上 下
22 / 34
番外編

【番外編SS】北海道旅行(恭介視点)

しおりを挟む
 来年の春、に京都で式を挙げることにとりあえず決まって──いま、莉子とウニの天ぷらを食べている。

「……っ美味し。美味し。ウニをなぜ天ぷらにしようと思ったのかなぁ凄すぎない? 天才?」
「北海道すごいな」

 なんとなく決めた北海道旅行が、実質的に新婚旅行になって。
 秋が本州以上に深まってる北海道は函館、旅館併設の料亭で、俺たちはプリン体を大量摂取していた。

「美味しい……全部が美味しい。太る」
「いいんじゃないか」
「恭介くんはヒトゴトだよね!」

 莉子はぷうと唇を尖らせた。可愛い。唇は天ぷらの油でてかてかしてて、なんかそれも可愛い。
 から、キス。
 座卓に身を乗り出して、触れただけですぐに離れた。

「っ、う、わ!?」

 莉子は慌てたようにキョロキョロ。

「大丈夫だ、個室なんだから」
「いやでもさぁ、なんで急にちゅう?」
「キスしたかったから」
「ふうん?」

 莉子は照れた様子で海鮮茶碗蒸しを食べていた。
 莉子が「死んでも行く」と主張してやってきたここのランチ、死ぬほど旨い。莉子は食べ物に対する嗅覚が割といいんだよな、なんて思っていたら莉子も身を乗り出してくる。

「んー!」
「キス?」
「そ!」
「失礼しまーす」

 莉子がキスしよう、ってしている時に、中居さんが入ってきて莉子は茹で蛸みたいに真っ赤。
 俺は笑う……のを堪えてお腹が痛い。
 中居さんは見て見ぬ振り、でも頬が緩んでて。
 退出したあと、莉子は「ぎゃあ」と頭を抱えた。

「タイミング~!」
「どんまい」
「なんでヒトゴト!?」

 莉子が照れながらまた、海鮮茶碗蒸しを口に運んだ。

「ところでさ、莉子」
「? うん」
「莉子が作ってくれた予定表な」

 ぴらり、とさっき渡された予定表を示す。

「うん」
「食べ物ばっかじゃないか」
「……食べたいものを優先したら、あんまり観光の時間が」

 なんだかモジモジと言われてしまって──つい吹き出す。

「いいよ、食べ歩きで」
「いい?」

 莉子は照れて笑う。

「けどさ、一箇所だけ増やしていいか」
「? うん、なんで?」
「行ってみたいところがあって」
「どこ?」
「教会」

 莉子は不思議そうに頷いた。
 京都での式、神前式に決まったから。(披露宴はドレスだけれど──どんなドレスかは未定)
 ちょっと、教会って。
 少し憧れがあったり──秘密だけれど。

 食べ終わったあと、有名な坂を通って(函館は坂の町だ)訪れた観光地にもなってる教会を、2人並んでぽかんと眺める。

「わー、風見鶏」

 莉子は弾んだ声でそう言って、教会へスマホを向けていた。

「撮ろ」

 莉子に腕を引かれて、スマホのインカメラで写真を撮る──で変な顔になった。

(……いや、もう緊張する必要はないんだ)

 結婚しちゃってるし。
 断られようなんかないんだし。
 カバンに突っ込んでる「あれ」について考える。
 ……サイズは間違えてない、はずだけれど。
 手を繋いで、中に入る。
 手に汗。莉子は不審に思っていたり、しないだろうか?
 しんとした、静寂。
 磨き上げられた古い木製の床は、黒に近くて──十字架は荘厳に。
 幸いにして、すれ違うように先にいた観光客が出て行く。

「莉子」

 あ、声が少し裏返った。
 莉子は不思議そうに俺を見上げる。
 すう、と深呼吸して。
 多分いまから、人生で一番……俺らしくないことをする。
 手を離して、床に片膝立ち。
 びっくりして俺を見てる莉子に、緊張しながら指輪の箱を取り出す。

(すこしは、)

 心拍数がすごい。
 少しはカッコつけられてるだろうか。(外国の映画みたいに……無理か)

「え、き、恭介くん?」
「結婚してください」

 指輪を莉子の薬指につけながら……えっとこれ、どのタイミングで立ち上がればいいんだ!?
 落ち着いてるようにみせかけながら、立ち上がって莉子の手を改めて、取る。

「病めるときも健やかなるときも、俺といて」

 他に何か言っていたっけ?
 緊張で色々、飛んだ。

「……」
「絶対大切にするから」

 改めて、誓って。
 莉子は無言。
 おそるおそる、口を開く。

「莉子?」

 名前を呼んで。

「恭介くん」

 呼び返された。
 莉子の顔はもう涙でぐしゃぐしゃで。
 返事なんか必要ないくらいに。
 抱きしめる。ぎゅうぎゅうと、それでも足りない。

「愛してる」
「うん」

 俺を見上げる莉子の唇に、そうっとキスをする。
 涙の味がして、少し、しょっぱかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

息子の友達

よしゆき
恋愛
息子の友達に告白されてエロい事をされる話。 男子高校生×シングルマザー。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。