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番外編

【番外編SS】キスをする/コスプレ(上)(修平視点)

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【キスをする】(修平視点)

「ぱぱはいや」

 美雨の突然の拒絶に、俺は視界が真っ暗になるかと思った。

「ままがいい。まま、ちゅー」

 3歳になったばかりの美雨は、ふくふくした小さな可愛らしい手を美保の頬にそっと置いて、そして反対側の頬に薔薇色の唇でキスをした。

「わぁ美雨、ありがとう」

 お腹が随分と大きくなっていた美保は、優しく微笑む。それから少し眉を下げて。

「美雨、パパもしてほしいみたいだよ」

 美保の言葉に、美雨は可愛らしい頬を膨らませた。

「やーだよー。ぱぱやなんだよ。ままがいい」
「美雨」

 美保が少し、困っている。
 俺は笑って、美雨の頭をそうっと撫でる。……これは嫌がられなくて良かった。美保が少し笑う。

「もう……あ、もう美雨寝る時間だよ。ねんねしよ」
「やーだー。まだあそぶっ」
「こら美雨、明日起きれないよ」

 甘えて美保に抱きつく美雨はとても可愛い。とてもとても可愛い。美保にそっくりの優しげな顔立ち。
 ねんねもままがいい、の言葉で美保が美雨と一緒に寝室に向かう。

「……」

 昨日までは、俺にもおやすみのキス、してくれていたのに……。
 肩を落としながらキッチンへ向かう。
 寝かしつけも大変だから、せめて片付けくらいは……と途中で美保が笑いながら出てきた。

「すぐ寝ちゃいました。眠かったのかな」
「たくさん遊んでいたからな」

 気にしてないフリをして、鍋を洗う。美保が微かに笑いながら、隣に並んだ。優しくお腹を撫でる手つき。

「ほんとうは美雨、修平さんのこと大好きなんですよ?」
「……だといいが」

 妙な間だっただろうか。拗ねているつもりはないのだが。

「照れてるんです、きっと」

 美保の少し面白がっている声に、少し首を傾げた。

「だって、美雨。修平さんがいるときは、お洋服すっごい悩むんですもん」
「服?」
「ああでもない、こうでもない、って……。髪型も。ちょっと妬けちゃう」

 美保が目を細めて、俺を見上げる。俺はどんな顔をしたらいいか分からなくて、唇をモゴモゴと歪めた。

「初恋はパパ、なのかな」

 モゴモゴしてる俺に、美保は笑う。

「でも私も、譲る気はないですけどね?」

 冗談っぽくそう言う美保の額に、俺は小さくキスを落とす。

「……人生初のモテ期だ」

 俺の言葉に、美保はしばらくきょとん、として……それから大きく笑ったのだった。



※※※



【コスプレ(上)】(修平視点)
(時系列、新婚旅行直後くらい)

 新婚旅行から帰って、しばらくした日曜日のこと。
 美保が実家のお義母さんから呼び出された。

「リフォーム?」

 リビングのソファ、電話をしながら美保が首をかしげる。

「え。急だって……はぁい、分かりました」

 スマホをタップしながら通話を切って、美保が困ったように俺を見上げた。

「修平さん、ごめんなさい」

 そうして美保が説明してくれたことによると──要は、ご実家をリフォームするから、美保の部屋に残っている荷物を処分してくれ、とのこと。

「もう、急なんですよ」
「手伝おう」
「いえ、もうほとんど荷物はなくて──高校の制服だとか、そんなものくらい」

 高校の制服、か。
 俺はぼんやり考える。美保はどんな高校生だったのだろう?

 挨拶がてら、ということで美保の実家まで車で向かって。

「あらあらいらっしゃい~」

 客間に通されて、お義母さんと近況を報告している間に、美保は二階へ片付けに向かう。──と。

「きゃあっ!」

 どたどた、と音がして、慌ててお義母さんとふたり、二階へ向かう。

「美保、どうした!」

 美保の部屋はすぐわかった。ドアが開いていて──美保はクローゼットのまえ、尻餅をついた姿勢で苦笑している。

「あは、ごめんなさい。少しバランス崩しただけで」

 美保の前には脚立とダンボール。
 クローゼットの上の段から、これを取り出したらしい。見れば、棚にはまだいくつか荷物が残っていた。

「俺がやろう」
「え」

 美保は少し迷って──それから甘えてくれることに決めたらしい。お願いします、とはにかむ美保が可愛らしくて、俺はここが美保の実家で良かった、と思った。
 お義母さんがいなければ、多分……押し倒していただろうから。
 ──最近、タガが緩みがちだ。

「あら、じゃあふたりで少し片付けていて。あたし、お呼ばれしてるところがあって。夕方には戻ります」
「はーい」

 美保は気楽な感じで返事をして、俺は頭を下げながら思う。
 ストッパーが消えてしまった。

(とはいえ)

 俺はひょいひょい、とダンボールを下ろしながら思う。

(まあ、もう時間はかからないだろう)

 部屋は美保の言う通り、荷物はほぼなかった。いちおう、のように置いてあるベッドの他には、何も置かれていない勉強机と椅子、空っぽの本棚。

「とりあえずここに全部収納しちゃったんですよね」

 苦笑する美保が、ダンボールから取り出したのは──白いセーラー服。

「あ、懐かしい。高校の制服です、これ」

 自分にあてて見せる美保。

「まぁ、もう着るのは無理ですからねぇ。寂しいけど捨て……」
「美保」

 何故自分でも、そう言ってしまったのか。
 煩悩のなせるわざとしか、思えない。

「最後に、着てみては──どうだろう?」
 
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