無頼少年記 ~最強の戦闘民族の末裔、父親に植えつけられた神話のドラゴンをなんとかしたいので、冒険者ギルドに就職する~

ANGELUS

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防衛西支部編

異世界転移先が無秩序すぎる件。

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 空飛ぶ幼女と男の娘とともに朝食を食べ終え、頭を掻きむしりながら西支部のロビーへと足を進めていた。

「「ジークの兄貴、チッース!!」」

「あ、ああ……おはようお前ら……」

 ロビーへ入るや否や、各々自分の部屋の如くくつろいでいただらしない男たちが一斉に立ち上がり一礼する。

 一人一人の容姿はお世辞にも良いとは言えないものだ。上半身裸なんて当たり前、所々にタトゥーを入れており、身体も武骨で、ヘアスタイルはモヒカンだったりスキンヘッドがほとんど。顔つきも悪く、まさに悪人面を絵に描いたような者たちである。

 本来なら人を迎えるためにある中央ロビーもゴミが散乱し、酷い有様だ。元の世界に渋谷なる都市があったが、そこで繰り広げられるパリピ集団の集い―――ハロウィンイベントの事後並の汚さを、実際にその目で見ることになろうとはほんの数年前の自分なら思いもしなかっただろう。

 ガムを噛む音がロビーの中を虚しく駆け巡る。

「おい新人どもォ!! ジークの兄貴のお通りだァ!! ちゃんとツラァ下げて道空けなァ!!」

「ひぃぃぃ!! は、はいぃぃぃ!!」

「やべやべやべ、気づかなかった俺……」

「おい馬鹿、そんなん知られたら殺されるぞお前……」

 西支部の中でも古株モヒカン請負人とスキンヘッド請負人たちが、新参者に向かって大声で怒鳴り散らし、道を空けさせる。新人たちは無言で頭を下げては、そそくさとロビーから退散していく。

 正直元いた世界ではただの高校生でしかなかったのに、この世界に来て生きていくために必死こいて日々を過ごしているうちに、西支部の天辺を取ってしまった。

 元いた世界では争いを避けるのが社会の道理だっただけに、未だ自分のために人をどかすという感覚に慣れない。

「自信を持つのね。あんたはもう、立派なこの世界の住人なのね」

 後ろでぷかぷかと浮遊しながらついてくる、天使の羽をデフォルメしたような羽を生やした幼女が耳元で囁いてくる。

「やれやれ……他人事だと思って好き勝手言ってくれるよなぁ……全く」

 頭を掻きながら気怠げに呟くと、新人請負人たちを大声で追っ払った古株モヒカン請負人が、首を垂れて申し訳なさげな表情を向けてきた。

「すんません兄貴……俺らの躾が及ばずで……」

「いや……まあ……いいよ、うん。充分だと思う」

「そ、そっすか!! ならギガレックスの姉貴の方は任せてもいいっすか!!」

 モヒカン請負人に続きスキンヘッドも目をキラキラさせて何かを訴えかけてくる。やれやれ、と肩を竦めた。

 なんだかんだ西支部には二年いる。彼らの態度の真意を推し量ることには、いい加減慣れてきた。要は新人を躾けている自分らを棚に上げることで、本当に面倒なことを押しつけようという魂胆なのだ。

 実際ギガレックスはコイツらの手に負えないし、西支部監督官たる俺に擦りつけるのは道理だと思うが、なんかこう、はっきり面倒ごとを押しつけられるのはなんだか仕事を増やされた気がして素直に喜べない自分がいる。

 見方を変えれば、俺を監督官として認めてくれているとも言えるのだが、果たして西支部の請負人はそこまで殊勝な人柄だっただろうか。既にお役御免と思い、暢気にタバコを蒸しながら「今日すっげえ上玉の新人みつけてよぉ、ワンナイトやっちまおうぜ」とか話しているあたり、それはないと心の中で断言する。

「ギガレックスの方は任せろ。だが職務は怠るなよ。そこでセックスの話してるハゲどもにも言っとけ」

「あざーす!!」

 返事だけは立派だが、あのモヒカンもどうせあのハゲどもとワンナイトをキメにいくんだろうなと思いつつ、額に手を当てながらため息を吐き、西支部正門前へと向かう。正門を出ると真っ先に視界へ入ってきたのは、見上げると首が痛くなりそうなほど聳え立つ、真っ黒な軍服っぽい服を着た巨人の女だった。

 身長は、おそらく六メートルぐらいだろうか。何を食ったらそこまでデカくなってしまったのか、西支部正門をギリギリ潜れるかどうかの巨体が、小さな少女に向かってがなり立てている。

 小さいといっても、小人ってわけじゃない。視界一杯に広がる巨人の女に比べたら小さく見えるだけで、背丈は俺らと大して変わらないだろう。少女は巫女装束を着た、清廉潔白な女の子だった。

「一体何ぞやそなたは? わっちはこの支部に用があってここに来たのじゃ。道場破りにきたわけではないぞ……」

「それを誰が信じるってんだよ、あぁ? お前みたいなチビ、西支部で見たことねーんだけど?」

「じゃから、わっちは北支部より任務で馳せ参じたと何度も言うておろうに! この支部の監督官に話せば分かることじゃ!」

「あー? 北支部ぅ? なんたってそんな辺境の支部の奴がこんな所に来やがるんだぁ? ぜってー用なんかねーだろ、そう言って俺様の支部を中からぶっ壊そうって算段なんじゃねーのかよ?」

「ええい馬鹿め、馬鹿ったれめ! 口でこれだけ言うても通じぬとは話にならぬ、押し通らせてもらうぞ!」

「ああ!? させるかよチビが!!」

 うん。マズイ。非常にマズイ。

 割り込む隙がなかったので、とりあえず傍観していたが、収拾つきそうにない。このままだと支部の入り口が破壊されちまうし、そうなると支部の守りが手薄になる。

「ベル、ブリューン。ちと下がっててくれ」

 今にも殴りかかろうと拳を振り上げる巨人―――マザー・ギガレックス。拳といっても、俺らから見ればドデカい岩石。マトモにくらえば、人間などとてもじゃないが肉片も残らない。

 何故だか逃げようとしない、むしろ雑魚でも見るような目で彼女を見上げる巫女装束を着た少女だが、おそらくギガレックスの霊圧にあてられでもしたのだろう。この巨人女に向かって啖呵がきれるとは中々豪胆な女の子だが、流石に物理的な意味で耐えられるとは思えない。

 ギガレックスに手加減を求めるだけ無駄だ、なら止められるのは自ずと知れている。

「……発動、``戦勇王書ジークフリート``、``慧帝霊書メーティス``」

 刹那、この世の全ての動作が、スーパースロー再生の如く遅くなった。ギガレックスの拳は今にも少女を粉々にしようと牙を剝く隕石だが、その間に割り込むのが容易と思えるほどに。

 すぐさまその間へと入り込み、少女の頭蓋を粉砕しようと迫る巨岩を片手で受け止めた。

「やれやれ……相変わらず無鉄砲な奴だな」

 ほんの一瞬ギガレックスは目を丸くするが、自分の拳を片手で止めた俺を見るや否や、その表情は悪どい笑みへ早変わりする。

「そこのチビに西支部とはなんたるかってーのを拳で分らせようってだけだぜ俺様はぁ?」

「ったく……半年前、我を忘れて暴れ回って請負証停止処分になったの、もう忘れたのか?」

 岩石並みに硬いその拳を片手で止めながら、肩をすくめる。

 マザー・ギガレックス。``赫怒かくどのギガレックス``という二つ名で呼ばれる彼女は、半年前、とある任務中に暴走を起こし西支部都市の四分の一を破壊した罪で、半年間の請負証停止処分が下されていた。

 あのモヒカン請負人たちが逃げていったように、かつて自分がこの西支部に就職する以前は彼女がこの西支部の実権を握り、中威区暴閥なかのいくぼうばつからもギャングスターからも、その存在を恐れられていた請負人なのだ。

 色々あって俺がコイツを下して以降は俺が西支部監督官となり、コイツは俺の仲間になったわけだが、監督官の座を追われてもコイツの本質はなんら変わっていない。

「いやでも覚えてるぜ、なんたって今日がその請負証停止処分解除日だからなぁ!! いやぁー、久しぶりのシャバの空気はうめーぜー!!」

 ゲハハハハと女らしさのかけらもない笑い声をあげる。

 身長もさながら、声も無駄にデカいのがコイツの特徴だ。俺が元いた世界には電車がよく通っていたが、コイツは電車の騒音並かそれ以上にやかましい。

「で、監督官さんよ。そこのチビをブチのめす許可が欲しいんだが、いいかぁ?」

「いや見てわかんねぇか? ダメに決まって」

「いいんだなぁ!! よぉーし!! ブチのめしてやるぜぇ!!」

「いや話聞けよ!? ダメつってんだろ!!」

「ごばぁ!?」

 素早く巨岩の如き拳を受け流し、ギガレックスが攻撃態勢を整えるよりも早く、強化された脚力を駆使して間合いに入り込み、奴の顔面をぶん殴る。

 なまじ巨体のせいもあってか顔面を一定以上の力で殴ると態勢が保てず、その場でずっこけてしまう。

「あ。やべ」

 気付いた頃には、後の祭り。手遅れってやつである。

 結構な力を込めて顔面を殴ったのだ。後ろのめりにずっこけるのは自然な事なのだが、いかんせんコイツは無駄に巨人だ。

 身長六メートルの巨体が勢い良く地面に転倒するとそれなりの衝撃波と轟音が響き渡るわけでして。

「げほ、ごほ……ちょっとジーク!」

「私たちがいること忘れてないのね!?」

 さもありなん、砂埃がベルとブリューンにぶっかかってしまった。

 ギガレックスの拳を止めるだけのつもりが、思いの外ハッスルしすぎてしまったらしい。悪い悪い、とテキトーに会釈で謝罪しておく。

「なんじゃ、基礎が全くなっとらんのう」

 声がしたので背後へ振り向くと、腰に手を当て、不満気に頬を膨らませている巫女装束を着た少女が、そこにいた。

 そういえばギガレックスの奴が彼女を殴ろうとしたから止めに入ったんだったか。ギガレックスの存在感が有り余るほど強かったからなのか、さっきのさっきまで気配すら感じなかった。存在すら忘れていたほどだ。

「……ん? てかあんた、二週間くらい前に会ったよな……?」

「む? 誰ぞ」

「いや二週間前話したじゃんここで!! ギャングスターの掃討に手を貸してくれたから、そのときに見送ったの俺なんですけど!?」

 久しぶり、と言おうとした矢先に小首をかしげられ、客人なのも忘れて思わず大声を張り上げてしまう。

 目の前に立つ巫女は二週間ほど前、堕阿愚砲王捨ダークホースの一派が西支部に攻めてきたところをどこからともなく手助けしてくれた少女だった。

 もてなしなど必要ない、わっちには行く所があるなどと言われ、余計な説教までされて、結局ロクな会話もしないまま別れてしまったのだが、あれから二週間程度しか経っていないとはいえ、俺ってそんなに特徴ないだろうか。いや確かに元いた世界で高校生していた頃は目立たない方だったし、クラスの立場でも下すぎず上すぎない、今時のラノベの主人公にすらなれそうにないような立ち位置だったけれども、見覚えのある少女に名前も顔も覚えられていないのは流石にショックすぎる。

「むー……わっち、あまり名前を覚えるのは不得手でのう……印象強い輩でないと中々……」

「なるほど。つまり俺は印象が薄いと」

「いやぁ、待て! 思い出す、思い出すからしばし待て! むー、二週間前……確かぁ……」

「いや、いいんだ……元々主人公ってガラじゃねぇし……どちらかってーと成り上がりのモブみたいなもんだし……」

 頭を押さえ、唸る巫女を見て身体が砂になっていくのを感じる。元々そこらのエキストラみたいな存在だったが、不満げに腕を組んで浮遊する幼女ヴェルナー・ハイゼンベルクによって異世界転移させられて、超能力とかいうのを授かって主人公に昇格した身だ。

 色々主人公に足る設定というか条件が揃って晴れてモブを卒業できただけで、根は平和を愛するモブである。正直威厳だとかカリスマだとか、主人公が都合良く持っている要素とは無縁だし、俺が西支部監督官の地位に就き、モヒカンやスキンヘッドたちから憧憬の目で見られているのも、この実力主義の世界で実力を示してきたからに他ならない。

 自分がこの世界で有名な部類に入ったなどと傲慢も甚だしいことは微塵も思っていないが、``名前を覚えないのはマナーがなってない``扱いされる世界出身の自分としては、この世界の道理が分かっていても心にくるものがある。

「ぬぅ……かたじけない」

「いいよ別に……この世界はそういうもんだと思えば……」

「む?」

「いやなんでもない! それで話は変わるんだが……あんた確か別の支部の請負人だよな? ギガレックスの肩を持つつもりはねぇが、ウチの支部に何の用で来たんだ?」

 少し警戒心強めに、探るような声音で言ってみる。その声音に反応してか、ベルとブリューンから緊張感のある雰囲気が漂い始める。

 俺らが所属する西支部は、中威区なかのいくの中でも最悪の治安を誇ると名高い、中威区なかのいく西部都市にある。上威区かみのいく中威区なかのいくの区境線が近く、上威区かみのいくの連中を蹴落として、地位や富、名声を得たい中威区なかのいく連中と、それを阻止する上威区かみのいく連中の紛争地帯でもあり、誰もが毎日戦いの火と隣り合わせの生活を送っている。

 平和がモットーの世界から来た俺は、慣れるまでに正直自殺しようか本気で迷うくらいには、一時期かなりの心労を抱える羽目になったが、慣れたからこそ簡単に西支部の敷居を跨がせるわけにはいかないと、本能的に反射的に体が反応してしまう。

 職業病と言えばそれまでなのだが、ギガレックスの対応もあながち間違いと言えないのだ。

 二週間前は正門前で手助けしてくれただけだったのでロビー内には入れていないのだが、今回はなにかしらの事情で西支部に来たとみて間違いない。

 北支部所属だと言っていたが、嘘をついている可能性も当然ある。巫女のコスプレをしたギャングスターの工作要員だと後々面倒くさいことになるので、まずは身元をきちんと確認したいところなんだが―――。

「わっちは北支部より特待受注? なるものに指名され、この地へ来た。この支部の監督官に話をせねばならぬゆえ、通らせてもらうぞ」

「いや、待って待って待って! その監督官が俺なんだよ! そう見えないかもしれんけど!」

 何食わぬ顔で押し通ろうとする巫女の前に急いで立ち塞がる。

 ギガレックスを下し、西支部請負人にその実力を示した後、西支部近辺において必要以上に格下扱いされることはなくなったが、やはり自分の見た目は強者のそれとは異なるものだ。どれだけ櫛でといても治る気配がない天然パーマに、身長百七十もいかない体躯、お世辞にも筋肉質と言い難い細身に、威厳もかけらもない全身ジャージ。舐められる要素しかないと全身全霊の確信を持って言えるが、それでも西支部監督官としての働きはしなくちゃならない。

 訝しげな表情を浮かべる巫女に、もしやと思って問いかけてみる。

「あんた、さっき特待受注を帯びてここに来たって言ったよな? 一応、本部から俺らにも通知が来てるんだが、請負証の照合をさせてもらう。構わないな?」

 思わず許可をとるような流れになってしまったが、ここで拒否されるとかなり困る。その場合、彼女にどんな理由があるにせよ西支部の敷居を跨がせるわけにはいかなくなるからだ。

 一応、西支部監督官なので強権を発動すれば強制させることもできるのだが、どうしても元日本人としての性が、それを是としなかった。

「よう分からぬが……それでわっちの疑いが晴れるのであれば、是非もない」

 拒まれる場合を考えたが、巫女はすんなりとOKサインを出してくれた。とりあえず胸を撫で下ろしておく。

 任務請負証は、任務を受注したり、相手のバイタルを測ったり、請負人同士で通信したりと機能が多彩だが、もう一つの存在意義として、その請負人の身分を証明する身分証明書としても遺憾なくその力を発揮する。

 任務請負証は任務請負機関を設立したと言われている大魔導師―――八大魔導師によって造られた精巧な魔法陣媒体なので、偽造や改造は不可能。特に特待受注任務を帯びている請負人は諸手続きを無視して、その特待受注任務関係者間でのみできる特別な身分照合が行える。

 俺も今回の任務の一員に加わっているので、彼女が本当に特待受注任務を帯びて西支部に出向してきた正式な請負人かどうか、俺の裁量のみで照合することができるのだ。

 任務請負証のメニューを開くよう念じ、そのメニュー欄にある``特待受注任務人員照合``を選択。対象を目の前に立つ巫女に設定して、照合開始を念じた。

「北支部所属、百代ももよ……なるほど、今回の任務に派遣された人員で間違いないな」

「さっきからそう言うておるのに……」

「悪い悪い、西支部近辺はいつも物騒なもんでね。協力感謝するよ」

 ベルとブリューンから緊張が解れるのを背で感じる。

 照合結果から、腰に手を当てため息をつきながら肩を竦める巫女が``百代ももよ``という名で、所属が``北支部``だということがわかった。任務請負証が言っているなら、嘘偽りはない。

 後は俺が顔面をぶん殴って気絶させた、ギガレックスにどう説明するかが課題として残されるわけだが。

「まあいいや。それより……北支部からは監督官の``閃光``さんと``百足使い``さん、あと澄男すみおさんと御玲みれいさんって人と、その使い魔たちが任務人員として登録されているんだけど……その人たちは?」

 百代ももよという目の前の女の子が、北支部所属だということは分かった。ならば他の北支部の人員が来ていないのは何故だろう。別に集合時刻とかは決めていないので遅刻もクソもないのだが、彼女しかこの場に来ていないのが気になる。

 彼女の様子からして中威区なかのいく西部都市の紛争に同じ支部所属の請負人が巻き込まれたって感じでもなし、まるで今挙げた人物たちとは別働で此処に来たといった感じだ。

 普通、こういう場合は北支部の総責任者である``閃光``さんが、他の請負人を引き連れてやってくるものだとばかり思っていたのだが、これもやはり元いた世界の常識が抜けきっていないせいなんだろうか。

「わっちは通知が来たゆえ、直接此処へ馳せ参じただけじゃ。彼らが今どうしておるかは存ぜぬ」

 小首を傾げる百代ももよさん。同年代の女の子にも関わらず、その仕草は小動物みたいでちょっと可愛い。もし元いた世界で同じクラスにいたら思わず見惚れてしまうほどのキュートさだが、彼女からは俺に対する疑念に満ちた感覚が、如実に伝わってくる。

 確かにどうせ此処に集まってくるのだから、わざわざ聞く必要がない質問ではあるのだが、一応西支部監督官として一時とはいえ同じ任務をともにする人たちの安否を気にしないわけにはいかない。この様子だと彼女は本当に他の人たちが今どうしているのか知らないようだし、これは自分から連絡をとった方がいいだろう。

「やれやれ……知らない人に電話とか、苦手なんだけどな……」

 元いた世界ではSNSなるものでコミュニケーションをとるのが当たり前だったので、電話は余程のことがない限り使うことはなかった。現代の若者の性というやつなのかもしれないが、電話はやはり特別仲が良い相手か、もしくはすぐに返事が欲しいことを相手に聞く以外じゃ使いたくないという思いが先行してしまう。

 とはいえ、そんなことを言っていたら西支部監督官なんて務まりはしない。これも慣れだ。

「ブリューン、ベル、彼女を僕の部屋に案内しておいてくれないか」

「分かったのね。それで、そこで臥してる巨人はどうするのね?」

「あー……とりあえず放置でいいよ。目が覚めたら俺が連れていく。百代ももよさんをテキトーにもてなしてやってくれ」

 二人とも各々の感情で了承の意を伝えてくる。ベルは面倒くさげに、ブリューンは意気揚々に手を挙げる。大丈夫かなと一瞬不安がよぎるが、今は彼女らに任せるしかない。

 こうして、俺は意識を任務請負証に向けたのだった。
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