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返事

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 立てていた膝がぴくんと揺れる。楢村くんは身体を起こして、私の膝にキスをする。
 そうして──やっぱり無表情だったけれど──自分はさっさと服を脱いでしまう。

「──な、楢村くんは脱ぐんだ!?」

 着乱れた浴衣のまま、私はちょっと唇を尖らせた。なんか、なんか、私だけこんな格好って、なんか!
 楢村くんは飄々と口を開く。

「動きにくいやん」

 そうしてボトムスのポケットに突っ込んであったコンドームのパッケージを取り出して、反り返ってる楢村くんのに淡々と着けて──

「つ、けるの?」
「瀬奈、ナマ嫌やろ」

 いっつも嫌がってたやん、と楢村くんは言う。

「そ、うだけど……」
「瀬奈の嫌がることはせえへん」

 そう言って、私の入り口にそれをあてがって──ナカの粘膜がキュンと締まる。

(欲しい……)

 私はやっぱり、ダメなんだ。楢村くんといると──都合のいい女になっちゃうんだ。

(あんなの、ナマでしたいだけの言い訳かもしれないのに……)

 下腹部に触れた優しい感覚を思い返す。
 その触られたところがフツフツと熱を持つ。
 直接抉って欲しいって、触れ合いたいって、トロトロ溶けながら──そう思う。

「外して……」
「瀬奈?」
「つけなくていいって、言ってるの……!」

 私はぎゅうっと眼を瞑る。恥ずかしくて、両手で顔を覆ったまま、震える声で呟いた。精一杯の、おねだりだった。

「瀬奈」
「なに」
「子供できていいん」
「……うん」
「結婚してくれるんやな?」
「……うん」

 ああ返事しちゃった。うんって言っちゃった。
 楢村くんのこと、全然信用できてないのに、それでも「うん」って言っちゃった。
 楢村くんはコンドームを床にぺちっと投げ捨てた。

「瀬奈」

 低くて、掠れた声だった。
 膝裏を押し上げられて、確認するように視線を遣される。反射的に頷いた刹那に押し入ってくる、硬くて大きな熱さ。

「……ぁ、っ」
「瀬奈」

 もう一度名前を呼んで、ぐっと腰を押し進められた。奥に当たって、私の粘膜が悦んで震える。肉襞がきゅんと彼のを締め付ける。楢村くんが緩く動いて、もう一度軽く奥を押し上げられて──

「や、っ、来ちゃ……っ」

 甘えた声が出た。私の意思なんか無視して、絶頂がお腹の奥から湧き出て──震えて。
 浅く息を繰り返す私のお腹を、また楢村くんが撫でる。

「やば……瀬奈んナカ、ヒクついてんの分かる?」
「……い、言わないでよぉ……っ」
「瀬奈はなあ」

 楢村くんは私の髪を撫でる。ちょっとぐしゃぐしゃにしながら──

「瀬奈はいちいちな、全部ツボやねん」
「な、にが……?」
「一から十まで、何から何まで──全部好き」

 そう言って、惜しむように髪の毛から手を離す。
 そうして、私の腰を掴みなおして──抜ける寸前まで引いた腰を、激しく打ち付ける。

「ぁあっ!」

 悲鳴にも似た喘ぎ声が喉から溢れる。休む間も与えられずに激しい抽送が続いて、絶え間ない水音が鼓膜を犯した。

「ぁあっ、あっ、あ……んッ、んぁっ、やっ」

 言葉にならない。
 奥をガツガツと穿つ、楢村くんの──乱暴な、その動き。なのに、気持ち良くて、死んじゃいそうで、際限なくやってくる波のような快楽に、ただ私は身を任せる。

「瀬奈、結婚式、和装もドレスも着ような」
「は、ぇ……っ!? な、ぁんっ、なにっ……!?」

 こんなときに、なんの話!?
 私は喘ぎながら、なんとか返事をする。その間にも、楢村くんは最奥を貪り続けていて。

「っ、は、絶対似合うから」
「は、ぁっ……ぁ、式、する……の?」
「当たり前やろ」

 は、と楢村くんが荒く息を吐く。そうして身体を倒して、私をぎゅうっと抱きしめた。耳朶をかぷかぷと甘く噛む。耳元で楢村くんの熱い呼吸。

「俺のやって、世界中に見せびらかさなあかん」
「……?」

 私なんかを見せびらかして、どうするんだろう?
 疑問に思ってる私の耳殻を、楢村くんが唇に挟んで、舌で舐める。

「ん、っ、耳……なん、かっ……汚い、よ……?」
「汚くない」

 そう言って、私を抱きしめる力を、さらに強くして。

「瀬奈、……っ」

 私の名前を、呼んで──

(あ、おっき、く)

 私はぐちゅぐちゅと貪られながら、ナカで楢村くんのが硬さを増したのを覚える。……イきそう、なの?

(ナカ、に)

 お互いの息が混じる。重なり合って、蕩けあって。
 楢村くんがわずかに身体を起こして、唇を重ねてきた。私はシーツを掴んでいた手を、わずかに震えているその手を、ゆるゆると楢村くんの広い背中にまわす。

(……すき)

 そう、好き──
 大好き。
 嘘でも、たとえ騙されてても、いい。
 楢村くんのことは信じられないし、期待なんかしてない。けれど、でも、信じたいし期待したい。
 好きだから。
 あの花火が上がった瞬間──幸せすぎて、ついぽろりと溢れた「好き」は楢村くんには聞こえなかったみたいだけれど──いまこの瞬間も、膨らみ続ける「好き」って感情。

「瀬奈、……っ、好き」

 楢村くんが信用ならない言葉を紡ぐ。信用できないと思っているくせに、私は嬉しくて切なくて苦しくて泣きそうになる。
 その狂おしい感情と共に、ナカは疼いて──もう何度目かわからないけれど、イって──同時に楢村くんのが吐き出したのが、分かった。ぬるつくような温かさ──

「ぁ……」

 ぽろりと唇から、小さく言葉が溢れた。
 楢村くんはひどく真剣な表情で、ゆるゆると腰を動かす。全部、全部──私のナカに出してしまうように。

「は」

 楢村くんは息を吐くと、また身体を倒して私を抱きしめる。ぎゅっと。それでも楢村くんは私のナカから出て行かない。ただ、気怠い快感の残滓を二人で分け合うみたいに、私たちは抱き合っていた。

「……先に、籍入れてしまいたいんやけど、いい?」

 楢村くんがぽつりと言う。

「籍……?」
「式は多分、来年になるから。ごめんけど、10月から忙しくなるし」
「あ、うん……」

 私は眼を瞬いて、生返事をした。
 日本酒作りは冬が本番。秋口から、ピークを迎える2月くらいまでほとんど休みはない、とは聞いていた。

(……ほんとに、するの?)

 ぼうっと、楢村くんの肩越しに薄暗い部屋の天井を見つめる。玄関しか明かりがついてないから、部屋の電気つけなきゃ──の前に、カーテン閉めなきゃ……
 楢村くんがぐっと起き上がる。そうしてやっと、私から抜いた。ベッドから降りて、カーテンを閉めて──ついでに電気をパチンとつける。

「ひゃぁあ!」

 いきなり煌々としたあかりに照らされた私の身体を、楢村くんはまじまじと見つめて、またベッドに乗ってくる。

「はっきり見えると余計エロいわ」
「……っ、もう! 楢村くんでしょこうしたのっ」
「せやで」

 楢村くんは静かに言う。

「せやから責任取って死ぬまで俺とおってくれ」
「……な、なんか変じゃない? その理論」
「せやろか」

 楢村くんはそう呟いて、それから私の膝を割り開く。

「ひゃぁあっ、な、なに!?」
「いや」

 じ、と私の足の付け根を見る目はいつも通りの無表情。なのにその目線は揺らぐことなく一点を見つめていて。

「み、見ないで!?」
「……入り口から白いの溢れてんで」
「な、楢村くんが出したの……っ、んぁっ!」

 楢村くんはその、白いの……つまり、楢村くんの吐き出したモノ──が溢れ出ている私の入り口へ、なんの気負いもなく指を進める。

「んぁ、んっ、あっ、あんっ」
「ゴムの個数とか考えんでいいもんな──」

 楢村くんがぐちゅぐちゅとソコをかき混ぜながら続ける。私のと、楢村くんのが入り混じった──その水音。

「孕むまでシような、瀬奈」
「っあ、ッ、ば、ばかぁあっ」

 なんとか抵抗しようとしたけれど──
 結局また、楢村くんのが元気になっちゃって、今度はくるりとうつ伏せにされて──もう、たっぷりと注がれて。

(……どうなっちゃうんだろう?)

 ぼんやりとそんなことを考えながら──私は意識を手放したのでした。
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