上 下
28 / 45
番外編

【番外編SS】「お母さん」の休日(上)(修平/美保視点)

しおりを挟む
(修平視点)

「あ、れ?」

 ばたん、とリビングの扉が開いて、風呂に入っていたはずの美保がバスタオルを巻いて立っていた。髪からはぽたぽた、と水滴。

「美保? どうした」

 ソファに座る、俺の腕の中では生後半年になった美雨がすぴすぴと眠っている。
 美保は不思議そうに言った。

「あれ? 美雨、いま泣いてませんでしたか」
「泣いてないぞ」
「……あは」

 聞こえた気がして、と美保は苦笑してタオルを巻き直しながら(しなくていいんだけれど、俺的には)脱衣所れ戻っていく。
 ぱたむ、と閉まるドアを見ながら、俺はふむと考えた。

(……さすがに疲れているのだろうか)

 美雨は相変わらず眠っているけれど──最近、夜泣きをするようになってきた。

「修平さんは仕事があるから」

 そう言って、美保は全部自分でやろうとしている。その上に、美雨は最近「ママじゃなきゃダメ期」のような、気がしてる。

(自我の芽生え)

 ぷにぷにすべすべの頬をつつく。ヒヨコのような唇がなんとも可愛らしい。
 自我の芽生えは、いいのだけれど──美保に負担がかかりすぎている。

「よし、美雨」

 小さく、そのぷにぷにを突きながら聞いてみる。

「ママに少し休んでもらっても、いいだろうか」

 美雨は知らぬ顔ですぴすぴと眠っていた。

 美保に都内のホテル一泊二日の話をすると、目をなんども瞬きさせながら、俺に言う。

「修平さん、それは」
「うん」
「ひと晩眠っていい、ってことなんでしょうか」
「寝てくれ」

 美保は、喜びと不安がない混じった不思議な顔で俺を見つめる。

「でも、美雨が……修平さんもお仕事」
「ひと晩の睡眠不足でどうにかなるほどヤワじゃないし……美雨もママがいないなら諦めて寝るかもしれない」
「ですかねぇ」

 美雨は、美保の膝の上でお座りしながら、オモチャをペロペロしていた。


※※※

(美保視点)

 どうにも修平さんに心配かけている、らしい。

(一泊二日、かぁ)

 たまにはゆっくりするのはどうだろう、と提案されて──最初に思いついた「やりたいこと」は「寝る」だった。
 美雨が生まれてこっち、4時間以上まとまって眠ったことないかも。
 美雨は、どうやらそれでも「まとまって眠る」ほうみたいなんだけれど……。他のお母さんたち、よく死んでないな!? いや大袈裟じゃなくて……。

(3時間おきのミルクが終わったと思ったら、夜泣きなんだものなぁ)

 可愛いんだけど、可愛いだけじゃない。でも可愛い。赤ちゃん、複雑すぎる。
 泣いてるんじゃないか、今泣くんじゃないか、って勝手にひとり追い込まれて、常に神経が尖ってる気もしてる。
 修平さんは多分、……じゃないな。かなり、なんていうか、ちゃんと「当事者意識」あるパパなんだと思う。
 それでもどうしたって仕事しているぶん、時間はないし。そもそもが大変なお仕事なのに、負担かけたくないし。
 寝不足なせいなのか何なのか、そんな思考がぐるぐるってなっちゃって……。
 そんな時に提案された「一泊2日」の自由時間、だった。

「……何したらいいのかな」

 土曜日。
 お昼寝してる美雨を修平さんにお願いして、とりあえずお買い物(スーパーじゃない)に来てみる。
 ひとりで歩くことに、なんだか違和感。ベビーカー押してるか、抱っこ紐に美雨いれてるか、だもん。

(赤ちゃん連れだと難しいことしてみよ!)

 カフェにも行こう。
 まずは、服とか見たりしてみて……。

(あ、ワンピース。可愛い)

 冬物ワンピ。可愛くて、手に取ってみるけど。

(だめだ、おっぱいあげにくい)

 美雨はおっぱいとミルクと両方飲んでるけど、なぜか外出先ではミルク拒否が多い。
 なぜなの……。
 そんなことを考えながらデパートうろうろしてたら、気がついたら赤ちゃん用ワンピース見てたし何なら買っちゃってた。

(だ、だって可愛いんだもん!)

 パステルピンクと、キラキラした水色のフリルがついたワンピース。
 絶対似合う。

(修平さんのスマホ、また容量いっぱいになっちゃうな)

 クラウド保存してるのに、本体から写真も動画も削除したくないらしくて(分かる)すぐスマホがいっぱいになる。
 こんな服買ったよ、ってメッセージを送る。すぐに既読にはならない。

(……泣いてる、とか)

 美雨、大丈夫かな?
 こんなに私と離れるの、産まれてはじめてだよあの子!
 なんだか胸がぎゅっと痛い。
 でも、妙な開放感……うん、寝ちゃおう!
 早めにチェックインして、お昼寝して、起きたらホテルのカフェでコーヒー飲むんだ!
 夕食は19時から元同僚の八重と、ホテルのディナーの予定。
 時間はまだ14時。たっぷりあるし……。

「って」

 着信の嵐で起きた。

「や、八重ごめん! 寝てた!」

 私はホテルのフッカフカのベッドの上、叫んだ。

『わ、大丈夫大丈夫、心配になっただけだから』
「本当にごめんね~!」

 こんなに寝ると思わなかった!
 時計は19時半。すごい待たせちゃったよ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【※R-18】私のイケメン夫たちが、毎晩寝かせてくれません。

aika
恋愛
人類のほとんどが死滅し、女が数人しか生き残っていない世界。 生き残った繭(まゆ)は政府が運営する特別施設に迎えられ、たくさんの男性たちとひとつ屋根の下で暮らすことになる。 優秀な男性たちを集めて集団生活をさせているその施設では、一妻多夫制が取られ子孫を残すための営みが日々繰り広げられていた。 男性と比較して女性の数が圧倒的に少ないこの世界では、男性が妊娠できるように特殊な研究がなされ、彼らとの交わりで繭は多くの子を成すことになるらしい。 自分が担当する屋敷に案内された繭は、遺伝子的に優秀だと選ばれたイケメンたち数十人と共同生活を送ることになる。 【閲覧注意】※男性妊娠、悪阻などによる体調不良、治療シーン、出産シーン、複数プレイ、などマニアックな(あまりグロくはないと思いますが)描写が出てくる可能性があります。 たくさんのイケメン夫に囲まれて、逆ハーレムな生活を送りたいという女性の願望を描いています。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。 ——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない) ※完結直後のものです。

【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎ ——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。 ※連載当時のものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。