30 / 45
番外編
【番外編SS】銀河鉄道の、昼(修平視点)【時系列戻ります】
しおりを挟む
【時系列戻ります】
【新婚旅行当時の話です】
【本編「サプライズの計画?」の裏話?です】
※※※
美保が俺の手を引いて歩く。
「なんか、もうあんまりビックリしてもらえないかもしれないんですけど」
そう言って俺を見上げる美保の左手には、一昨日俺からプレゼントした指輪。
夏の日差しでキラキラ光るそれが、なんだかやたらと眩しい。
じわじわと控えめに鳴く蝉。煉瓦敷の地面には短い影。
「私、修平さんに何か……その、サプライズでプレゼントしたくて」
美保はそこ、──駅の改札の前で、俺にチケットを渡す。そうしてまた手を引いて駅舎へ。駅舎の向こうの、大きな入道雲が目に焼き付いた。
「これ、どうでしょう。……好きですか?」
目の前に現れたのは黒いSL、客車は藍から夜明けのような明るい青のグラデーション。
いわゆる観光列車で、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をモチーフにしたもの。
「何がいいか思いつかなくて」
今日の旅行の予定は、美保が「任せてください」と言うから何かあるのだろうな、とは思っていたけれど──。
「……あの、子供っぼすぎましたか」
はにかむように、美保は笑って。
「すごく嬉しい」
端的にそう答えて、手をぎゅっと握ると、美保が照れたように目線を伏せた。愛おしくて苦しくなる。
俺にとって「銀河鉄道の夜」は美保と出会って、彼女を好きになった切っ掛けで──とても大切な物語なのだけれど。
美保にとってもそうなのかもしれない、と思うとなんだか切ないくらいに嬉しい。
ガヤガヤと他の観光客が乗り込んで行く。俺と美保も乗り込んで、その渋めのワインレッドのボックス席に向かい合って座った。
天井近くには「はくちょう座」のステンドグラスが嵌め込まれ、ガス灯のような電飾が車内を飾る。
「こだわっているな」
思わずそうひとりごつと、美保も少し惚けたように小さく頷いた。
やがてSLが走り出す。
ごとん、と蒸気を吐き出し動き出す蒸気機関車。女性車掌のアナウンスが、レトロな車内に物静かに響いた。
車窓に揺れるのは緑の風景。
「修平さんは」
美保は首を傾げた。
「銀河鉄道の夜、は……どこが好きなんですか?」
「どこ?」
「はい」
ことんことん、と列車は進む。
しばらく考えた。
それから、少し口はばったいながら、ぽつりと言う。
「……愛かな」
クサイ台詞だな、と小さく思う。
「愛?」
「なんとなく、ずうっと……作品の中に、愛情がある気がして」
うまく説明できない。
けれど美保は微笑んで、俺の手を取る。
「わかる気がします」
「……そうか」
美保に出会えて良かったな、と俺は思う。児童文学で何言ってるの、なんて言うような人じゃなくて。
どんな話でもまっすぐ受け止めてくれる人で。
俺もできれば、美保にとってそんな人間でありたいと思うのだけれど。
列車は釜石まで向かうらしいけれど、俺と美保は途中で降りた。今日中に宮城に入らないといけない。
特急で花巻までもどる。駅弁を食べながら、美保は「同じ風景なのに」と楽しげに笑った。
「なんだか雰囲気が違いますねえ」
「確かに」
SLから見るのと、こういう「いつもの」電車から見るのとでは光景がまた、違って見えた。
「どっちも好きですけど」
美保は愛おしいものを見るように、車窓を見ている。
俺も頷いた。君となら──どんな風景だって、特別だ。
「今度は、終点まで行きましょうね」
ん、と頷いて駅弁の……海鮮弁当の、マグロをひと切れ、美保のに載せた。
「わ、なんで?」
「欲しそうな目をしていた」
「わー」
バレバレだったあ、と悩んだ挙句に「銀河鉄道弁当」なるものを選んだ美保が頬を少し、赤くした。
「お返し。なにがいいですか?」
どれでもどうぞ、と言うから俺はじっと美保を見つめる。
「本当に?」
「なんでもいいですよ」
では遠慮なく、と唇にキスをする。
「……!」
「なんでもいいと言った」
「い、言いましたけどっ」
赤くなってあたりをキョロキョロする美保が可愛かったので、もう一度キス。空いてる車内、これくらいなら……いいだろう。人の目もない。
「も、もう」
「君が可愛いからいけない」
「……!」
美保はもうこれ以上ないほどに、赤くなっている。俺は楽しくて肩を揺らす。
窓の外は、真夏の青。
白い入道雲が、きらきらと輝いていた。
【新婚旅行当時の話です】
【本編「サプライズの計画?」の裏話?です】
※※※
美保が俺の手を引いて歩く。
「なんか、もうあんまりビックリしてもらえないかもしれないんですけど」
そう言って俺を見上げる美保の左手には、一昨日俺からプレゼントした指輪。
夏の日差しでキラキラ光るそれが、なんだかやたらと眩しい。
じわじわと控えめに鳴く蝉。煉瓦敷の地面には短い影。
「私、修平さんに何か……その、サプライズでプレゼントしたくて」
美保はそこ、──駅の改札の前で、俺にチケットを渡す。そうしてまた手を引いて駅舎へ。駅舎の向こうの、大きな入道雲が目に焼き付いた。
「これ、どうでしょう。……好きですか?」
目の前に現れたのは黒いSL、客車は藍から夜明けのような明るい青のグラデーション。
いわゆる観光列車で、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をモチーフにしたもの。
「何がいいか思いつかなくて」
今日の旅行の予定は、美保が「任せてください」と言うから何かあるのだろうな、とは思っていたけれど──。
「……あの、子供っぼすぎましたか」
はにかむように、美保は笑って。
「すごく嬉しい」
端的にそう答えて、手をぎゅっと握ると、美保が照れたように目線を伏せた。愛おしくて苦しくなる。
俺にとって「銀河鉄道の夜」は美保と出会って、彼女を好きになった切っ掛けで──とても大切な物語なのだけれど。
美保にとってもそうなのかもしれない、と思うとなんだか切ないくらいに嬉しい。
ガヤガヤと他の観光客が乗り込んで行く。俺と美保も乗り込んで、その渋めのワインレッドのボックス席に向かい合って座った。
天井近くには「はくちょう座」のステンドグラスが嵌め込まれ、ガス灯のような電飾が車内を飾る。
「こだわっているな」
思わずそうひとりごつと、美保も少し惚けたように小さく頷いた。
やがてSLが走り出す。
ごとん、と蒸気を吐き出し動き出す蒸気機関車。女性車掌のアナウンスが、レトロな車内に物静かに響いた。
車窓に揺れるのは緑の風景。
「修平さんは」
美保は首を傾げた。
「銀河鉄道の夜、は……どこが好きなんですか?」
「どこ?」
「はい」
ことんことん、と列車は進む。
しばらく考えた。
それから、少し口はばったいながら、ぽつりと言う。
「……愛かな」
クサイ台詞だな、と小さく思う。
「愛?」
「なんとなく、ずうっと……作品の中に、愛情がある気がして」
うまく説明できない。
けれど美保は微笑んで、俺の手を取る。
「わかる気がします」
「……そうか」
美保に出会えて良かったな、と俺は思う。児童文学で何言ってるの、なんて言うような人じゃなくて。
どんな話でもまっすぐ受け止めてくれる人で。
俺もできれば、美保にとってそんな人間でありたいと思うのだけれど。
列車は釜石まで向かうらしいけれど、俺と美保は途中で降りた。今日中に宮城に入らないといけない。
特急で花巻までもどる。駅弁を食べながら、美保は「同じ風景なのに」と楽しげに笑った。
「なんだか雰囲気が違いますねえ」
「確かに」
SLから見るのと、こういう「いつもの」電車から見るのとでは光景がまた、違って見えた。
「どっちも好きですけど」
美保は愛おしいものを見るように、車窓を見ている。
俺も頷いた。君となら──どんな風景だって、特別だ。
「今度は、終点まで行きましょうね」
ん、と頷いて駅弁の……海鮮弁当の、マグロをひと切れ、美保のに載せた。
「わ、なんで?」
「欲しそうな目をしていた」
「わー」
バレバレだったあ、と悩んだ挙句に「銀河鉄道弁当」なるものを選んだ美保が頬を少し、赤くした。
「お返し。なにがいいですか?」
どれでもどうぞ、と言うから俺はじっと美保を見つめる。
「本当に?」
「なんでもいいですよ」
では遠慮なく、と唇にキスをする。
「……!」
「なんでもいいと言った」
「い、言いましたけどっ」
赤くなってあたりをキョロキョロする美保が可愛かったので、もう一度キス。空いてる車内、これくらいなら……いいだろう。人の目もない。
「も、もう」
「君が可愛いからいけない」
「……!」
美保はもうこれ以上ないほどに、赤くなっている。俺は楽しくて肩を揺らす。
窓の外は、真夏の青。
白い入道雲が、きらきらと輝いていた。
21
お気に入りに追加
5,520
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。


【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。