カタブツ検事のセフレになったと思ったら、溺愛されておりまして

にしのムラサキ

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番外編

【番外編SS】写真

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 どきどきしてる。
 どっきどき、してる。
 桜は満開で、その重さで枝が折れそう。その桜を、春の日差しはキラキラと彩って、空はパステルカラーな水色で。

「どうした?」

 恭介くんが不思議そうに言う。
 お式……神前式の、まだ参列のひとたちが来てない、まだ早い午前中。
 私と恭介くんは和装……それぞれ白無垢と紋付袴で桜の樹の下、写真撮影をしていた。

「うっ、ううんっ」

 頭が重い。文金高島田のかつら。
 似合ってるんだか、いないんだか微妙な……。

(それはともかく、恭介くん、……似合いすぎっ!)

 ちらちらみてしまう。
 黒い着物、上品な銀のグラデーションの袴。なんで似合うの。

(……顔がいいからだっ!)

 なんだかこっちを凝視してる恭介くんを、きっと睨みつけた。ずるいよ、ひとりだけ和装似合いすぎだよ!

(私はなんか、微妙に似合ってない気がするよ!)

 恭介くんはびっくりした顔で「莉子?」って私を呼ぶ。
 ふん! って顔を正面に向けたところで、カメラマンさんに呼ばれた。

「はい、では新郎様新婦様、向かい合って見つめ合ってくださーい」
「……!?」

 私はカメラマンさんを二度見した。
 み、見つめ合う? このイケメン無双状態の恭介くんを見つめろって……?
 あわあわしていると、恭介くんに肩をくいって持たれて、無理矢理に顔をむかされる。

「さっきからどうしたんだ」
「……あう」

 照れて、うまく恭介くんが見れない。目線をウロウロさせてると、恭介くんがほんのすこし、肩をすくめて私に言う。

「あのな、莉子」
「……なぁに」
「緊張してるの、俺も同じだから」
「……へ?」

 きょとん、と恭介くんを見上げた。瞬間、シャッターの切れる音。
 ちらちら、と風もないのに桜が散った。
 何枚も、何枚も──音もなく、落ちていく。
 恭介くんが優しい表情を浮かべる。カメラマンさんが「新郎様、いいですね! 新婦様も笑顔で!」と朗らかに叫んで、またシャッターが落ちる。

「こんなに、綺麗な莉子」

 恭介くんが淡々と、でもなんだか……すこし、ほんのすこし、震えた声で言う。
 花びらが、くるくると宙を舞う。

「見慣れないし」
「……えっ、と」
「ほんとうに、俺のお嫁さんになってくれるんだって」

 恭介くんは、眩しそうに目を細める。

「嬉しくて、緊張して、色々ヤバイ」

 私の手を恭しく取って、自分の胸に押し付ける。たくさん重ねられてる和装の上からでも、はっきり感じる鼓動。

「莉子が、──綺麗すぎて、死にそう」
「──っ!」

 顔に血が上る。頬が熱い。めちゃくちゃ厚化粧してもらってるのに、ほっぺた赤いのバレバレだよう……!
 おずおずと恭介くんを見上げる。
 恭介くんの頬だって、──赤かった。
 小さい声で、恭介くんは続ける。

「愛してる、莉子」
「あの、えっと、その」
「俺のお嫁さんになってくれてありがとう」

 ぶわりと唐突に風が吹いて、一気に桜が舞った。視界が、恭介くんと桜霞だけになる。
 桜色の世界で、恭介くんの黒い着物が浮かんでいるみたいに、くっきりと──。
 私の両手を、ぎゅっと恭介くんは握る。

「絶対幸せにする」

 私は──なんて言っていいのか、わからなくて。
 白無垢似合う、って言ってくれたのも、お礼言われたのも、嬉しかったけど、でもそれは私のセリフでもあって。

(お嫁さんにしてくれて、ありがとう)

 目が潤む。だめだぁ、せっかくお化粧してもらってるのに。

(私こそ、絶対恭介くん、幸せにしたい)

 莉子と過ごせて幸せだって、そう思って欲しい──。
 ついに溢れた涙と、なんだかやたらと切られてるシャッター音。それが止まったとともに、メイクさんがかけてきて「あらあら」と微笑んでくれた。

「す、すみませえん、泣いちゃった」
「大丈夫大丈夫」

 メイクさんが笑いながら、ぽんぽんと目元をなおしてくれる。

「今日は良い日ですねぇ」

 少し関西風のイントネーションでメイクさんに言われて、空を見上げる。
 花弁を濃い桜色にしながら咲き誇る花びら越しに、どこまでも広がるパステルブルー。

「すてきなお式になりますよ」

 そのことばに、小さく頷く。メイクさんはいたずらっぽくも笑って、続けた。

「なにより、ラブラブやし」
「ん?」

 私はばっと手元を見る。あったかくて、大きな手に包まれたまま──。

「き、恭介くん、手、手っ」

 恭介くんは「んー」と首を傾げて、それから首を振った。

「いやだ。離したくない」
「な、なんで」
「なんででも」
「はずかしいよー!」

 照れて変な顔になってる私から、メイクさんはいつの間にか離れていて、またシャッターの音がする。

「へ、変な顔撮られちゃったじゃん!?」
「いつもじゃないか」
「さ、さっき綺麗だって言ってくれたのにー!」
「それはそれ、これはこれ」

 恭介くんは澄まし顔でそんなことを言って──私たちの写真撮影は、そのあとしばらく、続いたのでした。
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