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番外編
【番外編SS】みんなで(下)
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秋咲のバラが、柔らかな秋の日差しを反射して輝く。
ランチのあと、私たち──私と、凪子さんと、紬さんは3人でお茶をしていた。
子どもたちは男性陣に任せて、ちょっとだけティータイムをさせてもらうことにしたのです。
「わぁ……なんだか久しぶりに、ゆっくりあったかいお茶飲んでる気がします」
紬さんが紅茶をひと口飲んで、感慨深げに言う。
いまいるテーマパークは、パーク内にホテルまである大きな施設。
宿泊するホテルの一階、瀟洒な雰囲気のカフェ、そのテラス席で私たちはのんびりと秋バラを眺めていた。
「紬さん、お忙しいんですよね」
凪子さんがスイートポテトのタルトを本当に美味しそうに口に運びながら、そう言った。
「先生ですもんね」
「うーん。でも好きでしてることですからね」
紬さんが軽く首を傾げた。
紬さんは高校の先生をされていて(なんと亮平さんとは先生と教え子の関係だったそう!)この間から育休明けで職場復帰されたとのこと。
「時短勤務なので。職員室では何かとバタバタしてて」
苦笑する紬さん。
「りょーちゃん、あんまり奏太くん見てくれないです?」
凪子さんの問いに、紬さんはブンブン首を振る。
「いえ、ほんとにもう、子煩悩って感じで……甘やかしっぱなし」
その言葉につい、吹き出した。不思議そうな2人に、私は「すみません」と笑った。
「修平さんもそうなので」
「あは、やっぱり」
凪子さんが笑う。彼女が言うには「あの兄弟は全員、小さいものが好きなんですよ」とのこと。
「小さい子供とか、動物とか」
「へー!」
修平さん、動物園行くと結構嬉しそうだものなぁ。
「まぁ動物には嫌われてるんですけどね、あの兄弟」
「……」
なんだろう、切ない。
そういえば「ふれあいコーナー」のウサギ、修平さんには寄ってなかったな……身体が大きいから怖いのかな。
「でも不思議でした。美雨ちゃんも奏太くんも、ウチの康ちゃん怖がってたでしょ?」
凪子さんは言う。
「正直、3人とも同じ顔してるのに」
その言葉にも、吹き出した。本当にそっくりな無愛想具合なんだものなぁ。コワモテで……一緒に過ごしていれば割と笑う人だって分かるのだけれど。
「確かに」
「なんででしょうか……」
しばらく考えてみたけれど、答えはでなかった。
「グンジンさんだから、雰囲気が怖いに違いないですよ! 普段ぼけっとしてるくせに」
とは、凪子さんの談。……ていうか、普段「ぼけっと」してるんだ、康平さん。
「意外です。いつもキリッとされてるのかと」
「そんなことないですよー。ぼーっとしてますよ、康ちゃん」
凪子さんの笑顔に、思わず微笑んだ。
きっと、その「ぼーっとしてる」康平さんは、凪子さんの前でしか見せない表情なんだろうなぁ、って。
「そういえば、その……凪子さんは康平さんに、まだドキドキとか、されますよね? 新婚さんだし……紬さんはどう、ですか?」
聞いてみたかったことを、思いっきって2人に聞いてみる。
凪子さんは思い切りキョトンとした。
「……ドキドキ?」
「え、あ、はい」
なんだか赤くなってる紬さん(可愛い)を横目で確認しつつ、凪子さんに返事をする。
「いえ、別に」
「え、そうなんですか?」
「はぁ。なんか、よく分からない感情はあるんですが」
「?」
「なんていうんですかね……」
凪子さんは首をかしげる。
「痛くて甘くて、苦しくて切なくて嬉しいみたいな……わかります?」
紬さんとふたり、顔を見合わせた。
凪子さんってもしかして、相当ににぶい?
「どうしたんですか、お二人とも」
「ふふ、……いえいえ」
少し笑いながら、凪子さんいつ気がつくのかなぁ、なんて楽しみに思う。
結婚してから恋愛感情に気がついた私が言えることでもないんだけれど、ね。
「で、でもどうしたんですか? 美保さん」
紬さんが首を傾げた。
「ドキドキ?」
「ええっと、その」
今度は私が赤面する番、だった。
「あのね、未だに……修平さんにドキドキしてしまうんです。へ、変でしょう? もう結婚して随分経つし、子供までいるのに」
「全然変じゃないですよ!」
紬さんがじっと私を見つめる。
「あれだけ大事にされてたら、それはそうですよ!」
「そう、ですか……?」
なんだか気恥ずかしくて、紅茶をひとくち。
「でも、りょーちゃんも相当に紬さんのこと大事にしてますよね」
くすくすと凪子さんは笑って、紬さんは赤面して、肯定とも否定とも取れないもにゃもにゃした口調で、小さく頷いた。
「しゅーちゃんも、りょーちゃんも、2人とも"伴侶"に出会えた、って感じで……羨ましいです」
凪子さんの言葉に、紬さんと顔を見合わせて笑って頷き合った。
やっぱり、凪子さんは鈍い。
けれど、きっとこれから康平さんと2人のペースで、恋心を育てていくんだろうと、そう思う。
もうその時は、近いのかもしれない。
「ママー!」
ふ、と美雨の声がしてそちらに目をやると。
「わ」
「すっかり仲良しですね」
「あああ良かったね康ちゃん!」
右腕と左腕に、それぞれ美雨と奏太くんを軽々抱き上げて、子供たちに懐かれてご満悦そうな康平さんがバラの生垣の向こうから歩いてくる。
修平さんと亮平さんも、その後に続いて──。
秋の風が吹いて、バラの香りが、ふんわりと香る。
私はなんだかとても幸せな気分で、空を見上げる。
そこには──穏やかな水色の空には、綿のような羊雲がたくさん広がっていたのでした。
ランチのあと、私たち──私と、凪子さんと、紬さんは3人でお茶をしていた。
子どもたちは男性陣に任せて、ちょっとだけティータイムをさせてもらうことにしたのです。
「わぁ……なんだか久しぶりに、ゆっくりあったかいお茶飲んでる気がします」
紬さんが紅茶をひと口飲んで、感慨深げに言う。
いまいるテーマパークは、パーク内にホテルまである大きな施設。
宿泊するホテルの一階、瀟洒な雰囲気のカフェ、そのテラス席で私たちはのんびりと秋バラを眺めていた。
「紬さん、お忙しいんですよね」
凪子さんがスイートポテトのタルトを本当に美味しそうに口に運びながら、そう言った。
「先生ですもんね」
「うーん。でも好きでしてることですからね」
紬さんが軽く首を傾げた。
紬さんは高校の先生をされていて(なんと亮平さんとは先生と教え子の関係だったそう!)この間から育休明けで職場復帰されたとのこと。
「時短勤務なので。職員室では何かとバタバタしてて」
苦笑する紬さん。
「りょーちゃん、あんまり奏太くん見てくれないです?」
凪子さんの問いに、紬さんはブンブン首を振る。
「いえ、ほんとにもう、子煩悩って感じで……甘やかしっぱなし」
その言葉につい、吹き出した。不思議そうな2人に、私は「すみません」と笑った。
「修平さんもそうなので」
「あは、やっぱり」
凪子さんが笑う。彼女が言うには「あの兄弟は全員、小さいものが好きなんですよ」とのこと。
「小さい子供とか、動物とか」
「へー!」
修平さん、動物園行くと結構嬉しそうだものなぁ。
「まぁ動物には嫌われてるんですけどね、あの兄弟」
「……」
なんだろう、切ない。
そういえば「ふれあいコーナー」のウサギ、修平さんには寄ってなかったな……身体が大きいから怖いのかな。
「でも不思議でした。美雨ちゃんも奏太くんも、ウチの康ちゃん怖がってたでしょ?」
凪子さんは言う。
「正直、3人とも同じ顔してるのに」
その言葉にも、吹き出した。本当にそっくりな無愛想具合なんだものなぁ。コワモテで……一緒に過ごしていれば割と笑う人だって分かるのだけれど。
「確かに」
「なんででしょうか……」
しばらく考えてみたけれど、答えはでなかった。
「グンジンさんだから、雰囲気が怖いに違いないですよ! 普段ぼけっとしてるくせに」
とは、凪子さんの談。……ていうか、普段「ぼけっと」してるんだ、康平さん。
「意外です。いつもキリッとされてるのかと」
「そんなことないですよー。ぼーっとしてますよ、康ちゃん」
凪子さんの笑顔に、思わず微笑んだ。
きっと、その「ぼーっとしてる」康平さんは、凪子さんの前でしか見せない表情なんだろうなぁ、って。
「そういえば、その……凪子さんは康平さんに、まだドキドキとか、されますよね? 新婚さんだし……紬さんはどう、ですか?」
聞いてみたかったことを、思いっきって2人に聞いてみる。
凪子さんは思い切りキョトンとした。
「……ドキドキ?」
「え、あ、はい」
なんだか赤くなってる紬さん(可愛い)を横目で確認しつつ、凪子さんに返事をする。
「いえ、別に」
「え、そうなんですか?」
「はぁ。なんか、よく分からない感情はあるんですが」
「?」
「なんていうんですかね……」
凪子さんは首をかしげる。
「痛くて甘くて、苦しくて切なくて嬉しいみたいな……わかります?」
紬さんとふたり、顔を見合わせた。
凪子さんってもしかして、相当ににぶい?
「どうしたんですか、お二人とも」
「ふふ、……いえいえ」
少し笑いながら、凪子さんいつ気がつくのかなぁ、なんて楽しみに思う。
結婚してから恋愛感情に気がついた私が言えることでもないんだけれど、ね。
「で、でもどうしたんですか? 美保さん」
紬さんが首を傾げた。
「ドキドキ?」
「ええっと、その」
今度は私が赤面する番、だった。
「あのね、未だに……修平さんにドキドキしてしまうんです。へ、変でしょう? もう結婚して随分経つし、子供までいるのに」
「全然変じゃないですよ!」
紬さんがじっと私を見つめる。
「あれだけ大事にされてたら、それはそうですよ!」
「そう、ですか……?」
なんだか気恥ずかしくて、紅茶をひとくち。
「でも、りょーちゃんも相当に紬さんのこと大事にしてますよね」
くすくすと凪子さんは笑って、紬さんは赤面して、肯定とも否定とも取れないもにゃもにゃした口調で、小さく頷いた。
「しゅーちゃんも、りょーちゃんも、2人とも"伴侶"に出会えた、って感じで……羨ましいです」
凪子さんの言葉に、紬さんと顔を見合わせて笑って頷き合った。
やっぱり、凪子さんは鈍い。
けれど、きっとこれから康平さんと2人のペースで、恋心を育てていくんだろうと、そう思う。
もうその時は、近いのかもしれない。
「ママー!」
ふ、と美雨の声がしてそちらに目をやると。
「わ」
「すっかり仲良しですね」
「あああ良かったね康ちゃん!」
右腕と左腕に、それぞれ美雨と奏太くんを軽々抱き上げて、子供たちに懐かれてご満悦そうな康平さんがバラの生垣の向こうから歩いてくる。
修平さんと亮平さんも、その後に続いて──。
秋の風が吹いて、バラの香りが、ふんわりと香る。
私はなんだかとても幸せな気分で、空を見上げる。
そこには──穏やかな水色の空には、綿のような羊雲がたくさん広がっていたのでした。
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