お見合い相手は無愛想な警察官僚でした 誤解まみれの溺愛婚

にしのムラサキ

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番外編

【番外編SS】みんなで(上)

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【時系列、美雨2歳あたり】

※※※

 子連れの移動って、結構荷物が多い。
 それも旅行となると、大人だけの移動とはかなり様相が変わってくる。
 赤ちゃんの頃に比べると少し減ってるけれど──もうすぐ2歳半の美雨は下着におむつに着替え、10月初めはまだまだ気温も高いから飲み物も多め。
 ぐずったとき用におやつ、飛行機で絶対飽きるからオモチャにお気に入りの絵本……。

「と、とんでもないことに」

 たった二泊三日なのに、どこに海外旅行へいくの? みたいな荷物になってしまった。

「大丈夫か?」

 車に美雨を乗せながら、修平さんが言う。きっちりチャイルドシートに乗せて、慣れっこの美雨はお出かけ着で澄まし顔。
 私は苦笑しながら、トランクに鞄とバギーを詰め込む。すぐに修平さんが来て、手伝ってくれた。

「ひこうき、みう、初めて」

 はじめての遠出にワクワクしてる美雨は、昨日からこの調子。
 これから空港に向かって──そして向かうは長崎。
 修平さんの弟さん、康平さんが暮らす長崎へ、みんなで遊びに行こう、ということになったのでした。
 みんな、っていうのはウチと、修平さんと康平さんの弟、亮平さん一家のこと。

「あれ。亮平さんたち、もう空港だって」

 車が高速に乗ってすぐ、スマホを確認するとアプリのグループトークに亮平さんからメッセージが来ていた。

「奏太に飛行機見せるって言ってたぞ」
「あ、そうか」

 奏太くんは、亮平さんの息子さん。だから甥っ子だ。
 美雨のほうが半年だけ、おねえさん。ただ、奏太くんの身体はかなり大きい。

(ウチも、もうひとり出来たとして、男の子だったらやっぱり大きいのかなぁ……)

 修平さんはじめ、この兄弟はみんな身体が大きいから。
 関係あるのかどうか、亮平さんの奥さん、紬さんはかなり難産だったらしい。話を聞いて戦慄してしまった。

「そーちゃん、もう、くうこう?」
「だって」
「はやくあそぶ!」

 美雨はウキウキと窓から空を眺める。よほど飛行機が楽しみみたい。
 空港近くの駐車場について、車を預ける。空港まではマイクロバスで送迎してくれて、助かる(大荷物で運転手さんも笑っていた)。

「いや、お子様連れはどうしても仕方ないですよ」

 運転手さんはニコニコと言ってくれるから、かえって恐縮してしまった。荷物も、なんだかんだ気がついたら全部修平さんに持たせてるし……。

「すみません」
「? なにが」

 心底不思議そうな修平さんにお礼をこめて笑いかけつつ、空港の自動ドアをくぐる。
 持つって言っても、ダメって言うことくらい分かってる。だからせめて、あとでこっそりお礼をしよう。

「みちゃん!」

 元気な声に顔を上げると、奏太くんが駆けてきた。

「そーちゃん!」

 美雨はニコニコ、満面の笑みで私の手を離し、奏太くんに駆け寄る。奏太くんはほんのすこしだけ、笑っている。
 ……なんでこういうとこが似ちゃうのかな、と私は微笑ましくて笑う。
 修平さんもそうだけど、亮平さんも多分そうなんだけれど……この笑い方、本当に嬉しいときの顔なんだよなぁ! 可愛いったら。

「こんにちはー!」

 紬さんの挨拶に、私たちも挨拶を返す。亮平さんは大荷物で、紬さんが荷物を持ってない……ところも、兄弟良く似てる。
 思わずクスクス笑った私を、修平さんと亮平さんは不思議そうに見て、紬さんはほんの少し、「ねぇ」みたいな顔で笑ってた。

 チェックインをすませて、大荷物も預けて(とはいえ美雨関連の荷物は持ちあるかなきゃだ)……問題は、そこからだった。

「ねぇ美雨? 飛行機ではね、なかなかおトイレいけないの。オムツにしておこう?」
「やっ! だっ!」

 美雨はこの一点張りだ。

「おねえさんパンツがいいっ」

 小鳥みたいな唇を一生懸命に尖らせて、必死で抵抗している美雨は本当に可愛い。
 可愛いけれど、……飛行機、心配だよ!
 というか、普段はむしろ「みう、おむつがいい!」とか言っているくせに……。

(奏太くんの前で、おねえさんぶりたいんだろうなぁ)

 気持ちはわからないでもないけれど、でも、ううん……。
 空港内のソファで言い争う私と美雨に、紬さんが話しかけてくれた。

「わ、もうトイトレ終わってるんですか?」

 トイトレっていうのは、トイレトレーニングのこと。最近始めた美雨は、まぁ順調なほうなんだろうなぁ……とは思うんだけれど。

「んん、まだ途中で……ウチの車とかでお漏らししちゃうのはいいんですけど、……飛行機は、さすがに」
「しないっ!」

 美雨はさらに唇を尖らせて──ふくふくのほっぺと相まって、本当にヒヨコみたいで可愛い。可愛いんだけれど、困っちゃうなぁ。

「……あ、ねぇ、美雨ちゃん」

 紬さんはニコニコと言う。

「つーちゃんね、女の子のオムツって見たことないなぁ」
「……?」
「ハートとか付いてるの?」
「……ぴんくの、はーと」

 なぜか照れて、美雨はモジモジと上目遣い。

「えーっ可愛い~! ねぇ見せてよ」

 紬さんは美雨をめちゃくちゃに盛り上げて、トイレに連れて行ってくれる。
 ちらりと振り返って、親指をたててくれた。

「うう、ありがたい……」
「美雨、俺の言うことは更に聞かないからな」

 亮平さんと、奏太くんに飛行機を見せに行っていた修平さんがいつの間にか横にいて、困ったように言う。私は思わず吹き出した。

「? どうした」
「だって、修平さん美雨に甘いんだもの」

 美雨も分かっていて、修平さんにはワガママ放題だ。危ないこととかは、かなり厳しく叱るけれど。

「……そうだろうか」

 困ったように頬をかく修平さんに、私は余計に面白くて、くすくすと笑ってしまった。
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