お見合い相手は無愛想な警察官僚でした 誤解まみれの溺愛婚

にしのムラサキ

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番外編

【番外編SS】銀河鉄道の、昼(修平視点)【時系列戻ります】

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【時系列戻ります】
【新婚旅行当時の話です】
【本編「サプライズの計画?」の裏話?です】
※※※

 美保が俺の手を引いて歩く。

「なんか、もうあんまりビックリしてもらえないかもしれないんですけど」

 そう言って俺を見上げる美保の左手には、一昨日俺からプレゼントした指輪。
 夏の日差しでキラキラ光るそれが、なんだかやたらと眩しい。
 じわじわと控えめに鳴く蝉。煉瓦敷の地面には短い影。

「私、修平さんに何か……その、サプライズでプレゼントしたくて」

 美保はそこ、──駅の改札の前で、俺にチケットを渡す。そうしてまた手を引いて駅舎へ。駅舎の向こうの、大きな入道雲が目に焼き付いた。

「これ、どうでしょう。……好きですか?」

 目の前に現れたのは黒いSL、客車は藍から夜明けのような明るい青のグラデーション。
 いわゆる観光列車で、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をモチーフにしたもの。

「何がいいか思いつかなくて」

 今日の旅行の予定は、美保が「任せてください」と言うから何かあるのだろうな、とは思っていたけれど──。

「……あの、子供っぼすぎましたか」

 はにかむように、美保は笑って。

「すごく嬉しい」

 端的にそう答えて、手をぎゅっと握ると、美保が照れたように目線を伏せた。愛おしくて苦しくなる。
 俺にとって「銀河鉄道の夜」は美保と出会って、彼女を好きになった切っ掛けで──とても大切な物語なのだけれど。
 美保にとってもそうなのかもしれない、と思うとなんだか切ないくらいに嬉しい。
 ガヤガヤと他の観光客が乗り込んで行く。俺と美保も乗り込んで、その渋めのワインレッドのボックス席に向かい合って座った。
 天井近くには「はくちょう座」のステンドグラスが嵌め込まれ、ガス灯のような電飾が車内を飾る。

「こだわっているな」

 思わずそうひとりごつと、美保も少し惚けたように小さく頷いた。
 やがてSLが走り出す。
 ごとん、と蒸気を吐き出し動き出す蒸気機関車。女性車掌のアナウンスが、レトロな車内に物静かに響いた。
 車窓に揺れるのは緑の風景。

「修平さんは」

 美保は首を傾げた。

「銀河鉄道の夜、は……どこが好きなんですか?」
「どこ?」
「はい」

 ことんことん、と列車は進む。
 しばらく考えた。
 それから、少し口はばったいながら、ぽつりと言う。

「……愛かな」

 クサイ台詞だな、と小さく思う。

「愛?」
「なんとなく、ずうっと……作品の中に、愛情がある気がして」

 うまく説明できない。
 けれど美保は微笑んで、俺の手を取る。

「わかる気がします」
「……そうか」

 美保に出会えて良かったな、と俺は思う。児童文学コドモの本で何言ってるの、なんて言うような人じゃなくて。
 どんな話でもまっすぐ受け止めてくれる人で。
 俺もできれば、美保にとってそんな人間でありたいと思うのだけれど。

 列車は釜石まで向かうらしいけれど、俺と美保は途中で降りた。今日中に宮城に入らないといけない。
 特急で花巻までもどる。駅弁を食べながら、美保は「同じ風景なのに」と楽しげに笑った。

「なんだか雰囲気が違いますねえ」
「確かに」

 SLから見るのと、こういう「いつもの」電車から見るのとでは光景がまた、違って見えた。

「どっちも好きですけど」

 美保は愛おしいものを見るように、車窓を見ている。
 俺も頷いた。君となら──どんな風景だって、特別だ。

「今度は、終点まで行きましょうね」

 ん、と頷いて駅弁の……海鮮弁当の、マグロをひと切れ、美保のに載せた。

「わ、なんで?」
「欲しそうな目をしていた」
「わー」

 バレバレだったあ、と悩んだ挙句に「銀河鉄道弁当」なるものを選んだ美保が頬を少し、赤くした。

「お返し。なにがいいですか?」

 どれでもどうぞ、と言うから俺はじっと美保を見つめる。

「本当に?」
「なんでもいいですよ」

 では遠慮なく、と唇にキスをする。

「……!」
「なんでもいいと言った」
「い、言いましたけどっ」

 赤くなってあたりをキョロキョロする美保が可愛かったので、もう一度キス。空いてる車内、これくらいなら……いいだろう。人の目もない。

「も、もう」
「君が可愛いからいけない」
「……!」

 美保はもうこれ以上ないほどに、赤くなっている。俺は楽しくて肩を揺らす。
 窓の外は、真夏の青。
 白い入道雲が、きらきらと輝いていた。
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