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防衛西支部編
主人公ポジはやっぱ性に合わない件。
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レクたちと別れた俺は、霊子通信を飛ばしてきた奴の下へ走っていた。
霊子通信を飛ばしてきたのはトイレに行っていたブリューンだ。奴は戦闘力がそこまで高くない。色々あって魅了の霊圧を周囲に飛ばして敵意を下げたり、敵の判断力や注意力を散漫させたりすることができるものの、肉体能力はお世辞にも高いとは言いづらい。
西支部に勤め始めた駆け出しの頃の俺ぐらいに非力なアイツじゃ、人質に取られたとすりゃあ助けの一つでもしてやらないと自力でなんとかするのは無理だろう。
「たく、トイレは事前に済ませとけっていつも言って……いや、今みたいな状況でもなきゃ、むしろ遅くなるか……」
やれやれ、と櫛でといても治る気配がない天然パーマを掻きむしる。
西支部にはルールがない。中威区西部都市は中威区の最底辺、ルールなんてものは設定しても誰一人として守ろうとする者なんざいやしない。
ブリューンは男だが、見てくれは美少女である。そんな奴が西支部の男子トイレに入ればどうなるか。詳しく語るまでもない。出てくる頃には全身謎の液体でびしょ濡れ、何故か生臭い状態で俺の部屋に入ってくるまでがお約束となっている。
勘弁してほしい。風呂に入っても状況が変わらないのだから、ウチのモヒカンどもは場所問わずハッスルしすぎである。
「それだけ腰振る体力あるなら、少しは真面目に任務こなしてほしいよなあ……何もやる気が起きないとき一日中寝てる俺が言えた義理じゃねーけどさ」
肩を竦めながら誰もいなくなった男子トイレまで走ると、何かを打ち付け合う音が鼓膜を舐めまわす。思わず眉をひそめるが、ため息を吐いて治らない寝癖だらけの頭を掻きむしる。
今から小便でも行くかってくらいのテンションで中に入ると、そこには見覚えのあるような、ないようなパッとしないオッサンが、俺の存在に気づくや否や、醜悪な笑みを浮かべて見つめてきた。
「久しぶりだなぁ……ジークフリート」
「……誰?」
「しらばっくれんじゃねぇ!! オメーのせいで本部の連中にクビ切られた請負人だクソが!!」
「あー……ごめん。全然覚えてねーや」
醜悪な笑みも束の間、怒りの形相に様変わりする自称元請負人。正直、真面目に記憶にないので反応に困っている。
西支部は勤め始めてから一年後の請負人定着率が五十パーセントを割り込んでいることで有名だ。原因は色々あるが、主に殉職や機関則違反による免職が九割を占めている。
俺は西支部監督官だし、人事管理の都合上、素行があまりにも悪い奴は厳重注意しているわけだが、一人一人の免職理由とか、況してや誰がクビになったかまでは一々記憶にとどめていない。
請負人に就職して数日の新人が、ある日突然死体と化すのが日常の西支部である。一々覚えていたら、こっちの身が持たない。薄情と言われるかもしれないが、それが中威区西部都市の実情なのだ。
「お前が俺をクビにしなきゃ、今でもそれなりに食えるメシと女にありつけたんだ!! それなのにオメーがクビにしやがったおかげで、この一年どれだけみじめだったか……クソが、思い出しただけで腹が立つ!! クソがクソがクソがクソがァ!!」
「いやまあ……落ち着けよ? 正直、そんなキレられてもお前の名前すら思い出せねーしさ。とりあえず、俺のツレを踏みつけにすんのやめてもらえる?」
冷静を装っているが、ぶっちゃけこっちも堪忍袋にそれなりの負荷がかかっている。
コイツが踏みつけにしているのは俺の仲間であるブリュンヒルト、何故だか白く濁った液体でぐちゅぐちゅになっているが、そのうえ嫌いな虫を踏みつけて殺すかのような扱いされると流石に赤熱した感情をせき止めるには苦労する。
そもそも明らかに敵意があって回しているのが明白な時点で、既に不快だ。ブリューンは性行為が生き甲斐みたいな奴なので回されている自体はなんらおかしくもないのだが、明らかマグロ状態になるまで無理矢理ヤったって光景を見せられちゃあ黙っている方が難しい。
これだけの惨状を見せられても堪忍袋が破れないあたり、慣れってのはホント恐ろしいものだ。
「つーかさ、クビになった奴がこのタイミングでここに来たってことは、今の騒ぎにも関係ある奴だよな? 正直、どんな事情であれお前をボコして捕まえる必要があるんだが、それは理解してるってことでいいよね?」
「好きにしろよ、言うつもりなんざこれっぽっちもねぇけどな!! 俺はお前さえブチ殺せりゃあそれでいいんだよ!! オメーの首さえ差し出せりゃ、最高な人生が待ってるんでねェ!!」
ブヒャヒャヒャヒャと嘲笑もこもったクソキモイ笑いが便所内を反響する。
コイツがクビになった理由がなんとなく察しがついてしまったが、この際どうでもいい。コイツはおそらく今回の騒ぎの関係者、俺たちのうち、少しでも戦力を分散させるために送り込まれた駒の一人だろう。
請負人をクビにされて食い扶持を失い、管を巻いていたところを今回の騒ぎの首謀者に目を付けられ、何かしらの報酬に釣られて仲間になったってところか。
どうせ強い奴に使い潰される運命でしかないってのに、目先の褒美に釣られて人生の棒に振るとは物好きな奴としか思えないが、コイツにはコイツなりの人生ってのがある。若輩の俺が口出しすることじゃあない。
「さあジークフリート、殺し合おうぜ」
もはやどうでもいいと言わんばかりにマグロ状態で床に倒れ伏していたブリューンをご親切にも俺の方に蹴り飛ばす。
ぐは、と乾いた声をあげたブリューンにしゃがみ込み、手を差し伸べる。全身触りたくもないような生臭い粘液だらけ、もう何度も見てきたから慣れてきたとはいえ、外見年齢四十ぐらいのオッサンの体液を触りたいといまだに思えないが、手くらいなら戦う前に洗えばいい話なので、とりあえず立ち上がらせる。
「歩けるか?」
「う、うん……ありがとうジーク。ごめんね……」
「気にすんな。とりあえずくせぇからシャワー浴びてこい。そんで俺の部屋に隠れてろ」
「でもジークが……」
「問題ねぇよ。ほら、早く行って綺麗にしてきな」
静かに頷いたブリューンはどこかへと走り去っていく。確か便所の近くにシャワー室があったはずだ。補修とかしていないのでオンボロだが、オッサンの薄汚ねぇ体液を洗い流すぐらいなら十分だろう。
「んで俺を殺すんだっけ。まあ、この世界は喧嘩の強さが重要だしな。殺るってんなら殺り合おうか」
面倒くさげに、いまだ慣れないファイティングポーズをとる。構えなんて一丁前のことをしているが、俺の戦いに技術と技術のぶつかり合いも、魅せるための戦いも何もない。結局は泥臭い喧嘩殺法だ。
ベルにこの世界へ連れてこられてきてから早二年。この世界で生き抜くにはとにかく喧嘩で結果を出していかなければ話にならない。正義を貫くにせよ、悪事に手を染めるにせよ、結局は力である。
元日本育ちの俺に、この考え方を受け入れるのは骨が粉々になる思いだったが、その思いを乗り越えたからこその今があると思えば、悪堕ちしなくて良かったと心の底から思える。
ただゴッリゴリの縦社会にした流川家って奴らには、少しばかり文句を言いたい気分ではあるのだが。
自称元請負人は表情をこれでもかと歪ませ、ねっとりとした視線で俺を舐め回してくる。あからさまに怪しげな態度に、眉をひそめた。
自慢するつもりもないし、自慢できるほどの人間でもないと思っているので心の中にとどめておくが、見た目こそ覇気がなくともその実力は西支部監督官たるものだという自負がある。
かつて西支部監督官の座に君臨していたマザー・ギガレックスを下し、その実力を不動のものにして以後、西支部の請負人たちは手の平を返したように俺に対して不遜な態度をとることはなくなった。
心の底から慕っているわけじゃないだろうが、就職当初は周囲から舐められまくっていた俺が、実力を示した途端に誰もが一目置くようになったのだ。
つまり俺が西支部監督官の立場にあることを知っている元請負人だというのなら、俺の実力は少なからず知っているはずで、無策に挑めば勝ち目がない事が分かっているはずだ。
そう、無策で挑めば―――だ。
「望み通り、殺してやるよ。あの方から授かった、この力でなァ!!」
テンションマックスでなにかしら気合を入れてくれている反面、俺はというと肩を竦めていた。
雑魚だと思っていた敵が、隠し持っていたアイテムだか秘められた切り札だかでドーピングして、主人公を上回る力で暴れ回る。バトル物では十八番みたいな展開だ。
今自分はその場面に直面しているわけで、ここから先に起こる出来事はクソ面倒だということの暗示である。
物語の主人公って、いっつもこんなクソ面倒な展開を乗り越えて物語を進めているのか。ご苦労なことだ。本当に。
「``強化``……魔法が使えないお前には分からんだろうなァ!! この溢れんばかりの力をよォ!!」
当の本人が何か言っているが、特に嫉妬とかは湧いてこない。魔法は確かに使えないが、使われた魔法がどんなものかくらいは見当がついていた。
``強化``。その効果は至ってシンプルで、術者の身体能力を任意に増強する無系魔法の一種。
増強幅は術者の腕次第だが、どんな奴でも気軽に化け物レベルの肉体能力を獲得できるインスタント人外化魔法であり、シンプルだからこその使いやすさが強みなのだ。
「殺してやるぜ!!」
``強化``により、肉体の体積が三倍くらいに膨れ上がった自称元請負人は、トレーラーを彷彿とさせるほどの速さと重量感で突進をかましてきた。
``強化``の魔法効果は伊達じゃない。元が大したことのない奴だとはいえ、今のコイツに突っ込まれれば、常人なら即死もありうるだろう。下手をしたら体がはじけ飛ぶ可能性も捨てきれない。
まあこの世界の連中は肉体が丈夫な奴がちらほらいるくらいだし、普通なら死んでもおかしくない攻撃を受けても血まみれになる程度で済む場合が大概なのだが、だからこそというべきか、俺もまたこの世界の住人と化している自覚を改めて嚙みしめる。
「確かに魔法は使えないけどな、肉体能力を強化するのは何も魔法じゃなくてもいーんだよ」
ちっとも様になっていないファイティングポーズをとった身体から、白い煙のようなオーラが漏れだす。
俺は魔法が使えない。元々魔法だとかそんな概念は空想上のものっていう常識の世界出身だから当然だが、この世界に連れてこられたとき、俺はとある超能力を一つだけ授かった。その名も、``害威超克``である。
``害威超克``は通常、持っているだけじゃ何も起こらない。異世界転移物ありきの常時チート全開能力じゃないが、俺がある種の``危機``を乗り越えるたびに、その報酬として固有能力が付与されたり進化したりする超能力である。
俺がこの世界に来て二年以上。当時異世界転移者でありながら無能力だった自分は、西支部請負人として活動を進めていく過程で、それなりに固有能力を持つ人間へと成長した。
その努力の結晶の一つこそ―――固有能力``戦勇王書``。シンプルに肉体能力を強化できる固有能力である。
「シッ!!」
牽制代わりの拳をブチかましてみる。自称元請負人は難なくそれを避けるが、その代わりトイレの壁に無数のヒビが走った。
``戦勇王書``は任意の倍率で肉体能力を強化できる。この能力を使わなかった場合の俺の肉体能力は一般人とさほど変わらないのだが、強化倍率二十倍に設定するだけで、強化型霊力コンクリにヒビを入れられる程度の膂力を手にすることができるのだ。
「しかし``強化``も侮れないなぁ……ドラゴン討伐してなきゃこの固有能力手に入らなかったのに、ホントこの世界って理不尽」
へっへ、何処狙ってんだよカスちゃんと顔面狙えよバーカとか言ってくる自称元請負人の罵詈雑言をスルーしつつ、思考の海に没入する。
自慢するわけじゃないが、魔法戦争用に強化された特注の霊力コンクリ装甲壁にヒビを入れられる打撃である。常人なら俺の腕の動きを見切ることができず、頭部が柘榴の如く砕け散るだろう。
``強化``は肉体能力を単純に増強する魔法だが、牽制のために試し打ちしたパンチが軽々しく避けられてしまったあたり、動体視力もきちんと強化されているようだ。
``戦勇王書``は肉体能力を強化する固有能力というところこそ``強化``と効果は同じだが、残念ながら動体視力や条件反射能力までは強化の対象にならない。純粋に膂力のみが強化される固有能力なのだ。
相手が行使している``強化``の設定幅が分からない以上、もしも``戦勇王書``と同じくらいの倍率帯で肉体強化できるなら、反応速度面で俺が不利な戦況に追い込まれることになる。
``戦勇王書``で強化されるのは膂力のみ。そしてお世辞にも戦いの技量や才能が潤沢ってわけじゃあない。今まで乗り越えてきた数多くの危機は、そのほとんどが形勢不利な立場からの逆転が常だった。
とはいえ、俺だって監督官の端くれである。自分の能力の不足分を知らないわけがない。
「``慧帝霊書``起動」
相手に聞こえないように小声でつぶやく。
肉体能力を惜しみなく使ったパワープレイで倒せるなら``戦勇王書``で十分なのだが、それじゃ不足だと感じる場合は二つめの固有能力を並列起動して戦う。
``慧帝霊書``は演算を司る固有能力で、簡単に言えば俺の地頭を強化する固有能力である。
この固有能力は``戦勇王書``と異なり使い方が多岐にわたる能力だが、起動するだけで得られる恩恵としては、五感から得られる情報を処理する能力も強化されることだ。
これにより、動体視力が爆発的に強化される。
「ウオラァ!!」
俺の牽制パンチを受けて、それを挑発だと勝手に思ったのだろう。相手も真似して右ストレートをブチかましてくれる。
茹蛸のように火照った顔と般若のように歪んだ表情、そして感情的になってこっちを真似てくるあたり、技量や経験は大したことなさそうだと判断する。
本当に死線を潜り抜けてきた奴ってのは、敵がどんな奴だろうと冷静なものだ。たとえ見るに堪えない化け物だろうが、拳一つで高層ビルを倒壊させるフィジカルモンスターだろうが、相手に殺気が強ければ強いほど冷静沈着に場面を分析する。
俺も転移して間もない駆け出しの頃は年相応に焦って腰が引けていたし、恐怖で体が竦んで動けなくなるなんて日常茶判事だった。死と隣り合わせ、そんなことを考えるだけで夜は眠れず飯は喉を通らないなんてことは普通だった。
でもクソザコだった当時の俺の面倒を見てくれた先輩請負人は、戦場では常に冷静に場を分析する大事さを、身体と実地で教えてくれた。戦場では焦った奴と正気を失った奴から死んでいく。それは転移してから二年間で、全て本当のことだったのだから。
無策に突き出された右ストレート、``強化``で増強された相手の腕力は、俺と同じくらいかそれ以上だろうか。強化型霊力コンクリ装甲壁を軽々粉砕する威力を誇っていたが、なんのことはなかった。
``慧帝霊書``で強化された俺の動体視力では、コイツの右ストレートはスーパースローカメラで撮影した動画を再生しているようにしか見えていない。当たる方が難しいくらいだ。
「ぐべぁ!?」
渾身の右ストレートを華麗に避けられ、ガラ空きになった相手の左頬に強化済み腕力の右フックをお見舞いする。
相手の体勢が簡単に崩れてくれた。間髪入れずジャブを叩きこみ、壁側に押し込んでいく。
しかし``強化``の効果は伊達じゃあない。顔面に右フックが入ったことで揺らいだ意識も五秒も経たないうちに元に戻る。
反撃へ転じようと目を血走らせてくるが、反撃させる暇を与えるつもりなど当然ない。フックなどの威力の高い打撃をコンスタンスに浴びせかけ、適宜意識を刈り取る。
俺もバトルスタイルは固有能力頼りで、他に活かせるとしたら実戦経験を積みまくったことで得た度胸ぐらいなものだ。ジャブとかフックとかストレートとか、用語こそ知識として知っているが、相手がプロの格闘家とかだったら笑い者レベルの技量しか持ち合わせていない。だからこそ``慧帝霊書``が光り輝くわけである。
``慧帝霊書``は、何も動体視力を強化するだけの固有能力じゃない。五感から得た情報を処理し、分析する機能も持っている。相手の動き、息遣い、目の向き、その全て。俺が感じ取った全てを分析した上で、最適な一撃を繰り出すのに必要な力と動きを教えてくれる。
``慧帝霊書``との連携は些か練習が必要だったが、要は慣れだ。血の匂いが薄まることのない中威区西部で、``慧帝霊書``と完璧な二人三脚を繰り広げるまでに目立った苦労を背負うことはなかった。
戦闘技量が伴っていないだけに半ば自動戦闘感が否めないが、反則とは思っていない。戦争とは無縁の世界から連れてこられた身、これくらいはハンデの範疇である。
スポーツの試合をやっているわけでなし、むしろこの世界では反則の一つや二つ使えないと生きていけないぐらい理不尽なので、半自動戦闘など物の数に入らないと思う。世の中、上には上がいるものなのだ。
「ヂィ!! ぐぞがぁ!!」
一方的に殴られ続けていたのだから、当然か。サンドバッグ扱いにしびれを切らし、自称元請負人の拳が赤く光りだす。
スーパースローカメラと化している俺の眼は、その変化を見逃さない。すぐさまバックステップで大袈裟に距離をとった。
別にバックステップをする必要はどこにもない。相手が少し気合を入れてこっちの攻撃に耐えてきただけなので、また意識を刈り取ってハメてしまえば良かったのだが、相手も元請負人を自称するだけあって、このままサンドバッグになってくれるほど馬鹿じゃない。
俺は使えないので詳しくないのだが、度重なる実地経験が瞬時に相手の変化が何なのかの結論を出してくれていた。
「……魔術か」
相手に聞こえないくらい小さい声は、空気に染み込み消えていく。
魔術。簡単に言うと魔法陣なしで扱える魔法の簡易版である。
この世界には``魔術``と``魔法``という二つの体系があり、この二体系を嗜む奴らからはまとめて``魔導``と呼ばれている。
誰向けに発明されたのかは知らないが、``魔法``は効果が強力な反面、消費する体内霊力が果てしなく多いらしい。並みの奴らでは魔法一発放っただけで体内霊力が枯渇してしまうほどで、体内霊力が尽きた奴はすぐさま途方もない疲労感で動けなくなるのだから、とてもじゃないが戦いながら使うには適していない。
その現状から、体内霊力が乏しい奴らでも嗜めるようにと誰かが造った体系が``魔術``なのだそうだ。
基本的に武市のほとんどの奴らは``魔術``を使う。西支部請負人もほぼ全員が魔術しか使えず、唯一``魔法``を使えるのはベルぐらいなものだ。
自称元請負人は``魔術``を使える。``魔術``は属性適性に関係なく霊力が少しでもあれば大体使えるらしいので、拳が淡い赤色に光ったあたり、使ってきたのは火属性の魔術だろう。
火属性の魔術といえばライターやチャッカマン程度の、それこそ火起こしにしか使えないような火力が一般的だが、攻撃系ともなると火力はガスバーナーぐらいにまで跳ね上がる。
流石にガスバーナークラスの火力を無策に受けてしまうと大火傷は免れない。ロールプレイングゲームじゃあるまいし、回復魔法などという都合の良いものは当然使えないので、拳が鈍るような怪我は可能な限りしないように立ち回るのが定石だ。
「へへ、おいどうしたよ西支部監督官様よォ? 俺ぁただ拳を振り上げただけだぜ? ビビってんのか? ああ?」
「いやー、ちゃんと魔術は使えたんだなぁと。元請負人って肩書はブラフじゃないってことだけは理解したぜ」
「ああ!? 最初に言ったろうが!! そも請負人じゃなきゃ攻撃系魔術使えるわけねーだろボケ!! 馬鹿にしやがって……!!」
いい感じに煽りに乗ってくれたので、内心ほくそ笑む。
コイツは何の因果か、俺に憎しみを抱いているらしいので、テキトーに挑発っぽい台詞でも投げればキレてくれるだろうとの目算で投げかけたのだが、ここまでハマってくれるとは、当時の俺は一体コイツに何をしてしまったのだろうか。
ともかく、これでしばらく戦場を冷静に分析する余裕はないだろう。茹蛸になってくれる時間が長いほど、俺は戦いを有利に進められる。さっきも言ったが、戦いは焦った奴や正気を失った奴から死んでいくのだ。
【属性霊力を探知。物理属性系耐性を設定します】
脳内で女性の声が鳴り響く。
これを聞けば、異世界転生物を読み慣れている奴なら世界からの通達文かなとか、主人公がレベルアップしたときに出る吹き出しの文かなとか色々想像すると思うが、世界に住まう人々に親身なシステムなど、この世界には存在しない。これは``慧帝霊書``の声である。
物理属性系耐性とは火、水、地、風、雷、氷の六属性霊力によるダメージを最大九割九分減らす耐性の一種だ。ただし九割九分に設定すると吐き気すら催す激しい頭痛で狂い死にそうになるので、今の俺だと各属性耐性最大四割が実用ラインである。
とはいえ全て一律四割に設定なんてしたら、それなりの頭痛が伴う。したがって近接戦で最も厄介な火、雷、氷を三割。水、地、風を五分に設定する。これで魔法が使われない限りはダメージを気にせずに殴り倒せるだろう。
激情した相手は、俺に魔術を込めた打撃が効くものだとかなり油断している。そのせいか右ストレートも大振りだ。肉体能力は拮抗しているし、魔術への対策は仕込んでいる。ここからはさっきより積極的に前へ出る。
殴打、殴打、殴打、蹴り、殴打、蹴り―――相手がガードしてきたら蹴りで崩し、隙あらば頭を狙って意識を奪う。基本的に反撃の隙を与えない流れで、相手が消耗するのを待つだけ。
そう、待つだけでいいのだ。
「ぐ……あ……?」
殴り続けられてなお、気丈に反撃に転じようともがいていた元請負人は突然生気が抜けたような表情を浮かべ、膝から崩れ落ちる。
自分でも何か起こったか理解していないようで、崩れた膝や背中あたりを触り、何が起きたか懸命に理解しようとしていた。
容易に挑発に乗ってしまう気質、相手の変化への無警戒、そしてなにより冷静さの欠如。これらが揃っている時点で、魔法に関する知識も薄々だが持ち合わせていないだろうと踏んでいた。
実は、``強化``は一般的に使われない。シンプルな身体強化の魔法だが、この世界の強者という奴らはストイックで、そんな魔法に貴重な体内霊力を割くくらいなら、純粋にフィジカル鍛えるか技術を磨いて手数を増やせばいいと考えている奴らが大半を占める。
実際、俺も最初はこの魔法クソ便利だなと思っていたが、ベルに効果を聞いた直後に魔法使いの連中がこぞってこの魔法を使おうとしない理由に納得がいったものだ。
``強化``はシンプルに肉体強化を行える反面、魔法陣が肉体への負荷を考慮していない。それが``強化``が抱える、致命的な弱点である。
超短期決戦ならば選択肢に入れてもいいが、この魔法を使用した時点で術者は貴重な体内霊力と肉体強化を引き換えに継戦能力を放棄するのと同義であり、超短期決戦に持ち込める見通しがない限りは使用するべきではない―――というのがベルの結論だった。
つまり、元請負人はスタミナ切れを起こしてしまったのである。
「く、くそ!! な、んで……!!」
拳を床にたたきつけて痛みで己を奮い立たせ、なんとか下半身に力を込めようともがくが、現実は無情だった。彼の腹より下は既に事切れてしまっているのだ。
ベル曰く身体強化は自分の限界を知る者、戦いを深く知る者にのみ許された技であり、素人が手を出していい代物じゃないらしい。世界観がファンタジーな漫画や小説だと登場人物は割と当たり前のように身体強化魔法を使っていたと思うが、現実は選ばれし強者にしか許されない御業のようだ。
かくいう俺も駆け出しの頃は固有能力で身体強化しまくった結果、その翌日は凄まじい筋肉痛でベッドの虫と化していた。現実はいつだってそんなもんである。
「つーわけだが、どうする? 正直降伏してくれると嬉しいんだが?」
魔法の効果が切れ、息が上がってしまっている元請負人の前にウンコ座りをし、顔を覗く。元請負人からは未だ殺気が消えていないが、身体は依然として言うことを聞いてくれないようだ。
``強化``で限界知らずの身体強化を行ったのだから、いずれ強化の代償は放っておいても全身を蝕む。おそらくもう上半身にも反動がきているだろうし、既に戦える状態でないことは、彼が一番理解しているはずだ。
「ふ……ざけ……」
体を折り曲げ、過呼吸気味の元請負人。肉体疲労が肺に達したようだ。俺はおもむろに立ち上がった。
「待てよ……!!」
もう既に腕の力も入らないはずなのに、がっしりとズボンの裾を掴んでくる力は強い。思わず元請負人へ振り向いた。
「俺はな……お前のせいで人生狂わされたんだよ……! 元々この中威区西部で、クソと泥ばっか啜って生きてきて、ようやく人生が軌道に乗り始めたところだったんだよ……!」
「でもお前、請負人やめさせられたんだろ? 機関則に抵触するような違反行為をしてたんじゃねーの?」
掠れた声音で力強く訴えてくるが、そんなことは関係ない。
第一、俺に請負人をクビにする権限はない。西支部監督官として相応の権限は請負機関本部からもらっているが、その中に請負人の罷免は含まれていないのだ。むしろ俺よりも任務請負証そのものの拘束力の方が強大なのである。
請負人に就職する際、支部の自動登録機で発行してもらえる任務請負証は公平公正で有名だ。
任務請負機関本部にいると言われている重鎮、``三大魔女``の手によって造られた任務請負証は、ベル曰く一種の魔法契約媒体であるらしい。請負人としての身分と自由を認める代わりに、請負人たちは機関則を厳守する義務を背負う。それが請負人になる上で、任務請負機関本部と交わす絶対的な契約だ。
任務請負証は、所持者がどういう意図で、どういう経緯で、如何なる機関則に反したかを常に監視しており、違反した場合は任務請負証を介して本部から罰則が下される。
おそらくコイツは、その仕組みを知らないまま懲戒解雇命令が下ったのだろう。気の毒な気もしなくもないが、違反するのが悪いし、任務請負証の仕組みを知らないのも悪い。情状酌量の余地など皆無なのだ。
「クソが……!! そうでもしねぇと生きていけねぇ奴だっているんだよ、この世は結局弱肉強食、強い奴じゃなきゃ生きてる意味も価値もねぇ!! そんなクソッタレな世界なんだ!!」
思わず、言葉に詰まった。
コイツが正しいわけじゃない。生きていけないからといって規則を破っていい理由にはならないし、世界がクソッタレだからといって自分の弱さを前に開き直っていいわけもない。
それが許されるのなら、俺だって元の世界じゃ学校に行くのが億劫だったし、面倒って理由でサボりまくっていただろう。
当然そんな真似が許されないように、この世界にはこの世界の理がある。その世界の枠組みの中で生きているなら、そのルールの中で生きていくしかないのだ。
この世界が元の世界と違うのは、強大な力さえ持てば、世界の理を無視できるところだろうか。元の世界じゃ、一個人に力が集約しないような世界だったので俺だってそこは理不尽に感じてはいる。
だからこそだろうか、コイツの言い分に共感できるところがあるのは。
コイツにはこの世界を生き抜くだけの力がなかった。だから禁忌に手を染めたのだろうが、俺もこの世界に連れてこられたばかりの頃は、力なんて持ち合わせちゃいなかった。
異世界転移・転生物でよくある異世界を生き抜くためのチート能力を女神だかなんだかに付与されたわけでもなく、ゲームのアバターに憑依した状態で転移したわけでもなく、この世界の強者に魂だけ転生したわけでもない。元の世界にいた頃と全く同じ状態で、俺はこの世界に連れてこられた。
最初はつらかった。請負人としてのイロハを教えてくれた親切な先輩たちは紛争で死んでいき、自分より上位の請負人には虐げられる日々。何度も死のうと思ったし、死と常に隣り合わせにいる職業ゆえにいつか勝手に死ねるだろうと思うようになっていた。
強者のみが安寧と平和、理想と秩序を手にし、弱者には否応なく混沌と無秩序が叩きつけられる世界。何度煮え湯を飲まされたかも分からない。強者のみが優遇される実情に、俺も心底絶望したものだ。
弱者が抱く絶望を知っているからこそ、目の前に倒れ伏し恨めしく俺を睨むコイツの言い分も気持ちもわかる。俺もブリューンやギガレックスと出会わなかったら、コイツと同じ立場になっていたかもしれないのだから。
「あーあ……やっぱ、傍観者だよなあ……主人公ポジなんざガラじゃねーんだよ」
傍観者は嫌われると思う。当事者が逆境を乗り越えるところを眺めているだけでいいのだから、これ以上楽に感情移入できる立場はない。小説も漫画も、根底にあるのは娯楽だ。俺も、異世界転移させられる前はそう思って疑ったことはなかった。
結局は理想でしかない。現実は常に非情だ。
子供の頃ってのは世の中の汚いものが理解できないものだ。知る機会も触れる機会もほとんどないのだから当然といえば当然だが、年を重ねるにつれて、理想に対する現実が重くのしかかってくる。
そもそも俺に困っている人を助ける余裕はなかった。小中高と勉強に追われ、部活に追われ、クラスの奴らとそれなりに仲良くしないといけない日々。それが楽しくなかったわけじゃない。普通に楽しかったが、つらくもあった。
気がつけば将来の夢を見ることも忘れていた。勉強がつらい。小中高と学年が進むにつれ、学力ってものに振り回されるようになってくる。成績のことを気にせずにはいられなくなってくる。
結局俺も他の奴らと同じく、自分のことで手一杯。勉強、部活に進路と、その日その日を凌ぐのが精一杯の学生にすぎなかった。
だから一度は何もかも諦めた。夢を見ることも、叶えることも、全て。
普通に生きて、普通に働いて、普通に結婚して、普通に家庭を持って、そして普通に余生を送って死ぬ。年を重ねていくうちに、学生ながらもそれが一番安定で楽な人生なのだと、無意識に思うようになっていたのだ。
でも、今は違う。当事者だ。
ベルに異世界転移させられて、日本からこの世界に連れてこられて、二年間死に物狂いで生きてきたらドラゴン殺しの異名を手に入れて。
元々はどこにでもいるただのモブ男子高校生だったのに、今やライトノベルでありがちな主人公ポジションに収まっている。
これは運命か神の悪戯か。いや、嫌がらせだろう。俺だって大多数と変わらない、苦労して逆境を乗り越えようとその人生の瞬きを輝かせる主人公の活躍を、文字や絵の向こう側から楽しめたらそれで満足する人種なのだ。
「まあ……子供の頃は憧れてたからな。クソッタレな悪をブチのめす、``勇者``ってやつに」
俺がコイツの言い分に加担しない理由。共感こそすれ賛同しない理由は至ってシンプルで、そして馬鹿らしいものだ。
昔の俺も周囲の奴らの例に漏れず、週末の朝に毎週放送されていた勧善懲悪物のアニメにハマっていたガキの一人だった。悪役に惚れるとかいう逆張りなんてものもない、ヒーローに純粋で真っ当な憧れを抱いていたガキの一人。
小さい頃といえば将来の夢が腐るほどあった。警察官、消防隊員、医者、政治家、裁判官。悪を裁く正義の味方を体現するものすべてに憧れた。本気でなろうと思ったことは一度や二度じゃあない。
俺はこの世界に来て再び目指そうと思ったのだ。守るべき仲間ができた、いつかは守るべき女もできるかもしれない。ここはどうせ異世界だし、いつ死ぬかもしれぬ人生、だったら破天荒にガキみてーな夢を体現してみるのも悪くないと、そう思ったのである。
「ハッ……!! 長生きできやしねぇぜ、理想に溺れて早死にしやがれ……!!」
力尽きた。そう確信したその瞬間だった。
どこから取り出したのか、片手に握られた技能球。しかしそれは、一筋の光すら通さないほど黒く塗り潰されていて、気味が悪い。
嫌な予感ってのは大概当たるものである。物事の終わり際は特に酷い。困窮しているときに限って起こるのだからタチが悪いことこの上ないのだ。
確かにコイツは手応えなかったし、あっさりしていると思っていたけれど、あっさりしているならこれで終わっていいと思うんだ。敵が火事場の馬鹿力とか発揮されると尺が伸びるわけで、その分余計に付き合わされるわけで、俺としてはしんどいわけでして。
弱音を吐いたところで、結果が変わるわけもなく。光すら通さない漆黒の技能球から、黒い靄が現れた。
「我が復讐のため、我らが眷属の魂を捧げん!! ``捧贄蘇生``!!」
それっぽい台詞を叫んだ瞬間、技能球から滲み出した黒い靄が、目にも留まらぬ速さで元請負人を蝕み、全身を真っ黒に染め上げる。
体の輪郭が溶けるように消え、光を一切通さない黒色のスライムへと姿を変えた。
もはやこれが元々人間だったと唱えても誰も信じまい。人間が黒くなって溶けるなんぞホラー映画か何かだと錯覚してしまうが、日本にいた頃ならホラー映画の演出だろと冗談めかしく受け流せたところだったろう。
しかしこれは現実だ。現に人が溶けて、黒色のスライムと化した。ファンタジーといえば聞こえはいいが、実際にその目で見ると背筋が凍りついてしまう。
「……あ、おい!! 待て!!」
黒色のスライムが尋常じゃないジャンプ力を披露するや否や、俺の背を軽々飛び越えて廊下へ躍りでた。
すかさず追いかけるが、全く距離が縮まらない。肉体強化しているにもかかわらず、黒色のスライムは異様な速度で西支部ビルの廊下を疾駆する。
もはや子供って年でもない、元高校生の男がひとりでに跳ね回るスライムを追いかける絵面は中々気恥ずかしさを禁じ得ないが、それ以上に嫌な予感が更に強く警鐘を鳴らしている。
スライムが向かっている方向が、レクさんや御玲さんがいる地下シェルターの方角だったからだ。
走り回っている間に地下シェルターフロアに繋がる地下一階の階段まで辿り着く。入口前には正門を守っているはずのブルー・ペグランタンと大百足、澄男という新人と使い魔たち、そしてギガレックスの野郎が地下シェルターに続く地下二階への階段を阻むように陣取っていた。
「お前ら、なんでここに……」
正門の守りはどうした、と言葉を続けようとしたそのとき。ブルーたちが対峙している何かが目に入り、状況を否が応でも理解する。
ブルーたちの目の前に聳え立つは、暗黒のスライム。それも追いかけていたスライムの何十倍もの大きさのスライムである。その気になれば、この場にいる全員を埋め尽くせてしまうほどの質量を感じさせるそれは、追いかけていたスライムを片割れと言わんばかりに取り込むと、今度はどんどん縮んでいく。
縮む速度は尋常じゃない。物理法則を軽々しくあざ笑うように、質量保存の法則を無視して小さくなるそれは、徐々に徐々に人の姿をかたどり始める。
人の輪郭が明確になってくると、急速に縮んだそれは背の高い女性の血肉と化したのだった。
霊子通信を飛ばしてきたのはトイレに行っていたブリューンだ。奴は戦闘力がそこまで高くない。色々あって魅了の霊圧を周囲に飛ばして敵意を下げたり、敵の判断力や注意力を散漫させたりすることができるものの、肉体能力はお世辞にも高いとは言いづらい。
西支部に勤め始めた駆け出しの頃の俺ぐらいに非力なアイツじゃ、人質に取られたとすりゃあ助けの一つでもしてやらないと自力でなんとかするのは無理だろう。
「たく、トイレは事前に済ませとけっていつも言って……いや、今みたいな状況でもなきゃ、むしろ遅くなるか……」
やれやれ、と櫛でといても治る気配がない天然パーマを掻きむしる。
西支部にはルールがない。中威区西部都市は中威区の最底辺、ルールなんてものは設定しても誰一人として守ろうとする者なんざいやしない。
ブリューンは男だが、見てくれは美少女である。そんな奴が西支部の男子トイレに入ればどうなるか。詳しく語るまでもない。出てくる頃には全身謎の液体でびしょ濡れ、何故か生臭い状態で俺の部屋に入ってくるまでがお約束となっている。
勘弁してほしい。風呂に入っても状況が変わらないのだから、ウチのモヒカンどもは場所問わずハッスルしすぎである。
「それだけ腰振る体力あるなら、少しは真面目に任務こなしてほしいよなあ……何もやる気が起きないとき一日中寝てる俺が言えた義理じゃねーけどさ」
肩を竦めながら誰もいなくなった男子トイレまで走ると、何かを打ち付け合う音が鼓膜を舐めまわす。思わず眉をひそめるが、ため息を吐いて治らない寝癖だらけの頭を掻きむしる。
今から小便でも行くかってくらいのテンションで中に入ると、そこには見覚えのあるような、ないようなパッとしないオッサンが、俺の存在に気づくや否や、醜悪な笑みを浮かべて見つめてきた。
「久しぶりだなぁ……ジークフリート」
「……誰?」
「しらばっくれんじゃねぇ!! オメーのせいで本部の連中にクビ切られた請負人だクソが!!」
「あー……ごめん。全然覚えてねーや」
醜悪な笑みも束の間、怒りの形相に様変わりする自称元請負人。正直、真面目に記憶にないので反応に困っている。
西支部は勤め始めてから一年後の請負人定着率が五十パーセントを割り込んでいることで有名だ。原因は色々あるが、主に殉職や機関則違反による免職が九割を占めている。
俺は西支部監督官だし、人事管理の都合上、素行があまりにも悪い奴は厳重注意しているわけだが、一人一人の免職理由とか、況してや誰がクビになったかまでは一々記憶にとどめていない。
請負人に就職して数日の新人が、ある日突然死体と化すのが日常の西支部である。一々覚えていたら、こっちの身が持たない。薄情と言われるかもしれないが、それが中威区西部都市の実情なのだ。
「お前が俺をクビにしなきゃ、今でもそれなりに食えるメシと女にありつけたんだ!! それなのにオメーがクビにしやがったおかげで、この一年どれだけみじめだったか……クソが、思い出しただけで腹が立つ!! クソがクソがクソがクソがァ!!」
「いやまあ……落ち着けよ? 正直、そんなキレられてもお前の名前すら思い出せねーしさ。とりあえず、俺のツレを踏みつけにすんのやめてもらえる?」
冷静を装っているが、ぶっちゃけこっちも堪忍袋にそれなりの負荷がかかっている。
コイツが踏みつけにしているのは俺の仲間であるブリュンヒルト、何故だか白く濁った液体でぐちゅぐちゅになっているが、そのうえ嫌いな虫を踏みつけて殺すかのような扱いされると流石に赤熱した感情をせき止めるには苦労する。
そもそも明らかに敵意があって回しているのが明白な時点で、既に不快だ。ブリューンは性行為が生き甲斐みたいな奴なので回されている自体はなんらおかしくもないのだが、明らかマグロ状態になるまで無理矢理ヤったって光景を見せられちゃあ黙っている方が難しい。
これだけの惨状を見せられても堪忍袋が破れないあたり、慣れってのはホント恐ろしいものだ。
「つーかさ、クビになった奴がこのタイミングでここに来たってことは、今の騒ぎにも関係ある奴だよな? 正直、どんな事情であれお前をボコして捕まえる必要があるんだが、それは理解してるってことでいいよね?」
「好きにしろよ、言うつもりなんざこれっぽっちもねぇけどな!! 俺はお前さえブチ殺せりゃあそれでいいんだよ!! オメーの首さえ差し出せりゃ、最高な人生が待ってるんでねェ!!」
ブヒャヒャヒャヒャと嘲笑もこもったクソキモイ笑いが便所内を反響する。
コイツがクビになった理由がなんとなく察しがついてしまったが、この際どうでもいい。コイツはおそらく今回の騒ぎの関係者、俺たちのうち、少しでも戦力を分散させるために送り込まれた駒の一人だろう。
請負人をクビにされて食い扶持を失い、管を巻いていたところを今回の騒ぎの首謀者に目を付けられ、何かしらの報酬に釣られて仲間になったってところか。
どうせ強い奴に使い潰される運命でしかないってのに、目先の褒美に釣られて人生の棒に振るとは物好きな奴としか思えないが、コイツにはコイツなりの人生ってのがある。若輩の俺が口出しすることじゃあない。
「さあジークフリート、殺し合おうぜ」
もはやどうでもいいと言わんばかりにマグロ状態で床に倒れ伏していたブリューンをご親切にも俺の方に蹴り飛ばす。
ぐは、と乾いた声をあげたブリューンにしゃがみ込み、手を差し伸べる。全身触りたくもないような生臭い粘液だらけ、もう何度も見てきたから慣れてきたとはいえ、外見年齢四十ぐらいのオッサンの体液を触りたいといまだに思えないが、手くらいなら戦う前に洗えばいい話なので、とりあえず立ち上がらせる。
「歩けるか?」
「う、うん……ありがとうジーク。ごめんね……」
「気にすんな。とりあえずくせぇからシャワー浴びてこい。そんで俺の部屋に隠れてろ」
「でもジークが……」
「問題ねぇよ。ほら、早く行って綺麗にしてきな」
静かに頷いたブリューンはどこかへと走り去っていく。確か便所の近くにシャワー室があったはずだ。補修とかしていないのでオンボロだが、オッサンの薄汚ねぇ体液を洗い流すぐらいなら十分だろう。
「んで俺を殺すんだっけ。まあ、この世界は喧嘩の強さが重要だしな。殺るってんなら殺り合おうか」
面倒くさげに、いまだ慣れないファイティングポーズをとる。構えなんて一丁前のことをしているが、俺の戦いに技術と技術のぶつかり合いも、魅せるための戦いも何もない。結局は泥臭い喧嘩殺法だ。
ベルにこの世界へ連れてこられてきてから早二年。この世界で生き抜くにはとにかく喧嘩で結果を出していかなければ話にならない。正義を貫くにせよ、悪事に手を染めるにせよ、結局は力である。
元日本育ちの俺に、この考え方を受け入れるのは骨が粉々になる思いだったが、その思いを乗り越えたからこその今があると思えば、悪堕ちしなくて良かったと心の底から思える。
ただゴッリゴリの縦社会にした流川家って奴らには、少しばかり文句を言いたい気分ではあるのだが。
自称元請負人は表情をこれでもかと歪ませ、ねっとりとした視線で俺を舐め回してくる。あからさまに怪しげな態度に、眉をひそめた。
自慢するつもりもないし、自慢できるほどの人間でもないと思っているので心の中にとどめておくが、見た目こそ覇気がなくともその実力は西支部監督官たるものだという自負がある。
かつて西支部監督官の座に君臨していたマザー・ギガレックスを下し、その実力を不動のものにして以後、西支部の請負人たちは手の平を返したように俺に対して不遜な態度をとることはなくなった。
心の底から慕っているわけじゃないだろうが、就職当初は周囲から舐められまくっていた俺が、実力を示した途端に誰もが一目置くようになったのだ。
つまり俺が西支部監督官の立場にあることを知っている元請負人だというのなら、俺の実力は少なからず知っているはずで、無策に挑めば勝ち目がない事が分かっているはずだ。
そう、無策で挑めば―――だ。
「望み通り、殺してやるよ。あの方から授かった、この力でなァ!!」
テンションマックスでなにかしら気合を入れてくれている反面、俺はというと肩を竦めていた。
雑魚だと思っていた敵が、隠し持っていたアイテムだか秘められた切り札だかでドーピングして、主人公を上回る力で暴れ回る。バトル物では十八番みたいな展開だ。
今自分はその場面に直面しているわけで、ここから先に起こる出来事はクソ面倒だということの暗示である。
物語の主人公って、いっつもこんなクソ面倒な展開を乗り越えて物語を進めているのか。ご苦労なことだ。本当に。
「``強化``……魔法が使えないお前には分からんだろうなァ!! この溢れんばかりの力をよォ!!」
当の本人が何か言っているが、特に嫉妬とかは湧いてこない。魔法は確かに使えないが、使われた魔法がどんなものかくらいは見当がついていた。
``強化``。その効果は至ってシンプルで、術者の身体能力を任意に増強する無系魔法の一種。
増強幅は術者の腕次第だが、どんな奴でも気軽に化け物レベルの肉体能力を獲得できるインスタント人外化魔法であり、シンプルだからこその使いやすさが強みなのだ。
「殺してやるぜ!!」
``強化``により、肉体の体積が三倍くらいに膨れ上がった自称元請負人は、トレーラーを彷彿とさせるほどの速さと重量感で突進をかましてきた。
``強化``の魔法効果は伊達じゃない。元が大したことのない奴だとはいえ、今のコイツに突っ込まれれば、常人なら即死もありうるだろう。下手をしたら体がはじけ飛ぶ可能性も捨てきれない。
まあこの世界の連中は肉体が丈夫な奴がちらほらいるくらいだし、普通なら死んでもおかしくない攻撃を受けても血まみれになる程度で済む場合が大概なのだが、だからこそというべきか、俺もまたこの世界の住人と化している自覚を改めて嚙みしめる。
「確かに魔法は使えないけどな、肉体能力を強化するのは何も魔法じゃなくてもいーんだよ」
ちっとも様になっていないファイティングポーズをとった身体から、白い煙のようなオーラが漏れだす。
俺は魔法が使えない。元々魔法だとかそんな概念は空想上のものっていう常識の世界出身だから当然だが、この世界に連れてこられたとき、俺はとある超能力を一つだけ授かった。その名も、``害威超克``である。
``害威超克``は通常、持っているだけじゃ何も起こらない。異世界転移物ありきの常時チート全開能力じゃないが、俺がある種の``危機``を乗り越えるたびに、その報酬として固有能力が付与されたり進化したりする超能力である。
俺がこの世界に来て二年以上。当時異世界転移者でありながら無能力だった自分は、西支部請負人として活動を進めていく過程で、それなりに固有能力を持つ人間へと成長した。
その努力の結晶の一つこそ―――固有能力``戦勇王書``。シンプルに肉体能力を強化できる固有能力である。
「シッ!!」
牽制代わりの拳をブチかましてみる。自称元請負人は難なくそれを避けるが、その代わりトイレの壁に無数のヒビが走った。
``戦勇王書``は任意の倍率で肉体能力を強化できる。この能力を使わなかった場合の俺の肉体能力は一般人とさほど変わらないのだが、強化倍率二十倍に設定するだけで、強化型霊力コンクリにヒビを入れられる程度の膂力を手にすることができるのだ。
「しかし``強化``も侮れないなぁ……ドラゴン討伐してなきゃこの固有能力手に入らなかったのに、ホントこの世界って理不尽」
へっへ、何処狙ってんだよカスちゃんと顔面狙えよバーカとか言ってくる自称元請負人の罵詈雑言をスルーしつつ、思考の海に没入する。
自慢するわけじゃないが、魔法戦争用に強化された特注の霊力コンクリ装甲壁にヒビを入れられる打撃である。常人なら俺の腕の動きを見切ることができず、頭部が柘榴の如く砕け散るだろう。
``強化``は肉体能力を単純に増強する魔法だが、牽制のために試し打ちしたパンチが軽々しく避けられてしまったあたり、動体視力もきちんと強化されているようだ。
``戦勇王書``は肉体能力を強化する固有能力というところこそ``強化``と効果は同じだが、残念ながら動体視力や条件反射能力までは強化の対象にならない。純粋に膂力のみが強化される固有能力なのだ。
相手が行使している``強化``の設定幅が分からない以上、もしも``戦勇王書``と同じくらいの倍率帯で肉体強化できるなら、反応速度面で俺が不利な戦況に追い込まれることになる。
``戦勇王書``で強化されるのは膂力のみ。そしてお世辞にも戦いの技量や才能が潤沢ってわけじゃあない。今まで乗り越えてきた数多くの危機は、そのほとんどが形勢不利な立場からの逆転が常だった。
とはいえ、俺だって監督官の端くれである。自分の能力の不足分を知らないわけがない。
「``慧帝霊書``起動」
相手に聞こえないように小声でつぶやく。
肉体能力を惜しみなく使ったパワープレイで倒せるなら``戦勇王書``で十分なのだが、それじゃ不足だと感じる場合は二つめの固有能力を並列起動して戦う。
``慧帝霊書``は演算を司る固有能力で、簡単に言えば俺の地頭を強化する固有能力である。
この固有能力は``戦勇王書``と異なり使い方が多岐にわたる能力だが、起動するだけで得られる恩恵としては、五感から得られる情報を処理する能力も強化されることだ。
これにより、動体視力が爆発的に強化される。
「ウオラァ!!」
俺の牽制パンチを受けて、それを挑発だと勝手に思ったのだろう。相手も真似して右ストレートをブチかましてくれる。
茹蛸のように火照った顔と般若のように歪んだ表情、そして感情的になってこっちを真似てくるあたり、技量や経験は大したことなさそうだと判断する。
本当に死線を潜り抜けてきた奴ってのは、敵がどんな奴だろうと冷静なものだ。たとえ見るに堪えない化け物だろうが、拳一つで高層ビルを倒壊させるフィジカルモンスターだろうが、相手に殺気が強ければ強いほど冷静沈着に場面を分析する。
俺も転移して間もない駆け出しの頃は年相応に焦って腰が引けていたし、恐怖で体が竦んで動けなくなるなんて日常茶判事だった。死と隣り合わせ、そんなことを考えるだけで夜は眠れず飯は喉を通らないなんてことは普通だった。
でもクソザコだった当時の俺の面倒を見てくれた先輩請負人は、戦場では常に冷静に場を分析する大事さを、身体と実地で教えてくれた。戦場では焦った奴と正気を失った奴から死んでいく。それは転移してから二年間で、全て本当のことだったのだから。
無策に突き出された右ストレート、``強化``で増強された相手の腕力は、俺と同じくらいかそれ以上だろうか。強化型霊力コンクリ装甲壁を軽々粉砕する威力を誇っていたが、なんのことはなかった。
``慧帝霊書``で強化された俺の動体視力では、コイツの右ストレートはスーパースローカメラで撮影した動画を再生しているようにしか見えていない。当たる方が難しいくらいだ。
「ぐべぁ!?」
渾身の右ストレートを華麗に避けられ、ガラ空きになった相手の左頬に強化済み腕力の右フックをお見舞いする。
相手の体勢が簡単に崩れてくれた。間髪入れずジャブを叩きこみ、壁側に押し込んでいく。
しかし``強化``の効果は伊達じゃあない。顔面に右フックが入ったことで揺らいだ意識も五秒も経たないうちに元に戻る。
反撃へ転じようと目を血走らせてくるが、反撃させる暇を与えるつもりなど当然ない。フックなどの威力の高い打撃をコンスタンスに浴びせかけ、適宜意識を刈り取る。
俺もバトルスタイルは固有能力頼りで、他に活かせるとしたら実戦経験を積みまくったことで得た度胸ぐらいなものだ。ジャブとかフックとかストレートとか、用語こそ知識として知っているが、相手がプロの格闘家とかだったら笑い者レベルの技量しか持ち合わせていない。だからこそ``慧帝霊書``が光り輝くわけである。
``慧帝霊書``は、何も動体視力を強化するだけの固有能力じゃない。五感から得た情報を処理し、分析する機能も持っている。相手の動き、息遣い、目の向き、その全て。俺が感じ取った全てを分析した上で、最適な一撃を繰り出すのに必要な力と動きを教えてくれる。
``慧帝霊書``との連携は些か練習が必要だったが、要は慣れだ。血の匂いが薄まることのない中威区西部で、``慧帝霊書``と完璧な二人三脚を繰り広げるまでに目立った苦労を背負うことはなかった。
戦闘技量が伴っていないだけに半ば自動戦闘感が否めないが、反則とは思っていない。戦争とは無縁の世界から連れてこられた身、これくらいはハンデの範疇である。
スポーツの試合をやっているわけでなし、むしろこの世界では反則の一つや二つ使えないと生きていけないぐらい理不尽なので、半自動戦闘など物の数に入らないと思う。世の中、上には上がいるものなのだ。
「ヂィ!! ぐぞがぁ!!」
一方的に殴られ続けていたのだから、当然か。サンドバッグ扱いにしびれを切らし、自称元請負人の拳が赤く光りだす。
スーパースローカメラと化している俺の眼は、その変化を見逃さない。すぐさまバックステップで大袈裟に距離をとった。
別にバックステップをする必要はどこにもない。相手が少し気合を入れてこっちの攻撃に耐えてきただけなので、また意識を刈り取ってハメてしまえば良かったのだが、相手も元請負人を自称するだけあって、このままサンドバッグになってくれるほど馬鹿じゃない。
俺は使えないので詳しくないのだが、度重なる実地経験が瞬時に相手の変化が何なのかの結論を出してくれていた。
「……魔術か」
相手に聞こえないくらい小さい声は、空気に染み込み消えていく。
魔術。簡単に言うと魔法陣なしで扱える魔法の簡易版である。
この世界には``魔術``と``魔法``という二つの体系があり、この二体系を嗜む奴らからはまとめて``魔導``と呼ばれている。
誰向けに発明されたのかは知らないが、``魔法``は効果が強力な反面、消費する体内霊力が果てしなく多いらしい。並みの奴らでは魔法一発放っただけで体内霊力が枯渇してしまうほどで、体内霊力が尽きた奴はすぐさま途方もない疲労感で動けなくなるのだから、とてもじゃないが戦いながら使うには適していない。
その現状から、体内霊力が乏しい奴らでも嗜めるようにと誰かが造った体系が``魔術``なのだそうだ。
基本的に武市のほとんどの奴らは``魔術``を使う。西支部請負人もほぼ全員が魔術しか使えず、唯一``魔法``を使えるのはベルぐらいなものだ。
自称元請負人は``魔術``を使える。``魔術``は属性適性に関係なく霊力が少しでもあれば大体使えるらしいので、拳が淡い赤色に光ったあたり、使ってきたのは火属性の魔術だろう。
火属性の魔術といえばライターやチャッカマン程度の、それこそ火起こしにしか使えないような火力が一般的だが、攻撃系ともなると火力はガスバーナーぐらいにまで跳ね上がる。
流石にガスバーナークラスの火力を無策に受けてしまうと大火傷は免れない。ロールプレイングゲームじゃあるまいし、回復魔法などという都合の良いものは当然使えないので、拳が鈍るような怪我は可能な限りしないように立ち回るのが定石だ。
「へへ、おいどうしたよ西支部監督官様よォ? 俺ぁただ拳を振り上げただけだぜ? ビビってんのか? ああ?」
「いやー、ちゃんと魔術は使えたんだなぁと。元請負人って肩書はブラフじゃないってことだけは理解したぜ」
「ああ!? 最初に言ったろうが!! そも請負人じゃなきゃ攻撃系魔術使えるわけねーだろボケ!! 馬鹿にしやがって……!!」
いい感じに煽りに乗ってくれたので、内心ほくそ笑む。
コイツは何の因果か、俺に憎しみを抱いているらしいので、テキトーに挑発っぽい台詞でも投げればキレてくれるだろうとの目算で投げかけたのだが、ここまでハマってくれるとは、当時の俺は一体コイツに何をしてしまったのだろうか。
ともかく、これでしばらく戦場を冷静に分析する余裕はないだろう。茹蛸になってくれる時間が長いほど、俺は戦いを有利に進められる。さっきも言ったが、戦いは焦った奴や正気を失った奴から死んでいくのだ。
【属性霊力を探知。物理属性系耐性を設定します】
脳内で女性の声が鳴り響く。
これを聞けば、異世界転生物を読み慣れている奴なら世界からの通達文かなとか、主人公がレベルアップしたときに出る吹き出しの文かなとか色々想像すると思うが、世界に住まう人々に親身なシステムなど、この世界には存在しない。これは``慧帝霊書``の声である。
物理属性系耐性とは火、水、地、風、雷、氷の六属性霊力によるダメージを最大九割九分減らす耐性の一種だ。ただし九割九分に設定すると吐き気すら催す激しい頭痛で狂い死にそうになるので、今の俺だと各属性耐性最大四割が実用ラインである。
とはいえ全て一律四割に設定なんてしたら、それなりの頭痛が伴う。したがって近接戦で最も厄介な火、雷、氷を三割。水、地、風を五分に設定する。これで魔法が使われない限りはダメージを気にせずに殴り倒せるだろう。
激情した相手は、俺に魔術を込めた打撃が効くものだとかなり油断している。そのせいか右ストレートも大振りだ。肉体能力は拮抗しているし、魔術への対策は仕込んでいる。ここからはさっきより積極的に前へ出る。
殴打、殴打、殴打、蹴り、殴打、蹴り―――相手がガードしてきたら蹴りで崩し、隙あらば頭を狙って意識を奪う。基本的に反撃の隙を与えない流れで、相手が消耗するのを待つだけ。
そう、待つだけでいいのだ。
「ぐ……あ……?」
殴り続けられてなお、気丈に反撃に転じようともがいていた元請負人は突然生気が抜けたような表情を浮かべ、膝から崩れ落ちる。
自分でも何か起こったか理解していないようで、崩れた膝や背中あたりを触り、何が起きたか懸命に理解しようとしていた。
容易に挑発に乗ってしまう気質、相手の変化への無警戒、そしてなにより冷静さの欠如。これらが揃っている時点で、魔法に関する知識も薄々だが持ち合わせていないだろうと踏んでいた。
実は、``強化``は一般的に使われない。シンプルな身体強化の魔法だが、この世界の強者という奴らはストイックで、そんな魔法に貴重な体内霊力を割くくらいなら、純粋にフィジカル鍛えるか技術を磨いて手数を増やせばいいと考えている奴らが大半を占める。
実際、俺も最初はこの魔法クソ便利だなと思っていたが、ベルに効果を聞いた直後に魔法使いの連中がこぞってこの魔法を使おうとしない理由に納得がいったものだ。
``強化``はシンプルに肉体強化を行える反面、魔法陣が肉体への負荷を考慮していない。それが``強化``が抱える、致命的な弱点である。
超短期決戦ならば選択肢に入れてもいいが、この魔法を使用した時点で術者は貴重な体内霊力と肉体強化を引き換えに継戦能力を放棄するのと同義であり、超短期決戦に持ち込める見通しがない限りは使用するべきではない―――というのがベルの結論だった。
つまり、元請負人はスタミナ切れを起こしてしまったのである。
「く、くそ!! な、んで……!!」
拳を床にたたきつけて痛みで己を奮い立たせ、なんとか下半身に力を込めようともがくが、現実は無情だった。彼の腹より下は既に事切れてしまっているのだ。
ベル曰く身体強化は自分の限界を知る者、戦いを深く知る者にのみ許された技であり、素人が手を出していい代物じゃないらしい。世界観がファンタジーな漫画や小説だと登場人物は割と当たり前のように身体強化魔法を使っていたと思うが、現実は選ばれし強者にしか許されない御業のようだ。
かくいう俺も駆け出しの頃は固有能力で身体強化しまくった結果、その翌日は凄まじい筋肉痛でベッドの虫と化していた。現実はいつだってそんなもんである。
「つーわけだが、どうする? 正直降伏してくれると嬉しいんだが?」
魔法の効果が切れ、息が上がってしまっている元請負人の前にウンコ座りをし、顔を覗く。元請負人からは未だ殺気が消えていないが、身体は依然として言うことを聞いてくれないようだ。
``強化``で限界知らずの身体強化を行ったのだから、いずれ強化の代償は放っておいても全身を蝕む。おそらくもう上半身にも反動がきているだろうし、既に戦える状態でないことは、彼が一番理解しているはずだ。
「ふ……ざけ……」
体を折り曲げ、過呼吸気味の元請負人。肉体疲労が肺に達したようだ。俺はおもむろに立ち上がった。
「待てよ……!!」
もう既に腕の力も入らないはずなのに、がっしりとズボンの裾を掴んでくる力は強い。思わず元請負人へ振り向いた。
「俺はな……お前のせいで人生狂わされたんだよ……! 元々この中威区西部で、クソと泥ばっか啜って生きてきて、ようやく人生が軌道に乗り始めたところだったんだよ……!」
「でもお前、請負人やめさせられたんだろ? 機関則に抵触するような違反行為をしてたんじゃねーの?」
掠れた声音で力強く訴えてくるが、そんなことは関係ない。
第一、俺に請負人をクビにする権限はない。西支部監督官として相応の権限は請負機関本部からもらっているが、その中に請負人の罷免は含まれていないのだ。むしろ俺よりも任務請負証そのものの拘束力の方が強大なのである。
請負人に就職する際、支部の自動登録機で発行してもらえる任務請負証は公平公正で有名だ。
任務請負機関本部にいると言われている重鎮、``三大魔女``の手によって造られた任務請負証は、ベル曰く一種の魔法契約媒体であるらしい。請負人としての身分と自由を認める代わりに、請負人たちは機関則を厳守する義務を背負う。それが請負人になる上で、任務請負機関本部と交わす絶対的な契約だ。
任務請負証は、所持者がどういう意図で、どういう経緯で、如何なる機関則に反したかを常に監視しており、違反した場合は任務請負証を介して本部から罰則が下される。
おそらくコイツは、その仕組みを知らないまま懲戒解雇命令が下ったのだろう。気の毒な気もしなくもないが、違反するのが悪いし、任務請負証の仕組みを知らないのも悪い。情状酌量の余地など皆無なのだ。
「クソが……!! そうでもしねぇと生きていけねぇ奴だっているんだよ、この世は結局弱肉強食、強い奴じゃなきゃ生きてる意味も価値もねぇ!! そんなクソッタレな世界なんだ!!」
思わず、言葉に詰まった。
コイツが正しいわけじゃない。生きていけないからといって規則を破っていい理由にはならないし、世界がクソッタレだからといって自分の弱さを前に開き直っていいわけもない。
それが許されるのなら、俺だって元の世界じゃ学校に行くのが億劫だったし、面倒って理由でサボりまくっていただろう。
当然そんな真似が許されないように、この世界にはこの世界の理がある。その世界の枠組みの中で生きているなら、そのルールの中で生きていくしかないのだ。
この世界が元の世界と違うのは、強大な力さえ持てば、世界の理を無視できるところだろうか。元の世界じゃ、一個人に力が集約しないような世界だったので俺だってそこは理不尽に感じてはいる。
だからこそだろうか、コイツの言い分に共感できるところがあるのは。
コイツにはこの世界を生き抜くだけの力がなかった。だから禁忌に手を染めたのだろうが、俺もこの世界に連れてこられたばかりの頃は、力なんて持ち合わせちゃいなかった。
異世界転移・転生物でよくある異世界を生き抜くためのチート能力を女神だかなんだかに付与されたわけでもなく、ゲームのアバターに憑依した状態で転移したわけでもなく、この世界の強者に魂だけ転生したわけでもない。元の世界にいた頃と全く同じ状態で、俺はこの世界に連れてこられた。
最初はつらかった。請負人としてのイロハを教えてくれた親切な先輩たちは紛争で死んでいき、自分より上位の請負人には虐げられる日々。何度も死のうと思ったし、死と常に隣り合わせにいる職業ゆえにいつか勝手に死ねるだろうと思うようになっていた。
強者のみが安寧と平和、理想と秩序を手にし、弱者には否応なく混沌と無秩序が叩きつけられる世界。何度煮え湯を飲まされたかも分からない。強者のみが優遇される実情に、俺も心底絶望したものだ。
弱者が抱く絶望を知っているからこそ、目の前に倒れ伏し恨めしく俺を睨むコイツの言い分も気持ちもわかる。俺もブリューンやギガレックスと出会わなかったら、コイツと同じ立場になっていたかもしれないのだから。
「あーあ……やっぱ、傍観者だよなあ……主人公ポジなんざガラじゃねーんだよ」
傍観者は嫌われると思う。当事者が逆境を乗り越えるところを眺めているだけでいいのだから、これ以上楽に感情移入できる立場はない。小説も漫画も、根底にあるのは娯楽だ。俺も、異世界転移させられる前はそう思って疑ったことはなかった。
結局は理想でしかない。現実は常に非情だ。
子供の頃ってのは世の中の汚いものが理解できないものだ。知る機会も触れる機会もほとんどないのだから当然といえば当然だが、年を重ねるにつれて、理想に対する現実が重くのしかかってくる。
そもそも俺に困っている人を助ける余裕はなかった。小中高と勉強に追われ、部活に追われ、クラスの奴らとそれなりに仲良くしないといけない日々。それが楽しくなかったわけじゃない。普通に楽しかったが、つらくもあった。
気がつけば将来の夢を見ることも忘れていた。勉強がつらい。小中高と学年が進むにつれ、学力ってものに振り回されるようになってくる。成績のことを気にせずにはいられなくなってくる。
結局俺も他の奴らと同じく、自分のことで手一杯。勉強、部活に進路と、その日その日を凌ぐのが精一杯の学生にすぎなかった。
だから一度は何もかも諦めた。夢を見ることも、叶えることも、全て。
普通に生きて、普通に働いて、普通に結婚して、普通に家庭を持って、そして普通に余生を送って死ぬ。年を重ねていくうちに、学生ながらもそれが一番安定で楽な人生なのだと、無意識に思うようになっていたのだ。
でも、今は違う。当事者だ。
ベルに異世界転移させられて、日本からこの世界に連れてこられて、二年間死に物狂いで生きてきたらドラゴン殺しの異名を手に入れて。
元々はどこにでもいるただのモブ男子高校生だったのに、今やライトノベルでありがちな主人公ポジションに収まっている。
これは運命か神の悪戯か。いや、嫌がらせだろう。俺だって大多数と変わらない、苦労して逆境を乗り越えようとその人生の瞬きを輝かせる主人公の活躍を、文字や絵の向こう側から楽しめたらそれで満足する人種なのだ。
「まあ……子供の頃は憧れてたからな。クソッタレな悪をブチのめす、``勇者``ってやつに」
俺がコイツの言い分に加担しない理由。共感こそすれ賛同しない理由は至ってシンプルで、そして馬鹿らしいものだ。
昔の俺も周囲の奴らの例に漏れず、週末の朝に毎週放送されていた勧善懲悪物のアニメにハマっていたガキの一人だった。悪役に惚れるとかいう逆張りなんてものもない、ヒーローに純粋で真っ当な憧れを抱いていたガキの一人。
小さい頃といえば将来の夢が腐るほどあった。警察官、消防隊員、医者、政治家、裁判官。悪を裁く正義の味方を体現するものすべてに憧れた。本気でなろうと思ったことは一度や二度じゃあない。
俺はこの世界に来て再び目指そうと思ったのだ。守るべき仲間ができた、いつかは守るべき女もできるかもしれない。ここはどうせ異世界だし、いつ死ぬかもしれぬ人生、だったら破天荒にガキみてーな夢を体現してみるのも悪くないと、そう思ったのである。
「ハッ……!! 長生きできやしねぇぜ、理想に溺れて早死にしやがれ……!!」
力尽きた。そう確信したその瞬間だった。
どこから取り出したのか、片手に握られた技能球。しかしそれは、一筋の光すら通さないほど黒く塗り潰されていて、気味が悪い。
嫌な予感ってのは大概当たるものである。物事の終わり際は特に酷い。困窮しているときに限って起こるのだからタチが悪いことこの上ないのだ。
確かにコイツは手応えなかったし、あっさりしていると思っていたけれど、あっさりしているならこれで終わっていいと思うんだ。敵が火事場の馬鹿力とか発揮されると尺が伸びるわけで、その分余計に付き合わされるわけで、俺としてはしんどいわけでして。
弱音を吐いたところで、結果が変わるわけもなく。光すら通さない漆黒の技能球から、黒い靄が現れた。
「我が復讐のため、我らが眷属の魂を捧げん!! ``捧贄蘇生``!!」
それっぽい台詞を叫んだ瞬間、技能球から滲み出した黒い靄が、目にも留まらぬ速さで元請負人を蝕み、全身を真っ黒に染め上げる。
体の輪郭が溶けるように消え、光を一切通さない黒色のスライムへと姿を変えた。
もはやこれが元々人間だったと唱えても誰も信じまい。人間が黒くなって溶けるなんぞホラー映画か何かだと錯覚してしまうが、日本にいた頃ならホラー映画の演出だろと冗談めかしく受け流せたところだったろう。
しかしこれは現実だ。現に人が溶けて、黒色のスライムと化した。ファンタジーといえば聞こえはいいが、実際にその目で見ると背筋が凍りついてしまう。
「……あ、おい!! 待て!!」
黒色のスライムが尋常じゃないジャンプ力を披露するや否や、俺の背を軽々飛び越えて廊下へ躍りでた。
すかさず追いかけるが、全く距離が縮まらない。肉体強化しているにもかかわらず、黒色のスライムは異様な速度で西支部ビルの廊下を疾駆する。
もはや子供って年でもない、元高校生の男がひとりでに跳ね回るスライムを追いかける絵面は中々気恥ずかしさを禁じ得ないが、それ以上に嫌な予感が更に強く警鐘を鳴らしている。
スライムが向かっている方向が、レクさんや御玲さんがいる地下シェルターの方角だったからだ。
走り回っている間に地下シェルターフロアに繋がる地下一階の階段まで辿り着く。入口前には正門を守っているはずのブルー・ペグランタンと大百足、澄男という新人と使い魔たち、そしてギガレックスの野郎が地下シェルターに続く地下二階への階段を阻むように陣取っていた。
「お前ら、なんでここに……」
正門の守りはどうした、と言葉を続けようとしたそのとき。ブルーたちが対峙している何かが目に入り、状況を否が応でも理解する。
ブルーたちの目の前に聳え立つは、暗黒のスライム。それも追いかけていたスライムの何十倍もの大きさのスライムである。その気になれば、この場にいる全員を埋め尽くせてしまうほどの質量を感じさせるそれは、追いかけていたスライムを片割れと言わんばかりに取り込むと、今度はどんどん縮んでいく。
縮む速度は尋常じゃない。物理法則を軽々しくあざ笑うように、質量保存の法則を無視して小さくなるそれは、徐々に徐々に人の姿をかたどり始める。
人の輪郭が明確になってくると、急速に縮んだそれは背の高い女性の血肉と化したのだった。
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追記
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2024/02/23
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