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嫉妬

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「エリのこと、知っとったん?」

 楢村くんはあんまり顔に表情が出る人じゃない。けれど、私を組み敷いて見下ろすその視線は、ひどく生々しくて、余裕みたいなものがなかった。

(──なん、で?)

 混乱して、ぐるぐると思考を掻き回す。わかんない。楢村くんの考えてること、全然わかんない。

(エリさんのこと、知って──って?)

 楢村くんの熱くてぎらぎらしてる視線は私の眼球を灼きつけてしまいそう。
 私はひゅうと息を吸った。

「瀬奈」
「……ぁ」

 知って、……って、なに?
 この間、楢村くんのところへ行く前から、エリさんを知っていたか、って……こと?

「し、ってたよ……」

 名前だけ。
 あなたが私の部屋で親しそうに電話していた、その相手──あなたの、牛乳が好きなイトコさん。
 どんなひとなんだろう?
 嫉妬で──息が苦しい。

「知ってたけど、それがなに?」

 汚い感情を押し隠すようにそう告げると、楢村くんの瞳の光彩が、一瞬揺れて──次の瞬間には、食べられるみたいにキスされていた。

「ん……っ」

 ぐちゅぐちゅと口の中を楢村くんが蹂躙していく。舐めあげられる上顎、吸われる舌、口内をむさぼる何か別のイキモノのような動き──
 息が苦しくて離れようと足掻くけれど、全然無理。追い詰めるように貪欲に、楢村くんは私に食らいついて離さない。

「ふあ、っ」

 呼吸しようとして、喘ぎ声が漏れる。
 楢村くんの大きな手が、私の身体を浴衣越しに弄っていく。

「や……っ」

 離れた唇と唇を繋ぐ、銀の糸。口内に残された彼の唾液を飲み込んだ。こくりと動く喉を、楢村くんが見つめている──そこにかぷりと噛みつかれて、甘い痛み。

「あ、っ」

 そのまま首筋を舐めて甘噛みしながら、楢村くんは浴衣の襟を崩す。そうして晒された鎖骨をゆっくりと噛んだ。
 最初は軽く──やがて少し強く、がじがじと。

「んぁ、あっ、ぁんっ」

 こりこりと骨を噛まれる感覚が、ひどく甘くて腰が痺れる。ずくりと下腹部が蠢く。
 崩された浴衣と肌着をさらに肌けさせて、楢村くんは私の胸部をさらけ出させて──じっと私を見下ろす。

「わ、和装用なの」

 あんまり可愛くないブラジャーだったから、言い訳のように口にする。
 楢村くんはふうん、と興味あるんだかないんだかな返事をして、ぐいっと引きあげた。
 晒け出された乳房をべろり、と食べ物みたいに舐め上げられて──で、気がつく。

「っ、待っ……シャワー」
「嫌や」
「なんっでっ」

 楢村くんは返事をしない。しないで、べろべろと執拗なほどに乳房を舐めていく。外気に晒されてぴん、と勃った先端を口に含んで、その口内でぐちゅぐちゅと舐った。

「ゃあ、……んっ」

 与えられた感覚に、胸を突き出すような姿勢になって恥ずかしい。

(な、なんで)

 混乱しているのに──それでも湧き上がる悦楽に、私は蕩かされてがくりと力を抜いた。
 そうして、ひゃんひゃんと子犬みたいに喘いで腰を揺らしてされるがまま。

(あ、もー、どうでもいい……)

 やっぱり私は、楢村くん相手だとぐずぐずになってしまう。全てがどうでも良くなって──いま目の前にいる、このヒトに抱かれるならばそれでいいと、思ってしまって……
 とろんとして、楢村くんを見上げる──と、彼は私の首筋に顔を埋めた。
 掠れた声で呟く。

「……ごめん」
「……え?」
「ほんまに、ごめん。ちゃうねん……こんなつもりやなくて」

 私はぽかんと、冷たい廊下で抱きしめられながらその言葉を聞く。玄関の鍵すらかけてなくて、つい着ていってしまった浴衣はもうぐちゃぐちゃで……いいんだけど。もう脱ぐから。

「ほんまに、俺は……」

 楢村くんの声になにか悔しそうな感情が滲んで、私はなんだか自然に、彼の形の良い後頭部を撫でた。楢村くんがびくりと身体を揺らす。
 少し硬めの、短い髪。少し摘んでは、また撫でて。

「……あ、謝られても困る。怒ってないし!」

 本当は優しく「どうしたの?」って聞きたかった──んだけれど、……どうしてこう、私は私なんだろう。
 けれど楢村くんは小さく、本当に小さく──でも安心したように息を吐いた。

「瀬奈、愛しとる」
「……っ」

 その声の響きが、あまりに──狂おしいものに思えて、私は息を飲む。

「瀬奈」

 また、楢村くんが私を呼んだ。
 掠れた、低い、でも──甘い、声で。
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