カタブツ検事のセフレになったと思ったら、溺愛されておりまして

にしのムラサキ

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番外編

【番外編SS】クリスマスの夢

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 怪獣が出た。
 夢だって、分かってた。
 けれど怖くて、ただ暗闇のなかで逃げ回ってたら──怪獣が、悟になった。

「莉子」

 悟が笑う。
 笑ってるのに、目はガラス玉のよう。

「莉子、おいで」

 悟が言う。

「オレの子供を産んで」

 いやだ。
 私は首を振る。
 後ずさる。
 やめて。

「いやなの」「いやならころす」「莉子がオレのものにならないなら莉子なんかいらない」

 私は走る。
 暗闇のなかを、走って、走って、走る。

「殺さないで」

 私は泣く。
 怖くて、怖くって──泣く。
 悟が追いかけてくる。
 ひた、ひた、ひた、って足音。

「やだ、やだ、やだ」

 暗闇のなかで、雪が降り出した。
 少しずつ強くなる風、雪片が身体中に当たる。痛い。
 足音が、近づく。
 やだ、やだ──!
 手を掴まれた。包み込まれて──はっ、と気がつく。

(悟じゃない)

 だれ、とほんの一瞬身体を硬らせて。
 すぐに力を抜いた。

「……きょーすけくん」
「起きたか、莉子」

 安心したように恭介くんは言って、また私を抱きしめる。
 ふ、と力を抜いた。
 ふたりの、家。
 ふたりの、ベッド。
 恭介くんの、腕の中。
 ここは安心できる場所。

「恭介くん」

 恭介くんの匂いをかぐ。
 ふうと息を吐いた。

「……ごめんね?」
「いや」

 恭介くんはおでこにキスをする。

「無理もない」
「……クリスマスだからかなぁ」

 どうしても想起してしまったのかな。

「やだな」

 思わず唇から漏らした乾いた笑みに、恭介くんは口づける。

「来年も、再来年も」
「……?」
「10年後も100年後だって」

 恭介くんは私の頬を両手で包み込む。

「ずっとそばにいるから、守ってみせるから」
「……うん」
「ひとりで苦しまないで、莉子」

 恭介くんは、私の目尻に唇を落とす。かるく、かるーく、触れるみたいに。

「俺は莉子の夫だから」
「……ん」

 ちゅ、と唇が重なる。
 そうして抱きしめなおされて──私は安心して眠る。
 ここは大丈夫。
 ここにいれば、大丈夫。
 この人のそばなら、きっと──大丈夫。

 翌朝、雪が積もっていた。

(これのせいで、あんな夢を見たのかな)

 底冷えする寒さに、雪を連想して。
 ベランダの前の掃き出し窓からぼうっと見てると、恭介くんが頭をぽすぽす撫でてくる。

「なに考えてる、莉子?」
「なにって?」
「教えて」

 恭介くんが静かに笑う。
 私は首を傾げた。

「雪、降ったから──あんな夢になったのかなって」
「……雪、怖い? 莉子」
「え、ううん。いまは、そんなことない」

 綺麗だな、って見てる。
 そう答えると、恭介くんは「……雪だから」と私を抱きしめる。

「雪合戦だな」
「雪合戦!?」

 目を瞬くと、恭介くんは私の頬をかるくつねる。

「あのな、俺。莉子のいやな記憶とか、そういうの全部上書きしたいと思ってて」
「……うん」

 恭介くんを見上げながら、思う。
 去年から、何度もクリスマスパーティー、してくれてるのは……。
 自分の鈍さにびっくりした。

「だから、莉子。俺のそういうワガママに付き合ってくれるか」
「? それ、恭介くんのワガママとかじゃ」

 だってそれは、私のためで。
 でも恭介くんは首を振る。

「俺のワガママだよ。だって俺は、俺のお姫様が幸せでいてくれるのが──いちばん嬉しいんだから」
「……お姫様、だめ」
「そうだった」

 恭介くんは破顔して、私を抱き上げた。

「俺の奥さん」
「……うん」

 私は恭介くんの頬にキスをする。
 ありったけのありがとうを込めて、キスをする。
 それから──たっぷりの気合をこめて、恭介くんに宣戦布告。

「雪合戦、絶対負けないからね」
「望むところだ」

 恭介くんはニヤリと笑う。
 私は雪合戦の必勝方法について、考えてみたりする。
 こんな風に過ごしてたら、って私は思う。
 いつか絶対──忘れられる。
 恭介くんは私に何度もキスを落とす。
 私はくすぐったくて、くすくす笑って──。

 そう、傷なんか塞がる。
 恭介くんといると──私は、最強なんだから。

 幼かった、あの頃のように。
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