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防衛西支部編
傍迷惑なバーサーカー
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私室から出て再びロビーへ戻ると俺たちは一瞬で驚愕の念に顔を染める羽目になった。
「んだぁ……? このクソでけぇ女は……」
ロビーの中央を占拠していたのは、見上げると首が痛くなるほどの巨人だった。
見た目からして女なのは分かるが、とにかく背が高い。腕や脚も俺や御玲たちの十倍、いやそれ以上はあるだろう。握り拳なんて、もはや岩石にさえ見えてくる。
「おいジーク! この俺様をノケモンにすんじゃねーよ、何すりゃいーかわかんねーじゃねーか!」
思わず耳を塞いでしまう。巨人なだけに声もデカい。まるで耳元に拡声器で叫ばれたような轟音に、耳が痛くなる。
西支部監督官たちは慣れているのか、やれやれ、といった風に頭を掻き、巨人女を見上げた。
「何言ってんだ。どうせ無理矢理にでもついてくるつもりなんだろうが、元々お前は頭数に入ってねーんだよ」
「ったりめーよ! こんな何もねー支部に缶詰なんざごめんだね、正直誰かをブチのめしたくてウズウズしてんだ、戦いの任務ってんなら尚更無視できねーな」
途端に頭のおかしいことを言い出す巨人女。
小さい頃から久三男に暴君と言われてきた俺だが、流石の俺もカチキレてもないのに暇だから誰かをブチのめしたいとかいう狂人みたいな気分にはならない。誰かをぶちのめしたくてウズウズって、もはやコイツがギャングか何かじゃなかろうか。
「やめろよ。今日は北支部の皆様方と協力すんだから、下手な浪費は避けてくれ」
「おいおいつれねーこと言うなよジーク! せっかく``閃光``と``百足使い``がいんだ、ここで誰が一番強ぇかはっきりさせようぜ」
「そういうのはよそでやってくれ。私的な決闘に興味ねぇんでね」
巨人なだけあって放たれる威圧感は半端ないが、それを臆さず受け流したのは、二つ名で名指しされた金髪野郎だ。腕を組み、澄まし顔で巨人女の前を素通りしようとしたその瞬間。
「ハッ!! そっちになくても、俺様は興味大アリなんだよォ!!」
西支部監督官の制止も虚しく、巨人女はその岩石の如きデカい拳を容赦なく金髪野郎に振りかぶる。
見る限り、手加減している様子はない。拳速自体はさほど速くないが、重量が重量だ。俺の目測が正しければ、巨人女の拳は崖を転がり落ちる土石流にも引けを取らない。
一方で金髪野郎は他の男とさほど変わらない背丈だ。ぱっと見、ただの一般男性に隕石がピンポイントで降ってきているような絵面だろう。金髪野郎は肉体能力が限界突破しているので、隕石にぶち当たった程度で死ぬかどうかは定かじゃないが、無傷とはいかないはずだ。
というかこの巨人女、仮にも味方の俺らに一切容赦なしとか流石に狂人すぎやしないだろうか。
幼少の頃から模擬戦をやってきただけあって、相手がノリノリかそうでないかくらいは判別がつく。巨人女の目は、俺の模擬戦相手を嬉々として請け負っていた母さんの目と同じものだ。
「ったく……世話が焼けるぜ」
岩石の如き拳の暴力に、金髪野郎はなす術なくペシャンコに―――なるとは正直思っていなかった。曲がりなりにも物理面だけなら俺や御玲よりも強固な肉体を獲得した奴が、こんな``単調すぎる``攻撃に速攻でお陀仏になるはずがないのだ。
巨人女の拳は見事にロビーの床をぶち壊し、支部全体がぐらりと揺れる。鳴り響く轟音も、もはや爆発物が炸裂したかのような爆音に等しく、戦い慣れしてねぇ奴がいたら、全員気絶していたことだろう。だがそれだけの質量攻撃を、金髪野郎は軽やかに避けていた。
そのまま大木より太い巨人女の腕を地面がわりにして疾駆、速攻で奴の右肩まで辿り着く。
見上げるだけの巨体なだけあって、腕一本が西支部ロビーを貫通して生えてきた巨大な木の幹だ。手を使わず脚力のみで目測傾斜四十五度を軽々と走れるのは金髪野郎の脚力だからこそなんだろうが、勝負の趨勢を確信する。
「チッ、ざけ」
「光線」
「ぐあ!?」
手ぶらだった左手で金髪野郎を体ごと鷲掴もうとしたんだろう。巨人だからこそできる芸当だし、左手も金髪野郎視点から見れば迫り来る岩壁に見えているはずだが、顔色ひとつ変えず、巨人女の左手を撃ち抜く。
アレは確か、南支部合同任務のときに使っていた、金髪野郎オリジナルの光属性魔術。単純に、光属性の霊力を収束させたビームを放つ魔術である。巨人女はスケルトンじゃないし、光属性に特別特効があるわけでもないだろうから威力こそカス程度だが、高密度に収束した光線の貫通力は、岩壁の如き左手の皮膚を貫くには十分すぎた。そして貫通ともなれば、いくら巨人だろうと痛みを無視することはできない。
「っと」
「げは!?」
左手を貫かれ、痛みで隙だらけになったところを金髪野郎が見逃すはずもなく。片足を軸に身体を捻り、容赦なく巨人女の右頬に向かって、軽やかな、しかし重みのある回し蹴りをくらわせる。
左手の痛みで若干左に体が傾いているのもあり、そして頭をブチ蹴られた勢いも相まって、巨人女はなすすべなく床にすっ転んだ。
地震と勘違いしそうになるほどの揺れと埃の嵐、そして土砂崩れを彷彿とさせる轟音。とても建物の中で起こっちゃいけないような現象が全部起こってしまっているが、やれやれと肩をすくめるのは西支部監督官だけである。
「ギガレックス。お前は三つ間違いを犯してる」
両手をポケットに入れ、巨人女の頬を足蹴にする金髪野郎。だがいつもの気さくさはそこになく、一際低い声音がロビーを浸透する。
今まで幾度となく怒られてきた俺だが、殺気が漏れ出るほどシリアスな雰囲気は初めて見るかもしれない。
「一つ。体格からして、お前はタイマンには不向きだ。俺らみたいな``小人``相手に単調な攻撃は当たらないと思った方がいい」
悔し紛れに歯噛みする巨人女など意に介さず、淡々と語りを続ける。
「俺が北支部の最古参なのは知ってるよな? 勿論俺はお前の能力を知ってるわけだが、なんのこたぁねぇ。当たらなきゃ何の意味もないわけだ」
確かに、と心の中で同意する。
巨人女の身長は目測だが六メト前後。対して俺たちは平均して百六十五センチメト前後。一番背が高い金髪野郎でも百七十超えている程度で、巨人女との差は単純に三倍を超えている。巨人女からしたら金髪野郎など小人同然であり、タイマンともなればその図体の差が災いして逆に攻撃は当てづらくなる。
例えば百を超える軍勢のど真ん中に先陣を切り、そこで力一杯暴れ回るとかなら効果は抜群だろうが、小人一人をブチのめすともなると、よほど慣れていないと攻撃を当てること自体が至難だ。
テキトーに力一杯拳を振り回していれば当たるかと問われれば、相手が戦いとは無縁の一般人とかでもない限り、絶対当たりはしないだろう。
「二つ。図体のデカさの割に体幹が弱い。どうせパワーと固有能力に胡坐かいて、ロクに鍛えてねぇんだろ?」
その言葉に、巨人女は途端に罰の悪そうな顔をして目線を逸らし、ほんの僅かに身を震わせる。金髪野郎は肩をすくめながらため息を軽くついた。
「戦術として否定はしねぇよ? 肉体能力による暴力だって、立派な凶器だからな。かくいう俺だって、手加減してねぇとそこらの奴らなんか柘榴にしちまうし。でもな、最低限技量ってもんがねぇと頭打ちだぜ?」
なんかついでに俺もジト目でチラ見しながら、のうのうと言ってのける。俺もヘンな気分になったので目を背けた。
確かに巨人女は俺らと三倍以上図体のデカさに差があった割に、ビーム一発で体が傾いた挙句、とても致命打になるとは思えない蹴りを顔面に一発もらっただけで倒れたのは、はっきり言って拍子抜けである。
あの程度の攻撃で毎度毎度尻もちついていたら、立ち上がる隙を与えず俺らと金髪野郎で袋叩きにしてしまえば簡単に勝ててしまうだろう。攻撃も単調なら避けるのも容易いし、俺なら仮に当たったとしても死ぬことはない。持久戦に持ち込めば、確実にこちらの勝ちだ。
そう考えると、コイツの攻略はさほど難しくないように思える。
「ンじゃあ俺様からも間違いを指摘してやるぜ。俺様はまだ固有能力を使ってねー、小手調べ程度に一発ブチかましただけなんだが、今から使うつったらどーなるかなァ?」
壊し甲斐のある玩具を見つけた悪魔が、小さい人間を壊そうと意気込む。
唇を吊り上げたその笑みは、請負人とは思えないほど悪辣だったが、金髪野郎は鼻であしらい、負けじと同じほほえみで返す。巨人女は顔を歪めた。
「じゃあもう一つ追加だな。そりゃハッタリだ」
「なっ……ンなわけねーだろーがよ!! 固有能力使えねーわけが……」
「んじゃさっさと拘束解きやがれよ」
巨人女の悔し紛れの表情が、さらに色濃くなった。
何も因縁もないのに突然殴りかかってくるほど好戦的な巨人女が、黙って金髪野郎の説教を聞いているわけがない。自ら進んで聞いているんじゃなく、聞かざる得ない状況におかれているからだ。俺と御玲はその状況に追い込んでいる奴に視線を向けた。
「改めて最後の指摘だ。北支部の監督官は俺だけじゃあねぇ。お前が全く身動き取れねぇのはなんでか、分かるよな?」
巨人女の身体を、その長い胴体で雁字搦めにしている百足野郎、そしてソイツを制御するポンチョ女である。
「あーそうだ。アンタがまた暴れて特待受注任務に支障が出たって本部に報告でもしようかねぇ……」
「ああ!?」
「豚箱の臭ぇ飯、また食いてぇってんなら食わせてやってもいいんだぜ?」
今まで見たことがないくらい、屈託のない笑顔を彩る。
本人含め、この場にいる誰しもが感じ取っている。笑っているようで笑っていない。これは親近感を寄せているように見せかけた、明確な殺気だ。これはもう、戦局の趨勢は決したと見ていいだろう。
「クソッ……流石じゃねーか。認めてやるぜ」
完膚なきまでに敗北を叩きつけられて尚、潔くその敗北を受け止めるあたり、やはり西支部の中でもそれなりの``格``を持っているのは間違いない。元西支部監督官なだけあって、脳味噌が筋肉でできているとはいっても引き際は理解しているようだ。
金髪野郎が巨人女の身体から降りると、百足野郎が緩やかに拘束を解く。ずっと縛られていただけあって、身を起こして肩を鳴らすが、流石は巨人。凝りをほぐすときに鳴る骨の軋みが、もはや鉄筋をへし折る音にすら聞こえる。
「とりあえず``閃光``と``百足使い``の実力は分かったぜ、納得してやらあ。でもよ、オメーらのツレはなんなんだ? 見ねー顔だが」
予想はしていたが、やはりか。
面倒くささを全面に押し出して頭を掻く。巨人女の視線は金髪野郎たちからすぐ俺らへと向けられたからだ。
「まさか新人に戦わせるつもりじゃねーだろーな? 雑魚は邪魔だぜ、つーかよく西支部の敷居踏めたよなァ?」
巨人なだけに歩幅はデカく、一瞬で間合いを詰められる。興味深げに、しかしどこか見下しているような鬱陶しい視線を浴びせてくる巨人女に、盛大なため息で返した。
「別に踏みたくて踏んだわけじゃねぇんだが? こっちは嫌々来てやってんだ、絡んできてんじゃねぇよ木偶が」
「ああ? テメー、ぺーぺーの癖にナマいってんじゃねーぞゴラ、潰すぞチビ」
「やれるもんならやってみろ。金髪野郎如きに負かされた図体でけぇだけの雑魚が、そのチビ一つも潰せなかったら……お嗤いだねェ?」
「んだとこのガキィ……!!」
全身をためらいなく刺し貫いてくる敵意。それに答えないほど、俺は女々しくはない。
舐められたら終い。それこそガキの頃から、母さんに体で叩き込まれてきた文言だ。その言葉を片時も忘れたことはない。敵意を向けられたらどうするか。決まっている。二度と舐めた態度を取れねぇようにブチのめす、ただそれだけだ。
手始めに煉旺焔星でここら一帯ごとコイツを焼き払って―――。
「「ストップ、そこまでだ」」
右手に火球、対するは岩石。それらがぶつかり合う数瞬、声をハモらせながら止めに入ったのは、金髪野郎と西支部監督官だった。何気に御玲も、無言で俺の左腕を掴んで離さない。
「ギガレックス、いい加減にしろ。その一々突っかかる悪癖、マジでタチ悪いぞ。それで本部の豚箱にハメられたのもう忘れたのかよ」
「新人、向こうに非があるとはいえ躊躇いなく他支部のロビーを焼き払おうとすんな。手加減無しにも限度っつーもんがある」
んなこと知るかよと内心毒突きながら舌打ちブチかまそうとしたが、向こうのデカブツも同じように舌打ちをかましていたのでなんか癪だから控えた。
正直この程度で許してやるのは気に食わないが、向こうも西支部監督官に諌められて戦意はなくなったようだ。別に御玲がブチのめされたわけでもなし、ここでひいといてやるか。
「うし、んじゃさっさと各々役割の確認兼準備だ。ジークフリート、モヒカンどもの誘導を頼む」
「任されたー」
「新人とブルーにむーさん、使い魔連中と、そんで百代は正門前で待機だ。敵が来たら迎え撃て」
「「「アイアイサー!!」」」
「りょーかい」
「おう。全員ブチ殺す」
「殺すな馬鹿。東支部のときと同じだ」
「はぁ? 物理縛りとかもう勘弁だぞ」
「煉旺焔星とかいうやつ以外なら好きに使えばいいさ」
軽い感じで言ってくれる。煉旺焔星は俺の十八番だ。あの技の下位互換となると最近全く使ってない灼熱砲弾になるが、今更下位互換を使うのも変な感じである。
とはいえ煉旺焔星の威力は過剰なのは確かだ。俺の匙加減次第では、この西支部ビルのみならず、中威区西部都市一帯を灰燼に帰することもできてしまう。
いつもは気持ち抑えめでやっているのだが、それでも金髪野郎からはやりすぎだのなんだのと言われるぐらいだ。正直クソ面倒だし下位互換の技なんざ使いたくないが、ここは我慢するか。
「御玲は俺とジークフリートたちで地下シェルターの防衛だ。行くぞ」
御玲は西支部の請負人を守る防衛役だ。俺としてはいざってときに守れないのが気が気でならないが、百足野郎や巨人女が縦横無尽に暴れ回る俺の戦場だと、思ったように動くのは難しいだろう。
全能度五百如きが束になったところで御玲が手傷を負うとは思えないが、味方の攻撃に巻き込まれる可能性はある。特にあの巨人女は信用ならない。なんとなくだが、俺の直感が唸っている。
「ギガレックス、お前はわかってると思うが正門だからな。やりすぎるなよ……」
西支部監督官はやれやれと肩をすくめながら、巨人女の岩石の如く太い腕を軽く叩く。巨人女はそれを聞き、高らかに笑った。
「俺様がいりゃー、支部にカチコミかけてくる奴らなんざ終いよ、むしろ他の奴らが俺様についてこれるか心配だぜ!!」
クソムカつくことをほざいてやがるが無視だ。ここで喧嘩を買うとまたさっきの繰り返しになる。流石の俺も不毛な喧嘩をする気はない。御玲に怪我を負わせたとかなら問答無用で灰にしてやるところだが、今は我慢だ。
「わっちは確か正門だったのう」
今の今まで静観していた百代が、金髪野郎に視線を投げた。
見た目は年端もいかない巫女装束を着た少女な上に腕を組み胸を張るその姿は、いつもなら少し不快に思うところだが、コイツの実力を考えれば、その程度の不快感など些末に思えてしまう。
「正門に配置する連中は加減の知らん奴らばかりだからな。監督頼むわ」
真顔を装いながらも、自分のおでこに青筋が走るのを感じる。
遠回しに手に負えないバーサーカー呼ばわりされたのがちょっと気に食わない。事実だし自覚もあるからぐうの音も出ないが、ここでそれを言ったとしても何も変わらないから、とりあえず笑顔を貼りつけておく。
「おい、そりゃーねーだろーがよ。なんでぽっと出の変な服着たチビの下につかなきゃなんねーんだ」
面倒を避けるために敢えてやらなかったことを、隣にいた巨人女がブチこんだ。図体は無駄にでけぇくせに脳味噌はホント小さい。流石の俺でもこの状況でその不満は言わないぞ。
「実力と立ち振る舞いを厳正に鑑みた結果だ。文句があるなら自分の素行に言うんだな」
「ああ!? おいおい、北支部監督官様でもそりゃー越権行為? なんじゃねーの? こちとら天下の西支部だぞ?」
「じゃあ西支部監督官様なら文句ねぇんだな?」
「ねーよそんなもん、許可だ許可」
「おいおいジーク! そりゃねーぜ!」
「そりゃねーのはこっちだ、なんならまた本部の地下懲罰牢に戻るか?」
面倒くさげに頭を掻く西支部監督官に言い詰められ、さっきまでの威勢は完全に削がれる。
見た目チャラ男な割に、低い声音は不思議とドスが効いていた。巨人女にとって、本部にある牢屋はかなり堪えるようだ。どんな所かは知らんし、知りたくもないが、バーサーカーを絵に描いたような奴が大人しくなるような場所だ。ロクな場所じゃなさそうである。
「チッ……あークソ! 気に食わねー、気に食わねーがしかたねー、おいそこの変な服着たチビ! クソみてーな指示出したら俺ぁ自分の思うがままに動く! それだけは覚えとけ、いいな?」
「構わぬぞ。悪漢どもを成敗するついでじゃし、やれるもんなら好きにせい」
「っ……!! 舐めやがって……」
気に食わない。反抗的な感情を一切隠す気のない巨人女は、図体のデカさを最大限利用して百代を見下げるが、百代はどこ吹く風だ。睨まれているにも関わらず、暢気に塩握りを食い始めた。
幸せそうに小腹を膨らませるその姿は、ぱっと見、物見遊山で戦場にやってきた間抜けな巫女にしか見えない。あくまで実力を知らなければ、の話だが。
「相変わらず邪気が濃いが、此度は一際濃密な邪気が此方に迫ぁておる。この街と民草の秩序を守るためにも、西支部の侵奪はなんとしても阻まねばならぬ。行くぞ!」
台詞は一人前の指揮官のそれを感じさせる意気込みようだが、手に持っている塩握りが、全てを台無しにしている。外見から溢れ出る物見遊山感が消えれば体裁は保たれたと思う。
不満が入り混じりながらも、まだ見ぬ敵を迎え撃つため、俺たちは各々所定の位置についたのだった。
「んだぁ……? このクソでけぇ女は……」
ロビーの中央を占拠していたのは、見上げると首が痛くなるほどの巨人だった。
見た目からして女なのは分かるが、とにかく背が高い。腕や脚も俺や御玲たちの十倍、いやそれ以上はあるだろう。握り拳なんて、もはや岩石にさえ見えてくる。
「おいジーク! この俺様をノケモンにすんじゃねーよ、何すりゃいーかわかんねーじゃねーか!」
思わず耳を塞いでしまう。巨人なだけに声もデカい。まるで耳元に拡声器で叫ばれたような轟音に、耳が痛くなる。
西支部監督官たちは慣れているのか、やれやれ、といった風に頭を掻き、巨人女を見上げた。
「何言ってんだ。どうせ無理矢理にでもついてくるつもりなんだろうが、元々お前は頭数に入ってねーんだよ」
「ったりめーよ! こんな何もねー支部に缶詰なんざごめんだね、正直誰かをブチのめしたくてウズウズしてんだ、戦いの任務ってんなら尚更無視できねーな」
途端に頭のおかしいことを言い出す巨人女。
小さい頃から久三男に暴君と言われてきた俺だが、流石の俺もカチキレてもないのに暇だから誰かをブチのめしたいとかいう狂人みたいな気分にはならない。誰かをぶちのめしたくてウズウズって、もはやコイツがギャングか何かじゃなかろうか。
「やめろよ。今日は北支部の皆様方と協力すんだから、下手な浪費は避けてくれ」
「おいおいつれねーこと言うなよジーク! せっかく``閃光``と``百足使い``がいんだ、ここで誰が一番強ぇかはっきりさせようぜ」
「そういうのはよそでやってくれ。私的な決闘に興味ねぇんでね」
巨人なだけあって放たれる威圧感は半端ないが、それを臆さず受け流したのは、二つ名で名指しされた金髪野郎だ。腕を組み、澄まし顔で巨人女の前を素通りしようとしたその瞬間。
「ハッ!! そっちになくても、俺様は興味大アリなんだよォ!!」
西支部監督官の制止も虚しく、巨人女はその岩石の如きデカい拳を容赦なく金髪野郎に振りかぶる。
見る限り、手加減している様子はない。拳速自体はさほど速くないが、重量が重量だ。俺の目測が正しければ、巨人女の拳は崖を転がり落ちる土石流にも引けを取らない。
一方で金髪野郎は他の男とさほど変わらない背丈だ。ぱっと見、ただの一般男性に隕石がピンポイントで降ってきているような絵面だろう。金髪野郎は肉体能力が限界突破しているので、隕石にぶち当たった程度で死ぬかどうかは定かじゃないが、無傷とはいかないはずだ。
というかこの巨人女、仮にも味方の俺らに一切容赦なしとか流石に狂人すぎやしないだろうか。
幼少の頃から模擬戦をやってきただけあって、相手がノリノリかそうでないかくらいは判別がつく。巨人女の目は、俺の模擬戦相手を嬉々として請け負っていた母さんの目と同じものだ。
「ったく……世話が焼けるぜ」
岩石の如き拳の暴力に、金髪野郎はなす術なくペシャンコに―――なるとは正直思っていなかった。曲がりなりにも物理面だけなら俺や御玲よりも強固な肉体を獲得した奴が、こんな``単調すぎる``攻撃に速攻でお陀仏になるはずがないのだ。
巨人女の拳は見事にロビーの床をぶち壊し、支部全体がぐらりと揺れる。鳴り響く轟音も、もはや爆発物が炸裂したかのような爆音に等しく、戦い慣れしてねぇ奴がいたら、全員気絶していたことだろう。だがそれだけの質量攻撃を、金髪野郎は軽やかに避けていた。
そのまま大木より太い巨人女の腕を地面がわりにして疾駆、速攻で奴の右肩まで辿り着く。
見上げるだけの巨体なだけあって、腕一本が西支部ロビーを貫通して生えてきた巨大な木の幹だ。手を使わず脚力のみで目測傾斜四十五度を軽々と走れるのは金髪野郎の脚力だからこそなんだろうが、勝負の趨勢を確信する。
「チッ、ざけ」
「光線」
「ぐあ!?」
手ぶらだった左手で金髪野郎を体ごと鷲掴もうとしたんだろう。巨人だからこそできる芸当だし、左手も金髪野郎視点から見れば迫り来る岩壁に見えているはずだが、顔色ひとつ変えず、巨人女の左手を撃ち抜く。
アレは確か、南支部合同任務のときに使っていた、金髪野郎オリジナルの光属性魔術。単純に、光属性の霊力を収束させたビームを放つ魔術である。巨人女はスケルトンじゃないし、光属性に特別特効があるわけでもないだろうから威力こそカス程度だが、高密度に収束した光線の貫通力は、岩壁の如き左手の皮膚を貫くには十分すぎた。そして貫通ともなれば、いくら巨人だろうと痛みを無視することはできない。
「っと」
「げは!?」
左手を貫かれ、痛みで隙だらけになったところを金髪野郎が見逃すはずもなく。片足を軸に身体を捻り、容赦なく巨人女の右頬に向かって、軽やかな、しかし重みのある回し蹴りをくらわせる。
左手の痛みで若干左に体が傾いているのもあり、そして頭をブチ蹴られた勢いも相まって、巨人女はなすすべなく床にすっ転んだ。
地震と勘違いしそうになるほどの揺れと埃の嵐、そして土砂崩れを彷彿とさせる轟音。とても建物の中で起こっちゃいけないような現象が全部起こってしまっているが、やれやれと肩をすくめるのは西支部監督官だけである。
「ギガレックス。お前は三つ間違いを犯してる」
両手をポケットに入れ、巨人女の頬を足蹴にする金髪野郎。だがいつもの気さくさはそこになく、一際低い声音がロビーを浸透する。
今まで幾度となく怒られてきた俺だが、殺気が漏れ出るほどシリアスな雰囲気は初めて見るかもしれない。
「一つ。体格からして、お前はタイマンには不向きだ。俺らみたいな``小人``相手に単調な攻撃は当たらないと思った方がいい」
悔し紛れに歯噛みする巨人女など意に介さず、淡々と語りを続ける。
「俺が北支部の最古参なのは知ってるよな? 勿論俺はお前の能力を知ってるわけだが、なんのこたぁねぇ。当たらなきゃ何の意味もないわけだ」
確かに、と心の中で同意する。
巨人女の身長は目測だが六メト前後。対して俺たちは平均して百六十五センチメト前後。一番背が高い金髪野郎でも百七十超えている程度で、巨人女との差は単純に三倍を超えている。巨人女からしたら金髪野郎など小人同然であり、タイマンともなればその図体の差が災いして逆に攻撃は当てづらくなる。
例えば百を超える軍勢のど真ん中に先陣を切り、そこで力一杯暴れ回るとかなら効果は抜群だろうが、小人一人をブチのめすともなると、よほど慣れていないと攻撃を当てること自体が至難だ。
テキトーに力一杯拳を振り回していれば当たるかと問われれば、相手が戦いとは無縁の一般人とかでもない限り、絶対当たりはしないだろう。
「二つ。図体のデカさの割に体幹が弱い。どうせパワーと固有能力に胡坐かいて、ロクに鍛えてねぇんだろ?」
その言葉に、巨人女は途端に罰の悪そうな顔をして目線を逸らし、ほんの僅かに身を震わせる。金髪野郎は肩をすくめながらため息を軽くついた。
「戦術として否定はしねぇよ? 肉体能力による暴力だって、立派な凶器だからな。かくいう俺だって、手加減してねぇとそこらの奴らなんか柘榴にしちまうし。でもな、最低限技量ってもんがねぇと頭打ちだぜ?」
なんかついでに俺もジト目でチラ見しながら、のうのうと言ってのける。俺もヘンな気分になったので目を背けた。
確かに巨人女は俺らと三倍以上図体のデカさに差があった割に、ビーム一発で体が傾いた挙句、とても致命打になるとは思えない蹴りを顔面に一発もらっただけで倒れたのは、はっきり言って拍子抜けである。
あの程度の攻撃で毎度毎度尻もちついていたら、立ち上がる隙を与えず俺らと金髪野郎で袋叩きにしてしまえば簡単に勝ててしまうだろう。攻撃も単調なら避けるのも容易いし、俺なら仮に当たったとしても死ぬことはない。持久戦に持ち込めば、確実にこちらの勝ちだ。
そう考えると、コイツの攻略はさほど難しくないように思える。
「ンじゃあ俺様からも間違いを指摘してやるぜ。俺様はまだ固有能力を使ってねー、小手調べ程度に一発ブチかましただけなんだが、今から使うつったらどーなるかなァ?」
壊し甲斐のある玩具を見つけた悪魔が、小さい人間を壊そうと意気込む。
唇を吊り上げたその笑みは、請負人とは思えないほど悪辣だったが、金髪野郎は鼻であしらい、負けじと同じほほえみで返す。巨人女は顔を歪めた。
「じゃあもう一つ追加だな。そりゃハッタリだ」
「なっ……ンなわけねーだろーがよ!! 固有能力使えねーわけが……」
「んじゃさっさと拘束解きやがれよ」
巨人女の悔し紛れの表情が、さらに色濃くなった。
何も因縁もないのに突然殴りかかってくるほど好戦的な巨人女が、黙って金髪野郎の説教を聞いているわけがない。自ら進んで聞いているんじゃなく、聞かざる得ない状況におかれているからだ。俺と御玲はその状況に追い込んでいる奴に視線を向けた。
「改めて最後の指摘だ。北支部の監督官は俺だけじゃあねぇ。お前が全く身動き取れねぇのはなんでか、分かるよな?」
巨人女の身体を、その長い胴体で雁字搦めにしている百足野郎、そしてソイツを制御するポンチョ女である。
「あーそうだ。アンタがまた暴れて特待受注任務に支障が出たって本部に報告でもしようかねぇ……」
「ああ!?」
「豚箱の臭ぇ飯、また食いてぇってんなら食わせてやってもいいんだぜ?」
今まで見たことがないくらい、屈託のない笑顔を彩る。
本人含め、この場にいる誰しもが感じ取っている。笑っているようで笑っていない。これは親近感を寄せているように見せかけた、明確な殺気だ。これはもう、戦局の趨勢は決したと見ていいだろう。
「クソッ……流石じゃねーか。認めてやるぜ」
完膚なきまでに敗北を叩きつけられて尚、潔くその敗北を受け止めるあたり、やはり西支部の中でもそれなりの``格``を持っているのは間違いない。元西支部監督官なだけあって、脳味噌が筋肉でできているとはいっても引き際は理解しているようだ。
金髪野郎が巨人女の身体から降りると、百足野郎が緩やかに拘束を解く。ずっと縛られていただけあって、身を起こして肩を鳴らすが、流石は巨人。凝りをほぐすときに鳴る骨の軋みが、もはや鉄筋をへし折る音にすら聞こえる。
「とりあえず``閃光``と``百足使い``の実力は分かったぜ、納得してやらあ。でもよ、オメーらのツレはなんなんだ? 見ねー顔だが」
予想はしていたが、やはりか。
面倒くささを全面に押し出して頭を掻く。巨人女の視線は金髪野郎たちからすぐ俺らへと向けられたからだ。
「まさか新人に戦わせるつもりじゃねーだろーな? 雑魚は邪魔だぜ、つーかよく西支部の敷居踏めたよなァ?」
巨人なだけに歩幅はデカく、一瞬で間合いを詰められる。興味深げに、しかしどこか見下しているような鬱陶しい視線を浴びせてくる巨人女に、盛大なため息で返した。
「別に踏みたくて踏んだわけじゃねぇんだが? こっちは嫌々来てやってんだ、絡んできてんじゃねぇよ木偶が」
「ああ? テメー、ぺーぺーの癖にナマいってんじゃねーぞゴラ、潰すぞチビ」
「やれるもんならやってみろ。金髪野郎如きに負かされた図体でけぇだけの雑魚が、そのチビ一つも潰せなかったら……お嗤いだねェ?」
「んだとこのガキィ……!!」
全身をためらいなく刺し貫いてくる敵意。それに答えないほど、俺は女々しくはない。
舐められたら終い。それこそガキの頃から、母さんに体で叩き込まれてきた文言だ。その言葉を片時も忘れたことはない。敵意を向けられたらどうするか。決まっている。二度と舐めた態度を取れねぇようにブチのめす、ただそれだけだ。
手始めに煉旺焔星でここら一帯ごとコイツを焼き払って―――。
「「ストップ、そこまでだ」」
右手に火球、対するは岩石。それらがぶつかり合う数瞬、声をハモらせながら止めに入ったのは、金髪野郎と西支部監督官だった。何気に御玲も、無言で俺の左腕を掴んで離さない。
「ギガレックス、いい加減にしろ。その一々突っかかる悪癖、マジでタチ悪いぞ。それで本部の豚箱にハメられたのもう忘れたのかよ」
「新人、向こうに非があるとはいえ躊躇いなく他支部のロビーを焼き払おうとすんな。手加減無しにも限度っつーもんがある」
んなこと知るかよと内心毒突きながら舌打ちブチかまそうとしたが、向こうのデカブツも同じように舌打ちをかましていたのでなんか癪だから控えた。
正直この程度で許してやるのは気に食わないが、向こうも西支部監督官に諌められて戦意はなくなったようだ。別に御玲がブチのめされたわけでもなし、ここでひいといてやるか。
「うし、んじゃさっさと各々役割の確認兼準備だ。ジークフリート、モヒカンどもの誘導を頼む」
「任されたー」
「新人とブルーにむーさん、使い魔連中と、そんで百代は正門前で待機だ。敵が来たら迎え撃て」
「「「アイアイサー!!」」」
「りょーかい」
「おう。全員ブチ殺す」
「殺すな馬鹿。東支部のときと同じだ」
「はぁ? 物理縛りとかもう勘弁だぞ」
「煉旺焔星とかいうやつ以外なら好きに使えばいいさ」
軽い感じで言ってくれる。煉旺焔星は俺の十八番だ。あの技の下位互換となると最近全く使ってない灼熱砲弾になるが、今更下位互換を使うのも変な感じである。
とはいえ煉旺焔星の威力は過剰なのは確かだ。俺の匙加減次第では、この西支部ビルのみならず、中威区西部都市一帯を灰燼に帰することもできてしまう。
いつもは気持ち抑えめでやっているのだが、それでも金髪野郎からはやりすぎだのなんだのと言われるぐらいだ。正直クソ面倒だし下位互換の技なんざ使いたくないが、ここは我慢するか。
「御玲は俺とジークフリートたちで地下シェルターの防衛だ。行くぞ」
御玲は西支部の請負人を守る防衛役だ。俺としてはいざってときに守れないのが気が気でならないが、百足野郎や巨人女が縦横無尽に暴れ回る俺の戦場だと、思ったように動くのは難しいだろう。
全能度五百如きが束になったところで御玲が手傷を負うとは思えないが、味方の攻撃に巻き込まれる可能性はある。特にあの巨人女は信用ならない。なんとなくだが、俺の直感が唸っている。
「ギガレックス、お前はわかってると思うが正門だからな。やりすぎるなよ……」
西支部監督官はやれやれと肩をすくめながら、巨人女の岩石の如く太い腕を軽く叩く。巨人女はそれを聞き、高らかに笑った。
「俺様がいりゃー、支部にカチコミかけてくる奴らなんざ終いよ、むしろ他の奴らが俺様についてこれるか心配だぜ!!」
クソムカつくことをほざいてやがるが無視だ。ここで喧嘩を買うとまたさっきの繰り返しになる。流石の俺も不毛な喧嘩をする気はない。御玲に怪我を負わせたとかなら問答無用で灰にしてやるところだが、今は我慢だ。
「わっちは確か正門だったのう」
今の今まで静観していた百代が、金髪野郎に視線を投げた。
見た目は年端もいかない巫女装束を着た少女な上に腕を組み胸を張るその姿は、いつもなら少し不快に思うところだが、コイツの実力を考えれば、その程度の不快感など些末に思えてしまう。
「正門に配置する連中は加減の知らん奴らばかりだからな。監督頼むわ」
真顔を装いながらも、自分のおでこに青筋が走るのを感じる。
遠回しに手に負えないバーサーカー呼ばわりされたのがちょっと気に食わない。事実だし自覚もあるからぐうの音も出ないが、ここでそれを言ったとしても何も変わらないから、とりあえず笑顔を貼りつけておく。
「おい、そりゃーねーだろーがよ。なんでぽっと出の変な服着たチビの下につかなきゃなんねーんだ」
面倒を避けるために敢えてやらなかったことを、隣にいた巨人女がブチこんだ。図体は無駄にでけぇくせに脳味噌はホント小さい。流石の俺でもこの状況でその不満は言わないぞ。
「実力と立ち振る舞いを厳正に鑑みた結果だ。文句があるなら自分の素行に言うんだな」
「ああ!? おいおい、北支部監督官様でもそりゃー越権行為? なんじゃねーの? こちとら天下の西支部だぞ?」
「じゃあ西支部監督官様なら文句ねぇんだな?」
「ねーよそんなもん、許可だ許可」
「おいおいジーク! そりゃねーぜ!」
「そりゃねーのはこっちだ、なんならまた本部の地下懲罰牢に戻るか?」
面倒くさげに頭を掻く西支部監督官に言い詰められ、さっきまでの威勢は完全に削がれる。
見た目チャラ男な割に、低い声音は不思議とドスが効いていた。巨人女にとって、本部にある牢屋はかなり堪えるようだ。どんな所かは知らんし、知りたくもないが、バーサーカーを絵に描いたような奴が大人しくなるような場所だ。ロクな場所じゃなさそうである。
「チッ……あークソ! 気に食わねー、気に食わねーがしかたねー、おいそこの変な服着たチビ! クソみてーな指示出したら俺ぁ自分の思うがままに動く! それだけは覚えとけ、いいな?」
「構わぬぞ。悪漢どもを成敗するついでじゃし、やれるもんなら好きにせい」
「っ……!! 舐めやがって……」
気に食わない。反抗的な感情を一切隠す気のない巨人女は、図体のデカさを最大限利用して百代を見下げるが、百代はどこ吹く風だ。睨まれているにも関わらず、暢気に塩握りを食い始めた。
幸せそうに小腹を膨らませるその姿は、ぱっと見、物見遊山で戦場にやってきた間抜けな巫女にしか見えない。あくまで実力を知らなければ、の話だが。
「相変わらず邪気が濃いが、此度は一際濃密な邪気が此方に迫ぁておる。この街と民草の秩序を守るためにも、西支部の侵奪はなんとしても阻まねばならぬ。行くぞ!」
台詞は一人前の指揮官のそれを感じさせる意気込みようだが、手に持っている塩握りが、全てを台無しにしている。外見から溢れ出る物見遊山感が消えれば体裁は保たれたと思う。
不満が入り混じりながらも、まだ見ぬ敵を迎え撃つため、俺たちは各々所定の位置についたのだった。
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