上 下
42 / 45
番外編

【番外編SS】みんなで(下)

しおりを挟む
 秋咲のバラが、柔らかな秋の日差しを反射して輝く。
 ランチのあと、私たち──私と、凪子さんと、紬さんは3人でお茶をしていた。
 子どもたちは男性陣に任せて、ちょっとだけティータイムをさせてもらうことにしたのです。

「わぁ……なんだか久しぶりに、ゆっくりあったかいお茶飲んでる気がします」

 紬さんが紅茶をひと口飲んで、感慨深げに言う。
 いまいるテーマパークは、パーク内にホテルまである大きな施設。
 宿泊するホテルの一階、瀟洒な雰囲気のカフェ、そのテラス席で私たちはのんびりと秋バラを眺めていた。

「紬さん、お忙しいんですよね」

 凪子さんがスイートポテトのタルトを本当に美味しそうに口に運びながら、そう言った。

「先生ですもんね」
「うーん。でも好きでしてることですからね」

 紬さんが軽く首を傾げた。
 紬さんは高校の先生をされていて(なんと亮平さんとは先生と教え子の関係だったそう!)この間から育休明けで職場復帰されたとのこと。

「時短勤務なので。職員室では何かとバタバタしてて」

 苦笑する紬さん。

「りょーちゃん、あんまり奏太くん見てくれないです?」

 凪子さんの問いに、紬さんはブンブン首を振る。

「いえ、ほんとにもう、子煩悩って感じで……甘やかしっぱなし」

 その言葉につい、吹き出した。不思議そうな2人に、私は「すみません」と笑った。

「修平さんもそうなので」
「あは、やっぱり」

 凪子さんが笑う。彼女が言うには「あの兄弟は全員、小さいものが好きなんですよ」とのこと。

「小さい子供とか、動物とか」
「へー!」

 修平さん、動物園行くと結構嬉しそうだものなぁ。

「まぁ動物には嫌われてるんですけどね、あの兄弟」
「……」

 なんだろう、切ない。
 そういえば「ふれあいコーナー」のウサギ、修平さんには寄ってなかったな……身体が大きいから怖いのかな。

「でも不思議でした。美雨ちゃんも奏太くんも、ウチの康ちゃん怖がってたでしょ?」

 凪子さんは言う。

「正直、3人とも同じ顔してるのに」

 その言葉にも、吹き出した。本当にそっくりな無愛想具合なんだものなぁ。コワモテで……一緒に過ごしていれば割と笑う人だって分かるのだけれど。

「確かに」
「なんででしょうか……」

 しばらく考えてみたけれど、答えはでなかった。

「グンジンさんだから、雰囲気が怖いに違いないですよ! 普段ぼけっとしてるくせに」

 とは、凪子さんの談。……ていうか、普段「ぼけっと」してるんだ、康平さん。

「意外です。いつもキリッとされてるのかと」
「そんなことないですよー。ぼーっとしてますよ、康ちゃん」

 凪子さんの笑顔に、思わず微笑んだ。
 きっと、その「ぼーっとしてる」康平さんは、凪子さんの前でしか見せない表情なんだろうなぁ、って。

「そういえば、その……凪子さんは康平さんに、まだドキドキとか、されますよね? 新婚さんだし……紬さんはどう、ですか?」

 聞いてみたかったことを、思いっきって2人に聞いてみる。
 凪子さんは思い切りキョトンとした。

「……ドキドキ?」
「え、あ、はい」

 なんだか赤くなってる紬さん(可愛い)を横目で確認しつつ、凪子さんに返事をする。

「いえ、別に」
「え、そうなんですか?」
「はぁ。なんか、よく分からない感情はあるんですが」
「?」
「なんていうんですかね……」

 凪子さんは首をかしげる。

「痛くて甘くて、苦しくて切なくて嬉しいみたいな……わかります?」

 紬さんとふたり、顔を見合わせた。
 凪子さんってもしかして、相当ににぶい?

「どうしたんですか、お二人とも」
「ふふ、……いえいえ」

 少し笑いながら、凪子さんいつ気がつくのかなぁ、なんて楽しみに思う。
 結婚してから恋愛感情に気がついた私が言えることでもないんだけれど、ね。

「で、でもどうしたんですか? 美保さん」

 紬さんが首を傾げた。

「ドキドキ?」
「ええっと、その」

 今度は私が赤面する番、だった。

「あのね、未だに……修平さんにドキドキしてしまうんです。へ、変でしょう? もう結婚して随分経つし、子供までいるのに」
「全然変じゃないですよ!」

 紬さんがじっと私を見つめる。

「あれだけ大事にされてたら、それはそうですよ!」
「そう、ですか……?」

 なんだか気恥ずかしくて、紅茶をひとくち。

「でも、りょーちゃんも相当に紬さんのこと大事にしてますよね」

 くすくすと凪子さんは笑って、紬さんは赤面して、肯定とも否定とも取れないもにゃもにゃした口調で、小さく頷いた。

「しゅーちゃんも、りょーちゃんも、2人とも"伴侶"に出会えた、って感じで……羨ましいです」

 凪子さんの言葉に、紬さんと顔を見合わせて笑って頷き合った。
 やっぱり、凪子さんは鈍い。
 けれど、きっとこれから康平さんと2人のペースで、恋心を育てていくんだろうと、そう思う。
 もうその時は、近いのかもしれない。

「ママー!」

 ふ、と美雨の声がしてそちらに目をやると。

「わ」
「すっかり仲良しですね」
「あああ良かったね康ちゃん!」

 右腕と左腕に、それぞれ美雨と奏太くんを軽々抱き上げて、子供たちに懐かれてご満悦そうな康平さんがバラの生垣の向こうから歩いてくる。
 修平さんと亮平さんも、その後に続いて──。
 秋の風が吹いて、バラの香りが、ふんわりと香る。
 私はなんだかとても幸せな気分で、空を見上げる。
 そこには──穏やかな水色の空には、綿のような羊雲がたくさん広がっていたのでした。
しおりを挟む
感想 297

あなたにおすすめの小説

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

敏腕ドクターは孤独な事務員を溺愛で包み込む

華藤りえ
恋愛
 塚森病院の事務員をする朱理は、心ない噂で心に傷を負って以来、メガネとマスクで顔を隠し、人目を避けるようにして一人、カルテ庫で書類整理をして過ごしていた。  ところがそんなある日、カルテ庫での昼寝を日課としていることから“眠り姫”と名付けた外科医・神野に眼鏡とマスクを奪われ、強引にキスをされてしまう。  それからも神野は頻繁にカルテ庫に来ては朱理とお茶をしたり、仕事のアドバイスをしてくれたりと関わりを深めだす……。  神野に惹かれることで、過去に受けた心の傷を徐々に忘れはじめていた朱理。  だが二人に思いもかけない事件が起きて――。 ※大人ドクターと真面目事務員の恋愛です🌟 ※R18シーン有 ※全話投稿予約済 ※2018.07.01 にLUNA文庫様より出版していた「眠りの森のドクターは堅物魔女を恋に堕とす」の改稿版です。 ※現在の版権は華藤りえにあります。 💕💕💕神野視点と結婚式を追加してます💕💕💕 ※イラスト:名残みちる(https://x.com/___NAGORI)様  デザイン:まお(https://x.com/MAO034626) 様 にお願いいたしました🌟

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。