カタブツ検事のセフレになったと思ったら、溺愛されておりまして

にしのムラサキ

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番外編

【番外編SS】クリスマスは君のため(恭介視点)

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「すみません、これください。あとこれも」

 予約していたクリスマスケーキを受け取りに行った地検近くのケーキ屋で、俺はアップルパイとマカロンの詰め合わせまで買ってしまう。

「ありがとうございました~」

 サンタだのトナカイだのの砂糖菓子が乗ったケーキを崩さないように気をつけながら、俺は丸太町駅へ向かう。
 今日はクリスマスイヴ。
 莉子と、なんでもいいんだけれど……楽しいことをする日。
 莉子にとってクリスマスは……あまり、どころか……最悪な気分を思い出す、そんな日だろうから。

(今日と明日と、莉子にはとにかく考える暇なんかやらない)

 とにかく莉子には色んなミッションを与えてある。チキンを買うこと、サラダを作ること、できればパイシチューも!

「そんなの作れないよ! パイ!?」
「パイシチュー」
「そんなオシャンティな。恭介くんも作ってよ」
「俺はケーキ係だから」
「もー」

 これは昨日の会話、で──。
 莉子はブツブツ言いながら、スマホでレシピを検索していた。

 ケーキ片手に帰宅すると、莉子はやっぱり今年もサンタだった。
 見えそうなくらいのミニスカート、黒いストッキング。
 そして。

「寄せて上げた?」
「今年は手抜き」

 莉子はほれほれ、と俺の手を取って自分の乳房の下に持って行く。

「……なにこれ」

 柔らかいけど、莉子の胸じゃない。

「サンタ服買いに行ったら、一緒に置いてあった」

 莉子が下着から取り出した(なんかえろい)のは、ジェルが入ってる透明のパッドで。

「簡単に谷間を演出! ってんぐぐ」

 バカみたいに莉子が可愛いから、ついキスしてしまった。莉子がとろんと力を抜くから、思わず笑う。

「莉子、晩ご飯作ってくれた?」
「つ、作ったよう」
「すごく嬉しい」
「そ、そう?」

 莉子が笑う。
 莉子から身体を離すと「なんで?」って顔されて、また笑う。

「ケーキ。冷蔵庫にいれないと」
「あ、そだそだケーキ……、ふたつ?」
「アップルパイが美味そうだったから」

 リンゴ好きな莉子は嬉しげに箱を受け取る。冷蔵庫に莉子が仕舞って、俺は着替えて莉子を抱き上げた。

「? 恭介くん?」
「毎年毎年、なんなの莉子。なんで下着はかないの」
「えっへっへ」

 ベッドにぽさり、と下ろされて俺に押し倒されてる莉子はなんだか得意げに笑う。

「今年はね、ストッキング。黒にしてみたよ」
「……莉子は俺をなんだと思ってるんだろう」
「変態さん」
「否定はしない」

 唇を絡めるようにキスをして。

「……パイ、冷めるかな」

 ふと気にかかる。せっかく作ってくれたらしいのに……。

「大丈夫、冷凍のにしたから」

 チンするだけだよ、って莉子の返答に肩を揺らす。

「もー、笑わないでよ。そもそも恭介くんち、オーブンないし! あればできるし!」
「ごめん、違う。もう莉子かわいくて好き」

 無理とかしないとこがすごい好き。
 俺に対して自然でいてくれるのが嬉しい。

「けど莉子。ここ、俺んちじゃない」
「? 賃貸だから?」
「そうじゃなくて、……莉子の家でもあるだろ、宗像さん」

 莉子は頬を赤くして目線を逸らす。

「……なんか、慣れないんだもん」
「慣れて、俺のお姫様」
「わー、またそれっ」

 思い出し照れする莉子が可愛い。

「じゃあ、俺の」

 耳をかり、と噛む。
 ぴくりと震える莉子の耳元で、囁く。

「俺の奥さん」

 莉子がそれこそ林檎みたいに可愛く赤く。
 俺の可愛い林檎ちゃんは、これまた可愛く首を傾げて、呟くようにこう言った。

「なぁ、に? 私の大好きな……旦那さん」

 破壊力がエグくて、なんかもう、色々えぐかった。
 マジで妊娠させるところだった。
 危ない危ない。まだ、もう少し──先。


 莉子のサンタ服はあんまり意味をなさなくなったから、キスマークだらけの莉子はいつもの部屋着に着替えて、ふたりでクリスマスパーティーをした。
 チキンにケーキに、サラダにシチューパイ。ついでにピザもあった。

「高カロリー」
「太るよな」
「どうしよう、太らないでって言われるのに」

 莉子はうーんと首を傾げた。
 太らないで──というのは、結婚式のプランナーさんからだ。ドレスのサイズが変わるから、太らないで欲しい、と。

「いいだろ、どうせ正月に太るし」
「……そ、そんなことないもん」

 莉子の視線が泳ぐ。
 とりあえず年が明けたら、ダイエットに付き合おうとそう決めて(俺はいくら食べても太らないから)。

「去年もさ!」

 莉子はニコニコと笑う。りんごの頬。

「たくさんしたよね、パーティー」
「今年もするぞ」
「そなの? 恭介くんってクリスマス好きなんだね」

 そうなんだよ、と俺は頷く。

「好きなんだ。何度もパーティーを開いてしまうくらい」

 好きなんだ。
 莉子のことが、好き。

(すこしは、忘れられているだろうか)

 去年起きた、あの事件のこと──。


 風呂に入って歯磨きして、ふたりでベッドに入る──そこまでは、いつもと同じ。
 違ったのは。

「や、だ」

 夜中。
 莉子の声で目が覚める。「やだ」?
 起き上がって、常夜灯だけの灯で莉子を見つめた。

「莉子」

 思わず呼び掛けた。

「莉子」

 あまりにも、苦しそうな顔。
 額には脂汗が浮かんで。

「や、だ。お願い、殺さないで」

 はっとする。
 莉子の傷は──まだ癒えたりなんかしてない。カサブタになってるだけで、ほんの小さなきっかけで、こうして出てきてしまう。

「莉子」

 呼びかけて、抱きしめた。
 莉子、それは夢だ。目を開けて。
 ここには怖いものなんか、何ひとつ、ないんだから──。
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