無頼少年記 ~最強の戦闘民族の末裔、父親に植えつけられた神話のドラゴンをなんとかしたいので、冒険者ギルドに就職する~

ANGELUS

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参上! 花筏ノ巫女編

南支部作戦会議

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「う、うぅ……」

「大丈夫ですか?」

「だ、だいじょーぶじゃねー……は、はきそー……うぷ」

 そして南支部正門前。現地に到着して車から降りたポンチョ女は、その場でしゃがみ込んでえづいていた。御玲みれいが優しく背中をさする。

 ナビのねーちゃんは三十分だとか言っていたが、その予測通り三十分くらいで着けた。

 車で飛ぶ空の旅は、景色が中々のもんで楽しかった。俺も空を飛ぼうと思えば霊力で飛べなくもないが、ビルすら届かないくらいクソ高い空までは流石に飛んだことがない。

 車の窓からは米粒化したビルと車より下を漂う雲、それゆえにカンカンに輝く太陽がクソ綺麗だった。もしまた見られるのなら、見てみたいものである。今度空飛ぶときに自力で上がってみるのも良さそうだ。

「南支部に来るのは久方ぶりだが、ここは変わんねぇなぁ。相変わらずの限界集落だぜ」

 いつか金が貯まったら買いたい超カッコいい車で行った空の旅の余韻に浸っている中、金髪野郎の呟きで現実に引き戻される。

 話に聞いていたとおり、南支部周辺はほとんど家という家がない、荒地と草原だった。あるとしても倒壊寸前の廃屋みたいなのが、点々とまばらにある程度である。

 本当に山から降りてくる魔生物を食い止めるためだけに支部を設置している感じだ。個人的には見渡しがいいし、ビルが少なくて風通しも若干良く、なんならこの何も無さがウチの本家領に近しいので安心感がある。慣れ親しい情景なので気疲れすることがないのだ。

「こんびにすらねー……どーやってめしくってんだここのやつら」

「コンビニならここから百五十キロ離れた所にあったはずだぜ」

「とおい!!」

「まあそこらへん自然に溢れてるし、サバイバル生活してるんだろ」

「うぇー……まじかよ」

 ようやく気分が戻ったのか、ポンチョ女が立ち上がり、肩を落とす。

 確かに山が近いし、森も沢山あるから自然には溢れている。だからとサバイバル生活しているかどうかは分からないが、可能性としてはあり得る話だ。

「んじゃ早速、中に入るぜ。お前ら、心の準備はいいな?」

 うっす、とポンチョ女が力強く返事する中、俺と御玲みれいは顔を見合わせて首を傾げる。

 ただ南支部の門をくぐるだけで、なんで心の準備がいるんだろうか。そんな気張ることでもあるまいに、何を身構える必要があるっていうんだろうか。大袈裟な気がするんだが。

 俺たちは金髪野郎に連れられて、特に何も対策することなく南支部の正門をくぐる。すると―――。

「「「ウッース!!」」」

 耳を手で塞いでいても声でけぇなと感じるほどの号令。俺らと金髪野郎たち、その両隣を囲うように、四十歳半ばの軽装のオッサンたちが立膝で俺たちを一斉に出迎えてきたのだ。

 まるで事前に練習でもしてたんじゃねぇかってくらい、寸分違わず同じ動き、同じ声量。この支部の統率の高さが伺えたが、なによりもうるささが勝り、色々と台無しにされた気分に苛まれる。

「やべぇ、``閃光のホーラン``さんだ!!」

「ワシ、生で見るの初めてでガンス……!」

「オ、オレは昔見たことあるんだがのぅ……成長したもんですわ」

「おで はじめて みる。ほーらん つよい。おで かんどう した」

「おい見ろ!! ``百足使いのペグランタン``さんまでいるぜ!!」

「う、動いておられる!!」

「レアじゃ、クッソレアじゃけぇ!!」

「ワシ、もう死んでもいいでガンス……」

「お、おい!! アイツぶっ倒れやがったぞ!! 担架もってこい担架ぁ!!」

 騒がしいことこの上ない。この二人が有名なのは知っていたけど、それにしても一人一人が騒音レベルで声がデカいせいで、てんやわんやである。俺や御玲みれいを押しのけて、金髪野郎たちにわらわらと群がっては騒ぎ倒す様は、まるでアイドルに群がるファンか何かを彷彿とさせた。

「おめーらぁ!! グダグダ騒ぐでねぇ!! 姐さんのツラァ泥塗るづもりけぇ!!」

 金髪野郎とポンチョ女を取り囲んでいたオッサンどもが、突然ロビーの奥から現れた、一際デカいオッサンの怒号で、一瞬で静かになる。

 一際体躯のデカいオッサンは、身長二メトはあるだろうか。全身筋肉の甲殻に覆われ、その肉厚さはボディービルダーを彷彿とさせる。顔面は凶器と言わんばかりにイカつく、グラサンと顎髭も相まって、ものすごく力強い印象を受けた。

 そのオッサンの背後から、見知った少女がにゅるっと姿を現す。女アンドロイドと戦ったときに霊子通信で顔合わせした少女、``霊星れいせいのタート``ことトト・タートである。

 彼女が現れるや否や、オッサンたちはスライディングするように、彼女の下へ集まった。

「お久しぶりっす。今日はお越しいただき、誠の感謝っす」

「そりゃどうも。本部に申請してくれた上での正式なオファーだし、報酬分の仕事はすっけどよ、別に東でも良かったんだぜ? 距離近いし、あそこなら面倒な手続き要らんかっただろ?」

「…………センゴクのやろーには借り作りたくねーんすよ。アイツ調子のらせるとうぜーし、私にも譲れねープライドってもんがあるんで」

 黄緑色の猫耳パーカーの猫耳を弄りながら、言葉尻では強がりながらも目を泳がせる。

 リアクションから察するに、犬猿の仲って話はガチそうだ。苦手なやつに借りを作りたくない気持ちはよく分かる。喧嘩ってのは、弱味を見せたらそこにつけいられるもんだからだ。

 金髪野郎はそうかい、まあいいやと軽く流すと南支部のロビーをさらっと見渡した。

「南支部の状況はあらかた察してんだけどよ。改めて聞かせてくれや」

 わーったっす、とロビーの奥へ案内される。

 俺らが案内されたのは、いろんな食い物や酒類が散乱している飲み会会場みたいなロビーから打って変わって、二階にあるこれまた一室。和風の引き戸の先にあるトト・タートこと猫耳パーカーの執務室だった。

 金属製のロッカーと執務机、応接用のテーブルとソファ以外、家具という家具が存在しなかった金髪野郎の質素な執務室と違い、猫耳パーカーの執務室は家具で溢れていた。さながら、図書館のような執務室である。

 床は灰色の業務用カーペットが敷かれ、俺には到底何なのか分からない魔道具の数々と、読む気にすらならない魔導書らしき本が大量にしまわれた本棚。そしてなにをそんなにしまうものがあるのか、大量の木造箪笥が部屋の大部分を占めていた。

 個人的に一番気に入ったのは、執務机らしき机の隣の、小さい本棚の中心に置いてある、青白く光る水晶球の魔道具だ。しばらく何も考えずぼけーっと魅入ってしまうほどキラキラと輝いていて、一体どこで手に入るのか、本人がいたら思わず聞きたくなってしまったくらいには、綺麗で見惚れてしまっていた。

 電灯も暖色系で目に優しいから居心地が良く、本を読むのが好きな奴ならずっと居たいと思えそうな、書庫感溢れる執務室である。

 どにかく物の多い執務室だが、執務机と応接用のテーブルとソファは辛うじて置いてあった。てっきり家具で溢れ返っているから立ちぼうけで話し合いするのかなと少し不安になっていたので、胸を撫でおろす。

 分からないながらも、やはり物が多いだけに色々気になるので執務室中を見渡していると、数多くの木造箪笥のうち、ちゃんと閉められていない戸棚が一つあった。その戸棚の隙間からほんの少しだけ見えたソレに、俺は思わず御玲みれいの肩を優しく叩いた。

「おい、あの服……巫女装束じゃね?」

「どれです?」

「ほら、あそこの……半開きの戸棚」

「あー……ですね。暗くてよく見えませんが、確かに。それがどうかしたんですか」

「いやな……今日の朝、お前のためにジュース買いに行ったろ? そんときに出会った女の話したじゃん? ソイツも巫女装束着てたんだよな……」

 とりあえず何が言いたいのかというと、俺が朝に出会ったコスプレ女と猫耳パーカーは友人か何かなんじゃないかという、根拠もクソもない憶測である。

 ぶっちゃけ巫女装束なんてピンポイントな衣装、ふざけ目的のコスプレか本職のなにかしらでもない限り、着る奴などそうそういるもんじゃない。そもそもな話、普通なら身に着ける必要もない衣服である。

 猫耳パーカーと朝出会った奴がなにかしら関係があるという根拠など一切ないが、まあいつもの直感ってやつである。巫女装束なんてただでさえ物珍しいし、それを一日に二度も目にかかるのは異常な気がしたのだ。

「うーん……ただの偶然じゃないですか?」

 しかし御玲みれいは、俺の憶測に首をかしげながら難色を示した。

「そもそも所属している支部が違うじゃないですか。接点があると思えませんよ」

「だよなぁ……西の出稼ぎ終わったら南の方へ行くとか行ってたけど、車持ってるようにも見えなかったし、つか運転できるようにも思えないし、況してやこんな何もない所まで徒歩で移動とか頭オカシイとしか思えねぇしな……」

「おそらく支部運営の戦略の一環でしょう。ここは壮年の男性が多いですし、わざと煽情的な仮装することで殿方の目の保養となり、支部内のモチベーションを維持しているのでは」

 御玲みれいの推論に粗探しする隙はない。否応なくその推論に納得させられる。

 確かにここの支部は謎にオッサンが多い。というかオッサンしかいない。女といえば猫耳パーカーぐらいで、他は四十から五十ぐらいのオッサンである。

 猫耳パーカーは見た目的に御玲みれいと同じか、少し年下くらいなのでいわゆる紅一点ってやつである。御玲みれいの言った通り、モチベ維持の目的でわざと際どいコスプレをして宴会とか普通にやっているイメージの方が、しっくりくる。

 朝出会った奴と猫耳パーカーに実は接点があるって憶測は、やはり無理筋すぎたか。まあ所詮は直感だ。外れても特に違和感のないことであった。

「おお、何の話してんすか。私にも聞かせてくださいよー」

 和菓子と粗茶を汲んできたであろう猫耳パーカーが、俺たちの背後から突然声をかけてくる。何の前触れもなかったのでびっくりした俺たちは戦いの癖でついつい身構えてしまう。それを見て「ああ、驚かせてすんません」と頭を下げてくれた。

 それにしてもめちゃくちゃ小声で話していたのに、地獄耳すぎんかコイツ。そのうえ声をかけられるまで全然気配を感じなかったし、よく見れば引き戸も開かれている。

 引き戸を引く音すら感じなかったとか、俺らが話し合いに熱中していたせいなのか、それともコイツの気配の絶つ技量が異常なのか。いや、きっと前者だろう。そうに違いない。

「いや、まあ……すげぇ執務室だなあって思ってな! 全体的に物が多いのに下のロビーと違って整理整頓が行き届いてるし、電灯も暖色系だし居心地良いなーって御玲みれいと話してたんだよ。な?」

「ええ、はい。そんなところです」

 年下の女の子に背後を取られて思わずガチでビクついたことを悟られるのは、年上の男として恥ずかしすぎる。全力で隠すため、とりあえず嘘半分本音半分の言い訳をでっちあげておいた。御玲みれいも合わせてくれたようなので、多分バレることはないだろう。

 案の定、俺の感想を聞いて猫耳パーカーはふふん、と得意げな表情を浮かべながら、和菓子と粗茶を配膳していく。

「そりゃあまあ私、これでも南支部の看板なんで? ロビーが汚ねーのはオッサンが多いからしゃーねーとしても、私の部屋くらいは綺麗にしとかねーと、他の支部に示しがつかねーでしょ?」

「よっこらっしょっと……ふーん、そんなもんなのか?」

「そりゃそーっすよ。キメるときはピシッとキメねーと、ナメられるっすから。武市もののふし育ちならわかんでしょ?」

「あー、まあ……」

「ま、とにかくそゆことなんで。どうぞお座りくださ……って新人クンはもう座っちゃってるっすねぇ……」

 全員の視線が俺に集まる。盛大にため息を吐く金髪野郎と御玲みれい、そして若干苦笑いする猫耳パーカー。俺が一体何をしたというのだろうか。

「あー……済まん。コイツにはよく言い聞かせておくから、今回は大目に見てくれねぇか……」

「あははー、いいっすよ別に。ウチはそーゆーのあんま気にしないんで」

 俺は普通に奥の方に座っていた。それの何が悪いっていうんだろうか。確かになんで誰も座らねぇんだろうとは思っていたし、凄い視線を感じるとも思っていたけど。

 もやもやしていると、御玲みれいに睨まれながら頭をスパンと叩かれ、立たされる。正直意味不明すぎてカチキレそうになったが、ここでカチキレるとなんだか居た堪れない感じになりそうだったので、やめておいた。

 俺は改めて手前側、それも一番最後に座らされる。

「つーわけで、私から改めて説明させていただきますわ。まずウチの支部の状況っすけど……」

 そしてここからが、眠気との戦いだった。俺は長い話を聞くのが苦手である。何度か御玲みれいに起こされながらだったので記憶が曖昧だが、多分こんな感じの内容だった気がする。

 女アンドロイドと麾下ロボット軍団との戦いで南支部に所属する請負人のうち、六割以上が重軽傷を負って請負機関附属病院で療養しており、更にはその六割のほとんどが南支部主力のオッサンたち。今の南支部はスケルトンを退けるのはおろか、マトモに任務をこなすこともままならない状況だという。

 今のところマトモに動けるのは、トト・タートの次に強く、彼女が来るまで南支部のエースだったジャイロっていうオッサンと、彼女本人ぐらいらしい。

 ちなみにジャイロってオッサンは、今俺らが向かい合って座っている、さっき騒いでいたオッサンどもを一喝で諌めた一際図体のデカいオッサンのことだ。

「そりゃもうほぼ機能してねぇみてぇなもんだな……二人だけじゃ回せんだろ」

「回せないっすねー。いま来てる連中じゃ、タイマンでF、パーティ組ませてもフェーズEがやっとって連中っす。フェーズA級のスケルトン討伐なんざとても……」

「無理だな。戦わせようもんなら一瞬でミンチだ。アンタの判断は正しいさ」

 猫耳パーカーの猫耳をしおらせる彼女に温和な口調で諌める。

 タイマンでフェーズFとなると、いま残っているオッサンたち一人一人の全能度は七十から高くても百程度の連中。スケルトンの全能度は知らんが、国や街を一人で滅ぼせるとなると軽く三百か四百以上はある。力の差は歴然だ。出会ったら最期、死ぬ未来しかない。

「オラでも無理だで。スケルトン殺れんは、ウチだどトトお嬢しかおりゃあしねぇで」

 ジャイロってオッサンが、悲しい表情で首を左右に振った。

 請負証で測ってみるとこのオッサンの全能度は三百六十程度。倒せるかどうかは、五分って感じがするんだが。

「なぁ、スケルトンの全能度っていくつなんだ?」

 俺は何気なく聞いたつもりだったのだが、全員何故か黙り込んでしまい、執務室は異様な静寂に包まれる。金髪野郎は額に手を当て苦笑いを浮かべ、御玲は呆れ顔で紅茶を啜る。

 俺はただ素朴な疑問を投げかけただけなのに、何故こうも一々場が凍りつくのだろうか。もしかしてだがスケルトンの全能度程度、知ってて当然みたいな感じなのだろうか。だとしたら少し理不尽な気がする。なんでもかんでも知っている前提で話すのは良くないことだと思うのだ。

「テメー、なにしにきたんかわかってねーのか? あそびじゃねーんだぞこちとら」

 一気に居た堪れなさと気まずさがのしかかるが、それを切り裂いたのは、さっきまでだんまりを決め込んでいたポンチョ女だった。でも何故か、その顔色と声色はものすごく険しい。

「あ? ンなもん分かってんだが? 喧嘩売ってんのかテメェ?」

 心中を渦巻いていた居た堪れなさと気まずさは一瞬にして消え失せ、代わりに烈火の如き怒りが燃え盛る。

 俺はただ素朴な疑問を投げかけただけだ。なのになんで遊びに来てんじゃねぇんだぞとかアホぬかしてんだろうか。何しにきたのかくらい分からなきゃここに来るわけねぇだろうが。馬鹿にするも大概にしやがれってんだ。

「おい落ち着けお前ら。ここよその支部だぞ。それから新人、スケルトンの全能度はだな……」

 俺とポンチョ女は、しばらく無言のままガン飛ばし合っていたが、そこにすかさず金髪野郎が割って入り、俺らが反撃に転ずる隙を与えぬまま長々と金髪野郎講座が入った。

 スケルトンと言っても、実はかなりの亜種がいる。亜種も含めて何種類か存在するので総じて``スケルトン系``と言われているのだが、標準なのが普通のスケルトン。何の変哲もない、人型の骸骨だ。

 物理攻撃力と魔法攻撃力が高く、防御力も回避も敏捷も高い万能型である。コイツがスケルトン系の基礎になるのだが、なんと驚き。標準型スケルトンの全能度は六百九十五。物理攻撃力と物理防御力だけなら俺より高い数値を誇る。

 そして気になる亜種だが、その種類は有名な個体が四種類。

 回避、敏捷、物理攻撃、防御は標準型スケルトンより劣るものの、魔法攻撃と防御、体内霊力量で勝っているスカルウィザード。

 肉体能力はスカルウィザードと同じだが、複数の同族をどこからともなく召喚してくるスカルサモナー。

 体内霊力量、物理攻撃、防御、魔法攻撃、防御で他全てのスケルトンに劣るが、敏捷と回避が亜種中最高値を誇り、罠感知や敵感知といった他のスケルトンが持っていないような固有能力を持つスカルハンター。

 そして、それら全ての上位種にして出現すればフェーズG任務が発令されるほどの天災―――スケルトン・アーク。

 他の亜種の全能度はそれぞれであまり大差はないのだが、上位種であるスケルトン・アークの全能度は、なんと破格の千四百九十プラス。タイマンではほとんどの請負人が勝利不可能な、紛う事なき大災厄である。

 これだけでも結構お腹ならぬお頭が膨れる濃いメンツなのだが、まだ金髪野郎の講義は終わらない。正式にはスケルトン系に属していないが、姿形が酷似している近親種も存在する。

 それが世界に漂う死者の魂を自然霊力に変換するために世界の修正力によって発生するスカルメイカーという魔生物と、これまたソイツが召喚することで発生する魔生物スケルトン・マッシブである。

 何故コイツらが亜種ですらない近親種扱いなのかというと、任務請負機関がスケルトン系の定義を``自然界に存在する闇の霊力が生物の遺骸に憑依することによって発生する魔生物``だと定めているからである。

 じゃあスカルメイカーらは何なのかというと、``世界の因果律が起源となって生み出される闇の魔生物``と定めており、魔生物としての根源や実体が全く異なるとして、スケルトン系には分類するべきではないという結論が任務請負機関を通して世界基準の通説となったらしい。

 個人的には姿形がそっくりなら分類も一緒でいいじゃん、誰だよそんな面倒くさい分類考えたアホはと思ったが、よくよく考えればどっちも魔生物であることに変わりないし、なんなら分類とか俺からしたら至極どうでもいいものだ。俺個人としては、特に区別しない方向で納得しておくことにした。

 またスケルトン・アークとは別に厄介なケースとして、スケルトン系の連中や、さっきいったスカルメイカーたちが運悪く百体以上の群体で出現し、最悪なことにそのまま人里まで降りてくる場合もごく稀だがあるらしい。その群体を任務請負機関は``骸骨の軍勢スケルトン・レギオン``と呼んでいる。

 任務請負フェーズは群体の総数や発生した個体種によって若干の幅があるらしいが、最低でもフェーズSは確実の天災である。

 想像してみたが、百鬼夜行か何かとしか思えなかった。正直えげつない。

「いまもう麓までおりでぎでんだ。このままだぁ、オラたち全員殺られちめぇ……お嬢でも複数相手は流石に……」

 心配そうに猫耳パーカーの肩を撫でるジャイロ。猫耳パーカーは顎に手を当てて唸りながら考える素振りをする。

「うーん、二体三体なら問題ねーっすけど、``骸骨の軍勢スケルトン・レギオン``とかスケルトン・アーク相手だとちょいキツイっすね……」

「とんでもねぇごど言うでねぇ! そがいなもんぎでみぃ、オラだぢ消じ炭だでぇ!」

「落ち着くっす。スケルトン・アークはヘルリオン山脈の奥地にいる奴っすよ。麓まで降りてくることなんてそうそうないっす。``骸骨の軍勢スケルトン・レギオン``にいたっては発生確率クソ低いし。今は目撃された骸骨野郎をどうにかする。違うっすか?」

 うっ、と呻き、反論したくも言い淀む。猫耳パーカーが言っていることが正論とはいえ、やはり心配なのだろう。

 しばらく逡巡するが、覚悟を決めたのか、ハッと顔を上げ、猫耳パーカーを見つめた。

「分かっただ。オラも覚悟ぎめるだ。お嬢にづいでぐど、地獄のぞごまでもなぁ!」

「いや、それは流石にしつこいっす……」

「えぇ!?」

 なんだか微笑ましい二人だ。オッサンの押しが若干強いのがちとアレだが、なかなか見ていて心地の良いものである。

「んで、目撃されたスケルトンってのは?」

 すかさず金髪野郎が話の本筋を戻す。猫耳パーカーの面差しが、一瞬で真剣なものへと変わる。

「標準型のスケルトン一体、スカルウィザード一体、スカルハンター一体。そしてその後方にスカルサモナー一体」

「おいおい。厄介なんてレベルじゃねぇぞそれ。ほぼ勢揃いじゃねぇか!」

「でも各々距離が空いてるんで、各個撃破可能っす」

「あー、ならまだやりようがあるか……でも厄介なのは」

「サモナーっすね。他のスケルトン呼んでくるんで、とっとと倒さねーと……」

「負け確、か」

 スカルサモナー、他のスケルトンを召喚してくるスケルトンの亜種。

 確かにたった一体で御玲みれいに迫る肉体能力を持つ奴を複数呼ばれたら、俺や澄連すみれんはともかく、他は生きていられる心地がしないだろう。南支部の連中だけだと、絶望的戦力差だ。

「新人、一応だぞ? 一応言っとくが、自分は大丈夫だとか思うなよ?」

「なんで?」

「…………北支部で言ったろ。アイツらは、触れた相手を弱体化させてくる魔法毒と、物理攻撃無効と固有能力無効の常時バフで守られてるって」

「……あー」

「ついでに言っとくと火と光属性以外の全属性攻撃無効だ。まあお前は火属性みたいだし、困りはしないだろうがな」

 完全に忘れていた。そういえば、そんな厄介な能力をもっていたんだった。

 物理攻撃無効に魔法毒は、流石の俺でも強烈の一言だ。幸い、火の球を無限に作り出せるから詰むことはないにせよ、物理攻撃無効はクソめんどくさい。

 それよりもっとかったるいのが魔法毒である。アレは解除する魔法を誰かに使ってもらわない限り治せない、クソ厄介な毒だ。それを触れただけでくらっちまうんだから堪らない。

 どんな魔法毒をくらうかにもよるが、視界が真っ暗闇になるやつと、霊力が使えなくなるやつだけはくらいたくない。それらをくらえば、前衛支援役のパオングがいない以上、確実に詰んでしまう。遠距離からマウント取るしか、今のところ立ち回り方が思いつかない。

「サモナーがいる以上、コイツは後回しっすね。他から潰すっすか」

「だな。それもサモナー以外を同時に対処したい」

「多方面展開すか? 戦力が分散してここぞってときにヤバくないすか?」

「まあそうだが、ちんたらやって放置してたスケルトン同士が合流したら厄介だ。確実に各個撃破をキメるなら、あえて手分けした方がいい」

「じゃあ私はウィザードを始末するっす」

「なら俺と新人は普通のスケルトンで」

「おいちょっとまて! あーしらにめんどーなやつおしつけんな」

「いやちげえよ。ハンターは厄介だからこその、むーさんだろ?」

「えー……めんどくせー……それにそのふじんだとよ、あーしらコイツらとくむことになるじゃん」

 クッソ不満げな顔でカエルたちこと澄連すみれんを見つめる。

 好き勝手に動き回る二頭身のぬいぐるみどもは、黙って話を聞いているのが早速飽きたのか、オフィスのものに手当たり次第触りまくっては遊んでいる。

 ぱっと見無垢な子供のように見えるが、コイツらの中身は下品の極みだ。純粋無垢には程遠い。

「私が手綱を持ちますから、一緒に頑張りましょう」

 御玲みれいが自分の両手をぐっとして、ポンチョ女を見つめる。それでも嫌そうな顔をしていたポンチョ女だったが、状況的に呑み込むしかないと悟ったのか、小さくため息をつきながら、首を縦に振った。

「よし、決まりだな。んじゃ、各々別れて各個撃破だ。サモナーの位置には常に気をつけるように。以上、解散!」

 ウッス、と俺と御玲みれい以外は金髪野郎に軽く一礼。俺も一応ノリで同じように言っておく。

 御玲みれいとポンチョ女と澄連すみれん。俺と金髪野郎。猫耳パーカーの三班に別れて南支部を後にする。今ここに、スケルトン討伐任務が開始されたのだ。
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ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

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