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番外編
【番外編SS】手を繋ぐ/抱きしめる
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【「#30日CPチャレンジ」のやつです】
【詳しくは近況の「追記あり」の追記のところをご確認ください。要はお題に沿って短いお話を書いていくというやつです】
※※※
【1日目・手を繋ぐ】(修平視点)
手を繋ぐくらいは許可しよう。
須賀川長官に言われたその言葉を思い出しながら(中学生か! と正直、思った)──のんびりと美術館の中を歩く美保の背中を見つめる。
お見合いのあと、交際を申し込んで……OKが出て。
美術館で、2回目のデート。
(手はいいんだ)
繋いで、いい。
妙な緊張で鼓膜の横に心臓がいるかのような気分になる。
美保はそんなこと気にしているのかいないのか、──いないか。時折興味深そうに絵を見つめたり、首を傾げたり。
(……可愛い)
綺麗な瞳が、じっと絵画に注がれる。
横に並んで、絵を見上げた。聖母マリアが幼いキリストを抱く。
指と指が触れた。
ドキリとしているのは──俺だけか?
そっとその指に触れようとして、ふと気がついた。
(本人からは──なにも言われていない)
彼女の父親から「許可」されただけで、……本人からはなにも。
(……手を繋ぐことさえ)
躊躇してしまう。自分の手を軽く握る。ああもう、俺は──中学生以下だ。
美術館を出る。梅雨入り直前の青空は、どこか潤んで見えた。日差しが乱反射して──。
美術館は大きな公園の一角にある。その公園を、近所の幼稚園の遠足だろうか、教諭に引率されて揃いの帽子を被り、賑やかに歩いていく。……仲良く手を繋いで。
「可愛いですね」
美保がまるでとても素敵なものを見つけたかのように言う。柔らかく微笑んで。
俺はというと、うんと頷きながら「どうやら俺は幼稚園児以下なんじゃないか」なんてことを考えていた。
手も繋げない。
不思議そうに俺を見上げる、美保。
「どうしました?」
柔らかな日差しのように微笑んで。
俺が今日、君とどう手を繋いだらいいかしか考えてない……なんて知ったら、君はどう思うだろう。
それはあまりにも格好悪すぎる。
だから──俺はただ「昼飯はどうする」と、なんでもない顔を装って言うしかできない。
そうして、なにも知らないきみは「何にしましょうか」と軽やかに歩き出して。
世界一情けない俺は、やっぱり手を繋ぐことを画策しながら、君と並んで歩くのだった。
※※※
【2日目・抱きしめる】(修平視点)
そのデートの帰り、並んで電車に乗る。休日の夕方、混み始めた車内。
電車の窓からは、夕焼けに染まる街並み。
美保は立ったまま、それを眺めている。丸い瞳に、燃えるような赤の夕陽が映って。
つい、と美保が目線を上げる。
一瞬の視線の交差──何気ないフリをして、吊り広告へ視線を移す。
(……だから、俺は幼稚園以下か)
目さえ合わせられない。
美保の視線も、そちらに向かう。
「ああ、いいですね。好きなんですか?」
穏やかなトーンで。
その言葉に、ようやく頭が広告の文字を理解した。隣県の水族館のもの。
「……きみは?」
「私?」
きょとん、と美保は俺を見上げる。
「きみは、どうなんだろう。好きか」
「好きです」
にこりと笑うから。
好きです、は頭の中に永久保存。
「では、次はここに」
「……そうしましょうか」
デートに誘うと、美保は毎回(今のところ)少し不思議そうに同意してくれる。
なぜそうなのかは、わからない。
いつか教えてもらえる日が、くるのだろうか。
と、止まった途中駅で、どやどやと部活帰りだろうか、学生の団体が乗り込んできた。
「わ、」
人波に押される美保を抱きとめた。
「大丈夫か」
言いながら、心臓が痛いくらい。
すっぽりと自分の腕におさまる美保。戸惑うように美保から出たのは細い「あ、ありがとうございます」の声。
(……嫌だろうか)
電車が動き出す。
しかし、離すのも危ない──言い訳だ。
このまま美保を、抱きしめていたい。アクシデントを言い訳に、もうすこし、もうすこしだけ。
小さく俯く美保の耳が、真っ赤で。
夕陽のせいかと思うけれど、もう窓の外の夕陽は落ちかけていて、赤いほどはなく──だから。
(もうすこしだけ)
できればきみも、そう思っていてくれたらな。
そんな風に、ただ願いながら。
【詳しくは近況の「追記あり」の追記のところをご確認ください。要はお題に沿って短いお話を書いていくというやつです】
※※※
【1日目・手を繋ぐ】(修平視点)
手を繋ぐくらいは許可しよう。
須賀川長官に言われたその言葉を思い出しながら(中学生か! と正直、思った)──のんびりと美術館の中を歩く美保の背中を見つめる。
お見合いのあと、交際を申し込んで……OKが出て。
美術館で、2回目のデート。
(手はいいんだ)
繋いで、いい。
妙な緊張で鼓膜の横に心臓がいるかのような気分になる。
美保はそんなこと気にしているのかいないのか、──いないか。時折興味深そうに絵を見つめたり、首を傾げたり。
(……可愛い)
綺麗な瞳が、じっと絵画に注がれる。
横に並んで、絵を見上げた。聖母マリアが幼いキリストを抱く。
指と指が触れた。
ドキリとしているのは──俺だけか?
そっとその指に触れようとして、ふと気がついた。
(本人からは──なにも言われていない)
彼女の父親から「許可」されただけで、……本人からはなにも。
(……手を繋ぐことさえ)
躊躇してしまう。自分の手を軽く握る。ああもう、俺は──中学生以下だ。
美術館を出る。梅雨入り直前の青空は、どこか潤んで見えた。日差しが乱反射して──。
美術館は大きな公園の一角にある。その公園を、近所の幼稚園の遠足だろうか、教諭に引率されて揃いの帽子を被り、賑やかに歩いていく。……仲良く手を繋いで。
「可愛いですね」
美保がまるでとても素敵なものを見つけたかのように言う。柔らかく微笑んで。
俺はというと、うんと頷きながら「どうやら俺は幼稚園児以下なんじゃないか」なんてことを考えていた。
手も繋げない。
不思議そうに俺を見上げる、美保。
「どうしました?」
柔らかな日差しのように微笑んで。
俺が今日、君とどう手を繋いだらいいかしか考えてない……なんて知ったら、君はどう思うだろう。
それはあまりにも格好悪すぎる。
だから──俺はただ「昼飯はどうする」と、なんでもない顔を装って言うしかできない。
そうして、なにも知らないきみは「何にしましょうか」と軽やかに歩き出して。
世界一情けない俺は、やっぱり手を繋ぐことを画策しながら、君と並んで歩くのだった。
※※※
【2日目・抱きしめる】(修平視点)
そのデートの帰り、並んで電車に乗る。休日の夕方、混み始めた車内。
電車の窓からは、夕焼けに染まる街並み。
美保は立ったまま、それを眺めている。丸い瞳に、燃えるような赤の夕陽が映って。
つい、と美保が目線を上げる。
一瞬の視線の交差──何気ないフリをして、吊り広告へ視線を移す。
(……だから、俺は幼稚園以下か)
目さえ合わせられない。
美保の視線も、そちらに向かう。
「ああ、いいですね。好きなんですか?」
穏やかなトーンで。
その言葉に、ようやく頭が広告の文字を理解した。隣県の水族館のもの。
「……きみは?」
「私?」
きょとん、と美保は俺を見上げる。
「きみは、どうなんだろう。好きか」
「好きです」
にこりと笑うから。
好きです、は頭の中に永久保存。
「では、次はここに」
「……そうしましょうか」
デートに誘うと、美保は毎回(今のところ)少し不思議そうに同意してくれる。
なぜそうなのかは、わからない。
いつか教えてもらえる日が、くるのだろうか。
と、止まった途中駅で、どやどやと部活帰りだろうか、学生の団体が乗り込んできた。
「わ、」
人波に押される美保を抱きとめた。
「大丈夫か」
言いながら、心臓が痛いくらい。
すっぽりと自分の腕におさまる美保。戸惑うように美保から出たのは細い「あ、ありがとうございます」の声。
(……嫌だろうか)
電車が動き出す。
しかし、離すのも危ない──言い訳だ。
このまま美保を、抱きしめていたい。アクシデントを言い訳に、もうすこし、もうすこしだけ。
小さく俯く美保の耳が、真っ赤で。
夕陽のせいかと思うけれど、もう窓の外の夕陽は落ちかけていて、赤いほどはなく──だから。
(もうすこしだけ)
できればきみも、そう思っていてくれたらな。
そんな風に、ただ願いながら。
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