捩ろうと、勢いを殺そうと爆発に巻き込まれる。
回避できない。考えろ、回避できないなら防御だ。
「``霊壁Lv.3``!!」
身体から正気が抜け落ちていくと同時、身体の周りを覆うように霊力の壁が出現する。
``爆轟``は、魔法陣に注入する霊力によって、爆発の威力を任意に調整できる。
``霊壁Lv.3``で防げるかどうか。``魔法探知``を使えば把握できるが、当然余裕は無い。
魔法陣が、炸裂した。フロア内に爆発音が震撼する。
分身を用いた自爆。おそらく間合いに入って近接戦闘をする予想を立てた上での行動だろう。
ナイフ使いに自爆攻撃は確実に致命打になる。もし予測が少しでも遅ければ、木っ端微塵になっていた。
となれば、残るは一体―――。
「``暴風``」
驚く程、平坦な声音が鼓膜を揺らす。
爆轟と爆煙が視界を覆う中で、一際目立つ緑色の魔法陣。
フロアを充満せんとする爆炎や爆煙ごと、弥平みつひら方面へ、目に見えない力が全てを押し流した。
「``鏡術・現身槍雨``」
ぶす、ぶすぶす。呻く暇も無く、身体の前面から鈍痛が叫ぶ。
血反吐が空を舞い、薄汚い湿った音を立てながら、絨毯が濡れた。気がつけば霊壁にヒビが入っている。
視界が濁る。黒い砂嵐のようなものが肉眼を覆い、四肢から力が抜けていく。
膝が地を着いた感触が神経を走ったとき、ようやく致命傷を受けた現実を、自我が悟った。
「ここまでだな」
拘束弾で羽交い締めにされていた裏鏡は、身体を液状化させ、拘束弾の糸から抜け出す。スライムと化したそれは、再び元の体躯と容姿に戻った。
もう言葉が出ない。最初、相見えた時は使っていなかった身技。
そもそも想像すらできなかった。身体を銀色のスライムに変化させた後、また元に戻すなんて、人外のやることだ。
人の姿をした存在と戦う時、相手が身体を変化させるなど、誰が想像できる。
ゆっくりと近づき、地に伏した自らを、冷淡な表情で睥睨する。
見下げられると驚く程冷たく感じる。表情括約筋が凍りついたかのような顔色に、活力を奪われていくような感覚。
彼の目つき、顔立ち、表情は尚も虚ろであった。
「一度敗走した身でありながら、俺に全力の抵抗を為した、その勇姿。評価に値する」
声音は荘厳、だがやはり平坦だった。
コクはある。声量もある。しかしながら、何かが欠落している。
思考が薄れていく中でも明瞭に感じる欠落は、希釈される意識を濃縮する。
「だがやはり、お前は俺の敵になりえん」
横柄に、尊大に、身を翻す。地に倒れる者を一瞥せず、Tシャツの裾を僅かに揺らし、悠然と歩き去る。
絨毯に鮮血が染み込んでいく中、彼の方へ手を伸ばした。幾ら手を伸ばそうとも届かぬ頂を、懸命に食いつこうとする。
尚も艶かしい鏡面を輝かせる裏鏡水月は、一方的に、独善的に闊歩する去り際、薄れゆく意識に投げ込むように、平坦な台詞を奏でたのだった。
「俺は往く」
``探査``による索敵によると、``皙仙``もとい裏鏡水月と名乗る人物は、堂々と会場のあるフロアへ近づいている。
所々に配置した白鳥家組員を迎撃に向かわせたが、効果なし。
侵攻の速度が遅延する気配はなく、むしろ階層を何らかの方法で転移しているため、想像絶する侵攻速度で近づいている。
分家派が貸し切った高層ビルは百三十階にも及び、澄男や御玲がいる会場は、その最上階の大ホールにある。
入り口から堂々と侵入したと通達されたのは、ほんの二分前後。
裏鏡なる人物は、経った二分足らずで百二十五階まで一気に侵攻するという、恐るべき速度で迫っているのだ。
弥平は珍しく眉間に皺を寄せた。
ありえない。高層ビルの全フロアには``転移阻止``という阻止系魔法と、``逆探``という探知系魔法。
そして``魔法探知``に反応して霊子通信を経由し、味方に敵の魔法の行使を知らせる``警報``を発動させている。
``転移阻害``により``顕現``による転移強襲は、まず不可能。
他の魔法を使って防御処置を密かに振り解こうとしても、味方以外の者が魔法を使えば、``逆探``により、敵の位置は全ての者に露呈する。
魔法使いへの対策は万全だ。おそらく隙をつける者など、そうはいない。
「これは転移強襲ですよね……? どうして``警報``が反応しないのでしょう」
「分かりません。単純に考えれば``魔法探知``が何の反応も示していないから、なのでしょうが……」
是空の疑問に、弥平は訝しげに答えた。
魔法は``魔法陣``と呼ばれる、必要十分な情報を入力し、適切に出力するための演算機で記述される。
必要十分な情報というのは、例えば、魔法の発動条件、魔法発動に使用する霊力量、気温、湿度、空間の自由度、術者の状態などが当てはまる。
従って戦況に応じ、術者が全ての条件や情報を記載する事で、初めて発動する概念である。
今回発動している``警報``は
【流川、白鳥、水守に属する者以外が使用する魔法を``魔法探知``で探知した場合、``逆探``を発動して術者の空間座標を逆探知し、霊子通信で得られた情報を味方全てに知らせる】
であった。
しかし今、``警報``は、なんの反応も示していない。
つまり、``魔法探知``が第三者の魔法の使用を一つも探知していないため、``警報``の発動条件を満たさないのだ。
理屈に沿うならば、相手は一切魔法を使っていない事になるが、その結論では事実と合致しない。
相手の侵攻手段は、明らかに転移強襲。
``顕現``による空間転移を無効化する``転移阻止``を解除しなければ、まず不可能であるはずの身業を、どうして可能なのか。
``警報``が解除された。
いやありえない。解除しようと、解除する為の魔法を行使すれば、結局``魔法探知``から逃れる事はできない。
弥平は散文化された思索を一挙に纏める。
事実を把握、整頓して精査した結果、裏鏡水月は魔法を使わずに空間を跳躍している事になる。
どうやって。事実の経緯が掴めない。``顕現``以外で空間を跳躍する手段は存在しない。魔法を使わなければ不可能だ。
物体は通常の方法では壁を透過できない事と同じ。透過するには、するためアプローチが不可欠。
事実を素朴に受け止めてみる。
``顕現``以外のアプローチで空間を飛んでいる。
``顕現``以外のアプローチとは。魔法以外のアプローチとは。
そんなアプローチが存在するのか。いや、まさか―――。
―――魔法とは世の事象に``干渉``する身業である。世界に遍在するあらゆる事象は、物理的にも霊的にも、必ず世界の法則に則った上で我々に知覚されている。
世界に霊力という概念が周知となった現代。
俗に魔法使いや魔術師と呼ばれる者達は、世界法則という一種の真理に近づこうと画策し、霊象を科学に、科学を霊象で記述する文明を築きあげてきた。
結果、世界を支配する固有の法則に術者の観念を``干渉``させ、術者が望む自然現象を自在に起こす行為を、彼等は長き時を経て成し遂げた。
それこそが魔法並びに、下位互換に相当する魔術という概念。正式的には``事象干渉``と呼ばれ、多くの人々に親しまれるようになった―――。
未だ分家邸で修行をしていた頃、座学の時間につきっきりで教えてくれた父の言葉が脳裏を掠めた。
当時はまだ魔法も剣の技も格闘もろくにできない幼少であり、難解な言葉を使われ、理解するのにかなりの時間を要した。
今でも父と行った講義の内容を、片時も忘れた時はない。父の言には続きがある。
―――しかし世界とは広いもので、事象に``干渉``する身業があるのならば、事象を``操作``する概念もまた存在する。
事象干渉は、既存の概念に術者が自分の``想い``を、霊力を経由して干渉する事で、思い通りの概念を具象化するものだ。
対して``事象を操作する``とは、自分の想い―――即ち``理想``―――のみで、現実世界を書き換える身業である。
当然、あまりに強大であるがために、保有している者は極めて少ない。
保有していれば世界の法則に捉われず、自由自在に森羅万象の在り様を改変することが可能なのだから。
これを正式に``事象操作``と呼び―――。
「……俗に人々は、``超能力``と呼んだ」
「え……?」
「もしかして……``皙仙``は超能力者では、とね」
「そんな……」
超能力者。
世界に一握りしかいないと言われている異能の者。戦えば、まず勝算が無いとさえ言われている存在。
実際に相間見えた事はない。存在しているという情報を有しているだけだ。戦った前歴など皆無である。
「``魔法探知``を素通りして空間転移を行うとすれば、超能力しかないんですよ。手法としては」
「し、しかし」
「分かっています。これは……まずい事になりました」
弥平の作り笑いのような表情に、一筋の水滴が滴る。
まずどう戦えばいい。戦い方が思い浮かばない。魔法使いや魔術師相手ならどうにかなった。しかし、超能力者となると格が違う。
相手は自分の思い通りに現実を捻じ曲げてくる存在。あんまりにあんまりな理不尽を容赦無く叩きつけてくる怪物。
常識、セオリーが通じない。打開策があるとすれば、相手の超能力から欠陥を見つけその隙を突く、ぐらいしかないだろう。
こちらは超能力などという便利なものは不幸にも持ち合わせていない。超能力の隙をいち早く見つけ、いち早く貫く。絶望的な戦況が予想される。
「弥平様。先遣隊からの通達。``皙仙``と思わしき人物が、最上階フロアに侵入。迎撃されたし」
「遂に来てしまいましたか……」
弥平達は、交互に動かす脚を止め、魔道携帯鞄から様々な色のした薬瓶を取り出す。
二人が取り出した瓶は四本。
淡く光る純白の薬液は全能度上昇薬・特型。黄色の薬液は敏捷能度上昇薬・特型。
淡く光る紫色の薬液は利発化剤・特型。銀色に神々しく光る薬液は緊急生命活性霊薬・特型である。
全能度上昇薬・特型は物理攻撃、物理防御、魔法攻撃、魔法防御、敏捷性能、回避性能、霊力量。戦いに必要な全ての肉体性能を引き上げる薬。
原則、格上と目される存在との差を可能な限り埋めるために使う。今回は超能力者が相手だ。この薬を使って損は無いだろう。
加え、素早く相手の間合いに切り込むための敏捷能度上昇薬・特型と、思考速度を上昇させ、判断力、注意力、集中力を強化する利発化剤・特型を服用する。
思考判断によって生まれる戦闘のムラを極力無くし、リズミカルかつコンスタンスに攻撃、防御、回避を行えるようにすれば、物理的な戦闘力では確実に引けを取る事はない。
最後に緊急生命活性霊薬・特型は、致命傷になり得る損傷を受けても、一時的かつ急激な生命活性によって、一度だけ死亡を免れる薬である。
急激な生命活性に必要な霊力と、それを促進させる効果を記述した魔法陣を配合している流川分家派製最高ランクの薬液なので、あまり使いたくはなかった。
しかし、一撃死すらありえる此度の戦いにおいて、一瞬の油断をしなかったとしても敗戦濃厚な戦況が容易に予想される。
装備をケチっている余裕など無い。使える物は、惜しみなく使うべきだ。
全ての薬液を服用した後、二人は各々の装備を手に取る。
弥平は二本のナイフ。是空はオートマチックの拳銃。
速やかな臨戦態勢。五感全てを研ぎ澄まし、戦闘経験に基づく第六感で、全方位から予測できる不意打ちの角度を逆算する。
だがそのとき、彼らの視界に映った異様な光景が二人の肌を逆立てた。
目の前の時空が一瞬、波紋のよう波打ったのだ。当然、空間が波打つ現象など、普通は起こるはずもない。
``顕現``が使えない建物の中で、空間転移による空間の歪みはおこるのはおかしい。
二人は身構えた。空間の波紋が大きくなり、波紋の中心から浮かび上がる人影。まるで締め切ったカーテンに体を埋めている人間を見ているかのような。
徐々に身体全体、そして顔の輪郭があらわとなり、空間のカーテンを貫通して、``皙仙``と思わしき人物が、遂に姿を現わした。
鏡の向こう側から滲み出るようにして登場した者は男なのか女なのか、判別つけ難い姿をしている。
服装は無地のTシャツに短パンという簡素なもので、どれも男物。
おそらく男だと思われるが、肩まで滴る髪と、女性とも男性とも言える中性的な顔立ちが、思考判断に緩みを生じさせる。
だがなにより特筆するべき点があった。
まるで鏡面加工されたかのような銀髪。中心部分が黒、虹彩が銀色という異質なまでの瞳。
あまりの鏡面にフロアの蛍光灯から放たれる可視光をことごとく跳ね返し、眩く輝く頭髪は網膜を異常に刺激、本能的に瞼を閉じさせる。
「雑魚に用は無い。消えろ」
少年らしき銀髪の者は静かに口を開いた。年齢は同じくらいだが、異常に大人びた声音。凛々しく濃厚でコクが強い。
彼はただ一言発しただけ。ただそれだけで、凄まじい存在感を刻んでくる。
今にも吸い込まれてしまいそうな、暗澹と濁る水晶体。
まるでブラックホールを見ているようで、あまり目線を合わせたくない不快感が心中に横たわる。
彼が裏鏡家当主``皙仙``、本名は裏鏡水月。たった数年余りで``四強``の一角に数えられるまでの存在になった強者―――。
「言ってくれますね。あのときの私、そこそこ粘っていたじゃないですか」
挨拶代わりの罵倒に、眉間に少し皺をよせ、強めの声音で詰め寄る。しかし、裏鏡は真顔のままだ。
怒っているという風を装っても、淡々と返答するのみである。
「耐久性能の問題ではない。敗走したか、勝利したか、だ。お前は敗走を選んだ。もはや、俺の敵になりえん」
「戦略的撤退と言って欲しいものです」
「撤退とは、即ち敗走。納得がいかぬのなら、大人しく戦っておけば良かったものを」
「私達は、貴方と戦う理由がありません。情報が欲しいのです。誘き出すような真似をしたのは謝ります。ですから私達とともにご同行を」
「俺は``禍焔``と戦いに来たのだ。よって同行する義理は無い。させたければ相応の威を、俺に示せ」
弥平は歯噛みする。
やはり無理か。戦闘狂はこれだから困るのだ。仕方ない。残る選択肢を選ぶほかないようだ。
肩を竦めつつ、溜息を吐いた。そして、裏鏡を改めて強く見つめる。
「ならば今一度……機会を下さいませ。私は分家派当主として、退く訳にはいかないのです」
銀髪の少年は、弥平を見つめながら、暫時石像の如く静止する。
拳銃を片手に開戦のタイミングを待つ是空を流すように目線を泳がせると、二人の男の視線が交差した刹那、白銀は横柄に匙が投げ入れた。
「……良かろう。もし俺を撃沈できたならば、お前の黒星を白と認める」
「二対一になりますが……反則、なんて言いませんよね」
「反則など、所詮弱者の小言にすぎん」
一切了解しました、と返す。
弥平は是空に数歩下がるよう命じ、彼女は弥平みつひらから右斜め後ろの場所で銃を構える。
深く息を吸い、肺に溜まった二酸化炭素を大気中に吐き出す。
気を落ち着かせろ。一瞬の油断が命取り。以前は負けた。全力で迎え撃ったが手も足も出なかった。だからこそ可能なら二度と戦いたくない。
戦場に身をやつす者であっても、死に急ぐ者ではないからだ。
あのときも執拗に追い回されて死にかけた。なんとか撤退して生き延びたが、今回は分からない。
しかし分かっている事なら一つ。相手には、一片の容赦が無い。あのときもそうなら、今回も躊躇しないだろう。
本来ならこうなる前に撤退しているが、今は流川るせん澄男すみおの側近、分家派当主``攬災``として、退くに退けない矜持がある。
「ふッ」
腹から力を込み上げる踏み込みで、弥平は前に出た。
薬液の効果か、体が異常に軽い。通常の二倍以上の速度で踏み込んでいる気がする。
猛々しい踏み込みを見せる彼を前にしても尚、銀髪の少年に狼狽の様子はない。回避も防御も取らず、ただ彼の踏み込みを見定めるように佇むのみ。
大地が壮大に轟いた。上々な踏み込み。
技の重みは踏み込みの重さによって決まる。踏み込みが重い程、踏み込みの勢いを技の重みに加える事ができるからだ。
全能度上昇薬・特型と敏捷能度上昇薬・特型によるバフの影響だろう。思わず驚愕してしまうスピードだ。
廊下を豪速で疾走する中、右手にあるナイフを強く握る。
原則、分家派は多方面に長けた幅広い戦闘技能が求められている。
肉体性能で単純に相手を押し潰し磨り潰すのも一種の戦法ではあるが、``柔能く剛を制す``ということわざの存在を、知らない者はいないだろう。
たとえ幾ら肉体性能で勝っていても、往なされてしまえば、極端ではあるがただの空振りと大差ない。
分家派の者が度重ねる日々の訓練は、本家派の倍以上。幼少の頃から座学、技術、経験、知識。
その全ては、たった一瞬で生存の可否が決定する``戦い``に勝ち抜く。
力で勝てないなら技で勝て。技を以って力を弄せ。本家派の影として、分家派は本家に仇成す者全てを確実に排除するため、幾星霜のときを経て技の研鑽を積み重ねてきたのだ。
ナイフが青白く発光し、僅かに雷撃がほとばしる。
付与したのは雷属性系魔術。相手が人間であれば、身体機能を一時的に麻痺させるのに効果的な属性。
初手で左斜め上へ切り裂き、雷属性系魔術で麻痺させる。
幾ら訓練していても、電撃を食らえば筋肉に痙攣や仰け反りは少なからず起こるもの。その隙を突いて、二撃目でトドメを刺す。
今回は捕獲、拘留が目的だ。本来は戦わずして応じて欲しいものだが、相手の好戦的な態度からして、到底無理な話。
一撃目で麻痺、そして二撃目で眠らせる。
催眠効果のある無系魔術を付与すれば、十二分に足りるだろう。
柄への握力が増す。行ける。以前は対応できなかったけれど、今ならできる。
薬液で強化された肉体性能。魔術による補助。踏み込みの重さ。間合いに入るまでの速度。どれを取っても完璧。
後はナイフを振り上げて、刺す。あとはそれだけだ―――。
「う!?」
それだけだ、と思われた。
弥平は体を少し海老反らせ、折角の踏み込みの勢いを殺してしまうが、そのままバックステップで距離を取る。
裏鏡は腰の左側に携えていた刀を完全に抜き切らない形で静止していた。
弥平を両断しようとした訳でもなく、切り刻もうとした訳でもない。ただ刀を半身抜き出しただけで動きを止めている。
彼の姿を見ただけでは変に思うかもしれない。だが彼の柄の位置は自分の顎の位置と同じ。
あのまま突貫していれば、おそらく顎に一撃を受け、脳震盪で気絶させられていた。
かつて敗走した時も、極めて重い一撃を頭部に受けて昏倒していたところを殺されそうになり、全力で撤退している。
今回は一度目の経験が生かされたのか、戦闘経験自体が上がっているのか。奇跡的に避けられた。一コンマ遅れていたら危なかっただろうが。
安堵する弥平であったが、心が休まる時は無い。空かさず是空が後方から射撃。
二発の鉛玉が銃声とともに放たれる。前衛の攻撃が不発だった際に、相手が攻撃を終えた直後の隙を狙う事を目的とする。
攻撃終了直後は、相手に``一撃を加えた``という余韻に思わず浸ってしまうもの。
余韻が刹那の時であったとしても、我が愛弟子、白鳥是空ならば十二分な隙となりうる。
裏鏡に肉薄する二発の銃弾。是空の銃弾は``超速化``によって毎秒単位で加速する魔法効果が付与された魔法弾。
距離が長ければ長いほど、是空によって銃弾の速度は上昇する。この魔法弾で射撃された場合、回避するのはほぼ不可能。
撃つ前に対処しなければ受け止める以外に対処法は存在しない。既に弾丸は大気中に放たれた。後はもう、命中するしか―――。
「``鏡術・時操真眼``」
刹那、裏鏡は態勢を維持したまま、身を捩った。
鉄琴を全力で叩いたような甲高い金属音が鼓膜を塗り潰すと同時、足の筋に皮膚が焼けるような痛覚が走る。
「弥平様ッ」
「大丈夫、私は……」
駆け寄ろうとする是空を声で諌める。
是空の銃から放たれた二発の弾丸は、確実に相手を捉えていた。
弾丸の速度も魔法的な効果によって既にライフル弾を凌駕している。
彼はただ単にほんの少し身体を左に捻り、半身抜き出した刀身で、銃弾を跳ね返したのだ。
見事に跳弾した弾丸は弥平の太ももを掠り、床へ埋もれる。
人間の動体視力では絶対に追う事ができない速度の筈。だが、その速度をもろともせず、二発の弾丸を的確に弾き返した。
動体視力が鍛えられているという理由で許される身技ではない。
弾丸の速度は優にライフル弾の初速を超越している。是空が引き金を引いた瞬間を見た訳でもない。
どうやって避けた。魔法陣も現れていない以上、魔法を使っている様子も無い。物理的にありえない動きをしている。
接敵されているのだ。肉薄した相手に注意が自ずと集中するはず。
「先に言っておく。俺に遠距離攻撃は無意味だ」
腰に携える鞘へ、静かに刀をしまう。
「敵ながらあっぱれですね。どうやって弾いたのです?」
「全ての物体の運動は、時の流れに依存する。刹那の時も引き延ばしてしまえば、大して短い時間ではない」
「なるほど。しかし良いのですか。ネタバラシなんてして」
「理解できたところで、お前達では対処できない」
裏鏡は、ばっさりと吐き捨てる。
確かに彼の身技自体はどうしようもない。
感覚的に捉えられない極めて短い時間を引き延ばす。
あまりにも理不尽な反則技だ。真似できるのならば手立てはあった。しかし不幸にも、便利な持ち合わせが無いのが現実。
初手の不意打ちは回避できたというのに、また八方塞がり。どうすればいい。考えろ。考えろ。
頭を紙粘土のように捏ねて捏ねて捏ねくり回す。
遠距離が無意味なら近接しかないが、こちらはナイフ。相手は刀。
リーチも向こうの方が有利だ。仮に斬り合ったとして、相手に傷つけられる方が速い。距離を詰めてやり合うとしても、頭部に一撃もらえば此方が倒れる。
是空は武器の関係上、近距離戦は難しい。だからと言って距離を取れば、決定打を与える攻撃手段が無くなる。
弥平は歯を食い縛る。
相手の間合いを詰めに行くと気絶させられる可能性があり、危険。距離を取ると決定打が打てない。ならば、此方の間合いに誘い込む。
相手はどの攻撃も弾き返したという余韻に少なからず浸っているはずであるし、同時に先程の交わりで、粗方の実力差を測り終えている。
相手の方が、実力が上なのは明白。此方の間合いに入ってくるのに、躊躇はしないはずだ。
狙うは、間合いに入って攻撃するまでの瞬間。その僅かな隙に勝機がある。
『是空。誘い込みます』
『危険では』
『確かに。でも彼を見て下さい』
弥平の霊子通信を受け、裏鏡に視線を移す。
『なるほど。援護します、ご武運を』
ええ、と返して通信を絶し、改めて意識を向ける。
好機は一瞬。こちらのリーチが短い以上、ギリギリまで肉薄させる必要があるが、``今の彼の構え``ならば確実に突ける。
その刹那とも言える、一瞬の隙を。
裏鏡は軽やかに、しかし明確に地を蹴った。
速い。薬液で肉体を強化している自分達よりも劣るが、それでも気を抜けば、その一瞬を見逃しそうになる。
全能度上昇薬・特型と利発化剤・特型の効果によって、踏み込みの残像を、しっかりと視覚が捉えている。ならば必ず見えるはずだ。あの``瞬間``が。
遂に弥平の間合いへ、少年が入り込んだ。両手のナイフを強く握り締める。
ナイフを両手に迎え撃つ弥平。背を低くし、下から彼の顔を見上げるように、疾風の如く間合いへ入り込んだ裏鏡りきょう。
両者、一瞬とも言える時の中で睨み合い、甲高い衝突音を、フロア内に震撼させた。
「……ほう」
きりきりと金属同士が迫合う。か細い火花が舞い散り、両者の刃が拮抗している。
裏鏡は右手で柄を持ち、左手で刀身を支え、弥平は両手に持つ二本のナイフの刀身を盾代わりに、少年の斬撃を受け止めている。
「ご存知ありませんか。抜刀とは、帯刀よりも僅かに隙がある事を」
裏鏡の圧に耐え忍びながら、唇を吊り上げる。
弥平と是空がなによりも注目したのは、彼が構えている姿。即ち攻撃していないとき、刀身を鞘にしまっているところであった。
抜刀は間合いに入り込まれた際の迎撃ならば、確かに隙はほとんど無い。
剣を振るう動作、即ち``今から相手を迎撃する``という動作を間合いに入り込んでくる相手に悟らせず、最低限度の行動を瞬時に行うだけでいいのだから。
対して裏鏡が相手の間合いで攻撃する際、必ず``刀身をわざわざ鞘から抜いて、なおかつ斬撃を与える``動作を踏まえなければならない。
つまり、鞘から抜いて、相手を斬るまでに僅かだが隙が必ずできる。それを狙えば、剣士の動きをしばらく止める事が可能になる訳である。
そして攻撃のリズムさえ少しでも崩せば、リズムを取り戻すまでの隙も生じるので、こちらの手数の幅も広がる。
「面白い攻めだ。それで、次はどうする」
「さあ? 予想してみて下さい」
かち、という軽い音が鼓膜を揺らす。裏鏡りきょうの耳が僅かに揺れるが、もう遅い。
弥平はバックステップで素早く後ろへ下がると同時、フロア全体に一発の銃声が轟く。
裏鏡はバランスを崩すが、追撃と言わんばかりに、彼の全身を雷撃が奔走する。
「これで……終わりです!」
眼に見えるほど強力な雷撃が身を包んだとほぼ同時、更に銃声が鳴り響き、裏鏡の身体は糸のような何かに縛られ、四肢の自由を奪われた。
座る体勢すら取れず地面に伏し、彼は冷淡に是空を見上げた。
彼女が撃った弾丸は、雷属性系魔術が付与された魔術雷撃弾と、相手を糸で縛り上げ動きを止める捕獲用の拘束弾。
今回の目標は``皙仙``の拿捕。真正面からの殺し合いが目的ではない。
自分の間合いに誘い込んだのは、是空の射撃でケリをつけるための陽動。本命は、彼女の射撃にあったのだ。
高敏捷の相手には、まず雷属性系の魔術が付与された弾丸を体内に撃ち込み、体の内部から雷撃を流し込むのが定石。
全身の筋肉を硬直、運動神経を撹乱させ、動けなくする。
どれだけ訓練していようとも、身体を動かすのに必要な筋肉と神経に過負荷をかけられれば、態勢を立て直すまでの時間が幾ら短くても零になる事はない。
その僅かな時間に捕獲用の拘束弾で羽交い絞めにしてしまえば、体の痺れが取れる頃には任務完了という寸法である。
「王手、ですかね」
是空は銃を構える。弥平はナイフを構える。
捕獲用拘束弾から射出される糸は、流川分家派の特注。人間の筋力では、仮に脳味噌のリミッターを外したとしても振り解けるものではない。
「``皙仙``。投降願いますか」
ナイフを突きつけながら、裏鏡に迫る。未だ臨戦態勢を解かない二人を前に、平坦な視線が弥平の瞼を貫いた。
「……本当に俺を追い詰めたと思っているのか」
「逆転できるとでも仰るのですか」
弥平は顔をしかめる。
四肢の自由は奪っている。座る事はおろか、立つ事すらままならない。
愛用の刀でさえ持てない状況で、どう逆転するつもりだ。
裏鏡の視線が泳いだ。目線を追う。
ブラックホールのような目玉が指し示す方向は、是空。拳銃を構え、少年が余計な動きをしないか神経を尖らせている彼女であった。
「``凍結``」
声をかけようとした。名を呼ぼうとした。そのときだった。
苦痛の声をあげる暇も無いまま、是空は霜が降りた剥製と化したのだ。
弥平は目を丸くする。
魔法、だと。いつ詠唱した。
あの戦いの中で詠唱する隙は無かったはず。彼は剣を用いて銃使いとナイフ使い、同時に相手取っていたのだ。
注意を逸らすための手段をなに一つ講じていないのに、詠唱できる隙があったと思えない。
いや、待て。戦う直前、どんな判断を下したか。
超能力者という判断を下した。そして持っている武器から類い稀な剣士、抜刀術を駆使する事から、居合の達人だと判断した。
だが考えてみよう。居合の達人で、超能力者が魔法を使えないなどと誰が決めた。
ただ超能力らしき何かを使い、居合を駆使している。ただそれだけで魔法が使えないと何故言える。
唇を強く噛み締める。
反則。危うく、反則だ、と言ってしまいそうになった。
だってそうではないか。居合の達人が、超能力者が、不意打ちで魔法を使う。許されるのなら、もはや何でもありではないか。
「何をしている」
寒気がした。今まで感じた事がないくらい冷たい寒気が。
服が汗を目一杯吸い込み、雑巾のように成り果てようとも、肉体は水分を排出し続けている。
何が。どうして。誰が。どこで。いつ。
彼は目の前に拘束されている。音源は必ず前方にあって然るべきだ。だが何故だ。何故聴覚は―――。
―――背後を捉えたのだ。
「ぐぁ!?」
冷覚でありながら、熱いと感じた何かが、心底から急騰する思索と焦燥を上回った。
背中から命が溢れていく。溢れ、地に落ち、腐り果てていく。汗を吸い込んだ服を覆うように、命が服へと浸透していく。
どうした。何が起こった。理解できない。分析できない。
何かが起こり、何かが終わり、傷ついた。現実が、己の認識を全て上回っている。反応しろ。無茶だ。無理だ。
見かけ上、無詠唱で魔法を使い、背後から斬撃を加えられる相手に反応する存在を察知するなど。
幾ら訓練を積もうとも、幾ら理解が追いつこうとも、隙の無い存在の隙を捉えるなど、不可能。
背中を斬り裂かれながらも、裏鏡りきょうから距離を取るべく、転倒すると見せかけ、右手を軸にして飛び退く。
「えぇ……!?」
飛び退いた先、彼が目にした光景は想像を絶するものであった。
外見、服装、肉付き、顔立ち。全てが同一の存在が二人いる。
一人は拘束弾で羽交い締めにされている裏鏡。もう一人はどこから現れたのか、羽交い締めにされる前の裏鏡だったのだ。
拘束されている側の裏鏡は、つい数秒前まで戦っていた裏鏡であろう。
だがもう一人は誰だ。拘束されている裏鏡と顔から足の先に至るまで、全てが同一。まるで複写機でコピーしたかのように、寸分に違わない姿。
「だ、誰ですか貴方は!?」
「俺は俺だ」
答えになっていない返答に狼狽する。
彼は何を言っているのか。目の前に自分と瓜二つの存在がいるのに、全く動じていない。
兄弟。双子。ならまだ分かる。分からないでもない。いやきっとそうだ。
「弟、さんで」
「同じ事を言わせるな。俺は俺だ」
「ありえない!! 貴方は、貴方は一体何をしてしまったというのですか!!」
弥平の中の、何かが弾け飛んだ。
怖いからなのか。いや違う。理解できなかったからだ。
目の前の現実が、あまりにも摩訶不思議で。摩訶不思議ならば一週間前に味わったばかり、だったのもあるかもしれない。
このとき、人知れず、自分が精神的に追い詰められていた事を知った。精神的ダメージとは、時に表に出ない事もあるのかと感心さえ覚える。
「鏡とは、映るもの全てを、ありのままに映す」
「は……?」
「鏡は俺を映した」
「つまり、お前達が縛った俺もまた俺であり」
「お前の背を切り裂いた俺もまた、俺に他ならない」
羽交い締めにされた裏鏡と、血が滴る刀身を帯刀する裏鏡が交互に喋る。
声音も口調も同一。会話のキャッチボールも寸分違わないタイミングで敢行される様は、まさに双子。
これが双子であったなら、納得できた。双子であったならば。
「分……身……」
「浅はかな答だが、お前の理解能力では、その見解が限界か」
弥平から掠れるような声音で吐き出された呟きに、一切の同情は無かった。奏でられた言霊は、ばっさりと両断される。
「次だ。まだ他に手数があるのなら、その威を俺に示せ」
銀髪を靡かせ、刀身に紅い花弁を滴らせる裏鏡は弥平に近づく。一歩。また一歩、と。
こんな絶望的状況でも、退くという選択肢は無い。
前は守るべき主人がいなかった。だからこそ戦略的撤退を合理的に選んだ。
しかし今回は違う。守るべき主君がいる。闘う理由がある。流川分家派当主``攬災``として、抵抗しなければならない理由がある。
「……``皙仙``。貴方に一つ、聞きたい事がございます」
「何だ」
「貴方は……何が為に戦うのですか」
率直な疑問だった。
世の強者を淘汰し、人間社会に帰属せず、人知れず生きる事のできる強さを持っている。
何者も屈さないだけの強者であるなら、彼を彼たらしめる何かが根底にある筈だ。
そうでなければ、ここまでの境地には至れない。年齢は澄男と同じくらいでしかないが、彼の立ち振る舞い、技、そして思想。
全てがまさに、``白皙の仙人``と胸を張って呼べる代物であるのだから。
「己の為だ」
裏鏡は顔色一つ変えず、ぼそりと呟いた。
眼や鼻、頬すら微動だにしない中で、ただ唇だけが言葉を紡ぎ続ける。
「俺が求めるは、森羅万象の真理。万物の深淵。俺はそれらを、この手に治める」
言葉は依然難解だ。内容も哲学的で、よく噛み締めなければ食べられたものではない。どこまでも苦く、どこまでも辛い言葉が、横柄に舌を撫でる。
「深淵を突き進み、糧とする。それこそが俺の全てであり、本懐だ」
難解な語りは力強い常体調で否応無く締めくくられた。
極めて深遠で壮大。とても齢十代の者が抱く理想ではない。高尚、崇高、というべきか。
彼がただの弱者か凡人であったなら、ただひたすらにイタいだけの言霊に他ならない。
しかし彼の実力を二度に渡って味わった今、彼の言は抗いようのない深みと重みが感じられる。
背中の切り傷と自軍の劣勢具合が、彼の所作と言動、その全ての重みを証明しているのだ。言い逃れ、反論する隙は無い。
否定は幾らでもできよう。泣き言は幾らでも叫べよう。
だが、否定し泣き言を述べようと彼の前には``見苦しい言い訳``にしか、なりえない。
敗残するのは相手が反則的に強いからか。否、その反則に対応できない者が弱い、ただそれだけの事なのだ。
相手が反則を使うなら、その反則ごと打ち砕く。それが``できなければならない``のである。
「であっ!!」
背中から命が溢れていくのを感じながらも、地を蹴った。
勝算、打算、合理。その全てを捨てる。たとえ目の前に壮大な不合理があろうとも、今は為すべき事がある。為さねばならない事がある。
流川家の未来。澄男達の生活。乗り越えなければならない``今``がある。
流川澄男という男には、踏破しなければならない現在がある。
今は暗黒だ。遠大とも言える常闇が、残酷にも横たわっている。
振り払える保証はない。確証がなに一つ無い中で、超えなければならない現在がある。もしも、その先に円満な未来があるのなら―――。
「``爆轟``」
刹那、弥平を切り裂いた方の裏鏡りきょうに灰色の魔法陣が描かれた。
もう何をされても驚かない。勢いをつけて奔走している現況では、仮に身を捩ろうと、勢いを殺そうと爆発に巻き込まれる。
回避できない。考えろ、回避できないなら防御だ。
「``霊壁Lv.3``!!」
身体から正気が抜け落ちていくと同時、身体の周りを覆うように霊力の壁が出現する。
``爆轟``は、魔法陣に注入する霊力によって、爆発の威力を任意に調整できる。
``霊壁Lv.3``で防げるかどうか。``魔法探知``を使えば把握できるが、当然余裕は無い。
魔法陣が、炸裂した。フロア内に爆発音が震撼する。
分身を用いた自爆。おそらく間合いに入って近接戦闘をする予想を立てた上での行動だろう。
ナイフ使いに自爆攻撃は確実に致命打になる。もし予測が少しでも遅ければ、木っ端微塵になっていた。
となれば、残るは一体―――。
「``暴風``」
驚く程、平坦な声音が鼓膜を揺らす。
爆轟と爆煙が視界を覆う中で、一際目立つ緑色の魔法陣。
フロアを充満せんとする爆炎や爆煙ごと、弥平みつひら方面へ、目に見えない力が全てを押し流した。
「``鏡術・現身槍雨``」
ぶす、ぶすぶす。呻く暇も無く、身体の前面から鈍痛が叫ぶ。
血反吐が空を舞い、薄汚い湿った音を立てながら、絨毯が濡れた。気がつけば霊壁にヒビが入っている。
視界が濁る。黒い砂嵐のようなものが肉眼を覆い、四肢から力が抜けていく。
膝が地を着いた感触が神経を走ったとき、ようやく致命傷を受けた現実を、自我が悟った。
「ここまでだな」
拘束弾で羽交い締めにされていた裏鏡は、身体を液状化させ、拘束弾の糸から抜け出す。スライムと化したそれは、再び元の体躯と容姿に戻った。
もう言葉が出ない。最初、相見えた時は使っていなかった身技。
そもそも想像すらできなかった。身体を銀色のスライムに変化させた後、また元に戻すなんて、人外のやることだ。
人の姿をした存在と戦う時、相手が身体を変化させるなど、誰が想像できる。
ゆっくりと近づき、地に伏した自らを、冷淡な表情で睥睨する。
見下げられると驚く程冷たく感じる。表情括約筋が凍りついたかのような顔色に、活力を奪われていくような感覚。
彼の目つき、顔立ち、表情は尚も虚ろであった。
「一度敗走した身でありながら、俺に全力の抵抗を為した、その勇姿。評価に値する」
声音は荘厳、だがやはり平坦だった。
コクはある。声量もある。しかしながら、何かが欠落している。
思考が薄れていく中でも明瞭に感じる欠落は、希釈される意識を濃縮する。
「だがやはり、お前は俺の敵になりえん」
横柄に、尊大に、身を翻す。地に倒れる者を一瞥せず、Tシャツの裾を僅かに揺らし、悠然と歩き去る。
絨毯に鮮血が染み込んでいく中、彼の方へ手を伸ばした。幾ら手を伸ばそうとも届かぬ頂を、懸命に食いつこうとする。
尚も艶かしい鏡面を輝かせる裏鏡水月は、一方的に、独善的に闊歩する去り際、薄れゆく意識に投げ込むように、平坦な台詞を奏でたのだった。
「俺は往く」
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