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魔軍上陸編
突入
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撤退ルートを即興で組み上げ、魔法罠の設置も恙無く終えて正門から邸宅へ入った弥平は、霊学迷彩を装備し、静まり返った邸宅内に潜入していた。
大半のクライアントは邸宅内の最奥、競売会の会場である大ホールにいる。
最低限の近衛を残し、微風が肌を撫でる程度のほんの僅かなむず痒さを感じるのみ。人がいないのは、本当に好都合な戦況と言えるだろう。
装備している``乙型霊学迷彩``は、物理的な迷彩性能を丙型よりも向上させ、支援魔術の使用を隠匿できる機能を備えたものである。
ある程度の気象の変化で視認率はほとんど上がらないが、それでも人口密度の高い場所では、やや性能に難がある。
人混みであったならば侵入経路から練り直す必要があったが、尤も敵が行使する探知系魔術からは逃れられないので、警戒は怠れない。
忍び足で、五感を最大限に研ぎ澄ませながら邸内を進む。
ここは敵地。探知系魔法や探知系魔術で相手の警戒態勢を傍受し、阻止系魔術で相手の探知系を阻止するのが理想型なのは、考えるまでもないだろう。
しかしながら実地では、そう都合良く事は運ばない。
探知系魔法は効果こそ強力だが、消費霊力が極めて高い。一回使う毎に霊力を回復する薬一本は、どう考えても割に合わない消費だ。
また魔法や魔術による手段を行使した時点で、霊力は外部に発散される。敵に所在を晒すようなものである事は言うまでもない。
乙型霊学迷彩の特徴として、回復系や強化系などの迷彩内部に向かって行使される魔術は完璧に隠す事ができる。
しかし、探知系や阻止系などの迷彩外部に向かって行使される魔術は、残念ながらカバーしきれない。
乙型霊学迷彩のややこしいところなのだ。
従ってこちらから探知系や阻止系は行使できないわけだが、そういう時にこそ文明利器の出番である。
流川分家邸は、その二側面の最前線たる技術を有した、``技``の宝庫である事を忘れてはならない。
人類の文明には魔法と魔術の総称である``魔道``という概念と、``科学``という概念の二種類存在する。
携帯鞄から黒色のバイザーを取り出し、頭から被るように装着。
視界がカメラのレンズを通して観られる高精細な画像に、デジタルチックなガジェットが複数個表示されたものへと変わる。
このバイザーは``拡張視覚野``。術者が魔法や魔術を使用しなくても、敵地を探索できるようにするため、流川分家派で開発されたアイテムだ。
あらかじめ粗方の探知系魔術が導入インストールされており、人間の肉眼で認識できない情報を、視神経を経由して視覚野へ伝達する軍事用のデバイスである。
装着した場合、バイザーが探知系魔術を使用した際の消費霊力は、まず熱エネルギーに変換される。
そして装備者の体内もしくは規定値を超えない形で外部に放出されるため、事実上は魔術等を一切使用していない状態で同じになるのだ。
武市は魔道に強く、巫市は科学に強い。従って武市で密偵を行う際、科学技術による道具を使うと極めて隙を突きやすい。
密偵のみならず、戦闘においても活用し甲斐のある知識の一つだ。
バイザーを通し、辺りを見渡す。
魔術罠は邸内に無し。生物検索。発見。海馬に接続アクセス。
生物検索で得た情報と、あらかじめ丸暗記しておいた邸内の見取り図を参照。視覚野連動。壁透過補正。サーモスキャンモード。
近衛の戦力は主に裏門と正門、そして大ホール近辺。大ホール以外に人が少数なりとも集中している場所。そこにオーナーが控えている筈。
確認。やはり最低限連れている。不特定多数が邸内にいるのだから、その程度は当然の処置。
中威区の直系暴閥程度が雇える近衛など敵ではない。少数なら尚更、一分もあれば全員気絶させられる。
抹殺を前提とした戦闘が目的ではないのでナイフは不使用、素手。
余分な武器や道具の使用、殺害は寧ろ返り血や傷痕から、敵に枝を付けられてしまう確率を高める愚かな行為。
相手の力量に合わせ、程度が知れるなら速攻の峰打ちで片を付けた方が、自分がここにいたという証拠は残りにくい。
人数は一桁。配置も暗記。峰打ちのイメージが完成した。後は接敵するだけ。
霊学迷彩をなびかせながら邸宅内を走り、オーナーの控え室までの距離を、ほとんど足跡を立てないまま近づいていく。
タイミングを見計らう。想定外の要素無し。状況把握の見積もりに齟齬無し。近衛の敵視無し。完全なノーマーク。今―――。
「何ぃ!? それは本当か!? 裏門の警備班は何をしていた!!」
「チッ……行くぞ、侵入者だ!」
「気が付いたら接敵されていただと!? もっとマシな言い訳は無いのか!! もういい、会場付近に戦力を集めよ、侵入者を全力で叩け!!」
踏み込もうとした矢先、一人の近衛が何かの通信を傍受するやいなや、大声で怒鳴り合いを始める。
何が起こった。話を聞く限り、異変は会場の方。邸宅内に一切の仕掛けをしていない。
闖入者。本当に反抗分子がデモ行為を起こしたのか。いや、会場内にその手の輩は確認していない。
予想外に備え、あらかじめクライアントの簡易的な調査はしていた分には、普通に競売目当ての連中ばかりだった。
そうなると簡易的調査を潜り抜けるような手練てだれか。
隣国ならともかく、武市内で出し抜けられない存在など、中威区にいない筈。
突入中止。近衛がいなくなったのでオーナー近辺は手薄になったが、ここで拉致を強行するのは形勢が悪い。
邸宅から凪上領の庭へ出る。作り笑いの表情こそ壊れていなかったが、その顔には微細に皺が寄っていた。
誰だ。先に騒ぎを起こしたのは。それも会場内で。
邸宅内を漂っていた波打ち際の静けさは一瞬で死に絶え、一気に慌しくなっている事から、かなり手荒いやり口だ。
事の発端が会場近辺。つまり、相手の目当ては目玉商品。
どうする。侵入者とやらを追跡するか。
もう凪上邸関係者に干渉するべきではない。混乱に乗じて拉致を強行できるが、敵組織の息がかかっている懸念は捨てきれない。
``弥平が現場にいた``という証拠は、たとえどんな些細な証拠でも残してしまうのは危険だ。
敵は本家邸に堂々と忍び込み、本家派元当主の澄会を暗殺。
分家邸のみしか知らなかったはずの澄男の生活習慣をある程度調べ抜いた上で計画的に襲撃してきたと目される玄人の中の玄人である。
ほんの僅かな隙も見せれば、気取られかねない。
弥平は思索した。しかしもはや遅いと放棄する。
追おう。腹いせのつもりは毛頭無いが、自分を出し抜いた存在は把握しておいて損は無い。今、丁度良く隠密装備。尾行には持ってこいの状態だ。
凪上邸を一瞥し、自分自身に予定変更を宣言する。裏門は北側の塀。此処からは推測。
犯人ならどうするか。会場で事を起こしたなら、二人、いや三人以上の複数でメンバーを構成。
会場で騒ぎを起こして警備を分散させる陽動役と、目当てを強奪して速やかに撤退する本丸で分担。
既に騒ぎを起こして数十秒以上が経過している、本丸は既に邸から脱出し庭に出ている頃合か。
大ホールから最短距離で脱出するなら裏門。だが敵もそれは読んでいる、警備を固めていると思われるが、そうなると―――。
拡張視覚野に意識を回す。偏光モード。網膜保護。推測が正しければ、相手の手段は大体見当がつく。
庭を走り、透明人間のまま北側の裏門にたどり着く。
「賊はどこに行きやがった!?」
「探せ探せ!! 見つけたら容赦すんな、ぶっ殺せ!!」
「見つけられなかったらてめぇら全員クビにすんぞ!! なんとしても見つけだせ!!」
「畜生、馬鹿にしやがって。ぜってぇ皆殺しにしてやる」
裏門付近は殺人欲に塗れていた。大半の近衛が武器や杖を取り、目玉商品を盗んだであろう犯人を追い殺さんと、並々ならない殺気を垂れ流している。
武市の人間、特に戦闘を生業とする民達は、原則敵に対する容赦がない。
敵であろうと同じ人間だから、などという人徳など霞のようなものだ。尋問して情報を引き出すにせよ、殲滅するにせよ、敵ならば手段を問わない。
敵と認識したその瞬間から、あらゆる悪虐非道が許される。それが``武市``。大戦時代の流川家が歪ませた、社会慣習の一端だ。
「``大便光弾``!」
裏門の外から声がした。少々コクの深い四十代前半程度の声で、どことなく美声だと見受けられる。
だが声音の分析を待たずして、裏門全体が真っ白な閃光に包まれた。
やはり目晦ましをしてきたか。閃光弾か何かで敵の視覚を潰し、悶絶している間に逃走。中威区の者達相手とはいえ、凄まじい手際の良さだ。
偏光モードで視覚を保護しているので閃光効果は効いていないが、見事に近衛は視界を潰され、猛烈な光の嵐に巻き込まれてしまっている。
そのまま裏門を出、森林公園の方へ向かう。撤退ルートを選ぶなら、やはり草木生い茂る森の中。ほぼ此方の方角で間違いない。
警戒するべきは追っ手を撒く為の罠。バイザーを使い、罠の位置を確認していく。だが足を止め、思わず眉を潜めた。
罠らしきものが、何も無い。
追っ手を撒くなら方角を考えても、森林公園の森の中。木を伝って移動する筈。しかし木にも地面にも、綺麗さっぱり罠が無い。
少ない、なら分かるが一つも無いというのは、逃走を考慮するとおかしい。罠を仕掛ける当然の処置を怠ると思えない。
空を見上げる。
まさか空に。いやいやありえない。人間は空を飛べない。
魔法が使えるなら別だが、中威区で魔法を一種でも扱える民など聞いた事がない。精々ちょっとした魔術程度な者達がほとんどである。
では人間ではない何か。いやいやそれこそ摩訶不思議、現実離れが過ぎる。だが人間で魔法を扱う者が犯人だとするなら―――。
「``魔法探知``」
身体から生気がどっと抜ける感覚が横たわり、分家邸から支給された霊力回復薬を鞄から取り出して飲み干す。
視界に変化が起こった。あまりの数と配置に思わず顎に手を当て、真剣な面差しで景色を眺める。
原則、罠は魔法的な罠と魔術的な罠の二つある。
魔術罠は探知系魔術や魔法どちらでも探知できるが、魔法罠は探知系魔法でなければ探知できない。
拡張視覚野に記録されているのは探知系魔術である。つまりバイザーにインストールされている探知系魔術では探知できなかっただけなのだ。
今は明確に、自分の視覚野が魔法罠の所在を完璧に見切っている。尾行を中断してでも立ち止まって正解だった。
分析のために脳味噌に血を送る。
罠を辿れば会場を荒らした犯人の潜伏地点に辿りつけるが、なにより罠の数が多い。
闇雲に設置されているのではなく、密偵や暗殺者などの追跡をも想定した厭らしい配置すら意図している。
罠を設置した者は極めて戦闘経験を積んだ熟達者で、膨大な霊力を持った魔法使い。
中威区の戦闘民程度では、まずこの罠の巣は踏破できない。万が一踏破できたとしても、この魔法使いには敵わないだろう。
分析から思索へ頭を切り替える。
踏破するにあたって、全ての罠を解除するのは、霊力量と霊力回復薬の残数を鑑みて不可能。
魔法の効果で罠が明確に見えているので、回避できる罠は回避。厭らしい配置の罠は``解除``で無力化していくのが得策。
罠を辿れば、おそらく潜伏地点に着けると思うが、無意味に潜伏地点にいるとは思えない。
大量の魔法罠を配置できる魔法使いを仲間にしている。転移の魔法は普通に使えてもなんらおかしくない。
流石に転移されている場合は追跡を断念するしかないが、それが分かるまでは追跡する価値はあるだろう。
止めた足を再び進ませ、今までの遅れた分を取り戻す勢いで森の中を走り抜ける。
回復薬を飲み、時短のために``超速化``を行使した弥平は、精巧に設置された罠を掻い潜りながら、風を切った。
大半のクライアントは邸宅内の最奥、競売会の会場である大ホールにいる。
最低限の近衛を残し、微風が肌を撫でる程度のほんの僅かなむず痒さを感じるのみ。人がいないのは、本当に好都合な戦況と言えるだろう。
装備している``乙型霊学迷彩``は、物理的な迷彩性能を丙型よりも向上させ、支援魔術の使用を隠匿できる機能を備えたものである。
ある程度の気象の変化で視認率はほとんど上がらないが、それでも人口密度の高い場所では、やや性能に難がある。
人混みであったならば侵入経路から練り直す必要があったが、尤も敵が行使する探知系魔術からは逃れられないので、警戒は怠れない。
忍び足で、五感を最大限に研ぎ澄ませながら邸内を進む。
ここは敵地。探知系魔法や探知系魔術で相手の警戒態勢を傍受し、阻止系魔術で相手の探知系を阻止するのが理想型なのは、考えるまでもないだろう。
しかしながら実地では、そう都合良く事は運ばない。
探知系魔法は効果こそ強力だが、消費霊力が極めて高い。一回使う毎に霊力を回復する薬一本は、どう考えても割に合わない消費だ。
また魔法や魔術による手段を行使した時点で、霊力は外部に発散される。敵に所在を晒すようなものである事は言うまでもない。
乙型霊学迷彩の特徴として、回復系や強化系などの迷彩内部に向かって行使される魔術は完璧に隠す事ができる。
しかし、探知系や阻止系などの迷彩外部に向かって行使される魔術は、残念ながらカバーしきれない。
乙型霊学迷彩のややこしいところなのだ。
従ってこちらから探知系や阻止系は行使できないわけだが、そういう時にこそ文明利器の出番である。
流川分家邸は、その二側面の最前線たる技術を有した、``技``の宝庫である事を忘れてはならない。
人類の文明には魔法と魔術の総称である``魔道``という概念と、``科学``という概念の二種類存在する。
携帯鞄から黒色のバイザーを取り出し、頭から被るように装着。
視界がカメラのレンズを通して観られる高精細な画像に、デジタルチックなガジェットが複数個表示されたものへと変わる。
このバイザーは``拡張視覚野``。術者が魔法や魔術を使用しなくても、敵地を探索できるようにするため、流川分家派で開発されたアイテムだ。
あらかじめ粗方の探知系魔術が導入インストールされており、人間の肉眼で認識できない情報を、視神経を経由して視覚野へ伝達する軍事用のデバイスである。
装着した場合、バイザーが探知系魔術を使用した際の消費霊力は、まず熱エネルギーに変換される。
そして装備者の体内もしくは規定値を超えない形で外部に放出されるため、事実上は魔術等を一切使用していない状態で同じになるのだ。
武市は魔道に強く、巫市は科学に強い。従って武市で密偵を行う際、科学技術による道具を使うと極めて隙を突きやすい。
密偵のみならず、戦闘においても活用し甲斐のある知識の一つだ。
バイザーを通し、辺りを見渡す。
魔術罠は邸内に無し。生物検索。発見。海馬に接続アクセス。
生物検索で得た情報と、あらかじめ丸暗記しておいた邸内の見取り図を参照。視覚野連動。壁透過補正。サーモスキャンモード。
近衛の戦力は主に裏門と正門、そして大ホール近辺。大ホール以外に人が少数なりとも集中している場所。そこにオーナーが控えている筈。
確認。やはり最低限連れている。不特定多数が邸内にいるのだから、その程度は当然の処置。
中威区の直系暴閥程度が雇える近衛など敵ではない。少数なら尚更、一分もあれば全員気絶させられる。
抹殺を前提とした戦闘が目的ではないのでナイフは不使用、素手。
余分な武器や道具の使用、殺害は寧ろ返り血や傷痕から、敵に枝を付けられてしまう確率を高める愚かな行為。
相手の力量に合わせ、程度が知れるなら速攻の峰打ちで片を付けた方が、自分がここにいたという証拠は残りにくい。
人数は一桁。配置も暗記。峰打ちのイメージが完成した。後は接敵するだけ。
霊学迷彩をなびかせながら邸宅内を走り、オーナーの控え室までの距離を、ほとんど足跡を立てないまま近づいていく。
タイミングを見計らう。想定外の要素無し。状況把握の見積もりに齟齬無し。近衛の敵視無し。完全なノーマーク。今―――。
「何ぃ!? それは本当か!? 裏門の警備班は何をしていた!!」
「チッ……行くぞ、侵入者だ!」
「気が付いたら接敵されていただと!? もっとマシな言い訳は無いのか!! もういい、会場付近に戦力を集めよ、侵入者を全力で叩け!!」
踏み込もうとした矢先、一人の近衛が何かの通信を傍受するやいなや、大声で怒鳴り合いを始める。
何が起こった。話を聞く限り、異変は会場の方。邸宅内に一切の仕掛けをしていない。
闖入者。本当に反抗分子がデモ行為を起こしたのか。いや、会場内にその手の輩は確認していない。
予想外に備え、あらかじめクライアントの簡易的な調査はしていた分には、普通に競売目当ての連中ばかりだった。
そうなると簡易的調査を潜り抜けるような手練てだれか。
隣国ならともかく、武市内で出し抜けられない存在など、中威区にいない筈。
突入中止。近衛がいなくなったのでオーナー近辺は手薄になったが、ここで拉致を強行するのは形勢が悪い。
邸宅から凪上領の庭へ出る。作り笑いの表情こそ壊れていなかったが、その顔には微細に皺が寄っていた。
誰だ。先に騒ぎを起こしたのは。それも会場内で。
邸宅内を漂っていた波打ち際の静けさは一瞬で死に絶え、一気に慌しくなっている事から、かなり手荒いやり口だ。
事の発端が会場近辺。つまり、相手の目当ては目玉商品。
どうする。侵入者とやらを追跡するか。
もう凪上邸関係者に干渉するべきではない。混乱に乗じて拉致を強行できるが、敵組織の息がかかっている懸念は捨てきれない。
``弥平が現場にいた``という証拠は、たとえどんな些細な証拠でも残してしまうのは危険だ。
敵は本家邸に堂々と忍び込み、本家派元当主の澄会を暗殺。
分家邸のみしか知らなかったはずの澄男の生活習慣をある程度調べ抜いた上で計画的に襲撃してきたと目される玄人の中の玄人である。
ほんの僅かな隙も見せれば、気取られかねない。
弥平は思索した。しかしもはや遅いと放棄する。
追おう。腹いせのつもりは毛頭無いが、自分を出し抜いた存在は把握しておいて損は無い。今、丁度良く隠密装備。尾行には持ってこいの状態だ。
凪上邸を一瞥し、自分自身に予定変更を宣言する。裏門は北側の塀。此処からは推測。
犯人ならどうするか。会場で事を起こしたなら、二人、いや三人以上の複数でメンバーを構成。
会場で騒ぎを起こして警備を分散させる陽動役と、目当てを強奪して速やかに撤退する本丸で分担。
既に騒ぎを起こして数十秒以上が経過している、本丸は既に邸から脱出し庭に出ている頃合か。
大ホールから最短距離で脱出するなら裏門。だが敵もそれは読んでいる、警備を固めていると思われるが、そうなると―――。
拡張視覚野に意識を回す。偏光モード。網膜保護。推測が正しければ、相手の手段は大体見当がつく。
庭を走り、透明人間のまま北側の裏門にたどり着く。
「賊はどこに行きやがった!?」
「探せ探せ!! 見つけたら容赦すんな、ぶっ殺せ!!」
「見つけられなかったらてめぇら全員クビにすんぞ!! なんとしても見つけだせ!!」
「畜生、馬鹿にしやがって。ぜってぇ皆殺しにしてやる」
裏門付近は殺人欲に塗れていた。大半の近衛が武器や杖を取り、目玉商品を盗んだであろう犯人を追い殺さんと、並々ならない殺気を垂れ流している。
武市の人間、特に戦闘を生業とする民達は、原則敵に対する容赦がない。
敵であろうと同じ人間だから、などという人徳など霞のようなものだ。尋問して情報を引き出すにせよ、殲滅するにせよ、敵ならば手段を問わない。
敵と認識したその瞬間から、あらゆる悪虐非道が許される。それが``武市``。大戦時代の流川家が歪ませた、社会慣習の一端だ。
「``大便光弾``!」
裏門の外から声がした。少々コクの深い四十代前半程度の声で、どことなく美声だと見受けられる。
だが声音の分析を待たずして、裏門全体が真っ白な閃光に包まれた。
やはり目晦ましをしてきたか。閃光弾か何かで敵の視覚を潰し、悶絶している間に逃走。中威区の者達相手とはいえ、凄まじい手際の良さだ。
偏光モードで視覚を保護しているので閃光効果は効いていないが、見事に近衛は視界を潰され、猛烈な光の嵐に巻き込まれてしまっている。
そのまま裏門を出、森林公園の方へ向かう。撤退ルートを選ぶなら、やはり草木生い茂る森の中。ほぼ此方の方角で間違いない。
警戒するべきは追っ手を撒く為の罠。バイザーを使い、罠の位置を確認していく。だが足を止め、思わず眉を潜めた。
罠らしきものが、何も無い。
追っ手を撒くなら方角を考えても、森林公園の森の中。木を伝って移動する筈。しかし木にも地面にも、綺麗さっぱり罠が無い。
少ない、なら分かるが一つも無いというのは、逃走を考慮するとおかしい。罠を仕掛ける当然の処置を怠ると思えない。
空を見上げる。
まさか空に。いやいやありえない。人間は空を飛べない。
魔法が使えるなら別だが、中威区で魔法を一種でも扱える民など聞いた事がない。精々ちょっとした魔術程度な者達がほとんどである。
では人間ではない何か。いやいやそれこそ摩訶不思議、現実離れが過ぎる。だが人間で魔法を扱う者が犯人だとするなら―――。
「``魔法探知``」
身体から生気がどっと抜ける感覚が横たわり、分家邸から支給された霊力回復薬を鞄から取り出して飲み干す。
視界に変化が起こった。あまりの数と配置に思わず顎に手を当て、真剣な面差しで景色を眺める。
原則、罠は魔法的な罠と魔術的な罠の二つある。
魔術罠は探知系魔術や魔法どちらでも探知できるが、魔法罠は探知系魔法でなければ探知できない。
拡張視覚野に記録されているのは探知系魔術である。つまりバイザーにインストールされている探知系魔術では探知できなかっただけなのだ。
今は明確に、自分の視覚野が魔法罠の所在を完璧に見切っている。尾行を中断してでも立ち止まって正解だった。
分析のために脳味噌に血を送る。
罠を辿れば会場を荒らした犯人の潜伏地点に辿りつけるが、なにより罠の数が多い。
闇雲に設置されているのではなく、密偵や暗殺者などの追跡をも想定した厭らしい配置すら意図している。
罠を設置した者は極めて戦闘経験を積んだ熟達者で、膨大な霊力を持った魔法使い。
中威区の戦闘民程度では、まずこの罠の巣は踏破できない。万が一踏破できたとしても、この魔法使いには敵わないだろう。
分析から思索へ頭を切り替える。
踏破するにあたって、全ての罠を解除するのは、霊力量と霊力回復薬の残数を鑑みて不可能。
魔法の効果で罠が明確に見えているので、回避できる罠は回避。厭らしい配置の罠は``解除``で無力化していくのが得策。
罠を辿れば、おそらく潜伏地点に着けると思うが、無意味に潜伏地点にいるとは思えない。
大量の魔法罠を配置できる魔法使いを仲間にしている。転移の魔法は普通に使えてもなんらおかしくない。
流石に転移されている場合は追跡を断念するしかないが、それが分かるまでは追跡する価値はあるだろう。
止めた足を再び進ませ、今までの遅れた分を取り戻す勢いで森の中を走り抜ける。
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書いている本人としては、ゲーム・オブ・スローンズ的な展開かなと思っています。
転生幼児は夢いっぱい
meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、
ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい??
らしいというのも……前世を思い出したのは
転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。
これは秘匿された出自を知らないまま、
チートしつつ異世界を楽しむ男の話である!
☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。
誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。
☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*)
今後ともよろしくお願い致します🍀
Beyond the soul 最強に挑む者たち
Keitetsu003
SF
西暦2016年。
アノア研究所が発見した新元素『ソウル』が全世界に発表された。
ソウルとは魂を形成する元素であり、謎に包まれていた第六感にも関わる物質であると公表されている。
アノア研究所は魂と第六感の関連性のデータをとる為、あるゲームを開発した。
『アルカナ・ボンヤード』。
ソウルで構成された魂の仮想世界に、人の魂をソウルメイト(アバター)にリンクさせ、ソウルメイトを通して視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚、そして第六感を再現を試みたシミュレーションゲームである。
アルカナ・ボンヤードは現存のVR技術をはるかに超えた代物で、次世代のMMORPG、SRMMORPG(Soul Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)として期待されているだけでなく、軍事、医療等の様々な分野でも注目されていた。
しかし、魂の仮想世界にソウルイン(ログイン)するには膨大なデータを処理できる装置と通信施設が必要となるため、一部の大企業と国家だけがアルカナ・ボンヤードを体験出来た。
アノア研究所は多くのサンプルデータを集めるため、PVP形式のゲーム大会『ソウル杯』を企画した。
その目的はアノア研究所が用意した施設に参加者を集め、アルカナ・ボンヤードを体験してもらい、より多くのデータを収集する事にある。
ゲームのルールは、ゲーム内でプレイヤー同士を戦わせて、最後に生き残った者が勝者となる。優勝賞金は300万ドルという高額から、全世界のゲーマーだけでなく、格闘家、軍隊からも注目される大会となった。
各界のプロが競い合うことから、ネットではある噂が囁かれていた。それは……。
『この大会で優勝した人物はネトゲ―最強のプレイヤーの称号を得ることができる』
あるものは富と名声を、あるものは魂の世界の邂逅を夢見て……参加者は様々な思いを胸に、戦いへと身を投じていくのであった。
*お話の都合上、会話が長文になることがあります。
その場合、読みやすさを重視するため、改行や一行開けた文体にしていますので、ご容赦ください。
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