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番外編
【番外編SS】鮫川桔平の初恋(修平弟視点)
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13歳上の長兄(ちなみにオレは五男)が結婚する、と言い出して、ウチは大騒ぎになった。
「どんなお嬢さんかしら!?」
「警察庁長官の娘さんらしいぞ」
父親の言葉に首を傾げた。
「長官ってなに」
オレがその夕食の席で聞くと、桔平(四男、大学生)が目を細める。
「純平、知らないのか? 国会中継見ないのか」
「見るかよ」
見てんのかよ。
政経学部の桔平はふうん、って顔をした。バカにしてるでもなんでもなくて、世の中に国会中継見ない人間もいることを認識しました、みたいな顔。……まあこいつ、変わってるから。
次男(康平)三男(亮平)は社会人でもう家をでてるから、反応は分からない。
けど桔平は淡々と楽しみだなあって顔をしてる。
そんな桔平が、両家顔合わせで長男(修平)の婚約者、美保さんを見た瞬間、固まった。ほんの一瞬だけ。でもすぐに元の淡々とした顔に戻る。
修平くん(そう呼んでる)は緊張してて(すげえ珍しい)それに気づいてない……気づいたのは、多分、オレだけ。
だから、あとでなんとなーく聞いてみた。
「桔平くん、知ってたのか? 修平くんの奥さん」
まだ奥さんじゃないけど。
桔平くんは頷いた。重々しく。
「……好きな人だった」
「は?」
さすがに驚いた。
目を瞠るオレに、桔平くんは続ける。
「中学の時、怪我して帰ってきたことがあっただろう」
うん、とオレは首を傾げた。
どれだろう。
男ばかり5人兄弟、常に誰かしら怪我をしている。部活に遊びに、……あ。
「絡まれたときか?」
「そう」
オレら兄弟は顔がなんていうか、こわい。自分で言って悲しくならなくもないけど、無愛想だし目つきが悪い。
そんなんだから、普通にしてても「ガンつけた」なんて言われることがあって、……でもそれで絡まれたりは基本、少ない。
ガタイもいいから。
オレだって180後半あって(野球をしてる)少なくとも日本でこれくらいの身長で割と筋肉質で顔も怖いと、相手も警戒するから。
桔平くんだってそう。オレより少しだけ低い? けど空手してるから筋肉のつき方が威圧的で、並ばなきゃ桔平くんのほうがデカく見える。
修平くんはもう少しだけ、高い。全員190はないけど、兄弟が並ぶとめちゃくちゃ暑苦しい。(ちなみに三男/消防士が一番でかい)。
でもそんなオレたちに時々挑んでくるファイターがいて、特に格闘技してる桔平に絡むなんてアホだろと思うけど、桔平はクソ真面目だから避けはするけど手は出さない。
黒帯だから、私闘で拳は使わない。
中学の時、170センチ後半超えてた桔平くんも、すでにそうだった。
「あのとき、さすがに5対1でヤバイと思ってて」
避けるのにも限界があった、と桔平くんは言う。
「急所は避けてたけど、向こう、金属バットとか持ってて」
「警察呼べよ」
「呼ぶ暇もなく高架下に引き摺り込まれたんだよ」
少し憮然として、桔平くん。
「さすがにヤバイ、骨くらい覚悟するかと思ってたら」
「抵抗しろよ」
「私闘で拳使ったなんてバレたら師匠に殺される。師匠に殺されるくらいなら金属バットでボコられた方がマシ」
「……でもその場合はさすがに」
「ていうかそれくらい凌げなくて何が黒帯だって殺される」
「どっちにしろ殺されるんだな」
格闘技しなくてよかった。
「そしたら水が」
「水」
「ペットボトルの」
相手に水をぶちまけた人がいた、らしい。
それが、(多分まだ大学生とかだった)美保さん、だったらしい。
「警察呼んでるよ、もう来るよって」
「へえ」
「で、相手逃げて」
そこで初めて、警察呼ぼうかって言われたらしい。要は110番する間もなく、おそらく反射的に美保さんは桔平を助けに入った。
ハンカチで、血を拭いてくれて。
「そこから好きになって片思いずっとしてた」
「ちょっと待って、名前もしらずに?」
「さっき知った」
「6年くらい、ずっと?」
「うん。けど失恋した。修平くんからは取ろうと思わない」
オレは絶句した。
こいつは六年間、名前もしらない、一度きりしか会ったことのない美保さんに片思いしていたのか。
「あーあ、失恋だ」
「オレは驚愕してる、変わってる変わってるとは思ってたけどここまで変わってるとは」
「おかげで未だに童貞だ」
「……知らんけど」
桔平は淡々とそう言って、それから少し困ったような顔をした。
「あの時のハンカチ、返さなくていいだろうか」
「とってるのかよ」
うん、って桔平は頷いた。
オレは「いーんじゃね」って返して。多分、美保さん覚えてない。
それから年が明けて、正月に美保さんが修平くんと家に来た。
桔平くんはなんかテンションが変で、餅とかすげえ食べてて引いた。本人いわくやけ食いで、こいつまだ引きずってんなー、って思う。
でもその翌年には姪っ子の美雨が生まれて、その頃には桔平くんも吹っ切れててすげえ喜んでた。
「もういいんだ、桔平くん」
その言葉に桔平くんはやっぱり淡々と「オレはどうやら年上好きみたいだ」と意味深な言葉を返して、そうして笑ったのだった。
「どんなお嬢さんかしら!?」
「警察庁長官の娘さんらしいぞ」
父親の言葉に首を傾げた。
「長官ってなに」
オレがその夕食の席で聞くと、桔平(四男、大学生)が目を細める。
「純平、知らないのか? 国会中継見ないのか」
「見るかよ」
見てんのかよ。
政経学部の桔平はふうん、って顔をした。バカにしてるでもなんでもなくて、世の中に国会中継見ない人間もいることを認識しました、みたいな顔。……まあこいつ、変わってるから。
次男(康平)三男(亮平)は社会人でもう家をでてるから、反応は分からない。
けど桔平は淡々と楽しみだなあって顔をしてる。
そんな桔平が、両家顔合わせで長男(修平)の婚約者、美保さんを見た瞬間、固まった。ほんの一瞬だけ。でもすぐに元の淡々とした顔に戻る。
修平くん(そう呼んでる)は緊張してて(すげえ珍しい)それに気づいてない……気づいたのは、多分、オレだけ。
だから、あとでなんとなーく聞いてみた。
「桔平くん、知ってたのか? 修平くんの奥さん」
まだ奥さんじゃないけど。
桔平くんは頷いた。重々しく。
「……好きな人だった」
「は?」
さすがに驚いた。
目を瞠るオレに、桔平くんは続ける。
「中学の時、怪我して帰ってきたことがあっただろう」
うん、とオレは首を傾げた。
どれだろう。
男ばかり5人兄弟、常に誰かしら怪我をしている。部活に遊びに、……あ。
「絡まれたときか?」
「そう」
オレら兄弟は顔がなんていうか、こわい。自分で言って悲しくならなくもないけど、無愛想だし目つきが悪い。
そんなんだから、普通にしてても「ガンつけた」なんて言われることがあって、……でもそれで絡まれたりは基本、少ない。
ガタイもいいから。
オレだって180後半あって(野球をしてる)少なくとも日本でこれくらいの身長で割と筋肉質で顔も怖いと、相手も警戒するから。
桔平くんだってそう。オレより少しだけ低い? けど空手してるから筋肉のつき方が威圧的で、並ばなきゃ桔平くんのほうがデカく見える。
修平くんはもう少しだけ、高い。全員190はないけど、兄弟が並ぶとめちゃくちゃ暑苦しい。(ちなみに三男/消防士が一番でかい)。
でもそんなオレたちに時々挑んでくるファイターがいて、特に格闘技してる桔平に絡むなんてアホだろと思うけど、桔平はクソ真面目だから避けはするけど手は出さない。
黒帯だから、私闘で拳は使わない。
中学の時、170センチ後半超えてた桔平くんも、すでにそうだった。
「あのとき、さすがに5対1でヤバイと思ってて」
避けるのにも限界があった、と桔平くんは言う。
「急所は避けてたけど、向こう、金属バットとか持ってて」
「警察呼べよ」
「呼ぶ暇もなく高架下に引き摺り込まれたんだよ」
少し憮然として、桔平くん。
「さすがにヤバイ、骨くらい覚悟するかと思ってたら」
「抵抗しろよ」
「私闘で拳使ったなんてバレたら師匠に殺される。師匠に殺されるくらいなら金属バットでボコられた方がマシ」
「……でもその場合はさすがに」
「ていうかそれくらい凌げなくて何が黒帯だって殺される」
「どっちにしろ殺されるんだな」
格闘技しなくてよかった。
「そしたら水が」
「水」
「ペットボトルの」
相手に水をぶちまけた人がいた、らしい。
それが、(多分まだ大学生とかだった)美保さん、だったらしい。
「警察呼んでるよ、もう来るよって」
「へえ」
「で、相手逃げて」
そこで初めて、警察呼ぼうかって言われたらしい。要は110番する間もなく、おそらく反射的に美保さんは桔平を助けに入った。
ハンカチで、血を拭いてくれて。
「そこから好きになって片思いずっとしてた」
「ちょっと待って、名前もしらずに?」
「さっき知った」
「6年くらい、ずっと?」
「うん。けど失恋した。修平くんからは取ろうと思わない」
オレは絶句した。
こいつは六年間、名前もしらない、一度きりしか会ったことのない美保さんに片思いしていたのか。
「あーあ、失恋だ」
「オレは驚愕してる、変わってる変わってるとは思ってたけどここまで変わってるとは」
「おかげで未だに童貞だ」
「……知らんけど」
桔平は淡々とそう言って、それから少し困ったような顔をした。
「あの時のハンカチ、返さなくていいだろうか」
「とってるのかよ」
うん、って桔平は頷いた。
オレは「いーんじゃね」って返して。多分、美保さん覚えてない。
それから年が明けて、正月に美保さんが修平くんと家に来た。
桔平くんはなんかテンションが変で、餅とかすげえ食べてて引いた。本人いわくやけ食いで、こいつまだ引きずってんなー、って思う。
でもその翌年には姪っ子の美雨が生まれて、その頃には桔平くんも吹っ切れててすげえ喜んでた。
「もういいんだ、桔平くん」
その言葉に桔平くんはやっぱり淡々と「オレはどうやら年上好きみたいだ」と意味深な言葉を返して、そうして笑ったのだった。
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