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乱世下威区編 下
受け継がれてしまった遺志
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『兄さん』
「……んぇ?」
俺は何をやっていたのだろうか。五感と霊感を全部閉じようと思ったあたりまでは覚えているのだが、そこから今さっきまでの記憶がない。まさか本当に無我の境地とかいうのに至って戦っていたとでもいうのだろうか。
「てか、あれ? 擬巖の野郎、死んでね?」
辺りを見渡そうとするよりも早く、床に突っ伏してやがる擬巖が目に入る。
無我の境地的な状態に陥っていたから全く状況が分からないが、相手がぶっ倒れているなら、倒せたってことなんだろう。全く実感がなくて本当に倒せたか心配になってくるが。
『兄さん……』
『ンだよっせぇな……』
聞こえていたが対応するのが面倒であえて無視していたそれに、頭をブチ叩かれて思わずカチキレそうになる。
個人的には寝起きと似たような状態なのでデカイ思念を送られると頭に響く。リアルでやられていたら確実に愚弟の顔面に容赦なくグーパンをブチこんでいただろうが、今は霊子通信だ。無我の境地とかいう新しい扉もコイツのおかげで開けたし、今回はスルーしてやろう。
『で、何ださっきから』
『兄さん……その、落ち着いて聞いてね』
『あ? なんだよ改まって』
『御玲が……』
一気に眠気が消し飛んだ。ありとあらゆる思考と意識が集結し、それ以外の全てがどうでもよくなる。
霊子通信回路を介し、全力で霊力を飛ばす。もう霊圧と呼ばれようが知ったことか。そんなことより御玲だ、仲間の命だ。
『雅禍って人と戦ってたんだけど……』
戦ってた。どういうことだ。戦ってる、じゃないのか。どうして、なんで過去形なんだ。
『馬鹿野郎!! なんで止めねぇ!! そのための裏方だろうが!! ざけんじゃねぇぞクソが!!』
『ち、ちがっ……これには訳があってさ、まず―――』
紅の業火が際限なく湧き出し、その身を焦がす。久三男が何か言っているが、火山の噴火音に掻き消され、耳障りな雑音にしか聞こえない。
御玲が、俺の仲間が、死にかけている。擬巖正宗とかいう闇の中で戦う能しかないボンクラにクソ間抜けにも時間をかけている間に、御玲が。
「クソが!! クソがクソがクソがクソがぁ!!」
体の内側が熱い。今にも内臓が融けだし、毛穴という毛穴から溶岩が吹き出そうな勢いだ。これでもかと煮えたぎったマグマが、固く閉ざした蓋を押し上げて、今にも鍋ごと粉砕しようとしているほどに。
『分かった、今すぐ御玲の所に……』
『待って兄さん! まだソイツは……』
『ああ!? だってソイツはもう……』
「キシシ。そうか、そうかよ。最初から、そのつもりだったってのか」
そのとき、今さっきまでいなかったはずのソイツが、擬巖の右隣にいた。
歯の隙間から溢れるような変な笑い方。あまりにそれが特徴的で、すぐに判別できるからとそう呼ぶことにしたソイツは、倒れ伏した擬巖の背中を、優しく撫でる。
「あーあ……わっかんねー、わっかんねーよ。暴閥ってのはわかんねー」
擬巖から黒い靄が滲み始めた。俺の暗視能力ですら見通せないそれは、背中に触れるソイツの腕を伝って、全身を飲み込まんと迫る。
「なんでそうも死に急ぐんだ? 生き急ぐのなら分かるが、死に急ぐ奴らの気持ちなんざ、これっぽっちもわかんねーよ」
黒い靄は、ソイツ―――キシシ野郎の全身を包み込んだ。
完全にすっぽり飲み込んだかと思われたが、防具のように全身を満遍なく纏う。それはまるで、キシシ野郎を守っているかのような。
「って前の俺なら言ってたんだろうな……いや、今でもわかんねーんだけどよ。わかんねーけど、わかんねーなりにコイツの遺志は汲んでやりてーなって、そー思っちまったんだ」
俺の暗視能力をも無効化する黒い靄を纏うキシシ野郎は、擬巖から目を離し、視線を投げる。ローブみたいに纏う闇は、キシシ野郎の片目を覆う。手品か何かか、野郎の片目は怪しげに光り、赤紫の眼に早変わりしていた。
「赤眼野郎……いや、流川澄男。オメーは力を持ちすぎた。二千年の長き年月、俺ら人間を支配してきたその力を、手放すときが来たんだ」
左右の腰に携えた武器を引き抜く。一方は刀身がやや曲がった短剣、他方は直剣。双剣と言うにはあまりに刀身の長さが違いすぎるそれらの刃先を、勢いよく俺へ向ける。
「このクソ忙しいときに……!!」
「お? あんまし驚かねーんだな。もっと狼狽えるもんだと思ってたんだが」
「……予想はしてたからな。最初っからそうなると分かってたら驚くもクソもねぇ」
やや面食らった顔をするキシシ野郎。
そう、キシシ野郎の寝返りは俺にとって予想の範囲内だった。正しくは、弥平の予想通りだったってのが真相である。俺はキシシ野郎を尋問するため、弥平とともに地下二階へ降りる際、道中で弥平から話を聞かされていた。
それは擬巖の野郎が隠し持っている、俺たちへの切り札のことだった。
時は作戦会議を行った昨日、キシシ野郎が閉じ込められている地下二階の牢屋に向かうため、弥平とエレベータに乗ったときにまで遡る―――。
「これはあくまで私の予想ですが、擬巖正宗の切り札は、あの那由多という者だと思われます」
その台詞を切り口に、自論の根拠を分かりやすく説明してくれた。
第一に、今の状況で擬巖側に勝機はない。これは俺たちから見ても擬巖から見ても自明であり、実際に戦いが始まれば、その結末は分かりきっているものとなる。なら擬巖が自暴自棄になったのかと言われると、そうでもない。
「あの那由多という男、久三男様とともに戦闘能力を解析しましたところ、総合的には擬巖正宗を凌ぐことが判明しました」
それを聞いたとき、犬の野糞を踏んでズボンの裾にぶっかかったぐらいには驚いたものだ。
何処の馬の骨とも知らん奴が、大陸八暴閥の当主を凌ぐ。普通なら、そんなことは起こり得ない。暴閥は生粋の戦闘民族であり、寄せ集めの暴力団でしかないギャングスターや支部で燻っている請負人たちとは肉体能力も戦闘経験も比べるべくもない差がある。
況して大陸八暴閥に名を連ねるに至った奴だ、俺ら流川からしたら格下だろうと、その力は決して弱いわけじゃない。曲がりなりにも八暴閥に名を連ねる当主を、どこぞの無名の奴が凌ぐとなれば、それは俺たちにとっても無視できない大ニュースである。
「擬巖正宗は彼の戦闘能力の高さを知っていた。意図していなかったとはいえ澄男様たちに計画を潰された擬巖は、強行策として那由多に澄男様を暗殺させる計画を企てた」
俺たちが潰した、擬巖の野郎の計画。東支部と西支部が管轄する都市の勢力を傘下に入れて戦力を蓄え、準備が整ったら俺たちに総攻撃するというもの。
弥平曰く予定通りだったなら擬巖の目下の目標は任務請負機関を武力制圧することにあり、請負機関の勢力を傘下に収められたなら、人材的な勢力だけなら武市最大勢力になる。
質で敵わないなら、量。任務請負機関には、俺には計り知れない千差万別の人材がきっと在籍している。ソイツらを``兵``として扱うことができたなら、きっと俺たちに対抗できる。そう考えての侵略行動だったのだろう。
だが、その目論見は任務請負機関本部を陥落させる前段階で頓挫した。
「でもよ、それでその那由多? とかいう奴一人よこして宣戦布告ってのは、なんか雑くねぇか?」
あのときの俺は、いつも通り素朴な疑問を投げたと思う。
東と西の支部を侵略し、傘下に入れる。少しずつ勢力を伸ばして任務請負機関本部を落とす算段まで立てていた奴が、計画の前段階が頓挫したからとただそれだけで自棄になるだろうか。
その程度のタマなら俺ら流川が出るまでもない小物。それこそ東支部に乗り込んできた小物当主と同等でしかないわけだが。
「擬巖正宗は``追い詰められている``と思い込んでいるのだと思います。私たち、ではなく……彼女に」
「誰だそりゃ」
「``終夜``、ですよ」
おにぎりを片手に無垢な笑顔を振り撒く巫女が頭をよぎる。
東のときはいなかったが、西支部防衛戦のときは大活躍だった。認めるのは癪だが、アイツがいなければ被害が更に大きくなっていたのは事実である。
「澄男様たちが戦った例の双剣使いが擬巖の腹心である可能性が高い今、``終夜``の動向は擬巖に伝わっているはず。ならば焦燥に駆られて稚拙な強行策に出る可能性は大いにあり得ます」
弥平の推論に、流石に同情の念が湧いてくる。敵に同情なんざ滅多にしないが、あの巫女に精神的に追い詰められたとなれば、察したくなくても心中察してしまう。
アレは規格外だ。裏鏡や母さん、弥平の親父、パオングやあくのだいまおう等と同じ、別格の存在。
少女の姿をした正真正銘の化け物であり、存在自体が反則そのものだ。
反則が足生やして歩いているような怪物に目をつけられたら、正気でいる方が難しいだろう。俺も弥平がいなきゃ敵に回したアイツを前に冷静でいられる自信はない。
「しのごのやってたら百代の奴に潰されるかもしれない。そして百代が計画に勘付いてるかどうかも確かめようがない……となると、そりゃ焦るわけか」
「ただしだからと無策で我々に敵対したところで勝ち目はない。だからこそ」
「あの野郎を切り札に、俺をぶっ殺すってわけか」
「私が擬巖であれば、それを狙いますかね。更に付け加えるなら那由多に全てを擦り付けて撤退し、再起を図りますが……擬巖もそれが狙いの可能性は高いです」
サラッと怖いことを言われ、僅かに身震いする。
あのときの弥平はマジで怖かった。エレベータが薄暗いのもあってマジで命の危機を感じたほどだ。
弥平から俺みたいなただ不死身なだけのパワー馬鹿なんていくらでも殺す策を普通に編み出しそうなので、正直百代や裏鏡、母さんあたりと同じくらい敵に回したくない存在だったりする。
コイツ、戦のときは俺より容赦ないし。
「とかく、澄男様。あの者を決して味方と思いませんよう、心してくださいませ」
「ああ。もし敵対してきたら、擬巖もろともぶっ殺しとくわ」
これが弥平と俺の、キシシ野郎と地下二階で面会する直前の出来事だ。
結果は弥平の予想通り、キシシ野郎は裏切りやがった。
なんのこたぁない。仲間でもなんでもないただの他人が敵になった。ただそれだけのこと。怒りなんて一ミリも湧いてこない。強いていうなら、マグマよりも熱い、煮えに煮えたぎった殺意だけ。
「悪ぃがテメェの相手は後だ。俺は野暮用を済ま」
視界が、宙を舞う。
滅多にされることがないから、視界が空を飛ぶ感覚ってのは中々に新鮮だ。俺の身体とは便利なもので、首から上の部分が空飛ぶ鳥と化してなお、宙に待ったそれを掴み取ることができたりする。
「んだテメェ、首攫った程度で俺を殺せるとでも?」
掴み取った頭を元あった場所に載せる。
首の筋肉繊維やらなにやら、色々なものがつながり、胴体と頭が一つになる生々しい感覚を覚えながら、キシシ野郎を強く見据えた。
「キッシ……普通死ぬだろ。そこはよ」
キシシ野郎は首筋と額に汗を滴らせる。
気持ちは分からなくもない。普通は死ぬ。相手が俺でなければ、さっきの一閃で確実に殺れていただろう。
「流川ってのはバケモンしかいないのか? 不死身にも程があるだろうよ」
「バケモンしかいないってのは間違いじゃねぇぜ? 普通に俺よか強ぇ奴もいるしな」
質問には答えず、でも事実は述べておく。
正直なところ俺並みの不死身な奴は流川でも俺しかいないと思うが、俺以外のバケモンとなると、そもそもコイツが傷一つつけられるかも疑わしい。
俺の母さんとか弥平の親父とか、息吐くだけで国一つ消せるようなバケモンである。俺が死ぬ気で挑んでも母さんには傷一つつけられなかったように、本物のバケモンってのはあらゆる攻撃をノーガードで受け止めてノーダメでいられて、ずっと俺のターンブチかましてくる規格外を言うのだ。
「キッシ。じゃあアンタはまだどうにかできるレベルってことか」
「……ホント面白ぇなァテメェ。だったら試してみろよ」
何気なくキャッチボールしていたら突然煽りプレイしてきやがった。
唐突すぎてあんまり怒りが湧いてこなかったほどだが、中々に愉快な解釈である。そんなに灰すら残さず消えたいというのなら、望み通りにしてやろう。
「んじゃ手始めに……」
まず何をするか。コイツのクソッタレな煽り顔ごと全てを焼き尽くす。つまり。
「焼き尽くせ、煉旺焔星!!」
着弾した瞬間、その空間全てを焼き尽くす紅の業火。
どうせコイツもコート野郎と同じく回避に秀でた奴だろう。なら回避できないぐらい広範囲を焼き尽くせばいい。今度は御玲もこの場にいない。手加減なしだ。
俺の右手から生み出された灼熱の星。些細な衝撃でも与えようものなら一瞬で炸裂するそれを、何の躊躇いもなく床に叩きつけた。
煉旺焔星とは便利な技だ。投げれば相手を焼き尽くし、床や壁に叩きつければ周りを焦土にできる。全部まとめて灰燼に帰するのをなによりも得意とする俺にうってつけの技だ。
これまでも今も、そしてこれからもそうである。たとえ、目の前で爆発する前に消されたとしても。
「なッ……!?」
煉旺焔星が、その真価を発揮する前に消滅した。今目の前に起こった、ありのままの事実を文章に書き表すと、こうなる。
煉旺焔星を編み出してから三ヶ月ちょい経つが、何の前触れもなく煉旺焔星を消されたのは初めてだ。
似たような現象に猫耳パーカーの属性変換があったが、あのときは水に変えられただけで、無に帰されたことは流石にない。
焦りを隠しながら、キシシ野郎を見渡す。
キシシ野郎は右手に剣を握っていた。刀身が百センチメトはあるだろうか。学校にも行けてねぇガキの背丈と同じぐらいの長さをしてやがるその剣は、何故だか刀身が半透明だった。
目を凝らして見てみるとようやく見えるその刀身は、向こう側が透けて見えるせいか儚げで脆く見えるが、キシシ野郎の体勢からして煉旺焔星を両断して消してみせたあたり、癪だが耐久性は見た目を裏切ってやがると認めざる得ない。
「テメェ……その剣」
「悪ぃな、その疑問には答えらんねーぜ」
キシシ、と歯の隙間から乾いた笑みをこぼしやがる。
敵に手の内を懇切丁寧に教える奴がいたら、ソイツはお人好しなんてものには程遠い、自殺願望塗れの馬鹿野郎でしかない。分かりきっていたが、面と向かって言葉にされると腹の虫が疼いてしまう。
少なくとも分かることは、アイツが持っている剣はただの剣じゃねぇってことだ。
刀身が半透明の剣なんざ今まで見たことがない。なにかしらヘンテコな効果を持つ剣だとは思うが、煉旺焔星を一瞬で消し去れる効果って一体何なんだ。俺に頭を使わせるな。
「まあいい。だったら」
自らの霊力を腕に集中させる。腕をマグマに突っ込むイメージに支配された腕は、赤熱した鋼鉄に様変わりした。
自分の腕だけを熱くするなんて真似は何気に初めてだが、煉旺焔星を腕に纏う感覚でやったら意外とすんなりできてしまった。今みたいな状況じゃないと使う機会はあんまりなさそうだが、握れば大体どんなものでも壊せそうだ。
そう、握れば。ここまで言えば俺がなにをしようとしているのか、予想がつくと思う。
足の裏からロケットを噴射するイメージを思い浮かべ、一気に距離を詰める。
コート野郎のときもそうだったが、いくら回避が上手いからといってロケット噴射で高速移動できる奴を追うなんて無理なはずだ。避けられると面倒だし、このターンで決めてみせる。
肉薄するのにかかった時間は、体感だが一秒も満たないと思う。余程の人外でもない限り反応できない速度の中、俺の意識は野郎の剣ただそれだけに向いていた。どういうカラクリなのかは分からないし、考えたって俺の筋肉百パーセントの文字通り脳筋な頭じゃ結論が出るはずもない、だからこそ何をするべきか、どうするべきかをあらゆる過程をすっ飛ばして捻り出す。
どうするか。簡単だ、握って捻って折り壊す。
刀身が半透明とはいえ刀身はあるのだから、へし折ればいいただそれだけの簡単な作業。案の定、キシシ野郎は反応できていない。わかっていたことだ、ならこれで終いに―――。
「ファッ」
何が、起こったのか。思わずクソ間抜けな甲高い声が出てしまった。
野郎の剣をへし折るため、キシシ野郎に飛びかかる形で突撃したわけだが、ほんのすぐ、それこそ相手の顔面にグーパンを入れられるぐらいの距離にまで詰めた次の瞬間、キシシ野郎の姿が跡形もなく消えたのだ。
何を言っているんだと思われるかもしれないが、言葉の通りのことが実際目の前で起こったし、そのまま素直な言葉で説明するしかない。
「べぶぁ!?」
目の前で飛び掛かる相手が消えたところで、急に止まれるはずもなく。そのまま壁にダイブした。
何が嬉しくて壁に飛び込まなきゃならんのか。痛みこそないが自分が間抜けであんまり敵の顔を直視したくない本能に駆られる。
「クソが……どうなってやがる」
流石に意味不明なので苦手な脳の運動と洒落込む。
ない頭で思い浮かぶのは、転移魔法だ。キシシ野郎は俺が飛びかかって剣の刀身を鷲掴む寸前までは目の前にいた。その次の瞬間に消滅したわけで、となると空間をすっ飛ばして回避したとしか思えない。
技能球を使っている可能性だってあるし、無詠唱で使えるのもなんらおかしくは。
「げはッ!?」
戦いの最中に考え事。良い言い方をすれば余裕の表れであり、悪い言い方をすれば油断という。
別に油断していたわけじゃないが、右上から左下へ綺麗に斬りつけられた今の状況を見れば、誰しもが言い訳だと陰口を言いふらし回るだろう。
「ク、ソ……またか、げあッ!?」
次は背中、さっきからキシシ野郎の姿がまるで見えない。鎌鼬じゃあるまいし、瞬間移動の固有能力でも使ってやがるのか。このままじゃジリ貧だ。
「だったらァ……!!」
体の奥底から湧き出すイメージを膨らませる。
大地の奥底から湧き立つ溶岩、火山活動が末期に達し、いつ噴火してもおかしくない状態にまで煮詰まった火口。
どんなカラクリか分からないが、そっちがわけのわからん真似をするってんならこっちもそれと同じぐらいのわけのわからん真似で返すまでのこと。
キシシ野郎の居場所も分からないし、どこからくるのかも五感で探れないってんなら、俺を中心に全方位に向かってありったけの霊力を放てばいい。
煉旺焔星は何故だか半透明の剣で打ち消されるし、面倒だが霊力で灼熱の熱線を形作って焼き尽くす。回避されるリスクは範囲攻撃で全力カバーだ。
「うおおおおおおおおおおおおッ!!」
体の中心に集まる熱。地中奥深くに流れるマグマを力尽くで掬い上げ、噴火を自ら起こすイメージで体内霊力を湧き立たせる。
他の奴なら一瞬で枯渇して干物になっちまうような使い方だが、俺は霊力切れを起こす心配は皆無なので、無茶苦茶な使い方をしても後に響かないのが利点だ。
かくいう煉旺焔星だって、俺の膨大な体内霊力があって初めて可能になる技だし。
身体の内側で霊力が集まったのを感じ取り、それを一気に解き放つ。俺を中心に、世界は真っ白になった。
俺の体内から放出された霊力は、火や光といった属性霊力へと変わり、熱や光として周囲を焼き尽くす。俺は熱いのは平気なのでノーダメでいられるが逆に言えば俺以外の全ては炭すら残らず燃え尽きることになる。
キシシ野郎はどこにいるのか全く分からないし捉えられないが、どこにいるのか分からないなら俺を中心に部屋ごと全部焼き尽くせばいい話で、それなら避けるもどこにいるのか分からないもクソもない。
どこにいようが部屋から出ない限りは燃え尽きて終わりだ。というか部屋から出ても凄まじい熱線を浴びることになるだろうから無事では済まないだろう。
いつもなら御玲や金髪野郎たちがいるので滅多なことじゃ使えない荒技だが、今は俺とキシシ野郎の二人だけ。周りに気を使う必要が全くないというのは、俺にとって最も戦いやすいと言える。むしろ今は御玲のことが心配なので、効率も考えると余計なことを考えずに済む今の状況が尚更都合が良いのだ。
「これで……げぅ!?」
終わり。そう言おうとした、その瞬間だった。周囲を焼き尽くす赤い熱気が、全てを凍てつかせる青い冷気に様変わりする。
身体が、凍える。体の節々、筋肉という筋肉全てが縮こまり、モチベというモチベが一気に抜け落ちる気怠さ。
俺の苦手な``寒さ``が、俺だけを切り裂く刃となって降り注いだ。
「ぐぇあああああ……………!?」
寒い、冷たい、冷たすぎる。今まで感じたことのない寒さだ。家の中で過ごす冬の凍てつく隙間風も存外にやる気を削ぎやがる害悪さだったが、今身をもって襲いかかる寒さは、その比じゃない。
気怠いだとかやる気が削がれるだとか、そんな生温い感覚すら消し飛ばす、生きた心地のしない絶望感が俺の全てを奪っていく。
「あがっ……ざむい、じぬ」
やばい、まじで。意識、飛ぶ。
俺に苦手なものは数えるほどしかないが、寒さはその中でも三本指に入るくらい嫌いだ。氷のデカブツと戦ったときも、裏鏡にゼヴルードを跳ね返されたときも、氷属性っぽい奴で気絶に追い込まれた記憶しかないし、御玲とエヴェラスタの旅に出たときも寒すぎてずっとコートを着ていたくらいだし、とにもかくにも体を暖めないことにはことには何も始まらない。
「げぅああああああ!?」
身体を暖めようと体の奥底から霊力を湧かせた瞬間。体の内側が急激に冷えた。
アイスキャンディをドカ食いしたときの感覚を一万倍増しにしたかのような、もはや冷たいというより痛いに等しい。
なんでだ、寒いしこのままだと気絶するから暖めようとしただけなのに、逆に寒くなるとかどうなってやがる。冷たいもの食いすぎて腹痛いとかそんな生温いもんじゃない、内臓がカッチコチに瞬間冷凍されているとしか思えないし、本当、さっきからなにがどうなってやがるんだ。
「寒いか。そりゃそーだろーな。キッシシ」
吹き荒れる猛吹雪と体の内側から冷え固まる下半身に悩まされる最中、どこからともなく声が聞こえた。歯の隙間からこぼれ落ちる乾いたそれには、煽りも含まれた嘲りが感じられる。
腹の底から煮える。だが煮えた瞬間、ドライアイスでもぶちまけられたかのように一瞬で冷え固まり、身体から尚更温度を奪い去っていく。
もはやなんの意味もない。霊力の流動を一切合切放棄した。
「くは……けはッ」
情け容赦ない冷気の嵐が止む。霊力の動きを止めたのだから、そうであって当然なのだが、もはやその事実に喜ぶ暇もなく、クソ間抜けにも膝が折れた。
敵の目前で、それもぶっ殺すと弥平に大見え切った相手を前に、ただのクソ雑魚みたく床を眺めるしかできなくなるなんて。
歯軋りが止まらない、奥歯を砕いてしまいそうになる。舌でも噛み切りたい気分だが、御玲を助けなきゃならない以上、こんなところで怨嗟に塗れている暇はない。
「テメェ……さっきから、なにを……」
分からない。チートだ。超能力、固有能力。何を使っているか、皆目見当がつかない。
一番考えられるのは超能力だが、仮にそうだとしても膝を折られた事実は変わらないし、どうこうするための策が思い浮かぶわけもない。
結局のところ、要因がわかったところで仕組みが分からなきゃ対策なんて捻り出せるわけがないからだ。
「だからよ、教えるわけねーよな。大体予想ついてんだろ」
ぎりり。奥歯がまた悲鳴をあげる。勢い余って口の中の皮膚も噛んだらしく、口の端から鉄の味が染み渡る。
さっきは超能力がどうのこうのと言ったが、それ以前に気になるのはアイツが右手に装備している剣だ。刀身が半透明な、巷じゃ絶対出回っていないだろう、仕組みがまるで分からん謎の剣。超能力の可能性はまだ捨て切れないが、あの謎の剣が煉旺焔星を両断して消し去ったのを、実際にこの目で捉えている。
やっぱ、返すんじゃなかったか。出たとこ勝負でなんとかなるだろとタカをくくっちまったのは誤算だった。
「まあだからってどうこうできねーみてーだが」
キシシ、と剣を帯刀したままゆっくりと俺へ近づく。
今の俺は膝を折っててほぼ無防備、霊力を使えば氷属性の現象に変えて反射するから俺が何もできないことを知った上での、堂々とした愚直で安直な接敵。
舐められてやがる、クソッタレが。歯軋りが止まらない。
「なあ。この状況、誰がどー見ても俺の勝ちだよな?」
「……あ?」
「そーだろ? 俺は立ってて、アンタは跪いてて。勝敗なんざ一目瞭然だろって」
「……ざけんな」
「いやいや、ふざけてねーって。俺はいたっておおまじ」
「ふっっざけんじゃねぇ!!」
カラッとしたクソみてぇな態度を振り撒き寝言をほざきやがるキシシ野郎を、ありったけの声量で黙らせる。
「勝ち? 勝ちだと? おいおい寝言は寝て言えよゴミが!! 俺は生きてるぞ、死んでねぇぞ、なのにテメェが勝ちで、俺が負けだと? ざけんのも大概にしやがれゴミキシシ!!」
「ゴミキシシってなんだ……虫みてーに言うなよ。それに、流石に負け惜しみがすぎるだろそれは」
呆れるキシシ野郎に対し、俺の怒りは沸点を既に超えていた。いや沸点どころか臨界点すら超えていると言っていい。火山はとうの昔に噴火し、莫大な火砕流とマグマが都市や街、村を飲み込んで全てを押し流し焼き尽くすように。
「テメェは下威区の出だからわかんねぇだろうがな……暴閥の戦いは、当主を殺さねぇ限り終わらねぇんだよ……」
怒りで体の内側からまた霊力が漏れ出そうになるが、反撃の隙を与えたくない。全力で奥底に封じ込める。
「確かに俺は膝を折ってる。クソ癪だし言葉にするだけ腹立つし殺意が湧いてきて今にも部屋ごとなにもかもぶっ壊してぇしぜってぇ認めたかねぇが認めてやるよ。だが、俺は生きてる」
ようやく身体がほぐれてきた。体温が息を吹き返しているのを確かに感じ取り、相手に悟られないように筋肉繊維を温める。
「当主の俺が生きてる限り、この戦いは終わらねぇ。テメェがどう思おうが、俺は生きてる限りテメェを必ず殺す。流川本家派当主として、テメェの存在を許すこたぁねぇからだ」
母さんから聞かされた、戦いの掟。
いずれかの暴閥の当主を殺すことこそが、戦いの真なる終わり。なぜなら当主の滅びはその血の滅びであり、その暴閥の存在意義が失くなるに等しいからだ。
だからこそ、当主は死んではならない。だからこそ、側近や雑兵を肉壁にする。
俺ら流川は魔生物を肉の盾にするが、他の暴閥はそこらの兵や側近を捨て駒にするのだと、小さい頃から母さんに耳が茹蛸になるほど聞かされてきた。
それだけ、戦いにおいて当主の生死は重要な意味を持つ。当主の生存は、その血の誇り。それを踏み躙る存在は、如何なる暴閥も絶対に許さない。
「……くだらねーな」
「あぁ?」
「くだらねー。そー言ったんだ。生きるだとか死ぬだとか、ほんっとクッソくだらねーって、そー言ってんだ」
怒りが、ぶり返す。流石に髪の毛が逆立った。せっかく封じ込めたってのに、このままだと努力が無駄になる。
「あのさ。殺して何になる? 死ぬまで嫌いな奴と戦ってさ、その先に何がある? 教えてくれ、マジで。俺にはアンタら暴閥のことが、これっぽっちも分からない」
「はあ? 敵は殺す。そんなもんは当たり前だろうが」
「当たり前じゃねーよ、おかしーだろ。道端で気に入らねぇ奴が目に入っただけで、普通殺さねーだろ」
「いんや? あんまりにも目障りなら殺すぞ? まあ流石にそんなチンピラレベルの奴なら一々相手すんのもだりぃし大概は無視するがな」
「うん。だからわかんねーんだ。俺ならダル絡みされてもスルーする。度合いにもよるが、最悪でも半殺し程度にとどめるよ。どんな理由であれ、ソイツは生きてるんだからな」
キシシ野郎の言葉が、まるで理解できなかった。いや理屈は分かる。理屈は分かるが、まるで共感ができない。急に異世界の住人に錯覚しちまうくらい、一瞬違う言語で話しているのかと考えちまうくらい、乖離的にまでに共感ができない。
ダル絡みしてもスルーする。最悪半殺し程度にとどめる。そんなの舐められるだけだし、中途半端に手を出せば無駄な禍根を残してちょっかいかけられ続けるだけだろう。
後顧の憂いを断つ意味でも、最悪ってんなら皆殺しにするか、逃すにしてもソイツにトラウマを植え付けて二度と視界に入ってこねぇよう、熱した焼き串で徹底的に恐怖って文字を刻みつけるのが筋だと思う。
少なくとも、その例え話の主人公が俺ならば、そうしてる。
「なあ、死ぬとか殺すとか、もうやめにしよーぜ。この戦い、アンタが膝を折った時点で勝敗は決してる。これ以上、やる意味がねーよ俺には」
「はあ……? 要するにテメェ、もう俺を相手するまでもねぇ雑魚だって言いてぇのか?」
「いやそうじゃない。もう決着はどう見てもついてるから、これ以上やり合う意味はねーって言ってんだよ」
「だからよォ……寝言は寝てほざけって言ってんだろうがッ!!」
頭をこれでもかと掻きむしり、苛立ちを全力で抑えつける。正直もう理性が限界を訴えかけてきているが、ここで気を緩めると反撃を許してしまいかねない。流川の当主として、同じ間抜けは二度とやらかせないのだ。
それ以前に、このクソキシシ野郎にはガツンと言ってやらんと気が済まねぇ。
「意味がねぇ? 勝手に決めてんじゃねぇぞダボが!! 意味なんざ俺が生きてるただそれだけであるんだよ!! 暴閥との戦いを、暴閥ですらねぇそこらの石ころ如きが決めんなクソが!! 舐めんのも大概にしやがれ!!」
意味がない。なんでそれをキシシ野郎如きに決められなきゃならないのか。
そりゃ暴閥の出じゃねぇからと思えば無理もない話だが、だからとはいそうですかって納得できるはずもなく。
先に手のひらを返したのはキシシ野郎で、俺と戦うことを選んだ時点で、雌雄ってのは俺かキシシ野郎、そのどちらかの生死でしか決まらない。
コイツが言う半殺しにして終わりなんざ、甘えもいいところだ。むしろ戦いを侮辱しているとしか思えない。俺の母さんの前で言ったら即刻全身ぐちゃぐちゃにされるだろう。
コイツが戦いに対してどう思っているのかなんて知らん。知ったところで汲み取る気はこれっぽっちもねぇ。暴閥に喧嘩を売るってことは、つまりは互いの生死を、命を賭けなきゃ男の意味も価値もありゃあしねぇ、ただの遊びに成り下がる。
「……はぁ」
絶賛バチギレ状態の俺とは裏腹に、キシシ野郎のため息は深かった。それはもはや呆れを通り越して、諦観に近い何かだ。
「なんつーか……ここまで強情だとどーしようもねーな……」
柄を強く握りしめる。半透明の刀身を掲げ、切先を俺へと振り向ける。
「嗚呼、やりたくねー、やりたくねーよ畜生。なにが嬉しくてアンタの未来を、人生を奪わなきゃなんねーのか。何の意味があんだよ、本当」
まだ言うか。俺には全て、寝言に聞こえる。まあ剣をあげたなら、やる気になったってことだろうし、それならもうどうだっていい。
価値観が乖離している以上、もはや話し合いじゃ何も解決しない。テメェが言う無意味な戦いとやらを終わらせるには、結局のところ力と力でぶつかり、どちらかが倒れるまで剣を奮い続けるしかないのだから。
「後悔すんなよ。アンタが始めた戦いなんだからな」
ようやくやる気になったであろうキシシ野郎、俺も怒りを闘志に変える。
「言われるまでもねぇよ、ブチ殺してやるぜ」
今のところ、勝ち筋は見えない。どうやって姿を消しているのかも、煉旺焔星を消せたのも、霊力噴射を氷属性霊力に変えて反射できたのも、何もかも意味不明だが、そんなことは関係ない。
勝ち筋が見えない、だったら穿り出して無理矢理にでも見出せばいい話。そんでサクッとぶっ倒して御玲の所へ行く。ただ、それだけだ。
ありとあらゆる工程を簡略化し、迷いの要素を消し去った俺は、持ち前の不死性で全快した身体を激励するように、刀身が紅色に輝く焔剣ディセクタムを抜く。
半透明の刀身を持つ剣を携えるキシシ野郎を、今度こそ断ち切るために。
「……んぇ?」
俺は何をやっていたのだろうか。五感と霊感を全部閉じようと思ったあたりまでは覚えているのだが、そこから今さっきまでの記憶がない。まさか本当に無我の境地とかいうのに至って戦っていたとでもいうのだろうか。
「てか、あれ? 擬巖の野郎、死んでね?」
辺りを見渡そうとするよりも早く、床に突っ伏してやがる擬巖が目に入る。
無我の境地的な状態に陥っていたから全く状況が分からないが、相手がぶっ倒れているなら、倒せたってことなんだろう。全く実感がなくて本当に倒せたか心配になってくるが。
『兄さん……』
『ンだよっせぇな……』
聞こえていたが対応するのが面倒であえて無視していたそれに、頭をブチ叩かれて思わずカチキレそうになる。
個人的には寝起きと似たような状態なのでデカイ思念を送られると頭に響く。リアルでやられていたら確実に愚弟の顔面に容赦なくグーパンをブチこんでいただろうが、今は霊子通信だ。無我の境地とかいう新しい扉もコイツのおかげで開けたし、今回はスルーしてやろう。
『で、何ださっきから』
『兄さん……その、落ち着いて聞いてね』
『あ? なんだよ改まって』
『御玲が……』
一気に眠気が消し飛んだ。ありとあらゆる思考と意識が集結し、それ以外の全てがどうでもよくなる。
霊子通信回路を介し、全力で霊力を飛ばす。もう霊圧と呼ばれようが知ったことか。そんなことより御玲だ、仲間の命だ。
『雅禍って人と戦ってたんだけど……』
戦ってた。どういうことだ。戦ってる、じゃないのか。どうして、なんで過去形なんだ。
『馬鹿野郎!! なんで止めねぇ!! そのための裏方だろうが!! ざけんじゃねぇぞクソが!!』
『ち、ちがっ……これには訳があってさ、まず―――』
紅の業火が際限なく湧き出し、その身を焦がす。久三男が何か言っているが、火山の噴火音に掻き消され、耳障りな雑音にしか聞こえない。
御玲が、俺の仲間が、死にかけている。擬巖正宗とかいう闇の中で戦う能しかないボンクラにクソ間抜けにも時間をかけている間に、御玲が。
「クソが!! クソがクソがクソがクソがぁ!!」
体の内側が熱い。今にも内臓が融けだし、毛穴という毛穴から溶岩が吹き出そうな勢いだ。これでもかと煮えたぎったマグマが、固く閉ざした蓋を押し上げて、今にも鍋ごと粉砕しようとしているほどに。
『分かった、今すぐ御玲の所に……』
『待って兄さん! まだソイツは……』
『ああ!? だってソイツはもう……』
「キシシ。そうか、そうかよ。最初から、そのつもりだったってのか」
そのとき、今さっきまでいなかったはずのソイツが、擬巖の右隣にいた。
歯の隙間から溢れるような変な笑い方。あまりにそれが特徴的で、すぐに判別できるからとそう呼ぶことにしたソイツは、倒れ伏した擬巖の背中を、優しく撫でる。
「あーあ……わっかんねー、わっかんねーよ。暴閥ってのはわかんねー」
擬巖から黒い靄が滲み始めた。俺の暗視能力ですら見通せないそれは、背中に触れるソイツの腕を伝って、全身を飲み込まんと迫る。
「なんでそうも死に急ぐんだ? 生き急ぐのなら分かるが、死に急ぐ奴らの気持ちなんざ、これっぽっちもわかんねーよ」
黒い靄は、ソイツ―――キシシ野郎の全身を包み込んだ。
完全にすっぽり飲み込んだかと思われたが、防具のように全身を満遍なく纏う。それはまるで、キシシ野郎を守っているかのような。
「って前の俺なら言ってたんだろうな……いや、今でもわかんねーんだけどよ。わかんねーけど、わかんねーなりにコイツの遺志は汲んでやりてーなって、そー思っちまったんだ」
俺の暗視能力をも無効化する黒い靄を纏うキシシ野郎は、擬巖から目を離し、視線を投げる。ローブみたいに纏う闇は、キシシ野郎の片目を覆う。手品か何かか、野郎の片目は怪しげに光り、赤紫の眼に早変わりしていた。
「赤眼野郎……いや、流川澄男。オメーは力を持ちすぎた。二千年の長き年月、俺ら人間を支配してきたその力を、手放すときが来たんだ」
左右の腰に携えた武器を引き抜く。一方は刀身がやや曲がった短剣、他方は直剣。双剣と言うにはあまりに刀身の長さが違いすぎるそれらの刃先を、勢いよく俺へ向ける。
「このクソ忙しいときに……!!」
「お? あんまし驚かねーんだな。もっと狼狽えるもんだと思ってたんだが」
「……予想はしてたからな。最初っからそうなると分かってたら驚くもクソもねぇ」
やや面食らった顔をするキシシ野郎。
そう、キシシ野郎の寝返りは俺にとって予想の範囲内だった。正しくは、弥平の予想通りだったってのが真相である。俺はキシシ野郎を尋問するため、弥平とともに地下二階へ降りる際、道中で弥平から話を聞かされていた。
それは擬巖の野郎が隠し持っている、俺たちへの切り札のことだった。
時は作戦会議を行った昨日、キシシ野郎が閉じ込められている地下二階の牢屋に向かうため、弥平とエレベータに乗ったときにまで遡る―――。
「これはあくまで私の予想ですが、擬巖正宗の切り札は、あの那由多という者だと思われます」
その台詞を切り口に、自論の根拠を分かりやすく説明してくれた。
第一に、今の状況で擬巖側に勝機はない。これは俺たちから見ても擬巖から見ても自明であり、実際に戦いが始まれば、その結末は分かりきっているものとなる。なら擬巖が自暴自棄になったのかと言われると、そうでもない。
「あの那由多という男、久三男様とともに戦闘能力を解析しましたところ、総合的には擬巖正宗を凌ぐことが判明しました」
それを聞いたとき、犬の野糞を踏んでズボンの裾にぶっかかったぐらいには驚いたものだ。
何処の馬の骨とも知らん奴が、大陸八暴閥の当主を凌ぐ。普通なら、そんなことは起こり得ない。暴閥は生粋の戦闘民族であり、寄せ集めの暴力団でしかないギャングスターや支部で燻っている請負人たちとは肉体能力も戦闘経験も比べるべくもない差がある。
況して大陸八暴閥に名を連ねるに至った奴だ、俺ら流川からしたら格下だろうと、その力は決して弱いわけじゃない。曲がりなりにも八暴閥に名を連ねる当主を、どこぞの無名の奴が凌ぐとなれば、それは俺たちにとっても無視できない大ニュースである。
「擬巖正宗は彼の戦闘能力の高さを知っていた。意図していなかったとはいえ澄男様たちに計画を潰された擬巖は、強行策として那由多に澄男様を暗殺させる計画を企てた」
俺たちが潰した、擬巖の野郎の計画。東支部と西支部が管轄する都市の勢力を傘下に入れて戦力を蓄え、準備が整ったら俺たちに総攻撃するというもの。
弥平曰く予定通りだったなら擬巖の目下の目標は任務請負機関を武力制圧することにあり、請負機関の勢力を傘下に収められたなら、人材的な勢力だけなら武市最大勢力になる。
質で敵わないなら、量。任務請負機関には、俺には計り知れない千差万別の人材がきっと在籍している。ソイツらを``兵``として扱うことができたなら、きっと俺たちに対抗できる。そう考えての侵略行動だったのだろう。
だが、その目論見は任務請負機関本部を陥落させる前段階で頓挫した。
「でもよ、それでその那由多? とかいう奴一人よこして宣戦布告ってのは、なんか雑くねぇか?」
あのときの俺は、いつも通り素朴な疑問を投げたと思う。
東と西の支部を侵略し、傘下に入れる。少しずつ勢力を伸ばして任務請負機関本部を落とす算段まで立てていた奴が、計画の前段階が頓挫したからとただそれだけで自棄になるだろうか。
その程度のタマなら俺ら流川が出るまでもない小物。それこそ東支部に乗り込んできた小物当主と同等でしかないわけだが。
「擬巖正宗は``追い詰められている``と思い込んでいるのだと思います。私たち、ではなく……彼女に」
「誰だそりゃ」
「``終夜``、ですよ」
おにぎりを片手に無垢な笑顔を振り撒く巫女が頭をよぎる。
東のときはいなかったが、西支部防衛戦のときは大活躍だった。認めるのは癪だが、アイツがいなければ被害が更に大きくなっていたのは事実である。
「澄男様たちが戦った例の双剣使いが擬巖の腹心である可能性が高い今、``終夜``の動向は擬巖に伝わっているはず。ならば焦燥に駆られて稚拙な強行策に出る可能性は大いにあり得ます」
弥平の推論に、流石に同情の念が湧いてくる。敵に同情なんざ滅多にしないが、あの巫女に精神的に追い詰められたとなれば、察したくなくても心中察してしまう。
アレは規格外だ。裏鏡や母さん、弥平の親父、パオングやあくのだいまおう等と同じ、別格の存在。
少女の姿をした正真正銘の化け物であり、存在自体が反則そのものだ。
反則が足生やして歩いているような怪物に目をつけられたら、正気でいる方が難しいだろう。俺も弥平がいなきゃ敵に回したアイツを前に冷静でいられる自信はない。
「しのごのやってたら百代の奴に潰されるかもしれない。そして百代が計画に勘付いてるかどうかも確かめようがない……となると、そりゃ焦るわけか」
「ただしだからと無策で我々に敵対したところで勝ち目はない。だからこそ」
「あの野郎を切り札に、俺をぶっ殺すってわけか」
「私が擬巖であれば、それを狙いますかね。更に付け加えるなら那由多に全てを擦り付けて撤退し、再起を図りますが……擬巖もそれが狙いの可能性は高いです」
サラッと怖いことを言われ、僅かに身震いする。
あのときの弥平はマジで怖かった。エレベータが薄暗いのもあってマジで命の危機を感じたほどだ。
弥平から俺みたいなただ不死身なだけのパワー馬鹿なんていくらでも殺す策を普通に編み出しそうなので、正直百代や裏鏡、母さんあたりと同じくらい敵に回したくない存在だったりする。
コイツ、戦のときは俺より容赦ないし。
「とかく、澄男様。あの者を決して味方と思いませんよう、心してくださいませ」
「ああ。もし敵対してきたら、擬巖もろともぶっ殺しとくわ」
これが弥平と俺の、キシシ野郎と地下二階で面会する直前の出来事だ。
結果は弥平の予想通り、キシシ野郎は裏切りやがった。
なんのこたぁない。仲間でもなんでもないただの他人が敵になった。ただそれだけのこと。怒りなんて一ミリも湧いてこない。強いていうなら、マグマよりも熱い、煮えに煮えたぎった殺意だけ。
「悪ぃがテメェの相手は後だ。俺は野暮用を済ま」
視界が、宙を舞う。
滅多にされることがないから、視界が空を飛ぶ感覚ってのは中々に新鮮だ。俺の身体とは便利なもので、首から上の部分が空飛ぶ鳥と化してなお、宙に待ったそれを掴み取ることができたりする。
「んだテメェ、首攫った程度で俺を殺せるとでも?」
掴み取った頭を元あった場所に載せる。
首の筋肉繊維やらなにやら、色々なものがつながり、胴体と頭が一つになる生々しい感覚を覚えながら、キシシ野郎を強く見据えた。
「キッシ……普通死ぬだろ。そこはよ」
キシシ野郎は首筋と額に汗を滴らせる。
気持ちは分からなくもない。普通は死ぬ。相手が俺でなければ、さっきの一閃で確実に殺れていただろう。
「流川ってのはバケモンしかいないのか? 不死身にも程があるだろうよ」
「バケモンしかいないってのは間違いじゃねぇぜ? 普通に俺よか強ぇ奴もいるしな」
質問には答えず、でも事実は述べておく。
正直なところ俺並みの不死身な奴は流川でも俺しかいないと思うが、俺以外のバケモンとなると、そもそもコイツが傷一つつけられるかも疑わしい。
俺の母さんとか弥平の親父とか、息吐くだけで国一つ消せるようなバケモンである。俺が死ぬ気で挑んでも母さんには傷一つつけられなかったように、本物のバケモンってのはあらゆる攻撃をノーガードで受け止めてノーダメでいられて、ずっと俺のターンブチかましてくる規格外を言うのだ。
「キッシ。じゃあアンタはまだどうにかできるレベルってことか」
「……ホント面白ぇなァテメェ。だったら試してみろよ」
何気なくキャッチボールしていたら突然煽りプレイしてきやがった。
唐突すぎてあんまり怒りが湧いてこなかったほどだが、中々に愉快な解釈である。そんなに灰すら残さず消えたいというのなら、望み通りにしてやろう。
「んじゃ手始めに……」
まず何をするか。コイツのクソッタレな煽り顔ごと全てを焼き尽くす。つまり。
「焼き尽くせ、煉旺焔星!!」
着弾した瞬間、その空間全てを焼き尽くす紅の業火。
どうせコイツもコート野郎と同じく回避に秀でた奴だろう。なら回避できないぐらい広範囲を焼き尽くせばいい。今度は御玲もこの場にいない。手加減なしだ。
俺の右手から生み出された灼熱の星。些細な衝撃でも与えようものなら一瞬で炸裂するそれを、何の躊躇いもなく床に叩きつけた。
煉旺焔星とは便利な技だ。投げれば相手を焼き尽くし、床や壁に叩きつければ周りを焦土にできる。全部まとめて灰燼に帰するのをなによりも得意とする俺にうってつけの技だ。
これまでも今も、そしてこれからもそうである。たとえ、目の前で爆発する前に消されたとしても。
「なッ……!?」
煉旺焔星が、その真価を発揮する前に消滅した。今目の前に起こった、ありのままの事実を文章に書き表すと、こうなる。
煉旺焔星を編み出してから三ヶ月ちょい経つが、何の前触れもなく煉旺焔星を消されたのは初めてだ。
似たような現象に猫耳パーカーの属性変換があったが、あのときは水に変えられただけで、無に帰されたことは流石にない。
焦りを隠しながら、キシシ野郎を見渡す。
キシシ野郎は右手に剣を握っていた。刀身が百センチメトはあるだろうか。学校にも行けてねぇガキの背丈と同じぐらいの長さをしてやがるその剣は、何故だか刀身が半透明だった。
目を凝らして見てみるとようやく見えるその刀身は、向こう側が透けて見えるせいか儚げで脆く見えるが、キシシ野郎の体勢からして煉旺焔星を両断して消してみせたあたり、癪だが耐久性は見た目を裏切ってやがると認めざる得ない。
「テメェ……その剣」
「悪ぃな、その疑問には答えらんねーぜ」
キシシ、と歯の隙間から乾いた笑みをこぼしやがる。
敵に手の内を懇切丁寧に教える奴がいたら、ソイツはお人好しなんてものには程遠い、自殺願望塗れの馬鹿野郎でしかない。分かりきっていたが、面と向かって言葉にされると腹の虫が疼いてしまう。
少なくとも分かることは、アイツが持っている剣はただの剣じゃねぇってことだ。
刀身が半透明の剣なんざ今まで見たことがない。なにかしらヘンテコな効果を持つ剣だとは思うが、煉旺焔星を一瞬で消し去れる効果って一体何なんだ。俺に頭を使わせるな。
「まあいい。だったら」
自らの霊力を腕に集中させる。腕をマグマに突っ込むイメージに支配された腕は、赤熱した鋼鉄に様変わりした。
自分の腕だけを熱くするなんて真似は何気に初めてだが、煉旺焔星を腕に纏う感覚でやったら意外とすんなりできてしまった。今みたいな状況じゃないと使う機会はあんまりなさそうだが、握れば大体どんなものでも壊せそうだ。
そう、握れば。ここまで言えば俺がなにをしようとしているのか、予想がつくと思う。
足の裏からロケットを噴射するイメージを思い浮かべ、一気に距離を詰める。
コート野郎のときもそうだったが、いくら回避が上手いからといってロケット噴射で高速移動できる奴を追うなんて無理なはずだ。避けられると面倒だし、このターンで決めてみせる。
肉薄するのにかかった時間は、体感だが一秒も満たないと思う。余程の人外でもない限り反応できない速度の中、俺の意識は野郎の剣ただそれだけに向いていた。どういうカラクリなのかは分からないし、考えたって俺の筋肉百パーセントの文字通り脳筋な頭じゃ結論が出るはずもない、だからこそ何をするべきか、どうするべきかをあらゆる過程をすっ飛ばして捻り出す。
どうするか。簡単だ、握って捻って折り壊す。
刀身が半透明とはいえ刀身はあるのだから、へし折ればいいただそれだけの簡単な作業。案の定、キシシ野郎は反応できていない。わかっていたことだ、ならこれで終いに―――。
「ファッ」
何が、起こったのか。思わずクソ間抜けな甲高い声が出てしまった。
野郎の剣をへし折るため、キシシ野郎に飛びかかる形で突撃したわけだが、ほんのすぐ、それこそ相手の顔面にグーパンを入れられるぐらいの距離にまで詰めた次の瞬間、キシシ野郎の姿が跡形もなく消えたのだ。
何を言っているんだと思われるかもしれないが、言葉の通りのことが実際目の前で起こったし、そのまま素直な言葉で説明するしかない。
「べぶぁ!?」
目の前で飛び掛かる相手が消えたところで、急に止まれるはずもなく。そのまま壁にダイブした。
何が嬉しくて壁に飛び込まなきゃならんのか。痛みこそないが自分が間抜けであんまり敵の顔を直視したくない本能に駆られる。
「クソが……どうなってやがる」
流石に意味不明なので苦手な脳の運動と洒落込む。
ない頭で思い浮かぶのは、転移魔法だ。キシシ野郎は俺が飛びかかって剣の刀身を鷲掴む寸前までは目の前にいた。その次の瞬間に消滅したわけで、となると空間をすっ飛ばして回避したとしか思えない。
技能球を使っている可能性だってあるし、無詠唱で使えるのもなんらおかしくは。
「げはッ!?」
戦いの最中に考え事。良い言い方をすれば余裕の表れであり、悪い言い方をすれば油断という。
別に油断していたわけじゃないが、右上から左下へ綺麗に斬りつけられた今の状況を見れば、誰しもが言い訳だと陰口を言いふらし回るだろう。
「ク、ソ……またか、げあッ!?」
次は背中、さっきからキシシ野郎の姿がまるで見えない。鎌鼬じゃあるまいし、瞬間移動の固有能力でも使ってやがるのか。このままじゃジリ貧だ。
「だったらァ……!!」
体の奥底から湧き出すイメージを膨らませる。
大地の奥底から湧き立つ溶岩、火山活動が末期に達し、いつ噴火してもおかしくない状態にまで煮詰まった火口。
どんなカラクリか分からないが、そっちがわけのわからん真似をするってんならこっちもそれと同じぐらいのわけのわからん真似で返すまでのこと。
キシシ野郎の居場所も分からないし、どこからくるのかも五感で探れないってんなら、俺を中心に全方位に向かってありったけの霊力を放てばいい。
煉旺焔星は何故だか半透明の剣で打ち消されるし、面倒だが霊力で灼熱の熱線を形作って焼き尽くす。回避されるリスクは範囲攻撃で全力カバーだ。
「うおおおおおおおおおおおおッ!!」
体の中心に集まる熱。地中奥深くに流れるマグマを力尽くで掬い上げ、噴火を自ら起こすイメージで体内霊力を湧き立たせる。
他の奴なら一瞬で枯渇して干物になっちまうような使い方だが、俺は霊力切れを起こす心配は皆無なので、無茶苦茶な使い方をしても後に響かないのが利点だ。
かくいう煉旺焔星だって、俺の膨大な体内霊力があって初めて可能になる技だし。
身体の内側で霊力が集まったのを感じ取り、それを一気に解き放つ。俺を中心に、世界は真っ白になった。
俺の体内から放出された霊力は、火や光といった属性霊力へと変わり、熱や光として周囲を焼き尽くす。俺は熱いのは平気なのでノーダメでいられるが逆に言えば俺以外の全ては炭すら残らず燃え尽きることになる。
キシシ野郎はどこにいるのか全く分からないし捉えられないが、どこにいるのか分からないなら俺を中心に部屋ごと全部焼き尽くせばいい話で、それなら避けるもどこにいるのか分からないもクソもない。
どこにいようが部屋から出ない限りは燃え尽きて終わりだ。というか部屋から出ても凄まじい熱線を浴びることになるだろうから無事では済まないだろう。
いつもなら御玲や金髪野郎たちがいるので滅多なことじゃ使えない荒技だが、今は俺とキシシ野郎の二人だけ。周りに気を使う必要が全くないというのは、俺にとって最も戦いやすいと言える。むしろ今は御玲のことが心配なので、効率も考えると余計なことを考えずに済む今の状況が尚更都合が良いのだ。
「これで……げぅ!?」
終わり。そう言おうとした、その瞬間だった。周囲を焼き尽くす赤い熱気が、全てを凍てつかせる青い冷気に様変わりする。
身体が、凍える。体の節々、筋肉という筋肉全てが縮こまり、モチベというモチベが一気に抜け落ちる気怠さ。
俺の苦手な``寒さ``が、俺だけを切り裂く刃となって降り注いだ。
「ぐぇあああああ……………!?」
寒い、冷たい、冷たすぎる。今まで感じたことのない寒さだ。家の中で過ごす冬の凍てつく隙間風も存外にやる気を削ぎやがる害悪さだったが、今身をもって襲いかかる寒さは、その比じゃない。
気怠いだとかやる気が削がれるだとか、そんな生温い感覚すら消し飛ばす、生きた心地のしない絶望感が俺の全てを奪っていく。
「あがっ……ざむい、じぬ」
やばい、まじで。意識、飛ぶ。
俺に苦手なものは数えるほどしかないが、寒さはその中でも三本指に入るくらい嫌いだ。氷のデカブツと戦ったときも、裏鏡にゼヴルードを跳ね返されたときも、氷属性っぽい奴で気絶に追い込まれた記憶しかないし、御玲とエヴェラスタの旅に出たときも寒すぎてずっとコートを着ていたくらいだし、とにもかくにも体を暖めないことにはことには何も始まらない。
「げぅああああああ!?」
身体を暖めようと体の奥底から霊力を湧かせた瞬間。体の内側が急激に冷えた。
アイスキャンディをドカ食いしたときの感覚を一万倍増しにしたかのような、もはや冷たいというより痛いに等しい。
なんでだ、寒いしこのままだと気絶するから暖めようとしただけなのに、逆に寒くなるとかどうなってやがる。冷たいもの食いすぎて腹痛いとかそんな生温いもんじゃない、内臓がカッチコチに瞬間冷凍されているとしか思えないし、本当、さっきからなにがどうなってやがるんだ。
「寒いか。そりゃそーだろーな。キッシシ」
吹き荒れる猛吹雪と体の内側から冷え固まる下半身に悩まされる最中、どこからともなく声が聞こえた。歯の隙間からこぼれ落ちる乾いたそれには、煽りも含まれた嘲りが感じられる。
腹の底から煮える。だが煮えた瞬間、ドライアイスでもぶちまけられたかのように一瞬で冷え固まり、身体から尚更温度を奪い去っていく。
もはやなんの意味もない。霊力の流動を一切合切放棄した。
「くは……けはッ」
情け容赦ない冷気の嵐が止む。霊力の動きを止めたのだから、そうであって当然なのだが、もはやその事実に喜ぶ暇もなく、クソ間抜けにも膝が折れた。
敵の目前で、それもぶっ殺すと弥平に大見え切った相手を前に、ただのクソ雑魚みたく床を眺めるしかできなくなるなんて。
歯軋りが止まらない、奥歯を砕いてしまいそうになる。舌でも噛み切りたい気分だが、御玲を助けなきゃならない以上、こんなところで怨嗟に塗れている暇はない。
「テメェ……さっきから、なにを……」
分からない。チートだ。超能力、固有能力。何を使っているか、皆目見当がつかない。
一番考えられるのは超能力だが、仮にそうだとしても膝を折られた事実は変わらないし、どうこうするための策が思い浮かぶわけもない。
結局のところ、要因がわかったところで仕組みが分からなきゃ対策なんて捻り出せるわけがないからだ。
「だからよ、教えるわけねーよな。大体予想ついてんだろ」
ぎりり。奥歯がまた悲鳴をあげる。勢い余って口の中の皮膚も噛んだらしく、口の端から鉄の味が染み渡る。
さっきは超能力がどうのこうのと言ったが、それ以前に気になるのはアイツが右手に装備している剣だ。刀身が半透明な、巷じゃ絶対出回っていないだろう、仕組みがまるで分からん謎の剣。超能力の可能性はまだ捨て切れないが、あの謎の剣が煉旺焔星を両断して消し去ったのを、実際にこの目で捉えている。
やっぱ、返すんじゃなかったか。出たとこ勝負でなんとかなるだろとタカをくくっちまったのは誤算だった。
「まあだからってどうこうできねーみてーだが」
キシシ、と剣を帯刀したままゆっくりと俺へ近づく。
今の俺は膝を折っててほぼ無防備、霊力を使えば氷属性の現象に変えて反射するから俺が何もできないことを知った上での、堂々とした愚直で安直な接敵。
舐められてやがる、クソッタレが。歯軋りが止まらない。
「なあ。この状況、誰がどー見ても俺の勝ちだよな?」
「……あ?」
「そーだろ? 俺は立ってて、アンタは跪いてて。勝敗なんざ一目瞭然だろって」
「……ざけんな」
「いやいや、ふざけてねーって。俺はいたっておおまじ」
「ふっっざけんじゃねぇ!!」
カラッとしたクソみてぇな態度を振り撒き寝言をほざきやがるキシシ野郎を、ありったけの声量で黙らせる。
「勝ち? 勝ちだと? おいおい寝言は寝て言えよゴミが!! 俺は生きてるぞ、死んでねぇぞ、なのにテメェが勝ちで、俺が負けだと? ざけんのも大概にしやがれゴミキシシ!!」
「ゴミキシシってなんだ……虫みてーに言うなよ。それに、流石に負け惜しみがすぎるだろそれは」
呆れるキシシ野郎に対し、俺の怒りは沸点を既に超えていた。いや沸点どころか臨界点すら超えていると言っていい。火山はとうの昔に噴火し、莫大な火砕流とマグマが都市や街、村を飲み込んで全てを押し流し焼き尽くすように。
「テメェは下威区の出だからわかんねぇだろうがな……暴閥の戦いは、当主を殺さねぇ限り終わらねぇんだよ……」
怒りで体の内側からまた霊力が漏れ出そうになるが、反撃の隙を与えたくない。全力で奥底に封じ込める。
「確かに俺は膝を折ってる。クソ癪だし言葉にするだけ腹立つし殺意が湧いてきて今にも部屋ごとなにもかもぶっ壊してぇしぜってぇ認めたかねぇが認めてやるよ。だが、俺は生きてる」
ようやく身体がほぐれてきた。体温が息を吹き返しているのを確かに感じ取り、相手に悟られないように筋肉繊維を温める。
「当主の俺が生きてる限り、この戦いは終わらねぇ。テメェがどう思おうが、俺は生きてる限りテメェを必ず殺す。流川本家派当主として、テメェの存在を許すこたぁねぇからだ」
母さんから聞かされた、戦いの掟。
いずれかの暴閥の当主を殺すことこそが、戦いの真なる終わり。なぜなら当主の滅びはその血の滅びであり、その暴閥の存在意義が失くなるに等しいからだ。
だからこそ、当主は死んではならない。だからこそ、側近や雑兵を肉壁にする。
俺ら流川は魔生物を肉の盾にするが、他の暴閥はそこらの兵や側近を捨て駒にするのだと、小さい頃から母さんに耳が茹蛸になるほど聞かされてきた。
それだけ、戦いにおいて当主の生死は重要な意味を持つ。当主の生存は、その血の誇り。それを踏み躙る存在は、如何なる暴閥も絶対に許さない。
「……くだらねーな」
「あぁ?」
「くだらねー。そー言ったんだ。生きるだとか死ぬだとか、ほんっとクッソくだらねーって、そー言ってんだ」
怒りが、ぶり返す。流石に髪の毛が逆立った。せっかく封じ込めたってのに、このままだと努力が無駄になる。
「あのさ。殺して何になる? 死ぬまで嫌いな奴と戦ってさ、その先に何がある? 教えてくれ、マジで。俺にはアンタら暴閥のことが、これっぽっちも分からない」
「はあ? 敵は殺す。そんなもんは当たり前だろうが」
「当たり前じゃねーよ、おかしーだろ。道端で気に入らねぇ奴が目に入っただけで、普通殺さねーだろ」
「いんや? あんまりにも目障りなら殺すぞ? まあ流石にそんなチンピラレベルの奴なら一々相手すんのもだりぃし大概は無視するがな」
「うん。だからわかんねーんだ。俺ならダル絡みされてもスルーする。度合いにもよるが、最悪でも半殺し程度にとどめるよ。どんな理由であれ、ソイツは生きてるんだからな」
キシシ野郎の言葉が、まるで理解できなかった。いや理屈は分かる。理屈は分かるが、まるで共感ができない。急に異世界の住人に錯覚しちまうくらい、一瞬違う言語で話しているのかと考えちまうくらい、乖離的にまでに共感ができない。
ダル絡みしてもスルーする。最悪半殺し程度にとどめる。そんなの舐められるだけだし、中途半端に手を出せば無駄な禍根を残してちょっかいかけられ続けるだけだろう。
後顧の憂いを断つ意味でも、最悪ってんなら皆殺しにするか、逃すにしてもソイツにトラウマを植え付けて二度と視界に入ってこねぇよう、熱した焼き串で徹底的に恐怖って文字を刻みつけるのが筋だと思う。
少なくとも、その例え話の主人公が俺ならば、そうしてる。
「なあ、死ぬとか殺すとか、もうやめにしよーぜ。この戦い、アンタが膝を折った時点で勝敗は決してる。これ以上、やる意味がねーよ俺には」
「はあ……? 要するにテメェ、もう俺を相手するまでもねぇ雑魚だって言いてぇのか?」
「いやそうじゃない。もう決着はどう見てもついてるから、これ以上やり合う意味はねーって言ってんだよ」
「だからよォ……寝言は寝てほざけって言ってんだろうがッ!!」
頭をこれでもかと掻きむしり、苛立ちを全力で抑えつける。正直もう理性が限界を訴えかけてきているが、ここで気を緩めると反撃を許してしまいかねない。流川の当主として、同じ間抜けは二度とやらかせないのだ。
それ以前に、このクソキシシ野郎にはガツンと言ってやらんと気が済まねぇ。
「意味がねぇ? 勝手に決めてんじゃねぇぞダボが!! 意味なんざ俺が生きてるただそれだけであるんだよ!! 暴閥との戦いを、暴閥ですらねぇそこらの石ころ如きが決めんなクソが!! 舐めんのも大概にしやがれ!!」
意味がない。なんでそれをキシシ野郎如きに決められなきゃならないのか。
そりゃ暴閥の出じゃねぇからと思えば無理もない話だが、だからとはいそうですかって納得できるはずもなく。
先に手のひらを返したのはキシシ野郎で、俺と戦うことを選んだ時点で、雌雄ってのは俺かキシシ野郎、そのどちらかの生死でしか決まらない。
コイツが言う半殺しにして終わりなんざ、甘えもいいところだ。むしろ戦いを侮辱しているとしか思えない。俺の母さんの前で言ったら即刻全身ぐちゃぐちゃにされるだろう。
コイツが戦いに対してどう思っているのかなんて知らん。知ったところで汲み取る気はこれっぽっちもねぇ。暴閥に喧嘩を売るってことは、つまりは互いの生死を、命を賭けなきゃ男の意味も価値もありゃあしねぇ、ただの遊びに成り下がる。
「……はぁ」
絶賛バチギレ状態の俺とは裏腹に、キシシ野郎のため息は深かった。それはもはや呆れを通り越して、諦観に近い何かだ。
「なんつーか……ここまで強情だとどーしようもねーな……」
柄を強く握りしめる。半透明の刀身を掲げ、切先を俺へと振り向ける。
「嗚呼、やりたくねー、やりたくねーよ畜生。なにが嬉しくてアンタの未来を、人生を奪わなきゃなんねーのか。何の意味があんだよ、本当」
まだ言うか。俺には全て、寝言に聞こえる。まあ剣をあげたなら、やる気になったってことだろうし、それならもうどうだっていい。
価値観が乖離している以上、もはや話し合いじゃ何も解決しない。テメェが言う無意味な戦いとやらを終わらせるには、結局のところ力と力でぶつかり、どちらかが倒れるまで剣を奮い続けるしかないのだから。
「後悔すんなよ。アンタが始めた戦いなんだからな」
ようやくやる気になったであろうキシシ野郎、俺も怒りを闘志に変える。
「言われるまでもねぇよ、ブチ殺してやるぜ」
今のところ、勝ち筋は見えない。どうやって姿を消しているのかも、煉旺焔星を消せたのも、霊力噴射を氷属性霊力に変えて反射できたのも、何もかも意味不明だが、そんなことは関係ない。
勝ち筋が見えない、だったら穿り出して無理矢理にでも見出せばいい話。そんでサクッとぶっ倒して御玲の所へ行く。ただ、それだけだ。
ありとあらゆる工程を簡略化し、迷いの要素を消し去った俺は、持ち前の不死性で全快した身体を激励するように、刀身が紅色に輝く焔剣ディセクタムを抜く。
半透明の刀身を持つ剣を携えるキシシ野郎を、今度こそ断ち切るために。
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