無頼少年記 ~最強の戦闘民族の末裔、父親に植えつけられた神話のドラゴンをなんとかしたいので、冒険者ギルドに就職する~

ANGELUS

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参上! 花筏ノ巫女編

VSスケルトン班

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 猫耳パーカーや御玲みれいたちと南支部正門前で別れた俺たちは、早速南支部裏手に聳え立つ大自然に足を踏み入れる。

 スケルトン討伐とはいえターゲットと遭遇するまでは、ひたすら草木をかき分け獣道を押し進んでの登山となる。俺も金髪野郎も肉体には自信があるし、戦闘時には役に立たないうえに邪魔なので、登山装備は特に必要としない。

「これが……南ヘルリオン山脈の入口か」

 南ヘルリオン山脈。俺たちが登っているのは丁度その入口付近である。

 大自然自体は見慣れているから、ほとんど感動はない。俺の自宅である流川るせん本家邸新館は大自然の中にあるため、周りは草木しか存在していないからだ。でも南ヘルリオン山脈そのものを意識したのは、今日のこの瞬間が生まれて初めてであった。

「よくよく考えれば、この山々と森の集合体の遥か先に俺ン家があるんだよな……領土の外から見ると意外と新鮮……」

「は?」

「な、なんでもないぞー!!」

 ついつい改まって自分の領土付近を意識したせいで、本音が漏れてしまった。

 普通に考えて、魔生物が跋扈している山ン中に人が住めるわけがない。中にはこの先に流川るせん家の領土があることを知っている奴もいるかもしれないが、どうせボロが出る要因にしかならないし、その話題をわざわざ俺が振る必要はないのだ。

「ゲフンゲフン!! しっかし、この辺り何もないなぁー……やせこけた田畑と荒地しかないねぇ……」

 変な空気になる前にテキトーな話題で場を濁すことにする。

 正直南支部周辺の地理なんぞ興味ないが、俺ン家がバレて言い繕うハメになるより断然マシだし、コイツの解説でも聞くとするか。

「まあ、ここらへんは未開拓地域だからな。ヘルリオン山脈から近すぎて誰も住みたがらないし」

「でもあのオッサンたちはここに住んでんだろ? 言っちゃなんだが生活するには不便だし、都会に移住するつもりはないのか?」

「あー、それはだな……」

 狙い通り、金髪野郎の講義が始まる。

 南支部周辺が過疎っている原因。それは大別して二つ要因がある。まず一つはさっきも言った通り、南ヘルリオン山脈に近すぎて誰も住みたがらないためである。

 自然界に隣接している南支部周辺地域は、魔生物の脅威を真っ先に受けてしまう。単純な話、命がいくらあっても足りなそうな危険な場所に、誰が進んで住みたがるかっていう話である。

 もし俺が流川るせんとかそんなん無関係のただの一市民なら、絶対に住まない。命がいくらあっても足りないのはもとより、魔生物が出没する度に騒ぎになって、一々避難するハメになるとかアホらしい。

 そんな面倒くさい真似をするくらいなら、魔生物のせいで家が一々ぶっ壊されるのも嫌だし、少しでも都心に近い、せめて郊外にでも移り住んで比較的平和に暮らしたいと考えるだろう。

「そんな辺鄙な場所でも少なからず人が住んでいる理由は、南支部に勤めているオッサンたち含め南支部周辺地域に住んでいる人々が、元疎開民だからさ」

 無学と定評のある俺だが、疎開っていう言葉というか単語を知らないほど馬鹿じゃない。金髪野郎の講義を聞きながら、想像力を働かせる。

 今から三十年前に終幕した``武力統一大戦時代``。今の武市もののふしの都心部にあたる地域は戦場ど真ん中だった。

 荒れ狂う戦火によって人々や家屋は容赦なく焼き尽くされる中で、戦えるだけの力のある強者たちはともかく、戦う力が全くない市民たちはただただ無力であった。

 そんな彼らも生き残るために命からがら戦場を脱し、一縷の望みを託して戦火が行き届いていない田舎へと疎開した。その疎開した先で育ち生活してきたのが、今のオッサンたちだという。

「オッサンたちにとって、もうここが故郷なのさ。不便っちゃ不便だろうが疎開してもう十年以上も生活してんだ。不便さにはとっくに慣れちまったろうし、なによりかつて戦場だった都会に今更戻りたいとは思わんだろうよ」

 俺や金髪野郎は若者ゆえに``武力統一大戦時代``を知らない。流川るせん本家の当主である俺ですら、母さんから自慢話がてら武勇伝を聞いたことがあるくらいで、実際にどんな時代だったかなど想像の中でしか味わえない。

 そう考えると、確かに都会へ移住なんて今更かもしれない。十年以上も生活していればその場所が故郷みたいなもんになるだろうし、不便だとしてもその不便さに慣れてしまえばそれも一興と感じるようになるだろう。

 俺だって流川るせん本家邸新館の周りに魔生物が降りてきて面倒だから引っ越すかって問われたら、そんな気は全く起こらないのと同じように。

「とはいえ、やっぱ南支部周辺は人が住みたがらないからいつまで経ってもインフラ整備がロクに進まない。そこで戦後間もない頃、任務請負機関が魔生物の脅威を未然に防ぐ名目で南支部を開設した」

 草木をかき分けながら登山する中で、金髪野郎の講義は尚も続く。

 任務請負機関ヴェナンディグラムが発足したのは戦後間もない頃。その頃は今ほど巨大な勢力を誇っていなかったが、武市もののふしで``任務長``と呼ばれている超お偉いさんは当時から精力的に活動しており、戦後処理で周りがゴタゴタしているのを見計らって南支部の管理を一身で請け負ったらしい。

 まあ当然、魔生物の脅威に真っ先に晒される不人気な地域を先取りされたからといって周りは別にどうも思いはしない。``任務長``は心おきなく南支部の創設とインフラ整備をちょちょいのちょいで済ませてしまったそうな。

「疎開して十年以上経って家族も作っちまったオッサンたちは、そろそろ働き口を探さねぇと食い扶持に困っちまう。人一人食っていくのがやっとの痩せこけたこの土地で、インフラも整備されてて金も貰える任務請負機関南支部ができたことは、まさに天からの恵みだったってわけさ」

 そして現在に至る、と。さらに言うと南支部に猫耳パーカーが所属するようになってから緩やかとだが土地が豊潤となってきており、田畑の実りが良くなってきているのだという。

 彼女が南支部内で最も新参者でありながら、既に最古参のジャイロを抑えて支部の代表に立てているのは、戦闘能力が南支部最強であるのが第一理由なのだが、南支部周辺地域の土地を謎の力で潤し、痩せこけた土地に困り果てていたオッサンたちの支持を一気に得られたからだと金髪野郎は教えてくれた。

 ホントコイツ、何でも知っているな。

「そういや南支部に人が寄りつかない理由が二つあるって最初言ってたけど、もう一つは何なんだ?」

 何でも知っているがてら、この際だから気になっていることは聞いておくことにした。

 どうせ骸骨と遭遇するまではひたすら道なき道を進む登山である。本来人の話なんぞ精々五分聞くのが限界な俺だが、終始無言で獣道すらない山の中を無心で歩くのも、それはそれでクソ退屈だ。

 そんな虚しい思いをするくらいなら、コイツのうんちくでも聞きながら登山する方が幾分かモチベ的にマシだった。

「あーっと、まだ誰も見たことがないらしいんだけどな。南ヘルリオン山脈の遥か奥地には広大な平地が広がってるってのが任務請負機関の通説なんだが、そこには大陸八暴閥ぼうばつが一柱、流川るせん家の総本山である流川るせん本家派の御家があるって言われてるんだよ」

 無心で登山するより金髪野郎のうんちくを聞いている方がマシ。さっきそう言った気がするが、前言撤回。アレは嘘だ。

 思わず一瞬だけ体を震わせる。金髪野郎の口振りからして``噂``なんだろうなっていうのは分かるが、なまじ合っているだけに恐怖を禁じ得ない。

 まさかこんなところに地雷が仕込んであったとは気づかなかった。地雷を回避するためにテキトーな話題を振って気を逸らさせたのに、逸らした先にまた地雷があるなんて予想できるわけがない。

 完全に失態だ。今ここに御玲みれいがいない。嘘が下手くそな俺をフォローしてくれる心強い味方がいなかった。

「そ、そそそそそそうなんだぁー!! へぇー!! そりゃあすげぇやーアハハー!! そ、それで?」

 ダメだ。ここで気取られるわけにはいかない。とりあえず誤魔化しておいてコイツにうんちくを語らせる。それしかここを乗り切る術はない。

「お、おう……? まあいいや、それでな。そういう噂が大戦時代からあったから、魔生物の脅威も相まって尚更人が近づかない未開拓地になっちまったってわけさ」

 額に汗を滲ませ、慎重に地雷の位置を探りながらも、金髪野郎の講義内容を整理する。

 流川るせん家は約二千年続いた武力統一大戦時代を連戦無敗で乗り越えた人類世界最強の戦闘民族。その流川るせん家にも領土があるわけで、そんな最強の戦闘民族が住んでいるかもしれない領土の近くに居を構えるなど、畏れ多いと考える者から戦いに巻き込まれたとき家財を含めすべてを失うことを恐れる者まで、様々な理由から距離をおきたがる者がほとんどだったらしい。

 ならばかつて戦場だった武市もののふし都心部から疎開してきた民たちはというと、当時住む場所がもうここら一帯しか残されていなかったため、流川るせんや魔生物の脅威に晒されて死ぬことと、戦火に焼き尽くされて死ぬこととを天秤にかけ、一縷の望みをかけて前者を選んでいただけの話であり、それ以外の大多数の者は流川るせんや魔生物の脅威から逃れる方を選んでいたのだ。

「ちなみにだけど……流川るせん本家領の場所って、任務請負機関は知ってるのか?」

 思わず問いかけちまったが、このまま黙って「ふーん」って言って流しておけばよかったと後悔する。

 請負人をやっている今こそ身分を隠しているが、俺は流川るせん本家の当主。自分ン家がどこの馬の骨とも知らん奴に知られているのは、やはり気持ちのいいものじゃない。

 母さんが現役だった頃からモロバレだったとかなら話は別だが、もしそうなら俺の領土にちょっかいかけてくる奴がいてもおかしくないはず。でも俺が生まれてから今日まで、そんなクソ面倒を起こしてくる奴は一人もいなかった。

 まあ知っていたとしても金髪野郎が言っていた通り、みんながみんなビビッて寄りつかないだけという可能性も十分考えられるが、純粋に一人もいなかったところを見るに、みんな俺ン家の正しい位置を知らないんじゃないかと思うのだ。

 本家の当主としては、そっちの方が都合良いのだが。

「あ? さっき言ったぞ。把握できてないって」

 内心不安に駆られている俺をよそに、金髪野郎はその不安を軽々しく一蹴する。そういやさっき言っていたなと思い、また墓穴を掘ってしまったと焦りが募る。

「調べたくても調べられるもんじゃねぇし。南ヘルリオン山脈の奥地とか、たとえ本部の請負官だろうと行こうとは思わない大魔境だしな」

「お前でも……か」

「俺を何だと思ってんだ? 確かに受ける任務の傾向としちゃあ魔生物討伐に偏ってるが、自殺志願者じゃねぇんだぜ。奥地にいる奴らまで相手してられるかってんだ」

「例えば……例えばだぞ? 流川るせんの領土を偵察してこいって任務をやることになったら、お前どうする?」

 問いかけなくてもいいのに、ボロが出る可能性が上がるのに、と内心思いながらも自分の中に渦巻く不安が強く背を押してくる。

 昨日の昼間に金髪野郎が言っていた``特待受注``。指名された請負人は、その任務を断れないっていう慣習から生まれた仕来りのことだ。

 もし流川るせん本家領偵察任務みたいなものを請負機関本部が金髪野郎指名で発布した場合、コイツはそれを受けるのか。そもそもそんな任務は発布されうるのか。

 仮に発布されうるなら久三男くみお弥平みつひらに相談する必要がある。その任務を帯びた請負人を捕虜として捉え、記憶を消して解放するべきなのかどうかなど。色々と。

 そしてもし、その任務を帯びた請負人が目の前のコイツだったなら―――俺はコイツをどうするべきなのか。

 その場合、一請負人としてじゃなく、本家の当主としてコイツをどうにかしなきゃならなくなる。個人的には色々良くしてもらっているし、その恩を仇で返すような不義理な真似はしたくない。したくないが、俺の素性を探ってくるのなら、俺のやろうとしていることの邪魔になる可能性がある。

 そうなれば―――仕方ない。

「はぁ? そんなアホな任務、そもそも出されるわけねぇだろ」

 目から光を消した俺をよそに、何馬鹿言ってんだコイツみたいな表情で、俺を睨んできた。

「請負機関だって馬鹿じゃねぇ。みすみす雇ってる人間を見殺しにするような任務なんざ、特待受注でも発布しねぇさ」

 そうか、と胸を撫でおろす。

 だとすると俺が自ら正体を明かさない限り、任務請負機関が俺らに余計なちょっかいを出してくる可能性は皆無ってことになる。まだ完全に味方というわけでもない相手、味方になる前にタイマン張るハメになるのは、できれば避けたい。

「もう一つ聞くけどよ、任務請負機関以外で流川るせんの居場所を知ってる勢力とかいるのか?」

 もうもののついでだ。聞けるだけのことは聞いておくことにする。金髪野郎は珍しく質問攻めしてくる俺に困惑しながらも、真摯に答えてくれた。

「任務請負機関が調べられないなら、武市もののふしにある大半の勢力は知らんだろ。なんでもかんでも知ってるわけじゃねぇから断定はできねぇけど……任務請負機関って武市もののふしじゃ大陸八暴閥ぼうばつに次ぐ大勢力だからなあ」

「そうか……」

「お前さっきからおかしいぞ。なんでそんなこと気になるんだ? お前が流川るせんのあれこれ知ったところで、何かできるわけでもねぇだろう?」

 落ち着いたのも束の間、また体を震わせる。色々不安が先走りすぎてあれやこれや聞きすぎた。引き際はいくらでもあったのに、俺ってやつはどうしても直情的になっちまう。

 確かに素性の知らない金髪野郎からすれば、俺はただの新人。そんな奴が流川るせんのことを知ったところで何ができるって話である。言ってしまえば、知る必要がまるでない情報だ。俺が流川るせん本家派現当主でなければ、の話だが。

「い、いやー別に? ほら、話の流れ的にそういう質疑応答の流れになったから、この際聞けるだけ聞いとこうかなー、なんて思ってさ」

「その割には結構切羽詰まった感じで色々聞いてきてた気がするんだが?」

「そ、それはー……だねぇ……えっと、そう! 俺、流川るせんのファンなんだよ! ほら、やっぱ流川るせんってさ、武力統一大戦時代を連戦無敗で生き残った最強の暴閥ぼうばつだぜ? 最強ってやっぱ男のロマンじゃん?」

「あ? お前、俺と出会って間もない頃言ってなかったか? 俺らにはやるべきことがある、そんな連中に構ってる暇はないみたいなこと。興味ないとかも言ってたような気もするんだが、俺の記憶違いか?」

 マズい。これは非常にマズい。いつもならフォローに回ってくれる御玲みれいがいない現状で、どうやったら金髪野郎の疑念を晴らすことができるんだ。

 なにかしら嘘を言えば言うほど矛盾を指摘されて墓穴を掘っている気がしてならない。このままだと俺が流川るせんの関係者ってことに勘づかれてしまいそうだ。

 どうする。幸い金髪野郎も記憶が朧げで断定できていないっぽいし、記憶違いって言ってゴリ押すか。もうそれしかない気がする。それでゴリ押して、また別の話題をテキトーに振ってやり過ごそう。うん、それしかない。

「そう!! お前の記憶違……」

「しっ!! 静かにしろ」

 記憶違いって言おうとした瞬間、金髪野郎に口を手で塞がれて木陰の茂みに引っ張り込まれる。

 突然何なんだよと思って振りほどこうとするも、俺の霊感が何かを感じ取った。それが寒気となって全身を震わせる。

 全身を駆け巡る異様な寒気から連想できたのは、一寸先も見通せない闇。霊感がそれを感じ取ったということは間違いない。俺の感覚が誤作動でも起こしていなければ、闇の霊力の瘴気に触れたせいだ。

「ようやくおいでなすったようだぜ」

 金髪野郎は茂みの隙間から指さす。人差し指の先には、草木を押し倒し、全身から黒い煙を滲ませ、瞳の部分を黒く光らせる人型の骸骨が、辺りをきょろきょろと見渡していた。

 地響きのような呻き声とともに、闇の霊力によって生み出される瘴気が寒気となって全身を不快に撫でまわす。

 この俺に寒気を感じさせるほどの濃密な霊力を放っているのだ。多分だが垂れ流している霊力だけで、何の力もない奴らを簡単に虐殺できてしまうだろう。

 戦わなくても霊感で分かる。コイツは強い。それも人間の範疇で上の上程度の連中が、束になっても敵わないレベルの``人外``だ。たった一体で国を滅ぼせるっていうのも、おそらく簡単にできるだろうと感覚で容易に推し量れた。

「幸い、相手は俺らに気づいてねぇ。隙を見て俺が一撃加えるからお前は自前の攻撃で……」

煉旺焔星れんおうえんせい!!」

「おい新人!?」

 敵が目前にいる。そしてコイツには物理や固有能力は効かないし、火と光属性以外全部無効。これだけ聞けば卑怯以外の何者でもない特性だが、俺が得意とする属性は火である。

 だったらどうするか。まどろっこしいのは全部抜きにして、この森ごと骸骨野郎なんぞ焼き尽くせばいい。骸骨は骸骨らしく、黙って地中に埋まって化石にでもなってろって話なのだ。

 思い返せば、何を難しく考え、身構える必要があろうか。相手も人外だが、俺も人外に片足突っ込んでいる自覚がある人間なのだ。俺の得意な属性は火属性なのだから、焼き尽くせば終わる簡単なお仕事じゃないか。

「おまっ……唐突に火球ブチこむ馬鹿がいるか!! 話聞いてから行動に移せ!!」

 突然背後からゴチンと容赦なしのゲンコツが振り降ろされる。滅茶苦茶痛かったので思わずカチキレながら後ろ回し蹴りで反撃するものの、華麗に避けられた。

「ああん!? ちんたら話してるより動いた方が速ぇだろ、先手必勝って言葉知らねぇのか!!」

「お前馬鹿か!! こんな森のど真ん中で後先考えずそんなでけぇ火の塊撃ったら山火事になっちまうだろうが!! 南支部周辺を火の海にする気かっつーの!!」

 俺と金髪野郎の怒号が、森の中を反響する。

 既にスケルトンと会敵し、戦闘は始まっている。というか俺が始めたんだが、魔法毒と物理攻撃無効がある以上、接敵は悪手だと考えた俺は、めんどくせぇので森ごと焼き尽くそうとちょっと気持ち大きめの火の球を撃っただけである。一体何が問題だというのか。まったく意味が分からない。

 とりあえず念のため二発目も撃とうとするも、金髪野郎が俺を羽交い締めにして止めにかかる。

 物理が効かない、でも炎は効く。それに辺りにはスケルトン以外の魔生物も普通にいる。だったら話は簡単。森ごと焼き尽くして焦土にしちまえば、他の魔生物に邪魔されることもねぇし、火属性が効くスケルトンも始末できて一石二鳥。なんなら見晴らしも良くなるから三鳥ぐらいある名案だと思ったのに、金髪野郎は目をひん剥いてカチキレている。正直、マジで意味が分からない。

「ったくどうすんだよこれ……南支部の連中にどう言い訳すりゃいいんだ……」

「別にいいじゃん。どうせ魑魅魍魎ちみもうりょうの温床になるんだ。全部焼き払って沸き潰ししとけば、アイツら楽できるだろ」

「楽にしちまったらアイツらの食い扶持なくなるだろうが!! アイツらはな、この森の魔生物を定期的に狩ったり森の資源を採取したりすることで生計立てて、少しずつ開墾とか開拓とか今でも進めていってんだよ!! 焼け野原にしちまったら、そのための収入含めて得る物全部なくなっちまうだろ!! さっきまでの南支部の経緯聞いてなかったのか!!」

「あのオッサンたちのことだ!! なんとかするさ!!」

「そういう問題じゃねぇし、なんなら焼け野原にしちまったことで木々が目減りしたから土砂災害とか、普通の自然被害も受けやすく……はぁ、マジどうしようこれ」

「何事も気合だ!! 気合があれば、なんでもできる!!」

「なに馬鹿言ってんだ!!」

「ってぇ!! チィ!! ざけんなごらぁ!!」

 また頭をゴチンとぶっ叩かれ、俺も胸ぐらをつかみ返す。だが金髪野郎の目は血走っていた。俺の怒りなど文字通り気合と気迫で吹き飛ばす。

「ざけんなはこっちのセリフだ!! 当のスケルトンにはちゃんと当たってねぇし、ただ無駄に自然破壊しただけじゃねぇか!! 責任取るの俺なんだぞ!!」

「あーそーすかそーすかさーせんしたぁ!! はい謝ったぞ、とっとと次どうするか考えた方がいいじゃないすかねぇ!!」

「そうだな!! どうするか考えるか!! 一緒に悩もうぜっと!!」

「ぐぇ!? おま、くび、きま……首キマって……!?」

 首をキメられ、呼吸がクッソしづらくなる。コイツ、やっぱ力が馬鹿強ぇ。この俺が本気で振り解こうともがいてもビクともしやがらねぇとは。

「チッ、面倒だが一度退くぞ」

「けほ……なんで」

「お前が見晴らし良くしちまったからだよ!! 更地じゃこっちが不利だ、ほら行くぞ!!」

「うおおお!?」

 金髪野郎の号令と同時に、スケルトンが異常な跳躍力で俺らの間合いに飛び込んでくる。俺が周囲を焼き尽くしてしまってことで更地になった今、スケルトンの機動力を阻むものは何もない。一直線に俺たちの方へぶっ飛んでくる。

 砂埃が立ち、地面がへしゃげた。地響きのような咆哮が鼓膜を貫き、大きく拳を振り上げる。

「させるかよ!」

 首をキメたまま、金髪野郎が片腕の指先から白い光線を発射する。スケルトンの右脇腹に当たった瞬間、銃声のような炸裂音とともに、スケルトンの身体が弾け飛んだ。

 地響きのような悲鳴。態勢を崩し、ヘイトが逸れた隙を金髪野郎は見逃さない。俺の首をいまだにキメたまま、そそくさと茂みの中へ身を隠す。

「おい、なんで隠れんだ。このまま畳みかけてブチのめしちまえば良かったのに」

「んじゃ聞くが、どうブチのめすつもりだ?」

「俺の煉旺焔星れんおうえんせいで、骸骨野郎もろとも全てを灰燼かいじんに……」

「却下だ!!」

 何故だ。敵を倒す、なら容赦する必要がどこにあるっていうんだろう。

 スケルトンには光の他に火も効く。だったら俺の煉旺焔星れんおうえんせいで何もかも焼き尽くしてしまえば終いのはず。その方が速いし、どう考えても確実である。

 一発で無理でも二発、三発ぐらいなら撃てるから霊力消費の面でも特に問題ないし、一体この金髪キザ野郎は何を気にしているんだろうか。

「……あのな、新人よ」

 頭を掻きむしりながら、大きくため息をついて、ジトッとした目で俺を睨みつけてくる。俺も負けじとガンを飛ばす。

「お前は二次被害を最小限に抑えて任務達成する気はないのか」

「ねぇけど?」

「断言すんなよ!! もっと考えろよそこは!!」

「いやだって、それ考えてモタついてたらこっちがやられるじゃん……」

「そりゃ緊急任務レベルの強敵だったらな。でもこれは通常任務だ。任務ってのはな、二次被害を最小限度に抑えつつ達成するのがセオリーなんだよ」

「なるほど。でもルールではねぇのか」

「セオリーだから守ろうなって話をしてんだよ!!」

 金髪野郎は何故か疲れ果てた顔を浮かべる。そんなにスケルトンと戦うのが疲れたんだろうか。力は強いが、案外スタミナはないらしい。

「言っとくが、お前の相手で疲れてんだぞ。コイツスタミナねぇなって顔すんな」

「そうなの?」

「そうだよ!! まさかお前がここまで周り見ねぇ、人の話聞かねぇ奴だとは思わなかったわ!! これなら御玲みれいをこっちにつけとくべきだったって今更ながら後悔してる!!」

「じゃあお前の判断ミスだったってことで」

「テメェ……!! あーもう……クソ!! 久方ぶりにマジでキレそうだ……」

 なんか勝手に一人でキレてる。俺は俺のやり方を貫いただけだし、正直知ったこっちゃない。まあキレて殴りかかってきたら殴りかかってきたで、こっちも殴り返すだけだからどっちでもいいけど。

「ふぅー……さて、改めて戦略を練り直す。まず俺とお前は属性攻撃で特攻が可能だ。それは分かるな?」

「俺は火しか使えないけど……じゃあお前は?」

「光だ。むしろそれしか適性がない」

「だからスケルトン討伐を頼まれたわけか」

「まあそんなところだが、そこはどうでもいいんだよ。とかくお前、自分の属性でどんなことができる?」

「焼き尽くす」

「……それ以外で何ができるのかな? 次それ言ったらマジでシバき回すからな」

 金髪野郎の額に青筋が浮かび上がる。手に持っていた小石を握り潰しながら、能面のような笑顔で俺を見てきた。

 顔は不自然なほど笑顔だが、明らかに目が笑っていない。体から怒りが滲んでいるのが手に取るように感じとれた。

 だからといってビビる俺じゃあない。目には目を、歯に歯を、怒りには怒りを。負けじとこっちも体から怒りに似たオーラを放って威圧し返す。

 シバき回すと面と向かって言われて黙っているほど、悪いが俺はオトナじゃない。とりあえず舐められないように一言添えておくことにする。喧嘩になったら、そんときはそんときだ。

「やれるもんならやってみろやってハナシだが……正直、そうなると煉旺焔星れんおうえんせいを気持ち火力弱めに撃つぐれぇしかできねぇぞ」

「そのさっきから言ってる煉旺焔星れんおうえんせい? ってのはアレか。``炎弾イグニス・バレット``のことだよな?」

「イグニス・バレット? いや、煉旺焔星れんおうえんせい。俺が編み出した技」

「そこはどうだっていい。どんな魔法かを聞いてる」

「いやだから俺が編み出した技だっつってんだが……?」

「あー……!! もう……!! いや……いい。なるほど分かった。その技がお前のメインってことでいいな?」

 額に浮かぶ青筋をもう一本増やし、既に片目が充血気味の金髪野郎に、ああ、と軽く頷く。

 なんかさっきより明らかにブチキレてるが、魔法と技をごっちゃにされるのは癪だ。そこはちゃんと区別してほしい。自分で編み出したって自負があるし、俺のこだわりポイントの一つなのだ。

「じゃあその煉旺焔星れんおうえんせいとやらでスケルトンだけを焼くことはできるか?」

「さぁ……? やったことねぇからどうだろう。大体俺って周囲ごと敵を灰燼かいじんに帰することを前提に技編み出してるから」

「なんで範囲限定しないのか……」

「だってする必要ないし」

「ある!! あるからやってくれ!!」 

 ホントマジ頼むぜ、ともはや呆れを通り越し、辟易し始める金髪野郎。心なしか、自慢の金髪が色褪せて見えた。

「じゃあ逆にお前は何ができんだよ」

 なんだか俺ばかり根掘り葉掘り聞かれるのは癪だ。前々から思っていた疑問をぶつけてみる。

 俺はコイツの使える技とか魔法はよく知らない。女アンドロイド戦のときは、光の大粉塵を出す技とか使っていたし、さっきだって指先からビームを出していた。まるで久三男くみおが編み出した``光波``って技によく似ていたが、コイツの戦闘スタイルがイマイチよく分からないのである。

 見たことがあるのは素手でワンパンか、よく分からない光の魔法を使うことぐらい。腰に携えている剣なんて飾りなんじゃないのかってくらい、抜いたところを見たことがなかった。

「俺は基本、物理主体だ。奥の手を使えばその限りじゃねぇが……基本は光属性の霊力を小出しにして、拳や剣に纏わせて戦う」

「小出し? 前に使ってた光の大粉塵祭りは?」

「光の大粉塵祭りって……アレも切り札の一つだ。光粉塵ルナ・ヘカトスつって、大量の体内霊力を引き換えに光属性の霊力を粉塵にしてばら撒く防御用魔術」

「目潰しじゃなかったのか……」

「本来は対遠距離攻撃用防御魔術なの。あんときは相手がバケモンレベルで強かったから、足止め手段でしか使えなかったんだよ……」

「じゃあさっき使ったのは」

光線ルナ・セレネ。俺が編み出した魔術の一つ。スケルトンにはアレが一番効く」

「じゃあ俺の煉旺焔星れんおうえんせいとお前のルナ・ヘカトスで一瞬じゃね?」

「まあそう考えるだろうなお前なら。だが、それは無理だ」

 またもや提案が却下され、俺は肩を竦める。

 光粉塵ルナ・ヘカトスは、確かに強力だった。短時間だけとはいえ、ドチャクソ強かった女アンドロイドの動きを止めることができたのだ。

 スタンさせる程度にしかならないとしても、光属性がクッソ効くスケルトンにブチこめば、スタンさせてハメ殺しにできるはずである。そこに俺がダメ押しの煉旺焔星れんおうえんせいをブチこめば、あんな骸骨野郎なんて確実に跡形もなく消滅させられる。戦略もクソも、それで終われるのなら、それに越したことはないはずだ。

「お前が推してくれてる光粉塵ルナ・ヘカトスだが、残念ながら今は使えん」

 金髪野郎が懐から取り出した数本の空の試験管。そのうち一本だけ、真っ白に輝く液体が入っている。それは女アンドロイド戦のとき、金髪野郎ががぶ飲みしていたアイテムだった。

 当時は気にしている余裕がなかったから、結局聞けずじまいだった物である。

「俺は生まれつき、霊的ポテンシャルがそこまで高くなくてな。素のポテンシャルじゃあ、マトモに魔術も使えねぇんだ」

 今更何アホなこと言ってんだコイツと思いながらも、改めて全能度を測ってみる。

 俺は一々全能度の測定なんぞしないので、身体能力の把握とかはしていない。金髪野郎に関しては、物理攻撃と防御以外の項目は、興味ないので全て無視していた。改めて俺は霊的ポテンシャルの欄を確認する。

「はぁ!? 霊的ポテンシャル……十!? たったの!?」

 これには、周りの事なんぞ全部ほっぽり出して驚くほかなかった。金髪野郎に「静かにしろ馬鹿、見つかったらどうすんだ」とたしなめられる。

 物理攻撃と防御は百二十オーバーのくせに、霊的ポテンシャルはたったの十。そういえば、金髪野郎からはほとんど霊力を感じなかったことを思い出す。特に気にしてこなかったが、これは予想斜め上をいく結果だ。

「笑っちまうだろ? たったの十じゃ、どう足掻いてもやってられん。だからこその、ストックってわけよ」

 空になった数本の試験管を左右に振り、ちらつかせる。

 ガラスでできているから甲高い音が響くが、その試験管のほとんどが空ばかりだということは、そのストックとやらはほとんど溜まっていないことになる。なんで今から任務ってときに貯めてこなかったのか。

「前の女アンドロイド戦で、全部使い切っちまったからな。今あるのは、この一本だけだ」

 試験管の半分ほどが真っ白に輝く液体に満たされたそれを、また俺にちらつかせる。そのついでと言わんばかりに、金髪野郎が霊力のストックについて話してくれた。

 金髪野郎に限らず、ほとんどの請負人は長期任務や高難度任務になるとまず霊力不足に悩まされる。

 体力と気力はあるのに、霊力が足りない。ゼロになるまで搾り取れば``霊力切れ``となり、抗いようのない倦怠感に襲われてぶっ倒れてしまう。そうならないように、必ず霊力回復手段を確保しておくことが請負人の定石なのだ。

 ただし、ここで一つ問題がある。霊力を回復するアイテムとして名高い、霊力回復薬の価格が高いことだ。

 体内霊力は本来、時間経過でゆっくりと自然回復する。しかしその自然回復の速度はクソ遅く、完全回復を待っていたら任務をこなせない。だからこそ別途霊力を外部から補給する必要があるのだが、当然身の丈に合わない量の霊力を一気に摂取すれば毒になる。

 霊力回復薬は、誰が飲んでも毒にならないようにするために、大気中から抽出した霊力を水で希釈して作られる回復系薬剤ポーションの一種である。

 言葉にするだけなら簡単だが、その醸造には専門の技術がいる。量産ができないため在庫も少なく、一本あたりの価格が高騰してしまうのだ。金に糸目をつけない奴なら気にするほどでもない価格らしいが、元々霊的ポテンシャルがほとんどなく、その割に日夜任務をこなしている金髪野郎にとっては、非常にコストパフォーマンスが悪い代物だった。

 そこで金髪野郎は霊力回復薬をなんとかして自作し、それを使う方法を編み出す必要性に迫られたのだ。

「個人で使う分には、慣れちまえば難しいこっちゃねぇさ。ただ、専門技術なんざねぇもんでね。やり方は原始的になっちまうんだが」

 別に興味とかはなかったが、やり方もついでに教えてくれた。

 やり方はこの俺ですら理解できるぐらい簡単なものだった。端的にいえば、太陽光を集めて、そのエネルギーをただの石ころに貯めさせる。ある程度溜まったら、それを水に漬けて一日放置するとあら不思議。原始的な霊力回復薬の完成。ただそれだけの作業である。

「まあ当然、市販の奴より純度は遥かに低いし、試験管一本分抽出するのに数週間はかかるぐらい生産効率も悪い。だが、タダだ。俺みたいに体内霊力ロクに貯められない奴にとっちゃあ、これぐれぇで十分なわけよ」

 木漏れ日から試験管を透かして覗く。

 俺は霊力の消費なんて気にしたことはない。まず枯渇する心配がないくらい膨大だし、減ってもすぐに減った分が自動的に補給される。事実上、いくら使ったところで常に満タン状態が維持されている状態である。

 だから霊力回復の手段なんて、今まで考えたこともなかった。考える必要がないのだ。簡単に言っちまえばこれは、持つ者持たざる者の差ってやつである。

 でも持たないなりに、唯一無二の方法を編み出したコイツは素直に凄いなとちょっと思ってしまった。俺も同じ肉体条件だったなら、同じことができただろうか。

「とまぁ、そんなわけで」

 ふと感慨に耽りかけていると、金髪野郎の声で現実に引き上げられる。

光粉塵ルナ・ヘカトスは使えない。ついでに言うと、光線ルナ・セレネもあと一発しか撃てない」

「……は?」

「言った通りさ。前の女アンドロイド戦で、ストックがないんだ。あるのはなけなしの、この試験管一本分だけ」

「いやいやいや、予備は? 予備とかないのかよ」

「俺印の回復薬はな、保存が効かねぇんだ。霊力ってのはほっとくと勝手に別のエネルギーに変質しちまう厄介な奴でね。それを防ぐには制御魔法陣媒体を含ませる必要があるんだが……残念ながら、俺は戦いの技術以外持ち合わせがねぇのよ」

 肩を竦めながら「やっぱ市販の奴、予備として何本か買っておくべきだったかなぁ……無駄遣いだと思って、ケチるんじゃなかったぜ」と、今度は恨めしそうに試験管を睨んだ。

 作るのに数週間はかかる、純度も低い、さらには保存も効かないときた。簡単なやり方の裏には、欠点だらけである。タダより高いものはないって言葉があるが、タダなだけに負債抱えまくっているなと他人事ながら同情したくなってきてしまった。

「だから、これ以上勝手な真似されると俺がただの木偶の坊になりかねない。理解してくれたかな?」

 まるで品定めをするような目で、俺を見てくる。

 霊力のストックは、たったの一本。それも、光のビーム一発分しかない。もし下手に使わせることになれば、金髪野郎は純粋に物理で殴ることしかできなくなる。スケルトンには物理攻撃無効だ。そうなれば金髪野郎は完全に役立たずである。

 もしもあのとき、俺が下手に突っ込まず奴の話に耳を傾けていれば、一発分は節約できたかもしれない。だが、それを言ったところでもはや後の祭りだった。

「ややこしい作戦立てたところで、お前のことだ。多分ついていけないだろうからシンプルにいく」

「あ、はい。それで?」

「まず俺が注意を引きながら、光線ルナ・セレネを撃つ。スケルトンは怯むからお前は周りに被害が出ないように、スケルトンを焼き尽くす」

「ほうほう」

「終わりだ」

「マジでシンプルだな……」

 驚くほど簡単な作戦だった。というか作戦と言えるほどのものなのか、怪しいほどだ。

光線ルナ・セレネでハメられるのは、およそ一分ほどだと思ってくれ。お前は一分以内に、スケルトンを消し炭にしなきゃならない」

「一分か……短いな」

「失敗したらお前がタイマンでスケルトンを処すことになる。俺は助けられないから、そうなったらお前の言う``気合``で頑張ってくれ」

 けらけらと笑う金髪野郎をよそに、いい感じに押しつけられて歯噛みする。

 確かに失敗すれば、金髪野郎はもれなく役立たず。戦える俺が、なんとかあの骸骨野郎をブチのめさなきゃならない。

 単純なタイマンだったら負ける気はしないが、相手は物理攻撃無効に加え、魔法毒で弱体化させてくる厄介野郎。触れずに叩きのめす必要があるが、奴の敏捷能力は俺の目から見てもかなり速かった。跳躍力も化け物だし、フィジカル的には俺とそんなに大差はない。魔法毒をくらえば、俺の勝率はそれだけ低くなってしまうだろう。

 やっぱり、一発できっちりとキメる必要がある。

「さっき俺が一発撃ったから、結構弱ってるはずだ。ちんたらしてると回復されるし、弱ってる今のうちにトドメをさす」

 金髪野郎が目で合図する。俺の準備ができ次第、突っ込むってことだろう。準備どうこうなど、言うまでもなかった。

 俺が力強く頷くと、二人揃って茂みから身を乗り出す。まだ近くを徘徊していたらしいスケルトンが、物音に気づいて俺たちへ振り向く。

 地響きのような、野太い咆哮が響いた。凄まじい気迫と速度で、俺たちに迫ってくる。だが、金髪野郎に迷いはなかった。

「しッ」

 最後のストックを利用した、最後の一発。スケルトンは避けもせず、ノーガードでそれを受け切る。さっきそれで大ダメージを受けただろうに、学習していない。魔生物だから思考もしないせいだろうが、逆に好都合ってもんだ。

「容赦なく焼き尽くす……!」

 範囲を狭めてスケルトンだけを焼く。そんなこと本当にできるのか、などとつまんねぇことは考えない。要はイメージだ。

 今まで俺は特定の何かだけを焼くっていうイメージで攻撃などしたことがない。周りのものごと敵を焼き尽くした方が速いし確実だったからだ。面倒もないし、イメージする時間が少ない分、隙も生まれにくい。敵だけを焼き尽くすイメージを一々するのは、はっきり言って無駄としか思っていなかった。

 だが今回は失敗すると、俺が骸骨野郎をタイマンでなんとかしなきゃならんというもっと面倒でかったるい状況に追いやられる。動きは速いし、魔法毒も持っていて、物理も効かない相手と喧嘩なんざ勘弁だ。そんなクッソ面倒なことをさせられるくらいなら、一発でキメてやる。

「要はできるかできないかじゃねぇ……やるかやらねぇか、だ!!」

 小さい頃から、母さんに言い聞かされてきた言葉。できないと思うからできないのであって、やろうと思えばなんとかなる。

 今回だって、要はイメージ。イメージさえしてから放てば、どうにかなるもんなのだ。

 光線ルナ・セレネが直撃し、怯んで動けなくなったスケルトンに煉旺焔星れんおうえんせいをブン投げた。

 相手は動けない。ただ野太い咆哮を繰り出し、俺らを睥睨することしかできない。煉旺焔星れんおうえんせいが炸裂し、身動きが取れずハメられた骸骨野郎を飲み込んだ。俺は勝利を確信する。

「んー……」

「んだよ、これでも結構エコ仕様にしたんだが?」

「まだ広すぎる感じだが……まあさっきよりマシだし、スケルトン消し飛んだし、今回は良しとしてやるか」

「ああん!? これでも不満だってのかよ!?」

 思わず金髪野郎の胸ぐらを掴んで凄む。

 俺は霊力制御なんてインテリ臭いテクは持ち合わせていない。そもそも必要ないとすら思っていたくらいなので、基本その手の細々とした作業をやらないといけないときは、パオングあたりのプロに丸投げしていた。

 自分でやったところで確実性もないし、下手くそなのは目に見えている。だったら上手い奴がやった方が確実だし速い。それが俺の流儀なのだ。

 でも今回はやらない方を選ぶと俺がスケルトンを一人で相手にしなきゃならなくなってクソ面倒くさいってのがあり渋々やり通したわけだが、やはり滅多にやらないだけあって、どうしても周囲が想定より若干広く燃えてしまう。

 煉旺焔星れんおうえんせいは、元々周囲もろとも敵を灰燼かいじんに帰する技なので、敵だけを燃やすのには不向きな技だ。新しい技でも開発した方がいいのだろうか。範囲限定技とかクソ面倒そうだし、意味があるのかどうかも分からないし、あんまり開発する気が起こらない技である。

「よし。スケルトンも倒せたし、一度南支部に戻る。霊力回復薬を借りなきゃなんねぇし」

「ああ、もうさっきのでストックなくなったんか」

「まあな。借りるわけだから、任務が終わったら返さなきゃならんが……」

 出費が嵩むぜ、と肩を竦める金髪野郎だったが、俺たちは乱入に遭わないように、そそくさと森を後にした。
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