カタブツ検事のセフレになったと思ったら、溺愛されておりまして

にしのムラサキ

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番外編

【番外編SS】恋は色づく?(下)

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 ランチランチ~、って2人のあとをついて行って……ほんとに結構歩いた。
 けど。

「京都の凄いところって、距離歩いてるのに、そんなに歩いた気分にならないところじゃない?」

 街の風景とか見てると、時間を忘れるっていうか。

「そうか、桓武天皇も喜んでるな」

 恭介くんに、なんかすごい雑な相槌を打たれた。ていうか平安京まで戻りますか!

「もうちょっとです。丸太町まで出るので……あ、あれです」

 春日さんに言われて、目線を向けたのは古民家風の小さなカフェ。

「カレーが美味しいんです」
「そういえば春日さん、昼もよくカレーに行ってますね」

 恭介くんが言う。なんでも地検の近くに美味しいカレー屋さんがあるらしい。じゅるり。
 そんなカレーマニア・春日さんおすすめのカレー屋さんに、4人で入る。
 メニューを見て、ああでもないこうでもない、って凄く悩んで決めて(悩んでたの私だけだったけど)カレーを注文。
 ほどなくやってきたのは、雑穀カレー。

「お、おいしそー!」

 いただきまーす、って手を合わせる私を、恭介くんは少し笑って見ている。

「なに?」
「莉子は幸せそうでいいなぁって」
「? まぁ幸せだけど」

 とってもとっても、幸せだけど。
 大川さんがケタケタ笑った。
 食べ終わって、お店をでて大川さん達とはお別れする。動物園に行って帰るらしい。
 仲睦まじい、ってかんじで話し合ってて。

(もう、あれ付き合うよな~)

 すっごいそういう雰囲気出てる。
 秒読み……っていうか、色づきかけっていうか。
 半分みどりの、もみじ。

「せっかくだから哲学の道歩いて、銀閣寺まで行こうか」

 私たちは大川さんカップル(予定)に手を振って、歩き出す。
 丸太町通りを哲学の道方面に歩いていて、ふと大きな神社に気がつく。

「こんな神社あった?」
「あったよ」

 恭介くんは私の手を引いて、神社に入る。
 観光シーズンだけど、あまり人気ひとけはない。
 静かな雰囲気で、気持ちがいい。

「けどここに来るのは──もう少し先でもいいかな」
「わ、うさぎ!」

 私は狛犬が犬じゃなくてウサギになってることに、妙にテンションを上げてしまう。
 めちゃくちゃ可愛いー!
 きゅるんとした瞳のウサギが、コマウサギをしていた。
 そのウサギを撫でながら、聞く。

「なんでもう少し先?」
「ここのご利益」
「うん」
「子宝」
「ぶふう」

 思わず吹き出す。こ、こ、子だから!

「恭介くん、欲しいの?」
「俺はもう少し先でいいなって」

 結婚式もあるからな、って恭介くんに私は言う。

「だから最近、中で出してくれないの?」
「……莉子」

 窘められた。
 ムニムニとほっぺをつねられながら。

「こら、莉子さん」
「だって~」

 唇を尖らせた。

「欲しいよ、赤ちゃん」
「……式の時に妊娠してたら大変だぞ?」
「そうかなぁ」
「つわりで何も食べられないかもしれないぞ」

 いいのか、と言われてむぐっと黙る。
 確かに……披露宴会場の式場見学で食べたフレンチ、すっごい美味しかった……。

「我慢します」
「うん」

 恭介くんは笑う。
 それから並んで参拝して……もう少ししたら、赤ちゃんが来てくれますように。
 境内を散歩しながら、恭介くんが口を開く。

「式、楽しみだよな」

 私はびっくりして恭介くんを見つめた。

「た、楽しみなの!?」
「え」

 私がびっくりしてるのに、恭介くんもびっくりしてる。

「いや楽しみだろ」
「だって。お義父さん」
「あれの存在は無視する」

 恭介くんは言い切った。

「莉子が白無垢着るのと、ふりっふりのドレス着るのが楽しみ」
「笑う気だー!」

 私はぷうと頬を膨らませた。

「あのふりっふりドレス、笑う気だ!」
「笑わない、笑わな……、ぶふ」
「笑ってるじゃん!」

 恭介くんのお母さんに、試着して何枚か写真を撮って送ったところ──速攻折り返し電話がかかってきて「絶対これ!!!」って言われたドレス。ふりっふり。
 試着のときは、担当の人とかも「お似合いです!」「プリンセスみたい!」って褒めちぎってくれたから舞い上がってたけど……。

(冷静になったら絶対似合わない!)

 まだ本決まりじゃないから、全然変えられるんだけれど……あんなにお義母さん喜んでくれてたのに、今更変えられない……!

「莉子」

 恭介くんがそうっと私の手を取る。

「なぁに」

 首をかしげる。
 恭介くんは、おでこにちゅ、とキスしてくれた。

「似合ってたよ。笑ってごめん」
「うそ」
「ほんと。可愛すぎて……笑ったのは、思い出し照れ」
「思い出し照れ?」

 初めて聞く造語(?)に私は笑う。思い出し笑い、みたいな……?

「そう。思い出し照れ」
「ふうん?」

 恭介くんは少しだけ迷ったようにしながら、口を開く。

「めちゃくちゃ可愛くて、死ぬかと思った」
「おおげさー!」
「ほんとに、ほんと」

 恭介くんは耳元で、小さくささやく。

「俺のお姫様」

 ぎゃー! って言いながら私は手を振り解く。心臓がどっどっどっどってうるさい!

「な、ななな何急に!」
「本音?」
「や、やめてよう……」

 頬が真っ赤だ。ほんとに、もう……。
 恭介くんはニヤリと笑う。

「これでしばらく、莉子も思い出し照れするだろ」
「うー、多分、死ぬまでするよ」
「照れててくれよ、お姫様」

 恭介くんは私の手を取って目を細める。

「照れてる莉子、すごくツボだから」
「……やっぱり恭介くん、なんか変態さんだよね」
「証明したほうがいい?」
「しなくていーよっ」

 私たちは手を繋いで、神社を出る。

(また、お願いにこようっと)

 あの可愛いコマウサギさんと、少し目が合った気がして──私は小さく微笑んだ、のでした。
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