カタブツ検事のセフレになったと思ったら、溺愛されておりまして

にしのムラサキ

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番外編

【番外編SS】七夕の約束(莉子視点、恭介視点)

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【莉子視点】

 恭介くんが畳に額を擦り付けるように頭を下げてて、私はひとりでワタワタしてて、お父さんは「むん!」って顔して腕を組んでる。

(あ、あれー!?)

 予想外です。
 宵山の夜。
 区役所の前で、電話で「籍を入れます」って、報告だけして。
 そうして、その翌週、今日。
 ウチに挨拶をしにきた訳なんだけれども。

(お、お父さん!?)

 何をしても許してくれる、お父さん(悪いことじゃなければね)。
 電話の感じだと、「わあおめでとう莉子!」って感じだったのに……。

「恭介くんと莉子は、そうなると思ってた」

 とまで、言っていたのに(何でかは知らないけれど)。
 恭介くんとも電話してたけど、いつも通りのお父さんだったのに。
 恭介くんを見るや否や、開口一番に「娘はやれん!」って、なにそれ!?

「お父さんがお怒りなのもご最もです、……聞いて、ください。俺は莉子さんを、愛してます」

 恭介くんは土下座したまま、言う。
 私は恭介くんの背中に触れた。あったかいし、すこし、……震えてた。

「先に籍を勝手に入れてしまったのはエゴかもしれません、いえ……莉子さんを何としても、自分のものにしたかったという……エゴです、否定しません」

 恭介くんは続ける。

「礼を失した行為だったと──けれど。莉子さんが、好きで、死ぬほど好きで、どうしてもそうしなくては耐えられなかったんです」

 畳に額を擦り付けて。

「必ず莉子さんを大事にします、死ぬまで愛し尽くします。莉子さんのためなら、何でもします」

 ですから、と恭介くんは手を握り締めた。

「莉子さんとの結婚、認めていただけませんか……!」
「恭介くん」

 思わず、名前を呼ぶ。
 お父さんは、相変わらず無反応。

「お、お父さん! あのね、私が勢いで結婚しちゃおー! って言ったの」
「莉子は悪くない」
「恭介くんが悪いわけでもないよ!」

 私が半泣きになっていると、お母さんが笑い出した。

「ぶふふふ、お、お父さん、莉子が困ってるからそろそろ、やめてあげて」
「ん? ……そだね。ごめんね2人とも」

 お父さんの声が、いつも通りの穏やかな感じに。そうして。

「おめでとー!」

 そう言って、お母さんがケーキを持ってきた。花火まで刺さってる。
 お父さんがクラッカーをぱん! と鳴らした。
 うふふ、と笑う両親。
 ぽかん、としてる恭介くんと、私。
 お父さんはイタズラっぽく、目を細めた。

「いや、だってもう一緒に暮らして長いんだろ?」
「恭介くんのお母様から聞いてて。知ってたんだー」
「へ!?」

 恭介くんも驚いてるから……あ、恭介くんのお父さん経由か!

「もう何年ぶりかしらねー、電話いただいて。お元気そうで何よりだわ」

 ねー、と両親は顔を見合わせた。

「……あの」

 呆然としてる恭介くんに、お父さんは言う。

「二十歳を超えてる成人の結婚に、親の許可なんかいるんだっけ?」
「……それは」

 恭介くんは言い淀む。

「他のご家庭は知らないけどね、ウチは気にならないよー。電話してくれたし十分」
「ねー」

 両親はまた、顔を見合わせて。

「さすがに自称パチプロ無職バツ4連れてきたら考えるけど……」
「それって自称パチプロ無職バツ3までならいいの?」

 思わず突っ込む。
 お父さんはうーん、と考える。……いいっぽいな。何基準なんだろうか……。
 恭介くんは、ハッとしたようにお父さんを見つめる。

「……あの?」
「莉子の結婚に、僕が許可を出す出さない、なんてないよ」

 お父さんはゆっくりと笑う。

「娘の幸せな姿を見て、おめでとうと言うばかりだよ僕は。ごめんねサプライズしすぎちゃった」
「ねー。夢、叶えちゃったね莉子」

 お母さんは両手を組んで、にっこにこ。

「夢……?」
「え、覚えてない? 年長さんのときの……。ふふ、持ってきてあげる」

 お母さんは上機嫌で立ち上がって、やがて一冊のアルバム共に帰ってきた。

「ほら、これよ、これ」

 それは、七夕の写真。
 私の持ってる短冊には「きょうすけくんのおよめさん」の文字。

「……!?」

 思わず赤面。
 恭介くんはマジマジと写真を見つめている。

「ちょ、見ないで見ないでっ」
「なぜ」
「なんか恥ずかしいから!」
「俺はめちゃくちゃ嬉しいのに?」

 恭介くんが、そんなことを真面目な顔で言うから──私は真っ赤になって。
 それを両親は、にこにこと笑ってみていた、のでした。


※※※

【恭介視点】

 ふう、と小さく息を吐いた。
 莉子の両親への、挨拶。
 殴られる覚悟で行った。……ら、歓待された。ふつうに、おめでとうって。

 ただ、帰る直前。
 すこし、莉子のお父さんと2人になった。

「恭介くん」

 お父さんは、そう言って──手を、差し出した。

「?」

 分からないまま、その手を取る。握手のように。
 ぎゅ、と握られて。
 お父さんの手は、震えて、いた。

「莉子を」
「お父さん」
「莉子を、大事にしてくれな」

 その声から。
 ああ、あれはサプライズばかりじゃなかったんだと気がつく。
 半ば本音の「娘はやれん」。

「絶対に」

 俺はすう、と息を吸った。

「お約束します」

 莉子のお父さんは頷いた。

「男の約束──二度目なの、覚えてるかい」
「え?」

 二度目?
 慌てて記憶を探って。
 ああ、と頷く。
 それこそ、幼稚園の年長のときの、七夕、だ。
 幼稚園の玄関に飾られた、笹。
 さらりと吹いた風、揺れる笹の葉と短冊。
 きらりと、七夕飾り。
 約束した。
 莉子のお願い事の書かれた短冊の、その前で。

「莉子はこう言っているんだけれど」

 困ったようなお父さんに、俺は言った。

「じゃあおれのお願い、こうします」

 小さな短冊に、クレヨンで(うまく書けなくて)裏表にひらがなで。「りこちゃんをしぬまでたいせつにします」。
 莉子のお父さんは「それってお願いごとじゃないね」と笑った。

「じゃあ約束です」
「誰と?」
「莉子ちゃんのお父さん」
「──じゃあ、男の約束だよ」

 お父さんは笑って。

「莉子を頼んだね」

 そうしていま、目の前でも笑っている。

「大きくなったねえ恭介くん。あのときは僕を見上げてたのに、今は僕が見上げてる」

 優しく細められる、目。

「莉子を頼んだね」

 あのときと同じ言葉に、しっかりと頷く。
 きっちりと──誓う。

「必ず」

 俺の言葉に、お父さんは頷いた。
 手を離す。
 お父さんは、なんだか寂しいような、すっきりしたような、そんな顔で──じっと自分の手を、見つめていた。

「幸せに」

 そうして、小さく微笑んだのだった。
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