無頼少年記 ~最強の戦闘民族の末裔、父親に植えつけられた神話のドラゴンをなんとかしたいので、冒険者ギルドに就職する~

ANGELUS

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覚醒自動人形編 下

エピローグ:喜劇の幕開け

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 あの戦いから一ヶ月以上。僕はラボターミナルの中で、今日も今日とて研究に励んでいた。

 今日の研究は一味違う。あの戦いで兄さんたちを幾度となく窮地に追い込んだ女アンドロイド。おそらくこの現代に造られたものじゃないそれを、完全な形で復元するために今日までを費やしてきた。

 久しぶりにゲームとかアニメとか、そんなものそっちのけで研究に没頭したぐらいだ。成果は自信に比例したものになると、胸を張って言える段階まできていた。

 霊子コンピュータ、ネヴァー・ハウスが鎮座する第二階層。戦時はオペレータールーム兼緊急作戦司令部となるそこで、一際虹色に輝く台座に横たわる一人の美女がいた。ついに時は満ちたのだ。

【各部位正常駆動を確認します。確認しました。次にOSエラーを確認します。確認しました。異常は見受けられませんでした】

 復元と修理に一ヶ月以上。寝る間も惜しんでやっていたので、僕の疲労は極限に達していたが、ランナーズハイ状態なのか、それとも楽しみにしていた時がきたせいか。疲労なんてものが感じないくらい、身体は軽い。

【スキャンディスク実行。終了しました。不良セクタなし。ファイルシステムエラーなし。人格情報は正常に保持されています】

 彼女の経年劣化は文字通り著しかった。現代にはない未知の技術で造られていただけあって、修理や復元は難航したものだ。霊子コンピュータを開発できてなかったら、手詰まり確定だったぐらいには僕を悩ませる代物だった。

 でも研究者たる僕にとって、未知とは格好の餌である。知らないのなら、調べればいい。分からなければ、理解すればいい。僕に言わせれば、それは呼吸するのと同じくらい簡単なことだった。

【次にハードウェアスキャンを実行。終了しました。内臓機能含め、全ての生体機能と、戦闘に用いられるすべての機能は正常起動しました】

 霊子コンピュータによるチェックディスクの最終段階が終わりを告げる。脳殻の確認、身体の中身の確認、関節などの物理的に脆い部分の確認、そして戦闘能力の確認。その全ての工程が終了したのだ。ここからが正念場だ。

【本体の全機能が正常であることが確認されました。これより、テスカトリポールRevision5を再起動します……】

 台座が一際虹色に輝いた。彼女に繋がっていた、全ての霊子通信が切断される。霊子コンピュータとの霊的なつながりが今、ここで絶たれたのだ。

 僕は白衣をはためかせ、勢いよく立ち上がる。その勢いでゲーミングチェアが後ろへと吹き飛ぶが、そんなことはどうでもいい。僕の目の前で、彼女が起き上がったのだ。

「やあ。久しぶり」

 なんて声をかけたらいいのか、分からなかった。人と挨拶すらマトモに交わしたことがないのもあるが、それ以上に嬉しすぎて頭が真っ白で、とにかく声をかけなきゃという思いで言い放った部分が強かったと思う。

 彼女は僕を見るなり、その場で跪く。ちょっとビックリしたが、彼女の表情を見て、僕の顔も自然と綻ぶ。

「私はテスカトリポールシリーズ第五世代機、テスカトリポールRevision5。新たなる管理者アドミニスター流川るせん久三男くみお様。貴方のご命令を何なりと」

 それは僕がよく知る定型文だった。僕が好んで読んでいたラブコメ物。ある日突然主人公のところへ転がり込んできた出生不明のメイド型のヒロインが、主人公に最初に会ったときに口にする台詞。

 それを聞けてなお嬉しかったが、それよりも彼女の顔からは憑き物が落ちたような、屈託のない朗らかな笑みで満ちていた。それが僕の気持ちすらも満たしていく。

「君には、名前はないのかい?」

 テスカトリポールRevision5、それは個体名ではなく機体名だ。テスカトリポールシリーズというアンドロイドの第五世代目、という意味合いしかない。

「名前……ですか? テスカトリポールRevision5、それではお気に召しませんか?」

 途端に悲しげな表情を浮かべる。

 やめろ、その今にも泣き出しそうな顔は僕に効く。真珠色の綺麗な瞳が相まって、僕まで泣きそうだ。

「分かった。なら君に名を与えよう」

 兄さんたちがいないことをいいことに、マイマスターっぽい態度を思わずとってしまったが、もはや後の祭りだ。

 僕は彼女の管理者アドミニスターになった。だったら機体名で呼ぶのはなんだか寂しい。前の管理者アドミニスターはどうしていたのかは知らないけど、僕は僕だ。機体名じゃなく、個体名で彼女を呼びたい。

「そうだね……今日から君の名は``テス``。テスカトリポールの``テス``だ。僕の初めての友達として、君を歓迎するよ」

 本当はここで初めての命令だ、とか言うんだろうけど僕にとって彼女は便利なメイドってわけじゃない。僕が人生初めて作った、唯一無二の``仲間``なんだ。

「ありがとうございます。その名、謹んでお受けいたします。これからもよろしくお願い致します、管理者アドミニスター

 テスカトリポールRevision5改めテスは、これまた満面の笑みで答えてくれた。

 こうして僕とテスは兄さんたちが任務請負人として働いている間、一緒に研究開発を進めていく中で、新しい仲間と、その配下たちを創ることとなるのだが―――それはまた、もう少し後の話である。
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