上 下
7 / 29

(理人視点)

しおりを挟む
「っ、ぁ、やぁん!」

 ガツガツと、飢えた獣のようにただ茉白を揺さぶるように交わる。
 茉白のナカが、きゅんと蕩けて、奥が俺の先端にキスするように吸い付いた。

「あっ、あっ、あ、理人くんっ!」

 茉白の、そう大きくない、けれど形のいい乳房が俺の抽送に合わせて健気に揺れる。
 白い肌が、興奮で血の色を透かすように赤く染まって。

「茉白、可愛い」

 思わずこぼれた声に、茉白は嬉しげに微笑んで──唇を、小さく動かす。

「大好き、理人くん」

 その甘い声がたまらなく愛おしくて、思わず抱きしめて、彼女の香りを吸い込む。

「愛してる、茉白」

 ずっとずっと──もう手放さない。
 そうっと顔を見る。茉白は笑う。快楽に潤んだ瞳、物欲しげに半開きの可憐な唇、乱れたサラサラの黒髪。ぐちゃぐちゃに乱れた制服──制服?

 ハッとした。
 茉白が不思議そうな顔をしたあと、ゆっくりと霞んで……。
 意識が、ふわりと浮上する。

「……とんでもない夢を見た」

 ガバリと身体を起こす。
 落ち着け、俺。
 今日、茉白とデートだからって……しかも夢の中の茉白は、ちゃんと「今の茉白」だったのに、あの時と同じ制服を……ああなんか色々ダメだ。
 決めたじゃないか──今度は、焦らないって。
 そう、誓ったのだ。

(今度こそ、がっつきません)

 とりあえず──朝の生理現象と合わせてとんでもないことになっている自分自身を、こう、なんとか処理して。

「先生、今日なんか機嫌いいですね」

 スタッフにからかわれながら、午前だけの診察を済ませて(土曜日は午前のみ)事務処理もテキパキとこなし、ソワソワと家を出た。

 そうして──ぱんぱん、と柏手を打つ。
 茉白と待ち合わせをしている、土曜日の夕方。
 待ち合わせ場所の、新京極通と寺町通──両方、京都の繁華な商店街だ──の間にある広場へ行く前のこと。
 俺は薄暗くなってきた中、駒形提灯がぼんやり光る、小さな神社に願掛けに来ていた。
 願掛けの内容はもちろん……今度こそ、茉白と上手くいきますように、だ。

(……そのためにも、もうがっつかない)

 高校の頃のことは、お互いの歩みよりが足りなかったのが原因としても……やっぱり俺の性急な態度が要因だったのは、間違いない。

(ゆっくり距離を縮めて……)

 もう、思春期盛りの10代とは違う。30代も見えてきた、立派な大人の男なのだ。
 俺は祭殿に向かって一礼しつつ、踵を返す。

(そうだ、全然我慢できる)

 余裕だ余裕。
 一瞬、ほんの一瞬、今朝の夢が脳裏にチラつくけれど、気合で打ち消す。
 俺は大人なんだから──と、待ち合わせ場所の石のベンチに、茉白がちんまりと座っているのが見えた。
 思わず舌打ち。

(もっと早く来たら良かった!)

 というか──次からは、家まで迎えに行こう。
 茉白の正面には、いかにもチャラいですを絵にしたような、三人の男。

「えー、ほんまに来るん?」
「せやけど30分も待ってるやん、お姉さん」

 30分!?
 待ち合わせ時間を間違えたか、と焦りながら間に割り込む。

「茉白」
「理人くん!」

 ぱあっ、と花が咲くような笑顔。
 可愛くて眩しくて、つい目を細めた。
 振り向いてナンパ三人組を睨むと、彼らは明るく笑う。

「なぁんや、ほんまに待ち合わせやったんか」
「せやけどオニーサン、30分放置はあかんで」
「なー」

 茉白が慌てたように俺の服の裾を掴んだ。

「あの、違うんです、楽しみすぎて早く来ちゃって」
「……それならそうと、連絡くらい」

 楽しみすぎて?
 その言葉がいじらしくて可愛いと同時に、心配で半分怒ったような声になる。

「ごめんなさい」
「あ、いや」

 慌てて茉白の手を取る。
 シュンとした茉白に、胸が痛い。
 原因のナンパ野郎たちは「ほなね」なんて明るく言いながら、離れていこうとする。

「おい」

 思わず声をかけた俺に、そのうちひとりが笑いながら小さな箱を渡してくる。

「ほんまごめんって。それ、お詫び。サイズ間違えてん。オニーサン、なんやデカそうな顔しとるし。あ、そのおねーさんに使う気やったわけやないで、彼女用やで」
「アホやわ。なんでデカいの買うてんの、お前やったらXXSでええやろ」
「ドアホ、普通よりはデカイっちゅーねん!」

 ケタケタと笑いながら、三人組は去っていく。……なんだったんだ。デカそうな顔ってなんだ。

「あの、ありがとうございました!」

 三人に向かって、なぜか茉白は頭を下げる。軽く混乱しながら彼女の顔を見ると、茉白は首を傾げた。

「さっき、変な人に絡まれたんですけど、あの方たちが追い払ってくれて」
「……そっちか!」

 良い人たちだった!
 ふつうに!
 慌てて雑踏に姿を探すけど、もう見えない。

「……ところで、何をいただいたんですか?」

 茉白が不思議そうに、俺から赤い小箱を取ってマジマジと眺める。

「ええと、0.02?」
「……没収」

 神様これはなんのいたずらですか。
 なんで決心したばかりなのに、謎に親切な人からコンドームなど渡されるのですか。
 ……あの三人組が、神様の遣いとかだったりして……って、それはないにしても。
 ビニール包装もされたままの、ゴムの箱を鞄にしまいこむ。

「……それより茉白、その大荷物は?」
「え!? ええと、ええと、なんでもっ」

 茉白が脇に置いていたのは、少し大きめのトートバッグ。
 夕食を食べるだけ(のはずだ)にしては、荷物が多い。

「えへへ……」

 可愛い顔で、ごまかそうとしてるのがまた可愛いので、追及はしないようにした。
 可愛かったから。
 可愛かったついでに、ふと思う。

(なんの箱か、分からなかった……?)

 そんなはずない、よな。
 そんなはずない。
 今日日、小学生だって知ってる──し、それに……茉白だって(考えたくもないけれど!)使ったことだって、あるはずだ。
 もしかしたら、かつての恋人たちは茉白にこんなものの箱なんか、見せてなかったのかもしれないけれど。

「まぁ、行くか」

 茉白のトートバッグをひょい、と持つ。俺からすれば重くはないけれど、小柄な茉白が持っていたら、それなりに負担になるはずだ。

「わ、持つよ」
「いい、重いだろ」

 本当に、何が入っているんだろうか?
 考えながら、商店街を歩き出す。

「夕食は、錦市場のイタリアンを予約してて──大丈夫だったか?」

 いちおう、予約前に聞いてはいたけれど、もう一度確認。茉白は嬉しげに頷いた。

「少し時間があるから、……なにかしたいことあるか?」
「あの」

 茉白は俺をじっと見上げた。
 そうして柔らかく、笑う。

「お話が、したいです」
「話?」
「会えなかった、この10年、で……理人くんがどんなふうに生きていたのか」

 茉白のまっすぐな視線が、痛いくらいに切ない。

「教えてください」
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。 「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」 「別に誰も気にしませんよ?」 「いや俺が気にする」 ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。 ※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

処理中です...