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覚醒自動人形編 上
エピローグ:ターミネートモード
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一通りデータを揃えるため相手の攻撃を可能な限り受けてみたが、今の身体能力ならば彼ら全員を相手取っても戦いが成立することが分かった。
何故なら、その身体能力が目標としていた数値に達したからである。
【ターミネートモードを再起動】
地上目標、人間四体、魔生物一体、分類不能生物四体。平均全能度は八百以上。
周辺生命体平均値と比べれば桁違いの数値だが、身体能力が目標数値に達した今、彼らを脅威とする必要はなくなった。目の前の敵性生物を速やかに討伐し、最終目的である機体の完全復活を果たす。
最終目的を達成するにはまだ全能度が不足しているが、彼らから霊力と生体組織を入手すれば、全能度の問題は解決する。
鎖のように巻きついている魔生物の肉体を微塵切りにする。
かなり堅い甲殻をしているが、大したことはない。目標全能度であった二千に達した今、大概の生物の物理防御力など霞のようなものである。
風属性の霊力を両手に纏わせ、超速振動させることで作った即席の超振動手刀によって甲殻、筋肉、骨を確実に寸断された魔生物は巨体を唸らせのたうち回るが、それでも明確な殺意だけは潰えない。
戦ってみて把握したが、再生能力を持つ以上、魔生物の方は一定の不死性を持っている。尻尾の部分を微塵切りにした程度では、痛みこそすれ殺すには足りないだろう。百足型の魔生物は後回しだ。
敵性勢力の手の内、習性、身体能力を把握するため、わざと陽動役に徹していた魔生物の相手をしていたが、最適行動を取るなら後回しにして、人間を先に始末するのが効率的。特に魔生物の方は、どうやら人間側の支配下にあるようで、人間を始末すれば冷静な戦いはできなくなるだろう。
冷静なままだと少々面倒だが、人間を始末されて怒るにせよ、機能停止するにせよ、ターミネートモードによって現段階で使用可能な全機能が敵性勢力の殲滅に最適化されている今、常に最適行動で敵を殺すことのできる方に趨勢は決する。
百足型の魔生物は身体能力とともに知能も高いため厄介だが、最適行動がとれなくなれば敵ではない。
「ぐぁ!?」
魔生物を振り解き、身体能力を活かして赤眼黒髪の少年に一撃。身体能力は目標値に達したが、余裕はない。本来の肉体性能の半分程度でしかないからだ。
超能力も依然として復元できておらず、肉体特性も霊力吸収能力以外復元がままならない状況にある。
度重なる生体融合により動力源が一定以上まで修復されたため、かろうじて霊力吸収・生成能力のみ復元が叶ったのは大きな進歩だが、機体の自己修復機能が依然として回復する兆しがないのは痛手だ。
霊力吸収能力と、蓄積していた予備の生体組織を使えば応急処置はできる。だが所詮は応急処置でしかなく、ダメージコントロールが多少できる程度で故障箇所が完全に治癒することはない。
金髪の青年に右肩を穿たれたり、百足型の魔生物に叩きのめされたり、分類不能生物による強酸性液体の散布、様々な弱体化効果が付与された霊力集束光線の照射など。
どのダメージもコントロールこそできているが、根本的には確かなダメージとして蓄積されてしまっている。明らかに防御できないダメージは防御魔法``霊壁``で身体全体を多重に覆って軽減しているが、それでも限界がある。
蓄積がある以上、身体能力で大差があるうちに敵性勢力を可及的速やかに殲滅せねばならない。
「ぐぁ、きゃあ!?」
「ぐ、御玲!!」
青髪の少女の胸ぐらを掴み、反撃する間もなく投げ飛ばす。
全能度二千まで強化された腕力は伊達ではない。投げ飛ばした際の初速は対戦車ミサイルなど軽く凌駕する。数百の家屋が多大な爆音と砂塵を巻き上げて倒れ、背後の建築物もソニックブームにより粉砕される。
「テメェ!! ふざけ」
凄まじい霊力の高ぶりを感知。転移魔法と縮地を併用し、物理攻撃力に霊力を相乗させることで、極限まで強化した一撃をもって粉砕する戦術へ、即座に切り替える。
どうやら少年は、更なる肉体強化を可能にする手段を隠し持っていたようだ。全能度千三百を超える超強化。下手に手加減すると死なない可能性があるほどの、高い身体能力である。
機体への反動が惜しいが、手加減はしていられない。聴覚を無造作に貫く炸裂音とともに、少年を跡形もなく塵芥にする。
残り二人と四体だが、厄介だと思われるのは、分類不能生物四体。
「やべぇ!! 澄男さんと御玲さんが!!」
「どうすんのカエル!!」
「よーし、こうなったらヤケだ! 全員かかれーい!」
作戦も戦略も何もない、愚直な特攻。二頭身程度しかない謎の生物たちが、一気に押し寄せてくる。
何故だか彼らの目は据わっていたが、所詮は考えなしのただの特攻。警戒に反し、あまり脅威というほどでもなかった。頭である少年が消されたことで、指揮系統に乱れが生じているのだろう。
二体ないし一体、確実に仕留めていく。見た目に反して肉体は誰も頑丈なようで、こちらも手を抜くのは最適行動ではない。
少年に加えた一撃よりも弱いが、それでも大概の生き物なら耐えられないであろう、機体に反作用によるダメージが残らない程度の、絶妙な匙加減で始末を終えた。
残り二人。
「く、ブルー! お前だけでも逃げ」
残り二人は、作業だった。
金髪の青年の方は肉体の物理的な組成は強いが、黒髪赤目の少年と比べれば身体能力は格段に劣る。
霊力の上限もたかが知れており、これ以上の肉体能力臨界突破はないと思われた。物理防御が想定を遥かに超える高さだったことを除けば、取るに足らない敵対生物である。
残り、一人。
「う、れ、レク……! むーちゃん!」
むーちゃん。つまり、この黒髪長髪の娘が、百足型の魔生物を支配下においているということ。
ならばこの娘を始末すればいいことになるが、そうなると事は簡単ではない。やはり後回しにしておいて正解だった。
娘の背後から黒光りした何かが、機体を破壊せんと迫る。
娘の背丈など優に超える巨体。その身体から発している霊圧は尋常ではない。ただ大量の霊力を出力しているのではなく、明確な殺意、対象への破壊の意志を載せて相手を刺し貫くように照射されている。僅かだが体内霊力循環が乱れ、動力炉に変調をきたしたほどだ。霊力に関する操作能力は、どうやら意外にも百足型の魔生物が一番長けているらしい。
魔生物は口から暗黒色の光線を発射する。
属性光線、無色の霊力に属性を付与することで作り出せるマナリオンレーザー。魔生物がどれだけの属性に適性を有しているのかは不明だが、適性のある属性だけ、自在に付与が可能なはずだ。
我が機体に弱点となる属性など存在しないが、機体が万全ではない以上、雷属性のマナリオンレーザーの直撃は避けたい。
一旦、魔生物の巨体が届かない範囲まで距離を取る。
属性光線は、おそらく再射撃するために霊力のリチャージを必要とする。体内から破壊の意志をこめた霊力を抽出し、それに属性を付与する過程を踏まえるなら、確実に連射は不可能。問題は如何にして魔生物を始末するかだが。
巨体に守られ、魔生物の安否を気遣う少女に目を向ける。
やはり脅威度が圧倒的に高い百足型の魔生物から始末するべきかと思ったが、彼らの関係性を鑑みれば、魔生物と真っ正面から戦う必要はなさそうだ。
飼い主たる少女を先に始末すれば、動揺が生まれる。その間は魔生物とて無防備となり、攻撃のための霊力リチャージもままならないだろう。
現段階の動力源の性能では、魔生物側のリチャージを終える方が残念ながら速いが、飼い主が死んで動揺すれば、先制攻撃が可能となる。
再生能力も高く甲殻も堅いが、塵芥にできないほどでもない。無防備状態であれば、尚更抹殺は容易だ。
【霊力集束爆縮砲照射準備。目標、黒髪長髪の少女。発射まで三秒】
体内霊力を右肩にある霊力集束体へ収束させる。
何もマナリオンレーザーは、百足型の魔生物だけの専売特許などではない。我が機体は全ての属性に対して適性を有している。やろうと思えば、全ての属性を付与した属性光線を放つことなど造作もない。
だが今回の目標は魔生物ではなく、その魔生物を支配下においている少女。
肉体能力など比べるべくもないほど低く、属性付与や威力の調整を考慮するまでもないほど軟弱な肉体。おそらくほぼ全ての戦闘を、百足型の魔生物によって行っているのだろう。使役者が脆弱なのは、熟考するまでもない既定事項であった。
威力も最低。属性付与のない無属性照射なら魔生物が属性光線のリチャージを終えるよりも速く先手を打つことはできるが、相手の知能も高い。巨体の利点を最大限に活かし、レーザーを掻き消してくる恐れがある。
小娘一人始末するだけの威力はあるとはいえ、魔生物にとっては吹けば消える程度のものである。レーザー弾道の予測演算と照射角修正は念入りに行わねばならない。
万全ではないものの、使用可能な演算領域を駆使して百足型の魔生物の尾が肩から放たれるマナリオンレーザーを、一瞬で掻き消しうる全ての角度を計算、予想していく。
―――演算完了。
右肩パッドが開き、細長い白色光線が一瞬放たれる。如何なる角度から搔き消そうが、如何なる速度で尾を振るおうが、確実に飼い主を消滅させる必殺の一撃。知能が高く戦闘能力が高かろうとも、この攻撃を逃れる術は―――。
刹那、百足型の魔生物の全身から暗黒の霧が噴出した。
それは予測演算からは算出されなかった出来事。煙幕による撹乱かと判断し、演算結果に影響はないと考えたが、どうやら性質は単純なものではないらしい。
魔生物が噴射した暗黒の霧は物理的な煙などではなく、闇属性の霊力によって構成された高濃度の霊子群のようで、数種類の魔法毒と魔生物自身を隠蔽する機能を有していた。
機体は魔法毒に対し完全耐性を持っているため無効だが、この霧により魔生物と少女の生命反応が追えなくなってしまった。
探知系魔法``逆探``を行使するも、無効化される。強力な阻止系効果も含むようだ。
【再演算を実行】
追跡するべきか否か。敵性勢力のうち、その大半を抹殺できた。百足型の魔生物は知能、肉体能力ともに依然として脅威だが、戦えない相手ではない。再生能力も高いが、飼い主と目される少女を抹殺した際の動揺を利用して、一瞬で塵芥にしてしまえば理論上抹殺は可能だ。
その仮説を理論化するだけの裏付けがないのが問題点だが、そもそもの問題点として、闇の濃霧を解呪し戦闘慣れした魔生物を追うことは、本当に最適行動と言えるのか。
彼らを追うよりも先に霊子コンピュータを手に入れ、全ての機能を復活させるのが最適なのではないか。
【演算完了。ターミネートモードを終了します】
瞳の色が赤から白銀へと変化する。体内で高速循環していた霊力流動が正常値となり、体内からの排熱量が目に見えて減っていくのを感じとる。
決定。やはり最適行動は後者だ。
全ての機能を復活させれば、百足型の魔生物などもはや脅威ではない。仮に敵対してきたとしても容易に抹殺が叶うだろう。
最優先するべきは、やはり経年劣化した機体を速やかに修復してしまうことである。
女アンドロイドは闇の濃霧を背にその場を立ち去った。辺りは崩れかけの建物とボロボロに剥げ落ちた道路のみが残り、異様な静寂が辺りを支配したのだった。
何故なら、その身体能力が目標としていた数値に達したからである。
【ターミネートモードを再起動】
地上目標、人間四体、魔生物一体、分類不能生物四体。平均全能度は八百以上。
周辺生命体平均値と比べれば桁違いの数値だが、身体能力が目標数値に達した今、彼らを脅威とする必要はなくなった。目の前の敵性生物を速やかに討伐し、最終目的である機体の完全復活を果たす。
最終目的を達成するにはまだ全能度が不足しているが、彼らから霊力と生体組織を入手すれば、全能度の問題は解決する。
鎖のように巻きついている魔生物の肉体を微塵切りにする。
かなり堅い甲殻をしているが、大したことはない。目標全能度であった二千に達した今、大概の生物の物理防御力など霞のようなものである。
風属性の霊力を両手に纏わせ、超速振動させることで作った即席の超振動手刀によって甲殻、筋肉、骨を確実に寸断された魔生物は巨体を唸らせのたうち回るが、それでも明確な殺意だけは潰えない。
戦ってみて把握したが、再生能力を持つ以上、魔生物の方は一定の不死性を持っている。尻尾の部分を微塵切りにした程度では、痛みこそすれ殺すには足りないだろう。百足型の魔生物は後回しだ。
敵性勢力の手の内、習性、身体能力を把握するため、わざと陽動役に徹していた魔生物の相手をしていたが、最適行動を取るなら後回しにして、人間を先に始末するのが効率的。特に魔生物の方は、どうやら人間側の支配下にあるようで、人間を始末すれば冷静な戦いはできなくなるだろう。
冷静なままだと少々面倒だが、人間を始末されて怒るにせよ、機能停止するにせよ、ターミネートモードによって現段階で使用可能な全機能が敵性勢力の殲滅に最適化されている今、常に最適行動で敵を殺すことのできる方に趨勢は決する。
百足型の魔生物は身体能力とともに知能も高いため厄介だが、最適行動がとれなくなれば敵ではない。
「ぐぁ!?」
魔生物を振り解き、身体能力を活かして赤眼黒髪の少年に一撃。身体能力は目標値に達したが、余裕はない。本来の肉体性能の半分程度でしかないからだ。
超能力も依然として復元できておらず、肉体特性も霊力吸収能力以外復元がままならない状況にある。
度重なる生体融合により動力源が一定以上まで修復されたため、かろうじて霊力吸収・生成能力のみ復元が叶ったのは大きな進歩だが、機体の自己修復機能が依然として回復する兆しがないのは痛手だ。
霊力吸収能力と、蓄積していた予備の生体組織を使えば応急処置はできる。だが所詮は応急処置でしかなく、ダメージコントロールが多少できる程度で故障箇所が完全に治癒することはない。
金髪の青年に右肩を穿たれたり、百足型の魔生物に叩きのめされたり、分類不能生物による強酸性液体の散布、様々な弱体化効果が付与された霊力集束光線の照射など。
どのダメージもコントロールこそできているが、根本的には確かなダメージとして蓄積されてしまっている。明らかに防御できないダメージは防御魔法``霊壁``で身体全体を多重に覆って軽減しているが、それでも限界がある。
蓄積がある以上、身体能力で大差があるうちに敵性勢力を可及的速やかに殲滅せねばならない。
「ぐぁ、きゃあ!?」
「ぐ、御玲!!」
青髪の少女の胸ぐらを掴み、反撃する間もなく投げ飛ばす。
全能度二千まで強化された腕力は伊達ではない。投げ飛ばした際の初速は対戦車ミサイルなど軽く凌駕する。数百の家屋が多大な爆音と砂塵を巻き上げて倒れ、背後の建築物もソニックブームにより粉砕される。
「テメェ!! ふざけ」
凄まじい霊力の高ぶりを感知。転移魔法と縮地を併用し、物理攻撃力に霊力を相乗させることで、極限まで強化した一撃をもって粉砕する戦術へ、即座に切り替える。
どうやら少年は、更なる肉体強化を可能にする手段を隠し持っていたようだ。全能度千三百を超える超強化。下手に手加減すると死なない可能性があるほどの、高い身体能力である。
機体への反動が惜しいが、手加減はしていられない。聴覚を無造作に貫く炸裂音とともに、少年を跡形もなく塵芥にする。
残り二人と四体だが、厄介だと思われるのは、分類不能生物四体。
「やべぇ!! 澄男さんと御玲さんが!!」
「どうすんのカエル!!」
「よーし、こうなったらヤケだ! 全員かかれーい!」
作戦も戦略も何もない、愚直な特攻。二頭身程度しかない謎の生物たちが、一気に押し寄せてくる。
何故だか彼らの目は据わっていたが、所詮は考えなしのただの特攻。警戒に反し、あまり脅威というほどでもなかった。頭である少年が消されたことで、指揮系統に乱れが生じているのだろう。
二体ないし一体、確実に仕留めていく。見た目に反して肉体は誰も頑丈なようで、こちらも手を抜くのは最適行動ではない。
少年に加えた一撃よりも弱いが、それでも大概の生き物なら耐えられないであろう、機体に反作用によるダメージが残らない程度の、絶妙な匙加減で始末を終えた。
残り二人。
「く、ブルー! お前だけでも逃げ」
残り二人は、作業だった。
金髪の青年の方は肉体の物理的な組成は強いが、黒髪赤目の少年と比べれば身体能力は格段に劣る。
霊力の上限もたかが知れており、これ以上の肉体能力臨界突破はないと思われた。物理防御が想定を遥かに超える高さだったことを除けば、取るに足らない敵対生物である。
残り、一人。
「う、れ、レク……! むーちゃん!」
むーちゃん。つまり、この黒髪長髪の娘が、百足型の魔生物を支配下においているということ。
ならばこの娘を始末すればいいことになるが、そうなると事は簡単ではない。やはり後回しにしておいて正解だった。
娘の背後から黒光りした何かが、機体を破壊せんと迫る。
娘の背丈など優に超える巨体。その身体から発している霊圧は尋常ではない。ただ大量の霊力を出力しているのではなく、明確な殺意、対象への破壊の意志を載せて相手を刺し貫くように照射されている。僅かだが体内霊力循環が乱れ、動力炉に変調をきたしたほどだ。霊力に関する操作能力は、どうやら意外にも百足型の魔生物が一番長けているらしい。
魔生物は口から暗黒色の光線を発射する。
属性光線、無色の霊力に属性を付与することで作り出せるマナリオンレーザー。魔生物がどれだけの属性に適性を有しているのかは不明だが、適性のある属性だけ、自在に付与が可能なはずだ。
我が機体に弱点となる属性など存在しないが、機体が万全ではない以上、雷属性のマナリオンレーザーの直撃は避けたい。
一旦、魔生物の巨体が届かない範囲まで距離を取る。
属性光線は、おそらく再射撃するために霊力のリチャージを必要とする。体内から破壊の意志をこめた霊力を抽出し、それに属性を付与する過程を踏まえるなら、確実に連射は不可能。問題は如何にして魔生物を始末するかだが。
巨体に守られ、魔生物の安否を気遣う少女に目を向ける。
やはり脅威度が圧倒的に高い百足型の魔生物から始末するべきかと思ったが、彼らの関係性を鑑みれば、魔生物と真っ正面から戦う必要はなさそうだ。
飼い主たる少女を先に始末すれば、動揺が生まれる。その間は魔生物とて無防備となり、攻撃のための霊力リチャージもままならないだろう。
現段階の動力源の性能では、魔生物側のリチャージを終える方が残念ながら速いが、飼い主が死んで動揺すれば、先制攻撃が可能となる。
再生能力も高く甲殻も堅いが、塵芥にできないほどでもない。無防備状態であれば、尚更抹殺は容易だ。
【霊力集束爆縮砲照射準備。目標、黒髪長髪の少女。発射まで三秒】
体内霊力を右肩にある霊力集束体へ収束させる。
何もマナリオンレーザーは、百足型の魔生物だけの専売特許などではない。我が機体は全ての属性に対して適性を有している。やろうと思えば、全ての属性を付与した属性光線を放つことなど造作もない。
だが今回の目標は魔生物ではなく、その魔生物を支配下においている少女。
肉体能力など比べるべくもないほど低く、属性付与や威力の調整を考慮するまでもないほど軟弱な肉体。おそらくほぼ全ての戦闘を、百足型の魔生物によって行っているのだろう。使役者が脆弱なのは、熟考するまでもない既定事項であった。
威力も最低。属性付与のない無属性照射なら魔生物が属性光線のリチャージを終えるよりも速く先手を打つことはできるが、相手の知能も高い。巨体の利点を最大限に活かし、レーザーを掻き消してくる恐れがある。
小娘一人始末するだけの威力はあるとはいえ、魔生物にとっては吹けば消える程度のものである。レーザー弾道の予測演算と照射角修正は念入りに行わねばならない。
万全ではないものの、使用可能な演算領域を駆使して百足型の魔生物の尾が肩から放たれるマナリオンレーザーを、一瞬で掻き消しうる全ての角度を計算、予想していく。
―――演算完了。
右肩パッドが開き、細長い白色光線が一瞬放たれる。如何なる角度から搔き消そうが、如何なる速度で尾を振るおうが、確実に飼い主を消滅させる必殺の一撃。知能が高く戦闘能力が高かろうとも、この攻撃を逃れる術は―――。
刹那、百足型の魔生物の全身から暗黒の霧が噴出した。
それは予測演算からは算出されなかった出来事。煙幕による撹乱かと判断し、演算結果に影響はないと考えたが、どうやら性質は単純なものではないらしい。
魔生物が噴射した暗黒の霧は物理的な煙などではなく、闇属性の霊力によって構成された高濃度の霊子群のようで、数種類の魔法毒と魔生物自身を隠蔽する機能を有していた。
機体は魔法毒に対し完全耐性を持っているため無効だが、この霧により魔生物と少女の生命反応が追えなくなってしまった。
探知系魔法``逆探``を行使するも、無効化される。強力な阻止系効果も含むようだ。
【再演算を実行】
追跡するべきか否か。敵性勢力のうち、その大半を抹殺できた。百足型の魔生物は知能、肉体能力ともに依然として脅威だが、戦えない相手ではない。再生能力も高いが、飼い主と目される少女を抹殺した際の動揺を利用して、一瞬で塵芥にしてしまえば理論上抹殺は可能だ。
その仮説を理論化するだけの裏付けがないのが問題点だが、そもそもの問題点として、闇の濃霧を解呪し戦闘慣れした魔生物を追うことは、本当に最適行動と言えるのか。
彼らを追うよりも先に霊子コンピュータを手に入れ、全ての機能を復活させるのが最適なのではないか。
【演算完了。ターミネートモードを終了します】
瞳の色が赤から白銀へと変化する。体内で高速循環していた霊力流動が正常値となり、体内からの排熱量が目に見えて減っていくのを感じとる。
決定。やはり最適行動は後者だ。
全ての機能を復活させれば、百足型の魔生物などもはや脅威ではない。仮に敵対してきたとしても容易に抹殺が叶うだろう。
最優先するべきは、やはり経年劣化した機体を速やかに修復してしまうことである。
女アンドロイドは闇の濃霧を背にその場を立ち去った。辺りは崩れかけの建物とボロボロに剥げ落ちた道路のみが残り、異様な静寂が辺りを支配したのだった。
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