無頼少年記 黒

ANGELUS

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序章・流川動乱編

覚醒

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 痛い。


 痛い痛い痛い痛い。


 痛いと思ったのは、これで何度目だろう。数える気力も無い。あまりに辛く、あまりに惨くて。


 十寺じてらの狂気地味た声が、何度も頭の中で響く。もはや声音の意味を理解する意欲も、既に枯れ果てていた。


 俺は何をやっているのか。


 何のためにここに来たのか。


 木萩澪華きはぎれいかを守るため。大切なものを守るため。


 でも、実際はどうだ。


 俺の背に澪華れいかはいない。それどころか今、血だまりに倒れ、弄ばれている。


 倒すべき相手に、いいように転がされている。


 あんなワケの分かんない御託に圧倒されて、このザマ。


 ほんと。何が大切なものを守る、だ。


 何が流川るせん家の代紋を捨てても良い、だ。


 何が澪華れいかを守れる力があれば、それで良い、だ。


 負けてるじゃないか。


 守れてないじゃないか。


 流川るせん家の代紋を捨てる。捨てられるほど、強くないじゃないか。


 親という強者から守られてきた存在にすぎず、自覚できていないただの間抜けじゃないか。


 悔しいし、認めたくはない。でも十寺じてらが言った通りだ。俺はただ強いだけ。喧嘩する以外に能が無い凡愚。


 胸熱で爽快で、主人公に都合が良くて、何もかもが主人公の思いのままになって。


 どんな悪に、どんなに苦戦しても、最終局面で主人公が必ず勝つ筋書きに憧れてた、ただのガキだ。


 現実とゲームの区別がついてない。その通りだ。空想と現実を区別できていないからこそ、このザマなんだろうが。


 糞。


 糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞。


 他人を上から目線で馬鹿にしてた俺が、よっぽど馬鹿で、よっぽどおかしい。


 そんな大層なことを言えるほど、強くもないし偉くもない。


 ただ力が強いだけ。ただ喧嘩が強いだけ。


 気に入らない奴をボコる以外に芸が無い、血筋が凄いだけの男子高校生だ。


 異常者の糞みたいに捻じ曲がった理屈に圧倒されて反論できず、まんまと玩具にされる、ただのありふれた存在にすぎないというのに―――。


―――``小僧``


誰だお前。


―――``オ前ニ宿ル者ダ``


何だ馬鹿にしに来たのか嗤いたきゃ嗤えよ。罵りたきゃ罵れよ。俺は馬鹿でおかしくて喧嘩が強いだけの。


―――``オ前ハ何ヲ成シタイ``


は。


―――``オ前ハ負ケタ。守レナカッタ。ソレガ悔シクテ、愚カデ、無様デ堪ラナイ``


だから何だってんだ。


―――``絶望スルノモ構ワン。罵ルノモ構ワン。自暴自棄ニナルノモ一興。ダガナ小僧``


あぁ。


―――``オ前、力ダケハ強イノダロウ? 喧嘩ダケハ強イノダロウ? ナラソノ数少ナイ長所ヲ生カソウデハナイカ``


馬鹿言うな。今更そんなモン長所でもなんでもねえ。ただの蛇足だ。


―――``ハッ。ダカラオ前ハ凡愚ナノダ。蛇足モ、使イ用にヨッテハ役ニ立ツ``


だったら教えて欲しいもんだね。テメェがテンプレくれんのかよ。


―――``オ前ガ望ムナラ、クレテヤランデモナイ``


なら教えろ。俺には後がねえ。どうすれば良い。この何も守れない、ただ強いだけのこの俺に、何ができる。


―――``身ノ程ヲ知ランガキダ。マア良イ。何カヲ守ルニハマズ何ヲスルベキダト思ウ``


勝つ。相手に勝つ為に、守るもんを背に戦う。


―――``青イナ。何カヲ守ルニハ、目ノ前ヲ阻ム者全テヲ破壊セネバナラン``


は、破壊。


―――``ソウダ。破壊ダ。全テヲ蝕ム呪詛ノ如ク。アラユル者ヲ淘汰スル災害ノ如ク``


いやそれは。それはただの悪じゃねえか。守るとは違う。それはただの無法者だ。


―――``ダガ相手ニ勝ツトハソウイウ事ダロウ。打チ砕ケネバ、敗残スルノミ``


そうだけど。でも。


―――``何ヲ成スニモ勝テナケレバ、意味ハ無イ。打チ砕ケネバ、価値ハ無イ。世界ヲ生キルトハ、戦イトハ、ソウイウ事ダ``


でももっと他に方法があるはずだ。もっと円満に終われる方法が。


―――``ダカラオ前ハ負ケタノダ。オ前ニ他ノ方法ヲ編ミ出スダケノ能ガアルノカ?``


……無い。そもそも頭の中でしか考えことなかった。今まで母さんとしか戦ったことなかったし。


―――``論理ト結果ハ必ズシモ結ビツカナイモノダ。頭ノ中ニアル限リ、ソレハ常ニ傑作デアリ続ケラレルカラナ``


だから打ち砕くしかねぇのか。何もかも破壊するしかねぇってのか。


―――``思慮ノ浅イ奴ダ。自分ノ思イ描クモノガ駄作ニ成リ果テルカラコソ、駄作ニ陥レル存在ゴト、捻ジ曲ゲテシマエバ良イダケノ事ダロウ?``


捻じ曲げる……。


―――``相手ガオ前ヲ駄作ト言イ張ルナラ、駄作ト言イ張ル奴ヲ壊セ。ナラバ、オ前ノ駄作ハ傑作トナル``


……。


―――``破壊トハ、全テヲ解決スル。駄作ト罵ル者ガイナクナレバ、元ヨリ駄作ナド存在シナイ``


……ッ……。ああ、確かにそうだ。ははは、俺としたことが。なんでそんな簡単なことを忘れていやがったのか。完全に相手の異常さに呑まれて……。


―――``サテ、ドウスル小僧。コノママ弄バレタママデ良イノカ?``


嫌だ。ぜってぇ嫌だ。俺は、俺はこれ以上能無しの凡愚に成り下がるワケにはいかねぇんだ。


―――``良イ返事ダ。ナラバソノ意志ニ応エ、オ前ニ力ヲ与エル``


ち、力。


―――``破壊ノ力ダ。私ノ力ヲ使ウガ良イ``


アンタの力を。アンタは一体。一体何なんだよ。


―――``今更聞クノカ、マア良イ。我ガ名ハ、煉壊竜ゼヴルエーレ。コノ世ニ、災厄ト破壊ヲ、与エル者``
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