上 下
32 / 34
番外編

【番外編SS】写真

しおりを挟む
 どきどきしてる。
 どっきどき、してる。
 桜は満開で、その重さで枝が折れそう。その桜を、春の日差しはキラキラと彩って、空はパステルカラーな水色で。

「どうした?」

 恭介くんが不思議そうに言う。
 お式……神前式の、まだ参列のひとたちが来てない、まだ早い午前中。
 私と恭介くんは和装……それぞれ白無垢と紋付袴で桜の樹の下、写真撮影をしていた。

「うっ、ううんっ」

 頭が重い。文金高島田のかつら。
 似合ってるんだか、いないんだか微妙な……。

(それはともかく、恭介くん、……似合いすぎっ!)

 ちらちらみてしまう。
 黒い着物、上品な銀のグラデーションの袴。なんで似合うの。

(……顔がいいからだっ!)

 なんだかこっちを凝視してる恭介くんを、きっと睨みつけた。ずるいよ、ひとりだけ和装似合いすぎだよ!

(私はなんか、微妙に似合ってない気がするよ!)

 恭介くんはびっくりした顔で「莉子?」って私を呼ぶ。
 ふん! って顔を正面に向けたところで、カメラマンさんに呼ばれた。

「はい、では新郎様新婦様、向かい合って見つめ合ってくださーい」
「……!?」

 私はカメラマンさんを二度見した。
 み、見つめ合う? このイケメン無双状態の恭介くんを見つめろって……?
 あわあわしていると、恭介くんに肩をくいって持たれて、無理矢理に顔をむかされる。

「さっきからどうしたんだ」
「……あう」

 照れて、うまく恭介くんが見れない。目線をウロウロさせてると、恭介くんがほんのすこし、肩をすくめて私に言う。

「あのな、莉子」
「……なぁに」
「緊張してるの、俺も同じだから」
「……へ?」

 きょとん、と恭介くんを見上げた。瞬間、シャッターの切れる音。
 ちらちら、と風もないのに桜が散った。
 何枚も、何枚も──音もなく、落ちていく。
 恭介くんが優しい表情を浮かべる。カメラマンさんが「新郎様、いいですね! 新婦様も笑顔で!」と朗らかに叫んで、またシャッターが落ちる。

「こんなに、綺麗な莉子」

 恭介くんが淡々と、でもなんだか……すこし、ほんのすこし、震えた声で言う。
 花びらが、くるくると宙を舞う。

「見慣れないし」
「……えっ、と」
「ほんとうに、俺のお嫁さんになってくれるんだって」

 恭介くんは、眩しそうに目を細める。

「嬉しくて、緊張して、色々ヤバイ」

 私の手を恭しく取って、自分の胸に押し付ける。たくさん重ねられてる和装の上からでも、はっきり感じる鼓動。

「莉子が、──綺麗すぎて、死にそう」
「──っ!」

 顔に血が上る。頬が熱い。めちゃくちゃ厚化粧してもらってるのに、ほっぺた赤いのバレバレだよう……!
 おずおずと恭介くんを見上げる。
 恭介くんの頬だって、──赤かった。
 小さい声で、恭介くんは続ける。

「愛してる、莉子」
「あの、えっと、その」
「俺のお嫁さんになってくれてありがとう」

 ぶわりと唐突に風が吹いて、一気に桜が舞った。視界が、恭介くんと桜霞だけになる。
 桜色の世界で、恭介くんの黒い着物が浮かんでいるみたいに、くっきりと──。
 私の両手を、ぎゅっと恭介くんは握る。

「絶対幸せにする」

 私は──なんて言っていいのか、わからなくて。
 白無垢似合う、って言ってくれたのも、お礼言われたのも、嬉しかったけど、でもそれは私のセリフでもあって。

(お嫁さんにしてくれて、ありがとう)

 目が潤む。だめだぁ、せっかくお化粧してもらってるのに。

(私こそ、絶対恭介くん、幸せにしたい)

 莉子と過ごせて幸せだって、そう思って欲しい──。
 ついに溢れた涙と、なんだかやたらと切られてるシャッター音。それが止まったとともに、メイクさんがかけてきて「あらあら」と微笑んでくれた。

「す、すみませえん、泣いちゃった」
「大丈夫大丈夫」

 メイクさんが笑いながら、ぽんぽんと目元をなおしてくれる。

「今日は良い日ですねぇ」

 少し関西風のイントネーションでメイクさんに言われて、空を見上げる。
 花弁を濃い桜色にしながら咲き誇る花びら越しに、どこまでも広がるパステルブルー。

「すてきなお式になりますよ」

 そのことばに、小さく頷く。メイクさんはいたずらっぽくも笑って、続けた。

「なにより、ラブラブやし」
「ん?」

 私はばっと手元を見る。あったかくて、大きな手に包まれたまま──。

「き、恭介くん、手、手っ」

 恭介くんは「んー」と首を傾げて、それから首を振った。

「いやだ。離したくない」
「な、なんで」
「なんででも」
「はずかしいよー!」

 照れて変な顔になってる私から、メイクさんはいつの間にか離れていて、またシャッターの音がする。

「へ、変な顔撮られちゃったじゃん!?」
「いつもじゃないか」
「さ、さっき綺麗だって言ってくれたのにー!」
「それはそれ、これはこれ」

 恭介くんは澄まし顔でそんなことを言って──私たちの写真撮影は、そのあとしばらく、続いたのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった

春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。 本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。 「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」 なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!? 本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。 【2023.11.28追記】 その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました! ※他サイトにも投稿しております。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。