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(昴成視点)

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 腕の中で、瀬奈が笑った気がして。
 ばっと瀬奈の肩を掴んで、ほんの少し引き離す──きょとんと見上げる瀬奈が、また……笑う。
 イルミネーションの、カラフルで冷たい光が落ちてくる。瀬奈はそこで、綺麗な白いドレスで、唯一の清廉な存在みたいに俺を見上げて──笑う。
 極彩色の世界の中で、純白の瀬奈が笑う。
 涙がほんの少し、瀬奈の瞳の中で潤む。
 きらきらと、千々に反射する光。

「どうしたの? 楢村くん」
「あ……」

 死んでもいいと、そう思った。
 そう思いながらも、俺は着てたジャケットを脱いで瀬奈の肩にかける。

「寒ない?」
「……っ」

 瀬奈はくすくすと笑う。花が開くみたいに、目を優しく細めて、俺を見上げて、唇を軽く開いて、そうやって笑う。

「そこ!?」
「……いや、寒そうやなって」
「ふふ、ふふふ、変なの、楢村くんって」

 瀬奈が笑う。楽しげに笑う。

「ごめんね、急に飛び出て」

 お店の人にも謝らなきゃね、と瀬奈がするりと俺の手に触れる。そのまま握り込んだ。瀬奈の手。

「あ──いや、どうしたん急に」
「きゅんってしちゃって、暴走したの」
「きゅん? 何に」
「秘密。なんでもない」

 なんでもない、の言い方が少し関西なまりの──俺の真似、みたいで目を瞠る。瀬奈がまた、笑う。

「ねえあのね、いっこ聞いていい?」
「ん」
「学生のときさ、よく言ってたでしょう。なんでもない」

 また俺の真似をして、瀬奈は言う。

「あれ、本当は──なんて言いたかったの?」

 俺は息を吸う。冷たい十二月の空気が肺胞で膨らむ。そうして、言った。

「めっちゃ好き──って、言いたかった」
「ふふ、ふふふ」

 瀬奈が笑う。それから背中を叩かれた。

「早く言ってよ! 留学までしちゃったじゃん!」
「──ごめん」
「ごめんじゃないよ! もう、ほんと……もう」

 本格的に泣き始めた瀬奈を、ぎゅうぎゅう抱きしめる。消えていくイルミネーション……に、ああ今日はリハーサルやったんやなぁとぼんやり思った。
 元の街灯の、ぼんやりした灯りのなかで、俺は言う。

「ほんまに──ごめん。俺、ほんまにバカで、アホで
ウンコで」
「──私も、言えば良かったの。付き合ってるの? って」
「瀬奈はなんも悪くない」

 それだけは、譲れない。
 めちゃくちゃに傷つけて、悲しませて、苦しませて。
 俺は瀬奈を抱き上げた。ふんわりとドレスの裾が膨らんで、ゆっくりと重力に従って落ちていく。
 けど腕の中の瀬奈はほんまに軽い。
 俺の気持ちもめちゃくちゃ軽い。瀬奈に対する執着はめちゃくちゃ重いけど。

「な、楢村くん?」
「ほんまにもう、二度と悲しませんから、傷つけんから──瀬奈」

 額を重ねる。冷たくなった瀬奈の肌。温めたいと──そう思う。

「結婚、してください」

 俺のプロポーズに、瀬奈は間髪入れずに答える。

「嫌」

 思わず茫然としかけた俺に、瀬奈は続けた。

「だ、だって──もう結婚、してるんですけどっ」

 ぷいっと顔を逸らす瀬奈の顔は真っ赤。
 ほんまにもう、分かりやすすぎて、意地っ張りで、強情で──いちいち俺のツボをついてくる彼女が、愛おしすぎて。

「あかん、もう心臓蕩けて落ちる」

 俺の言葉は、瀬奈の唇に吸い込まれていく。
 重ねた唇が温かくて、俺はどうやら──かなり幸せみたいだと気がついた。
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