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愛しいひと(謙一視点)

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 ゴムをつけた自身を、ゆっくりと組み敷いた麻衣のナカに埋めていく。被膜ごしに伝わる熱さと、波打つように蠢く肉襞。我を忘れてうちつけてしまいたくなる欲求をギリギリ残った理性で押さえつけて、ゆっくりと抽送を開始した。

「ん、っ、きもち、……っ」

 やたらと素直に、麻衣は俺を見上げて言う。瞳が潤んでいる。先刻さっきの鮮烈な色彩を思い出して、心臓の奥がずくんと甘く痛んだ。

(好き、と言ってくれた)

 子供のようにはしゃいでしまった。麻衣を抱き上げてくるくる回って、世界中に伝えたい気分で。
 最愛のひとが、俺のことを好きになってくれた!
 天にも昇る心地、というものを生まれて初めて味わった。

「麻衣」

 抽送を続けながら、彼女の名前を呼ぶ。そうして──懇願した。

「麻衣、もう一度」
「……?」

 はぁ、はぁ、と甘い息を漏らしながら、麻衣は俺を見上げる。

「──言ってくれ」

 気恥ずかしくて、きちんと言えなかった。どうか、もう一度……さっきのは、夢じゃないと。夢なんかではないと、教えて欲しかった。
 麻衣は上気した頬をさらに赤く染めて、そしてほんわりと笑った。

「す、き」

 ぱちゅ、と粘膜からの水音。絡みつくナカの温度さえ増したような、そんな心地。

「好き、です……謙一さん、……っ、ぁあっ!?」

 思わず麻衣の腰を掴みなおして、動きを激しくしてしまう。そうしなければ、耐えられそうにないくらいに──衝動が、身体中を駆け巡る。
 腰と腰がぶつかる音。淫らな水音が、麻衣の嬌声の合間に響く。

「ぁ、あぁっ、やめっ、激し……っ!」

 麻衣の膝裏を押して大きく開いて、そのまま打ち付ける。麻衣は頭をゆるゆると振りながら、呼吸も荒くただ甘く声を上げた。

「や、っ、謙一さ、好きっ、好き……っ、ぁあ、っ、だ、めぇっ、おかしく」

 麻衣は叫ぶように言う。

「おかしく、なっちゃ、っ」
「受け止めるから」

 は、は、と俺の息も荒い。先端から蕩けそうに気持ちがいい。麻衣のナカは柔らかくてトロトロなのに、俺を噛みちぎらんばかりに締まって、蠢いて。

「受け止めるから、おかしくなった麻衣が──見たい」
「ゃ、あ……っ」

 麻衣の耳元に、唇を近づける。抽送は角度をすこし変えて、──より、深くに。

「見せて、麻衣。──愛してる」
「……っ、も、ぉ……っ、謙一さんの、ばかぁ……っ」

 麻衣が俺にしがみつく。麻衣のナカのいちばん奥──いちばん柔らかな、それでいていちばん貪欲なソコに、遠慮なく打ち付ける。キュウ、と締まって俺から搾り取ろうとする肉襞。

「ぁんっ、気持ち、謙一さんっ、好き、好きなの……っ」

 俺の腰に、麻衣の足が絡みつく。

「好き、……っ、好きになっちゃ、ぁん、った、好きなの……っ」

(あー、……イきそう)

 気持ち良すぎる。
 好きな人が腕の中にいて。
 その人は俺を好きだと言いながら喘いでいる。

「け、んいちさ、」

 麻衣の声が少し潤む。

「お願、あんっ、キス、ぁっ、してぇ……っ」

 返事もせず、唇に貪りつく。柔らかな下唇を食み、口内を舌でなぞり、上顎を突いて舐め上げて──唾液を飲ませて。こくりと動く白い喉に欲情が高まる。
 抽送が激しくなる。奥に、奥に──麻衣のナカが痙攣するように強く蠕動した。

「イ、くっ、イきそぉっ、謙一さん、私っ、イっちゃう……っ!」
「……っ、は、俺も」

 今度は軽く触れるだけのキス。吐精感に腰が甘く疼く。

「は、ぁ……んっ、謙一さ、イこっ」

 麻衣が喘ぎながら言う。

「いっしょ、に、……っ」

 ほろり、と麻衣の目尻から涙がこぼれた。それを唇で吸う。涙の味。
 麻衣を抱きしめて、ただ欲望の赴くままに打ち付けた。気持ちが良くて、脳髄まで溶けてしまいそうで。

「っ、謙一さ、んっ、イ……く、っ」

 びくん、と麻衣の蕩けながらギュウと締め上げる奥に──被膜越しに──欲を吐き出す。

「麻衣、っ」

 吐き出しながら、ただ叫ぶように言う。余裕なんか全くない。子供みたいにただ叫ぶ。

「愛してる、麻衣、愛してる……っ」

 全部吐き出してやろうと、奥に穿つ。瞬間に、麻衣の身体が跳ねて。

「ぁ、あ……──ッ……」

 掠れて高くなった、麻衣の声。
 背中に回っていた麻衣の手の爪が、ぎり、と背中に食い込む。甘い痛みに、頭がくらくらした。
 そのまま、……抱き合ったまま、しばらく力を抜いて、お互いの荒い息を聞く。
 ふと、麻衣の息が眠ったものに変わったのに気がついて、ゆっくりと身体を離す。

「麻衣」

 そっと、名前を呼んだ。
 愛おしい名前。

「幸せに、してみせる」

 そう、誓った。
 誰よりも愛おしいひと──。
 眠ると、ひどくあどけない横顔。必ず守ると、そう誓った、のに。

 俺は知らなかった。
 気がついて──いなかった。

 麻衣と"彼"の、歪んで狂った……「信頼」が、まだ麻衣の中に残っていたことに。
 それが彼女を、また傷つけることに、なるだなんて──考えても、いなかったのだった。
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